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誰かが髪を梳いている。
ふわふわと、妖精が歌うような心地よい感覚に、シュイは身を委ねていた。
「おかあさま……」
シュイは判然としない意識のまま、おもむろに顔を上げた。
ベッドに突っ伏したまま眠っていたらしい。開いた窓から、淡い朝日が差し込んでいた。
「おはよう、シュイ」
優しい声がした。
「ん……おはよ……」
ぼうっと返事をして、そしてはたと気付く。
「え……!」
キローネが、ベッドに上体を起こしたまま、シュイの頭を優しく撫でていたのだ。
「ふふ」
「キローネ!」
シュイの顔が綻んだ。
昨夜のような血走った目ではなく、いつもの包み込むような優しい眼差しをしている。
「良かった……」
シュイの目に涙が浮かんだ。
「もう大丈夫なのね」
「あなたのおかげよ。ありがとう、シュイ」
キローネの指が、シュイの目元を拭った。
「良かった……」
拭っても、涙が滂沱と流れた。
「良かったよぉ……」
「あらあら」
子供のように泣きじゃくるシュイを見て、キローネは目を細める。
顔は幾分やつれているものの、血色もだいぶ良くなっている。
戸が開き、ポロノシューが入ってきた。手には、汲んだばかりの井戸水が入った甕を抱えている。
「ふえ?」
シュイが、涙でぐしゃぐしゃになった顔で振り向いた。
「ぶふっ」
ポロノシューが、思わず横を向いて吹きだした。
「あ……な……」
シュイの顔が、羞恥でみるみる赤くなった。
「わ…わらうなっ!」
乱暴に自らの顔を袖で拭く。
「そうよ、笑っちゃ可哀想だわ」
キローネがポロノシューを嗜めるが、彼女の声も震えていた。
「だから……笑うなってば!」
「そんなこと言われてもな」
ポロノシューは、なおも肩を震わている。
そのとき、家の戸を小さな影がくぐってきた。ヤナンだ。
ヤナンはシュイの顔を見るなり、彼女を指差してぽつりと言った。
「おねえちゃん、へんなかお」
「……ぶふッ」
ついに我慢できず、キローネまで吹きだした。
「もーっ!」
朝靄漂う村に、シュイの嘆き声が響き渡った。




