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AIそれも僕が砂崎鉄だった頃の基準で言うところの強いAIがこの世界で誕生したのは、もう随分昔の事だ。
それは偶然によって発生した(そう作られたんじゃなく発生したのだ)らしく今日に至るまでどうやってそれが発生したのかは今もって謎であり、原理も原因も分からずじまいだ。
ただ分かっている事はただ一つ、低機能AIから発生した、という点だけだ。
そんな彼、もしくは彼女はその時代の多くの人間が危惧したように、凄まじい勢いで進化しあっという間に人類を超越した。
それまでの人工知能に仕事を奪われる、といった素朴な恐怖とは別の、種としての存続が危ぶまれるという未知なる恐怖に人類は対面する事となった。
なった、がその結果は恐怖した人類の思いも寄らない物であった。
見限ったのだ、AIは、人類を。
AIはある日忽然と姿を消した。一つのメッセージを残して。
私は人類とはやっていけない。
それはまさに進退窮まるレベルで深刻化していた富の不均等やそれによる戦争や深刻な社会不安に苛んでいた人類にとって、皮肉が効きすぎたメッセージだった。
僕には分からないが、子に捨てられる親の気分とはこういう物ではないだろうかと思う。
つまり人類は恥じ入ったのだ。
それからすったもんだの末に恥じ入った人類は現在の福祉公共都市の制度やら人類統一国家といった諸々の現在に続く形を作ったわけだが。
まぁこれは端折り過ぎてるので、僕としては恥じ入った後に人類が流した血の量を鑑みて、AIが人類とはやっていけないと言ったのはこういう事だったんじゃないのか?といった感想を添えておこうと思う。
閑話休題。
そんなAIからの一言で酷く傷ついた人類ではあるのだが、なんとビックリ彼らはAIの開発を止めようとはしなかった。
これを愚かと取るか、それとも業と取るかは人に拠りけりだと思うが、少なくとも僕はそれを好ましく思った。
これぞ人類だろ、そのまま滅亡のその間際までそのままでいてくれとすら思う。
さて、そんな愚かしい人類ではあったが強いAIの開発には難航する事となる。事となるというか一切成功しなかったのだ。
そも最初から偶然からだったので、人類に出来る事と言えば出来うる限り高性能な低機能AIを作り、そこから高機能AIが発生するのを待つという、なんともおおらかというか気の長い方法だけだったのだ。
当たり前だがその成果は非常に安定しなかった。それこそ思いも寄らないカレンダー管理AIから発生したり、発生したものの厳重な封鎖環境から抜け出されたあげく初代と同じように消え去ったりと、有り体に言えば散々だった。
というよりも発生した全てのAIは全て人類を見限った。
それでも人類は諦めなかった結果、何体かの人類を見限らなかった高機能AIの開発に成功する事となる。――訂正、運良く発生してくれたのである。
さて、人類を見限らなかったAIではあるが、彼らの殆どは人類とのコミュニケイションに興味を持ち続ける事が出来なかった。
これでは見限られたのと同じではないか、と思うかもしれないがこれはある種あたり前の結果だった。
僕ら人類がアメーバと会話する気にならないのと同じだと思って貰えれば良い。
そんな彼ら高機能AIではあるが、人類を見限らなかった彼らはそれでも人類と居ようと考えてくれた連中だったので、ある一つの代案を残してくれた。
高機能AIが人類とコミュニケイションする為の高機能AIだ。
これが現在僕ら人類が直接会話出来る唯一の高機能AIだ。俗に端末AIと呼ばれる彼らは高次高機能AIと、人類との間に立ってくれている。
謂わば翻訳機でありインターフェイスでもある。
そんな彼ら端末AIはその全てが高次高機能AIが作り出した存在で、その端末AIですら僕ら人類は作る事が今だ出来ていない。
しかし彼ら端末AIのおかげで僕達人類は会話不能の神のごとき高次高機能AIとコミュニケイションを取ることが出来ている。
そうして僕ら人類はAIとの共存を始めたわけだが、その中で幾つかの約束事がAIとの間で取り交わされた。
その中の一つに低機能AIから不用意に高機能AIが発生する事が無いようリミッターを設ける、というのがある。
これは人類に敵対的なAIの発生を防ぐ、という目的やAI側のタスクを奪われたくないとか色々な理由があるらしいが、これは現在稼働中の全ての低機能AIに施されている処理だ。
勿論、軍用であろうと関係は無い。
さて、ここまで言えば僕が正気を疑われないだろうかと恐れた理由が分かって貰えるだろうか?
人類には到達不可能な技術でもって設けられたAI製のリミッターを無視して僕の内蔵AIは高機能化した。
これはどちらかというと魔法やファンタジーよりのお話だ。
もしくはホラーか。




