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異宙の戦士  作者: たけすぃ


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3-7


 カラク中尉を先頭に左右をイーボ上等兵マウジ上等兵、レキ軍曹は中央にいるヴォルテール氏の横に、そして最後尾に僕とビラルという陣形で僕達は移動していた。

 道中で無駄話をするような事は無く。おかげで控えめに言っても最悪としか言えない今の状況を考える時間ができていた。

 僕達の当初の計画はこうだった。

 この星から近くの(近くと言っても単位は光年の距離だ)敵意性AI達が支配している星に対して攻撃をしかける。

 派遣するのは海軍の戦艦4隻に宙兵隊の戦艦5隻、これを極めて目立つように進軍させて囮にする。

 そうして、囮に釣られてがら空きになったこの星で、敵意性AI達の工場を破壊するのが今回の作戦の概要だった。

 奴らヒトモドキは戦術的にも戦略に関しても、基本的に数に頼った稚拙な物ばかりなので、見事この星の宙域から奴らの航宙戦力は居なくなった。

 そうして意気揚々と惑星へと降下した僕らがどんな目にあったかは、まぁ今更説明する必要は無いだろう。

 だがこれを逆に罠にめられた、と感じる宙兵隊はいないだろう。

 何せ敵はワーカーばかりだ、普通のワーカー相手なら僕達はこんな無様を晒したりしない。

 想定外はあの巨大なワーカーだ。AIが保存しているデータを見直すと、あの巨体の背中に無数の対空兵器があるのが確認できる。

 つまりアイツは移動する対空陣地その物なのだ、それも戦艦からの機動砲撃に耐えられるような。

 いや、もしかしたら地中に潜ってやり過ごしたのかもしれないが、どちらにしろ厄介やっかいな相手なのは間違いない。


 というような事とほぼ変わらない報告を僕とビラルはカラク中尉に上げた。追加したのは僕達が戦ったワーカーが通常の物よりもデカかったという事だけだ。

 ちなみにレキ軍曹達は周囲の警戒にあたっている。ヴォルテール氏は近くの降下艇の残骸に腰を下ろしてこちらを見ている。

「そうか、ありがとうテツ二等兵ビラル二等兵」

 カラク中尉は頭部ユニットを外し、僕に強く印象を残したあの姿勢で立っている。今なら分かるがあれは多脚装甲歩兵がする立ち方だ。

 今なら僕も同じ立ち方をするだろう。

「それで、これから君たちはどうするつもりだ?」

 思わぬカラク中尉の言葉に僕とビラルは思わず顔を見合わす。頭部ユニットで相手の表情が見えないのは分かっているのだが、ついついやってしまうのだ。

 戦地ではぐれた兵士がする事なんて、原隊復帰を目指す以外にあるのだろうか?

「原隊への復帰を考えておりますが」

 声に多少の不信感が出たのを自覚した。

 僕の返答に何の反応も返さずに、カラク中尉はヴォルテール氏へと顔を向けた。

 僕はカラク中尉が何故頭部ユニットを外していたかを理解した。最初からこの会話にヴォルテール氏を参加させる気だったのだ。

 僕たち多脚装甲歩兵は、聴覚神経が幻のように伝達する相手の感情を受け取る事が出来る。ハッキリと分かるのは強い感情だけだが、それ以外にも細かい感情を認識できなくても絶えず受け取っているのだ。

 だから頭部ユニットで顔を覆われていても多脚装甲歩兵同士なら会話に戸惑う事はない。

 だが生身の人間はそうはいかないので、フル装備の僕達と生身の人間が会話すると相手に一方的に負担を強いる事になるのだ。

「博士、私は彼らを我々の部隊に参加させる事を提案します」

 僕とビラルはそのカラク中尉の言葉に再び顔を見合わせた。頭部ユニットの中でどんな表情を浮かべているか、考えるまでもなかった。


 ふむ、とだけヴォルテール氏が言うと何とも言えない沈黙が降りた。

 僕とビラルは何か言うべきなのかと無言のままお互いを牽制しあったし、カラク中尉はそれに気が付きつつもヴォルテール氏の答えが返ってくるまで何も言うつもりが無いようだった。

「君たちは敵意性AIが何なのか考えた事があるかね?」

 唐突な、本当に唐突なヴォルテール氏の質問は、間違いなく僕達二人に向けての物だったが、それ故に僕とビラルは大いに混乱した。

 そんな事は学者にでも訊け、とビラルは間違いなく思っている上に、その質問に答える必要を感じていないようだった。

 必然その質問に答えるのは僕の役目になるのだが、僕は僕でこれは返答に困る質問だった。

 まさか、敵意性AIは政府が戦争経済を回す為に用意した物だ、等という陰謀論を訊きたいわけではないだろう。

 だが――全くのカンだが――、AIの専門家と思われる人間の前で語れる程の知識なんて、補助脳にも持ち合わせていない。

 返答にきゅうする僕を哀れに思ったのか、ヴォルテール氏が静かに笑う。

「何も専門的な議論をしたいわけではないよ。ただ単に私が君達の考えを聞きたいだけさ」

 またもや三人と一人の間に沈黙が降りる。

 もはや答える気のないビラルを無視して、カラク中尉とヴォルテール氏の視線が僕に集まる、カンベンしてくれ。

「えーとですね」

 何とか声を絞り出す。敵地でやっとで友軍と一緒にいるのに、何故こんなにも緊張しなければならないのか、その理不尽さに途方にくれる。

「敵意性AIは人工物、もしくは人類由来のAIである事は間違いないと思っています」

 僕は、自分の顔が二人からは見えないにも関わらず、出来るだけ二人の顔をみないようにしながら答えた。

「そう思う根拠は?」

 そう問うヴォルテール氏の声は明らかに楽しそうだった。

「お答えする前に一つ付け加えさせて頂きますが、私は陰謀論者ではありません。ですが敵意性AIが人類由来の物であるという事だけは断言できます。というよりも、そうでなければ不自然です」

 視覚の端でヴォルテール氏が無言で続きを促している。

「何故なら、彼らの造形が不必要に人類を元にしているからです。ワーカーにしても、ウォーリアーにしても、人体の構造を執拗に採用する理由が無いからです。もっと効率的な適した構造があるにも関わらず、それでも人類由来の造形を使用する理由としては、彼らが人類由来のAIであると考えるのが妥当ではないかと、私は思っています」 降下艇ハッチの残骸に座るヴォルテール氏が僕の答えた内容を咀嚼そしゃくするように、首を上下に動かす。

 カラク中尉はやはり何も言わずに僕の方を見ているし、ビラルは完全に上の空だ。

「成る程」ヴォルテール氏が口を開いた。

「君は多数派か」

「はい?」

「何、我々科学者の中での話しだよ。君はどこかでこの手の事を学んだのかね?」

「いえ、私は福祉都市出身で、十六歳で軍に志願しました。ですので補助脳と独学頼りからの推論です」

 ヴォルテール氏がうんうん、そうかそうか、と一人で喜んでいるのが不気味だった。

 だってそうだろ?戦場に似つかわしくない、“博士”なんて呼ばれている人間が、ここが戦場とは思えない程リラックスしながら笑っているのだ、その姿はかなりの奇妙さだった。

「君とは反対の、少数派である敵意性AI外来説派の私としてはその意見に色々と反論したい所ではあるが」

 ヴォルテール氏がカラク中尉の方を見た。

「今はそういう時では無いのだろうね。中尉、私は彼が気に入ったよ、君の提案を受け入れよう」

 僕は目の前で起こる怒濤の展開について行けなくなってきた。

 少なくとも戦場にいるくらいだから、このヴォルテール氏は軍にとって何かしら有用な人間であり、無意味にいるワケじゃないとは想像できる。

 そして彼がカラク中尉から提案され、それを受け入れるかどうかを決める立場の人間でもある、というのもやり取りを見ていれば理解できる。

 だが理解出来ないのは、そんな名前以外は謎の博士と、所属不明のカラク中尉達の部隊に僕らが突然編入させられそう、という事態である。

 そもそもそんな事が軍規的に可能であるのかどうかすら、僕には分からなかった。

 出来れば僕もビラルのように考える事を放棄したい。

 僕は、横に立つビラルを羨ましげについ見てしまった。

 自分が理解できない話の時は、直立不動で微動だにしない、実に多脚装甲歩兵らしい姿だった。

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