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言えない、投稿に失敗したのに気が付かないまま
一週間も放置してしまっただなんて
言えるわけがない。
親切にもAIがわざわざタグに付属されている顔写真まで映してくれた。間違いない、カラク先生だ。
突然現れた二等兵に先生呼ばわりされたカラク先生、もといカラク中尉は不思議そうに小首を傾げる。
他の三人の多脚装甲歩兵も顔は見えないが胡乱げな視線を送ってきているのが分かる。
だがまぁ僕の気持ちも察してほしい、今日はもう本当にこれ以上イベントは要らないと心の底から思える程にイベントだらけなのだ、少しぐらい正体を無くしても許されるはずだ。
「ああ」
カラク中尉が声を上げる。
「君はテツ・アルハラ君か。私の生徒の一人だったな、覚えているよ、確かに覚えている」
僕はその言葉に胸の奥が熱くなる、まさか覚えて貰えていたとは思っていなかったのだ。だってあの授業だ、あれで名前を覚えているなんて言うのは不意打ちにも程がある。
「なんだ、お前は中尉の生徒だったのか。なんてツイてる奴なんだ」
そう言って僕の肩を気楽に叩いてきたのは、タグによるとイーボ上等兵だった。
僕はその言葉にどう返せば良いのかしどろもどろになりながら、はい光栄ですとかなんとか返したと思う。
正直それどころじゃなかったのだ、胸がいっぱいで。
「あの、えっと、すいません。まさか覚えておいでとは思わなかったもので」
僕は長い沈黙を挟んでしまった事を無意味にカラク中尉に謝ってしまう。きっとカラク先生なら、考えを言葉にするまで慎重にコントロールする事を責めたりしないだろうと思いながらも。
「いや、君は印象的だったからな。そうか、君は多脚装甲歩兵になったのだな」
カラク中尉の声に嬉しげな響きが混ざる、僕はそれだけでまた胸の奥が熱くなる。
カラク先生の授業は意味不明で散逸的で理解しがたい物だったが、それでも僕は新兵訓練の間に何度もあの授業を思い出していた。
気がつけば僕の中であの授業は放課後の図書室の時間と同じくらい大事な物になっていたのだ。
僕が少し泣きそうになっていても、許してくれるだろう?
「さて、話したい事は山ほどあるがここにいては危険だ」
カラク中尉がワーカーの死体の山を指さす。
そうだ、ここに長い時間とどまるのはマズい。
ヒトモドキ達は戦闘後に死体を回収しにくる、新たな自分達の材料にする為に。
「どこか安全な場所を知っているか?」
カラク中尉の問いに僕は少し考える。
「はい、完全に安全とは言えませんがここよりは」
僕は近くに降下予定ポイントがあり、そこは既に戦闘後の回収がおこなわれた後である事を伝えた。
降下艇が残っているので、簡易とはいえ身を隠せるというのもついでに伝える。
カラク中尉は軽く頷くと全員に移動の命令を告げた。
僕はその声を聞いて心の底から安堵していた。
まさか人から命令されるのがこんなに楽だとは、そう実感せざる得ないイベントだらけの新兵一日目にゲンナリしながら僕は了解と応えた。
僕とビラルが数分で走破した距離をゆっくりと歩いて行く。
理由は単純で生身の人間の速度に合わせる必要があるからだ。
メンバーはカラク中尉にイーボ上等兵、他にマウジ上等兵にレキ軍曹。
そして謎の生身の男性だ。
タグによると名前はヴォルテールというらしいのだが、他の情報がまったく見えないようにされている。
簡単に言うと凄く怪しい。
怪しいと言えばカラク中尉達の所属も謎なのだが、少なくとも間違いなく味方だと断言できるだけ安心出来る。
それに何より彼らは多脚装甲歩兵だ、それだけで十分だ。
そして何より生身の男性ヴォルテール氏は、なんと珍しい事に五十代程の容姿をしていた。
つまりは不老処置を受けていないのだ。
これは現代では極めて珍しい事だった、何せこの世界にはエルフなんていう不老長寿の存在がいるのだ、かなりの早い段階で不老化の技術は確立されており、今では小さなカプセルを一週間ほど飲み続けるだけで完了する手軽さだ。
また肉体の若返り処置も同様に容易で、殆どの人間が二十代後半から三十代前半で肉体的老化を止めている。
ちなみに僕の両親もそうだ。
なので五十代程の容姿というのは本当に珍しく、好んでその容姿にしていたとしてもかなりのレアで、もしも不老化処置を施していないとすればそれはもう高機能AI以上に珍しい存在だろう。
僕がそんな事を考えながら歩いていると、AIが僕に話しかけきた。
〈テツ二等兵、彼が気になるのでしたらタグの隠し(マスク)を外しましょうか?〉
なんだって?
僕は思わず声に出しそうになった。
出来るのか?という僕の問いに対してAIは。
〈容易に〉
と事も無げに応える。
まさかAIからゴリゴリの違法行為を提案されるとは思ってもいなかった僕は流石に即答できず、思わずヴォルテール氏の背中に視線を向けてしまう。
僕はギョッとした、これ程にも多脚装甲服の頭部ユニットが全面装甲に覆われているのを感謝した日はない。
ヴォルテール氏が僕の方をじっと見ていたのだ。
白髪の目立つボサボサの黒髪、整えるという意思の無い眉毛と無精ひげ、だが見た者に一番強く印象を残すのはおそらくその両目だろう。
誰よりも強い好奇心を理性で徹底的に押さえ込めればこんな目になるのではなかろうかと思わせる、徹底して自分を観察対象から外に置く、そんな目だった。
ヴォルテール氏が灰色の瞳で僕を観察するようにじっと見ている。
僕は極力見られているのだと意識しないように歩き続ける。時折、あたりを警戒する様子を混ぜるのも忘れない。
視覚の端でヴォルテール氏が面白そうに笑って前を向くのを捉えて、僕は大きく息を吐いた。
どうしましょう?と問うAIに僕は絶対にするなとキツく命令した。




