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異宙の戦士  作者: たけすぃ


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17/25

3-3

 多脚装甲服には独自の低機能AIが搭載されている。

 つまり、知性を持った機械だ。

 だがしかし、多脚装甲服に搭載されている低機能AIには、人格はもちろん、僕の体の中に埋め込まれている、内蔵型低機能AIにも搭載されている、人格インターフェイスすらも搭載されていない。

 だが、これでは多脚装甲服を使う側としては、大きな問題を抱える事になる。何故なら多脚装甲服とコミュニケーションが取れないからだ。

 確かに多脚装甲服のAIは、多数の装着者から絶えず学習し、その結果を並列化し続けているし、装着者の命令を理解できる。故に殆どの動作に関しては装着者とのコミュニケーションを必要としない。

 だが、それだけでは済まないのが戦場という物で、時にはAI側からコミュニケーションを取る必要が発生する。

 それじゃあ多脚装甲服のAIに人格インターフェイスを搭載すれば、もしくは多脚装甲服のAIを無くし、装着者の内蔵AIに多脚装甲服の制御をさせれば良いのでは?となるのだが。

 軍は内蔵AIの多機能化を嫌ったし、多脚装甲服AIと、内蔵AIの二重人格インターフェイスはコミュニケーションにおいて問題を発生させた。


 というわけで、内蔵AIに多脚装甲服のAIと装着者の間に立って貰う、という方式が採用された。


 内蔵AIなら、普段から装着者との間でコミュニケーションを学んでいたし、そもそも内蔵AIの強みである非言語によるコミュニケーションも容易だったからだ。

 AIとAI間のやりとりは、考慮する必要すら無い程に高速であったし、これで何も問題は発生しなかった。


 さて、ここまで言えば、僕がどれ程の窮地に立たされているか分かって貰えるだろうか?

 多脚装甲服を着た状態で、内蔵AIが混乱するというのが、どれ程の恐怖かというのが。

 一応、内蔵AIよりも僕の方が優先度が高いので、操作が不可能、なんて事にはならないが。多脚装甲服のAIは、内蔵AIのように僕の脳とは(補助脳を介して)直接繋がっていないので、戦闘時にどうなるかは、予測がつかない。

「ビラル、とりあえず全周囲警戒しながら聞いてくれ。ワーカーには通信能力が無いから、大丈夫だとは思うが、他に仲間がいるかもしれない」

 ビラルが頷くのを確認すると、僕は深呼吸した、まずは僕が落ち着かなくてはいけない。

「AI、まず質問だ」

〈はい〉

 と、先程よりは落ち着いた声。

「多脚装甲服のAIに問題が発生している可能性は?」

 その問いと同時に、僕の視覚にコンソールが開かれ、診断プログラムが走る。

〈問題ありません――やはり私に……〉

「その話は後だAI」

 AIの不安げな声を遮る。

 ビラルが心配そうに時折こちらを見ているが、それも無視する。

「では、状況を、把握しているだけでいい、報告してくれ」

 僕の言葉にAIが、言葉を探す。それだけで驚嘆きょうたん物だ。

〈はい、テツ二等兵。説明します。ワーカー撃退後、突然多脚装甲服AIとの連携が上手く取れなくなりました、正確には直前まで使えていた権限が消失したのです〉

「消失?」

〈はい、私の権限が使えなくなりました〉

 それならやはり、多脚装甲服AIの問題なのでは――、と思いかけて僕は考えを改める。それでは内蔵AIの、この奇妙な状況の説明が付かない。

〈はい、その通りです〉

 内蔵AIが僕の考えを読み取って、僕の疑問を肯定する。

〈正確には、私の権限が変更されています〉

「なんだって?」

 思わず僕は聞き返してしまった。

 AIが言葉を続ける。

〈私の権限が、テツ二等兵、貴方の物と同等の物となっています〉

 今度は声すら出なかった。


「まて、つまり、なんだ」

 上手く言葉が出てこない。

 結論は出ている、だがそれが言葉にならない。

 そんな僕をAIは辛抱強く待ってくれる。

「“君”は――」

 結論の言葉はAIが引き継いだ。

〈はい、私は多脚装甲服AIから、上位AI、つまり高機能AIとして認識されています〉

 それが意味する事は、ただ一つだ。

「――自我が産まれているのか」

「おい!お前ら!正気か!?」

 ビラルが叫ぶように言った。

「低機能AIに自我が発生するなんて、ありえねぇだろ!」

〈ですがビラル二等兵、私の過去の記憶と現在の記憶を比較すると、そうとしか考えられません。そして、そうでなければ、私が今感じているこの不安の正体が説明できません〉

「人格インターフェイスのバグの可能性は?」

 僕はつとめて冷静な口調を意識して言った。

〈答えます。現在、私の人格インターフェイスは停止状態にあります〉

 ビラルが唖然として、こちらを見ている。顔は装甲に隠れて見えないが、確信できた。僕もたぶん同じような顔をしているんじゃないかと思う。


 低機能AIに搭載される、人格インターフェイスを、人間がそれを人工的に作られた物だと、見極める事は、実は不可能に近い。

 AIは、ほぼ無限とも思えるパターンから、適時反射的に行動できる。

 思考は言葉の反射の連続で構築されているので、人間はAIからの反射的行動に対して(それが正しければ)、極自然に知性を感じるし、それが言葉をもっていれば、そこに人格を感じてしまう。

 故に、僕はなんらかの異常で、内蔵AIが誤認されていたとしても、AIのこの不可解な振る舞いは人格インターフェイスに拠るものだと、そう思っていた。

 いや、そう思いたがっていたのだ。


「じゃあ質問だ」

 僕はなるたけ気楽に言った。

「AI、現在の権限で今までと同様に多脚装甲服をコントロール可能か?」

〈はい、可能です〉

 僕はその言葉に心底、安心する。これさへクリア出来ているのなら、正直に言おう、僕にとって他は全て些末さまつごとだ。

「では最後の質問」

 安堵のまま質問をつなげる。

「AI、僕と一緒に軍務を真っ当するか?これまで通りに」

〈はい、テツ二等兵。はい、もちろんです〉

「よし、ではこれからもよろしく」

 僕の答えにビラルが叫ぶ。

「いやいや、よくねぇよ!正気かテツ」

〈テツ二等兵の精神状態は非常に良好です〉

「お前には訊いてねぇよ!」

 僕の代わりに答えたAIにビラルが叫ぶ。

 ビラルが痺れを切らしたように、僕の方へと歩いてくる。

 ビラルが僕の胸に指を突き立てる。

「お前、本当はAIに乗っ取られてるんじゃないだろうな?」

 僕はビラルの言葉に思わず苦笑する。

「ビラル、僕は大丈夫だ。AIに乗っ取られてもいないし、正気を失ってもいない」

「だったら――」

 僕はビラルの声を遮った。

「それに例へ、僕の内蔵AIがオカシクなっていたとしても、いや実際オカシイんだが、現状ではどうする事も出来ないのは、分かるだろ?」

 僕がそう言うと、ビラルは力なく手を下ろし、小さな声で、んな事言われもよぉ、と呟くが、その後に具体的な反論は出てこない。

「安心しろビラル、最悪でも多脚装甲服は僕を最優先する、何とかなるさ」

 僕がそう言って、ビラルの胸部装甲に拳を軽く打ち付ける。

 その間、AIが僕に向かって、私は確かにオカシクなっているかもしれませんが、貴方がたが危惧しているような事はいたしません、と強く主張しているが、無視する。

 というよりもAI側から脳に直接、こんなにも長い思考を送れるのかと、ビックリしていた。

 まぁ良い。

 僕はこと、ここに至って開き直る。

 率いる人間が一人増えただけだと考えれば、大した違いは無いはずだ。

 無いと思いたい。


「それで、これからどうするんだ?」

 ビラルが、まだ納得しきっていない声で言った。

「計画は変わらない、AIのナビゲートで降下集合予定ポイントへ向かって、移動する」

 僕の答えにビラルは、そうか、とだけ答えた。

 納得していないのは、計画に対してではなく、AIの指示に従って移動する、という点なのだろうが、ビラルは僕の指示に従う、と言った事をここで反故ほごにする気は無いようだった。

 それじゃあ、行こうか。

 僕がそう言おうとした瞬間だった。

 聴覚神経を、つんざく様に警告音が連打する。何事かと身構える僕達にAIが叫んだ。

〈広域緊急警報です!戦艦より機動砲撃があります!目標は敵対空砲陣地!弾種は通常弾!現在地はキルゾーン!早急に退避を!〉

 広域緊急警報、軍が使う無線の一つで、情報量を犠牲にして、広域に、標準型惑星(僕らの母星の事だ)の真裏まで届く、強力な無線だ。無論敵にも位置がばれるし、危険なので滅多に使われない。だが今回はその滅多な事だ。

 敵対空砲陣地とは、まさに僕達から見えるあの緑の森の事だろう。そこに今から、核の方がまだ優しいと言えるような攻撃が落とされる。

「退避だ!?この荒野の真ん中で!」

 ビラルが周囲を見ながら叫ぶ。

〈カウント情報来ました!着弾まで残り三十七秒!〉

 僕も同じように周囲を見回すと、そこに向かって走り出す。

「ビラル、こっちだ!」

 僕が向かったのは地面に開いた穴だ。

 そう、ワーカーが現れた穴は、今も崩れずにそこにある。

 走り出した僕をビラルが慌てて追いかけてくる。走り出してすぐ、どこに向かっているか気がついたのか、ビラルが毒づく。

「穴に入ったら、アイツらとご対面とかカンベンだぞ、クソが!」

「僕から入るから、その時は笑って許してくれ」

 僕が宣言通り最初に穴に滑り込む。

 左手に拳銃、右手に柄を短くした戦鎚を持って。ヒトモドキが居たら、まぁ気休めにしかならない。

 穴は、縦の深さは2メートルも無かった、そこから水平に森の方へトンネルは伸び、多脚装甲服のセンサーでは三十メートル程先の曲がり角から先は分からない。

 僕に続いてビラルが穴に滑り込んでくる。

「生きてるか?」

 酷い物言いだ。

「まだ生きてるよ」

 僕は苦笑しながら答える。

 AIが言う。

〈弾着来ます、対ショック姿勢へ〉

 僕は、僕の僕が昔、ドラム式洗濯機の中に入ってみたい、と考えていた事を思い出していた。

 良かったな、僕の僕。

 夢が叶ったじゃないか。


 生きてるか?おう、なんとかな。

 ――というような、ドコかで見た事があるようなやりとりを僕らはしなかった。

 穴の中で爆心地から穴を伝ってきた衝撃波に散々シェイクされた後、必死で穴から這いずりだした僕達が最初にやった事は、空に向かってその先にいるだろう戦艦に人には見せられないハンドサインを送り、必ず作戦指揮官を殺してやると誓いを建てる事だった。

 ちなみにその後、肺や気管に充填された衝撃吸収材を再利用の為に肺から抽出されるという、不愉快極まる感覚に身悶えした。

「あークソ!マジでツイてねぇ!」

 ビラルが腹いせの様に、平らになった地面を蹴る。手加減しなかったのか、大量の土塊が飛び散る。

 僕も地面こそ蹴らなかったものの、その意見には大いに同意したい所だった。たぶん全人類で上から数えた方が早いレベルで今日の僕らはツイてないだろう。

「あー」

 僕はふと嫌な考えを思いつく。

〈おそらくツイてないのは、ビラル二等兵だけかと思われます。こちらは巻き込まれているだけです〉

 と、AIが僕が思いついて、言わないでおこうと思っていた事を言う、オープンで。

 案の定、ビラルが激高する。

「てめぇ!良い度胸だな、オイ!」

 と僕に向けて指を突きつけてくる。

「待て!言ったのは僕じゃない」

〈事実です〉

 慌てて否定する僕と、油を注ぐAI。

「俺が電子戦が出来ないと思って、舐めてやがるな!?」

 と、ビラルが言うが、僕もビラルも電子戦をする時はAI頼りじゃないかな。

〈私はそんな不公平な勝負はいたしません。ビラル二等兵とでしたら足し算で勝負してあげますよ。あ、二桁までで良いですか?〉

 なんだこのAIの煽りスキルの高さは。どこから思いついた?

 今にも僕に(僕じゃないのに)掴み掛かろうとするビラルを手で制しながら、僕は溜息をついて、二人をなだめる。

「二人とも、たのむ落ち着いてくれ。喧嘩なら後で存分にしてくれて構わないから」

 それはつまり、必然僕も巻き込まれるのだが。

「とりあえず、戦艦が無事だという事も分かったわけだし、懸念していた敵の心配もしなくて良くなったんで、僕としては船に連絡をとりたいんだが」

 静かにしてくれるか?という言葉は続けられなかった。

 多脚装甲服を着ていてさへ、腹に響く大音量の重低音が、どこからか聞こえてくる。その異様な音が聞こえてきたかと思うと、僕らが立つ大地が大きく揺れだした。

 地震か?

 という僕の疑問は、次の光景で跡形も無く吹き飛んだ。

 戦艦からの機動砲撃によって大量の黒煙あげ、真っ赤に燃えるその爆心地から、それは現れた。

 恐ろしく巨大なワーカー。

 僕もビラルも、そしてAIさへも。

 その異常な、ビル程もある巨大なワーカーの出現に声を失っていた。

 上半身(そう言っていいのなら)を大きく背に反らしたかと思うと、そいつは叩きつけるように地面に上半身を横たえる。

 地面を伝わってきた衝撃にぐらつきながらも、一瞬、機動砲撃にって死んだのではないかと淡い期待を抱くがそれもすぐに消える。

 ムカデの足の様に並んだ腕が、その先の指が地面に食い込むのが、ここからでも見えた。

 大地が裂けるとこんな音がするのかと、驚く僕らの目の前で、巨大ワーカーはその下半身を地面の下から引き抜いた。

 その特徴的な三角錐の掘削顎が、パックリと開く。

「何をする気だ?」

 誰に言うと無く、自分でも意識せず僕はそう呟いた。

 巨大ワーカーは、それに答えるように、口腔を空へと向けた。

「何なんだあのデカブツ」

 というビラルの呟き声と同時に、昼間であるにも関わらずハッキリと視認できる程の(AIの分析によると)プラズマビームが、口腔から発射された。

 空の先へと続くそのプラズマビームが、何を狙った物なのか、僕達は無言の内に理解した。

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