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公共福祉都市の街並みを端的に言い表すなら、無秩序だ。
建築材の発展と工法および建築機械の発展によって、地上に建てる上でほぼ制約を受けなくなった結果、建築家達は正気を宇宙の深淵まで放り投げた。
美しくはあるのだ。ただ街並みを揃えようとか景観との兼ね合い、という言葉だけがどこかへ行ってしまっているだけで。
また全ての建物という建物が、その大小に関わらず真新しいのも特徴の一つだ。
建築スピードが建材と建築機械の発展のおかげで尋常じゃ無く速く、また解体も容易であるために、この街では建物が建て変わる速度も異常なのだ。
何せ建てるだけならドーム球場だろうが一週間もあれば事足りる。
そして建て替えるたびに、建築デザイナーには金が入るし、建築業者にも金が入る。
そして僕達はそこで金を使う。
なんという美しい流れだろうか。
僕は至る所にあるレーザー投影機から網膜に投影される広告にゲンナリしながら思う。
もちろんネットのアダルト広告のように僕の視界いっぱいに広告が投影されて前が見えないなんて事はないのだが、控えめにそれでいて購買意欲をかき立てようと必死にアピールするそれらに僕はいつもゲンナリさせられる。
低きへ流れてきた汚水を汲み上げるのに人間はいらない。
「ここでいいかな?」
僕はとりあえず広告から逃げたくて(流石に店内までは広告まみれじゃない)目に付いた、というよりも単純に目の前にある店を指さす。
「そうね」
リタが中の様子を確かめてから頷いた。
店内に入ってやっと広告から解放された僕が溜息を吐くと、リタが不思議そうな顔で「何?」と聞いてきた。
いや、外の広告がね――と言いかけて僕は思いとどまる。
なんとなく彼女には見えていないんじゃないかと思ったからだ。
ほぼ確信に近いレベルで僕はそう思った。
そして僕はその段階でやっと自分が選んだ店を認識した。
なんだこれは。
デザイナーの余りのネジの外れっぷりに愕然とする。
ありとあらゆる場所が曲線で、カラフルだった。
あとなんか蠢いている。
座ったら見えなくなる椅子の脚を蠢かせる理由を問いただした。
僕の愕然とした表情に気がついたのか、リタも苦笑を浮かべる。
「相変わらず凄いわね、この街は」
僕は無言で彼女に同意を示しながらも、まぁ入ってしまったのだし、他にアテもないのでと席に着くことにした。
脚が蠢いているくせに座り心地は悪くなかった。それが意味も無く恐怖を煽る。
苦笑を浮かべただけで平然としているリタがちょっと信じられない。
テーブルにのせた手のひらが異様な柔らかさを感じて怖気が走る。
「いらっしゃいませ」
そしてあげくこのドローンだ。
ウネウネとした塊が空中に浮かんでいる。
そしてタコの口のような形をしたノズルから時たま空気を吐き出し姿勢制御をかけている。
吐き出された空気が顔にかかって鬱陶しい。
正面に座るリタが時たま顔に吹き付けられる風を気にもとめずにメニューを見ている。
美少女のメンタルが強すぎて怖い。
正直な話メニューはなんでも良かったので、リタが選んだセットメニューに便乗した。
注文を受け取ったドローンが店の奥へと飛んでいく。当たり前だが公共福祉都市で働く人間はいないので、調理も給仕も全てが機械で行われている。
汚水を汲み上げるのに人間の手は必要ない。
が、当然のように店内は僕とリタだけだ、きっとここで汲み上げられる汚水は微々たる物だろう。
「ねぇ、さっきの話だけど」
リタがドローンを見送った僕を真っ直ぐ見つめながら口を開く。
この流れでさっきの話と言えばカラク先生の話しかないだろう。
僕達に、いや僕に市民権が無い、という話だ。 一度押さえ込んだであろう不安がまた漏れている。
美少女が不安げな様子で見つめてくるという理不尽なまでの攻撃力に恐れ戦きながらも、表面上は平静をよそおう。
ちっぽけな思春期男子のプライドというやつだ。
「私ね」
ニヘラと力なく微笑む。
まて、その笑い方は卑怯だ、不安な顔からそれはいくらなんでも卑怯だ。
「実はこの街の人間じゃないんだ」
「知ってた」
理不尽な攻撃力に晒されてテンパっていた僕は、あろう事か即答だった。
情緒もへったくれも無いと思うが、もうなんていうかそれしか反応出来なかったのだ。
彼女が意を決して告白してくれた事に対してこのアッサリというか残念な反応、自分の事ながら情けないと思う。
リタが大きく目を見開いて驚いているのにテンパりながらも気がついて慌てて言葉を足す。
「いや違う知ってたというか、調べたとかじゃなくて、さっき気がついたというか分かったというか」
バタバタと、というよりもグダグダと言った方がしっくりくる僕の言葉にリタがまたもニヘラと笑う。だからそれは止めてほしい。
「そうか、知ってた……分かったんだ」
そう呟くように言ってリタは椅子の背もたれに背中を預ける(もちろんそれもウネウネしてる)「それで、貴方は私に何か言うことは?」
「え?あ?え?」
よっしゃバッチこい、みたいな顔で僕にそう問いかけるリタに僕は動揺する。何か言うことは?と問われても何も出てこない。
そんな僕にリタが小首を傾げながら「おかしいわね」と呟く。
リタが求めていた反応じゃない、というのは分かるのだが、どうしたら良いのかが分からずに僕は焦る。
焦る必要なんて何一つないのだが、美少女に不満げにおかしいわね、なんて言われてみろ、絶対こうなるからな?謂われの無い罪悪感と焦りでアタフタするからな?
「母から聞いた話だと、福祉公共都市の人に外の街出身だと言うと、だいたいが良く分からない笑みを浮かべて離れていくか、怒るかすると聞いていたのだけど」
リタが不思議そうに僕を見る。
いやそんな目で見られても。
僕が戸惑い応えられずにいると。
「貴方ってやっぱり不思議な人ね」
と、リタが極彩色豊かなウネウネ背もたれ(試しに僕も背中を預けてみたが、恐ろしい事に心地良い)に体を預けながらそう言って笑う。
僕がその言葉にまたもどう返事を返せば良いのかと悩んでいる内にドローンが注文したセットを運んできたので、僕は返事をせずにすんだ。
今日は戸惑ってばかりな気がする。
ドローンの姿勢制御用の風に髪を乱された髪を直しながらリタが言う。
「でも、お店選びのセンスは無いわね」
僕は死にたくなった。
突然、バカバカしい話を書きたくなったので
もう一本小説を投稿してます。
ダンジョン拾いました
http://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n8937ea/
そちらも良ければ読んでいただけると嬉しいです。




