2✿子猫みたいな君
空気でかさついた唇に赤い紅をひいて、いつものように白い着物に身を包む。長時間座っていたりしていたせいか着物の跡が肌についていて気味が悪い。それを隠すようにきっちりと帯を締めると――枯れかけた花に視線が移る。
沙子から貰ったシロツメクサ。活ける為の花瓶もなくて放っておいたら二日でこうなってしまった。あんなにやわらかかった感触も水分が飛んでしまい、カサカサになっていて。雨さえ降ればこのお花はまだ生きていたというのに。
出入り口に背を預けて雲一つない空を見る。暖かい日差しに差し込まれた檻から見える風景はとても綺麗で虚しい気持ちになる。
こうやってゆったりしている今でも刻々と儀式は近づいている。早く終わればきっと私はここから解放され、村人も父親も喜ぶのだろう。それは嬉しい、自分だってここに住み続けるのは御免だ。私もこんな檻から出て子供たちと一緒に追いかけっこしたいし、友達と無邪気に遊んでいたい。
沙子ともっとお話しがしたい。
でもそれは叶わない。
ここから出られるんじゃない、ここから解放されるんだから。だからこそ私は限られた日まで沙子と――。
「どうしたの、ぼーっとしちゃって。気分悪い?」
見慣れた姿が檻を覗き込む。それはさっきまで想っていた人で。
ありえない出来事に思わず私は驚いて顔が熱くなった。そしたら彼女は可笑しそうに笑い始めた。
「ふふっ、そんなに吃驚した?」
顔を縦に振ると、彼女は微笑んだままこっちにおいで、と手招きをしてきたから彼女のところへ近づいていけばあの時と同じように木の枝を差し出される。――あぁ、また彼女とお話ができるんだ。
それがとても嬉しくて、木の枝を受け取ると彼女はまた笑った。
「そんなにお話がしたかった?」
〝うん 駄目なの沙子?〟
「ううん。そんなことないわ。ただ可愛いなぁって思っただけよ」
〝可愛い?〟
「えぇ」
そう言うと沙子は呆気にとられてる私をよそに頬を突いてきたのだった。目を見開いて二度見する私が面白いのか、何度も頬を突いてくる彼女。そんなに頬を突きたいなら幼子の方がいいのに。小さくて可愛いし、肉付きもいいから突くのに丁度いいと思うんだけど。
〝変なの〟
「それを言われたらおしまいだわ。嫌だった?」
〝嫌じゃない 好きでもない〟
「あらあら」
つまらなそうに言うと彼女は一呼吸置いて、今日の出来事を私に話してくれる。座り方がなってないだの、視野を広げろだの、散々総領に怒られたのか話すたびにコロコロと表情を変えていた。それがとても面白くて、肩を震わせていれば気を遣ってくれた。その気遣いが優しくて甘えてしまいそうになるけど、そんなことをしたらお話が終わってしまうから口には出さない。
暫く話をしていると、彼女は枯れかけた花に気付いたのか指をしめす。
「あれ、その花…」
〝ごめんなさい 枯らしちゃって〟
「謝らなくていいのよ。あなたが悪いわけじゃないんだから」
〝でも〟
「今度持ってくるときに小さな花瓶も持ってくるから。ね?」
優しい手で頭を撫でてくる彼女に少しだけ『ずるい』と思った。有無を言わせないように撫でる手も言葉も『ずるい』けど、もっと『ずるい』のは――なんでそんなに嬉しそうな顔をするのか、だ。
猫だと思って撫でてるんだろうか…私は人間なのに。でも嫌いじゃないし、好きでもない。ただ振りほどけないだけだから。
「顔赤いわよ」
〝なんでもないです〟
「本当に?」
〝本当に〟
「…ふふっ」
唇を手で隠して笑う彼女はとても綺麗で、自然に私も微笑んでいた。
―――貴女の居心地は私の至福。
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