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1✿君に出逢えた喜び

 暗い檻の中で白い着物を身に纏い、檻の外を見つめる。外では可愛らしい幼子達が追いかけっこをしていて、私を見つけると明るい声で話しかけてくれる。けど私には舌が無いから喋ることは出来なくて、気分を悪くした幼子達はどこかへ行ってしまった。



 昔からの言い伝えで、八年に一度。神様に身を捧げる儀式を行うらしい。

 綺麗な髪を持った清らかな少女に白い着物を纏わせ、村の災いを追い払うための贄となる。その為に家紋の当主達が集い、八年に一人少女を選ぶ。選ばれた少女は八ヶ月間、檻の中で過ごし外から出ることを禁じられる。その際、神様に捧げる身は自害させないように舌を引っこ抜き、爪を剥がせる。そして、儀式を行うときは宮司や巫女達は贄を見ないようにお面を被り、十八本の五寸釘を穿ちつくし安心して神様へと送られるように小さな巫女達が子守唄を歌う。もし、眠れなかったら(まなこ)をくり貫き眠らせる。――大まかにまとめるとこうなる。本当はその後もなにかあるらしいが、それ以上は知らされない。きっと聞いちゃいけないことなんだろう。



なんせ、私は八年に一度。選ばれた贄なのだから。



 生まれた時から髪が綺麗で、誰もが私の髪を羨ましそうに言うので、儀式の存在を知らない前の私はとても嬉しくて髪の手入れを欠かせなかった。

けど、それがいけなかったらしく年を重ねていく度に母上のため息が絶えなかった。そして、十八歳になったころ白い紙が送られ、儀式の贄に選ばれたことなどが綴られていた。その夜、村の人々は私が重要役になったことを喜び、酌を交わしたのだった。父上も嬉しそうに笑って私の髪を撫でていた。

 本当はここから出たくて、逃げ出したかったのに。父上や他の皆の笑いを見てしまえば私の気力は失ってしまった。きっと逃がす気などないのだろう。皆、村の為ならなんでもする人達だから。

だから私は自分の使命を果たすために心を殺した。舌も抜いた、爪も剥がした。血が止まらなくて、苦しくて犬のように叫んだ。何度も檻を叩いて壊そうとしたこともあった。でも知ってしまったから。逃げ出そうとしたらどうなるのか、を。

 それから私は死人のように空を見ている。なにもせず過ごし、隅に置かれた書物をただ読み漁るだけだ。

 あぁ。早く終わればいいのに。なにもしない時間が長いのは嫌だ。暇で暇で仕方がないから。

 檻の中で景色を見てれば、ふと見知らぬ女性が居ることに気づく。その女性はまだ咲かない枝垂れ桜の蕾を見ていて、なにかを唱えていた。それにしても此処にいるのに少し疑問を抱く。檻の中だと言ってもこの村の統領の家の檻の中にいるわけであり、つまり人の敷地なわけで、部外者は立ち入り禁止だ。

なにか用でもあるのだろうか…?それも私が居る所に。いつもなら気にしない私も少しだけ彼女に興味を抱いていた。

 視線に気づいたのか、女性は振り返ると私のところに寄ってくる。興味津々なのか瞳を輝かせて私に語りかけるが、喋れない私は顔を横に振ると、そこらへんにあった小枝を取り出してきた。


「遅くてもかまわないから…少しだけもいいの。貴方とお話がしたいな」


 少し苦笑じみたように言う女性に少しだけ頭を下げて小枝を受け取ると、女性は礼を言って話を続けた。

だんだん話していく内に打ち解けたのか口調が変わっていく。どうやらこの女性は暫く統領のお世話になるらしく、耐えがたい修行に逃げ出してきたそうだ。女性は隣の村から来たらしく、次のお頭になるからというわけだそうだ。それにしては大胆というか痛い目に遭ったことがないような子で。


「はぁ。もうあんなのやってられないわ。疲れるだけだもの」

〝統領も疲れてると思うよ…かわいそう〟

「えー。そこは私の心配をしなさいよね」

〝じゃあ帰るの?〟

「帰るわけないでしょ!自分で決めたんだものっ!」


怒ったような声で言う彼女に吃驚して怯えていれば謝りながら地面に書かれた字を消していく。そして私が小枝で地面に書いていく。檻は一本一本の間隔が少し広いのであんまりつっかえずに書けるので楽だが、彼女の愚痴は少し身が重くなる。


「ねぇ。そこは寒くない?雨の日とかさ」

〝奥行きが広いから雨は大丈夫 寒いのは慣れてる〟

「そうなんだ。でも雪の日は流石に駄目なんじゃないの?」

〝布団くれる 温かいのくれる〟

「ふぅん。結構長いのね…」

〝彼岸花が咲いた時には居た〟

「…お花好きなの?」

〝好き〟


そう書きこんで周りに咲いてる花々を見つめる。せめて気分だけでもと、花が見えるように移し替えたり植えていた世話人や母上を思い出す。

それを思い出すと少しだけ視界が暗くなるような感じがして目を閉じれば、明るい声が聞こえる。目を開けばシロツメクサが差し出されていた。白くて可愛らしい花にそっと手を伸ばせば彼女の手に触れた。


「私の名前は千竹(ちだけ) 沙仔(さし)、沙仔って呼んでくれない?」


指で地面に名前を書き込んで、聞き取りやすいように間隔をあけて話す彼女に合わせるように顔を下げて、地面に書き込んでいくと満足らしく笑みを漏らす彼女。


〝菊夕里 なずな(きくゆり)〟


私もつられて頬を緩ませれば、彼女は少しだけ見開いてまた微笑む。

 手の中にあったシロツメクサを見ていれば彼女は小指を私の小指に絡ませ、軽く握りしめられる。


「なずなちゃんとまた…こうやってお話したいな。だから、お願い。またここに来てイイ?」


 優しそうな瞳が私を見つめる。綺麗な指が爪のない私に触れて、きゅっと握ってくる彼女に少しだけ微笑んで唇を動かした。


〝私も沙仔ちゃんとお話がしたい〟


ゆっくり動かして、その言葉が読み取れたのか不安になるけど、どうしても伝えたかった。貴方だけじゃない、ということを。

私の言いたいことが理解できたのか肩を震わせ、笑いを洩らせば彼女は『約束ね』と呟いて小指を解く。解いた彼女はそろそろ戻らないと怒られる、ということで彼女は帰り間際に手を振ってくれた。反射的に手を振ればなんとなく清々しい気持ちになった。







――貴方に出会えた喜び。






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