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さよならは別れの言葉じゃなくて

【前回のあらすじ】

 いよいよ月への侵攻作戦開始です!

 先行した新旗艦『ソル・クレスタ』率いる宇宙連盟艦隊が月面へと到達し、ラリス君たち突撃部隊が敵要塞内に侵入成功したのを見守ってから、私たち地球待機組も満を持して旗艦のブリッジへと転送!

 とても戦闘艦とは思えない、さながら豪華客船のように優雅な艦内の様子に面食らいつつ、シドさんら皇帝三兄弟と合流した私達は、突撃部隊が切り開いた活路を走り抜けます!


 しかし、その先に待ち受けていたのは…私やマコさんを産み出すまでに犠牲となった、おびただしい数のクローン体が居並ぶ広大な『培養室』と、月全体の管理を司るAIのホログラムインターフェースでした。

 私に瓜二つな容姿の彼女は『ミコト』と名乗り、そのオリジナルとなったのは彼女の設計者でもある天才科学者の故『ミカヅキ』博士でした。


 かつて乱獲により絶滅の危機に瀕していた『ルナリアン』を、新たに創造した『地球人』と交わらせることにより種族そのものを変容させるという奇想天外な方法で救った彼女は、延命処置を受けながら自らの計画の行く末を最後まで見届け、今から一千年前に永き生涯を閉じました。

 その彼女をモデルに、ミコトが創造した『新生ルナリアン』こそが私であり、マコさんだったのです。


 そんな我が子にも等しい私達をミコトが手放したのは、彼女でも手を焼く月の『防衛機能AI』の攻撃対象から逃れさせるためでした。

 元はミコトの一部だったそのAIは、いつしか自我に目覚め、月へと近づくあらゆる物体を無差別に攻撃する荒くれ者と化していました。

 私達の助けを借りて、久々に再会したその分身は…意外にもラリスくん同様な『グラビス人』の容姿を真似ており、そこから人化した姿も銀髪金眼の可愛らしい男の子でした♩


 つまり、私達は…ミコトたち姉弟ゲンカの仲裁のため、まんまと月までおびき寄せられただけ。

 私達が懸念していたルナリアンの復活や、それに伴う地球人類の撲滅、はたまた全宇宙の支配などという大それた野望は…はなから何処にも存在などしていなかったのです!

 な〜んソレッ!?



◇



 とゆーわけで…結局、はるばる月まで何をしに行ったのか解らなくなった私達は、失意のうちに(?)地球に還ってきました。

 …『月』で。


「でっ……か!?」


 ほんの一日しか空けてなかったのに、ずいぶん久しぶりな気もする我が家の庭から空を見上げたミユちゃんが、ひっくり返りそうなくらい身体を反らせながら声を上げます。

 つられて私達もそちらに目を向ければ…

 頭上には、まるで漫画に出てくるみたいにバカでかい月が、真昼でもハッキリくっきり確認できるほど真っ白く輝いています。

 今までは地球人類に危害を加えないため、万が一にも人類が到達し得ない距離を保っていたミコトが、もう大丈夫だろうと両星の距離をこれまでの四分の一にまで縮めたのです。

 …あれ? それじゃあ、月面着陸成功を主張していたアポロ計画は…。


 …まあ、そんな過去の些細な疑惑は抜きにして。

 こちらに還ってくるまでの間、地球側には月が急接近することを再三お知らせしましたが、それでもかなりのパニックになってしまったらしく…。

 でも改めてこの威容を目にすれば、それも仕方ないかと納得させられますね。

 こんな巨大なアドバルーンが常に頭上に浮かんでるだなんて、慣れるまでは不安にならざるを得ませんよ。あんなのが落ちてきたらいったいどうしようかって。

 これほどまでの距離に近づけても、両星間はゼロ距離ではないため、日照具合はこれまでとさほど変わらず。

 引力だの重力だの公転軌道だのといったしちメンドクサイ調整も、ミコトがうまくやってのけたようです。

 むしろ、地球温暖化による気温上昇が叫ばれる今日、少しでも日陰が増えるのは喜ばしいコトなんぢゃ〜ないですか?…知らんけど♩


《それに、これだけの距離なら、私も直にイメージを飛ばせますしね》


 急に話しかけられたかと思えば…そこには月面と変わらない様子のミコトのホログラムが。

 そして、その隣には…


《ぅおっ…なんだココ、メチャ面白そうじゃねーか!?》


 初めて見る地球の景観にワクテカする、弟分の防衛機能AIクンも。

 もともと美少年なだけに、こうして純粋に顔を輝かせていると本当に愛らしい一方で、こうしてるぶんには普通の少年と何ら変わりませんね♩


「ねぇねぇ、良かったら、お姉ちゃんが案内したげよっか!?」

《いいのか!? ホントにイイヤツだなーお前♩》


 元の公転軌道から現在の位置に月を運んでくるまでの数日間に、すっかり仲良くなったミユちゃんとAIクンが、本当の姉弟のようにじゃれ合ってます。ラブリー♩

 私達の中では最年少だった彼女にとっては、待望の弟ができてホントに楽しそうです…けど。


《…な、なんだよ?》


 急にジト目で見つめられてたじろぐAIクンを前に、腕組みしてなにやら考え込んでいたミユちゃんは…


「…ねぇ、ミコトお姉さま?」


 その大きな瞳を今度は姉貴分のミコトへ向けて、


「そろそろ、この子の名前考えません? いつまでもAIクンじゃ味気ないし、可哀想ですよぉう…」


 実に彼女らしい、心優しくも可愛らしい疑問で悩んでいたみたいですね。

 するとミコトは困ったように眉をひそめて、


《う〜ん…それじゃあ皆さんで考えてあげてください。元は自分自身ということもあって、私ではイマイチ良い案が…》

「じゃあ『コリス』くんでどぉ!?」


 即答!? さてはミユちゃん、前々からしっかりちゃっかり考えてましたね?

 なのにラリスくんの名前を文字っただけの、どっかの駄菓子ガムみたいな安っぽい名前…


《ををっ、カッチョエエぢゃんソレ!? 気に入ったぜ♩》


 そして本人も意外と気に入ってたーッ!?


《そ、そですか…じゃあ『コリス』くんに決定ってことで。》

「ぅわーいっ!! いっぱい遊ぼっ、コリスくんっ♩」


 名付け親に採用されて嬉しさ絶頂のミユちゃんは、勢い余って彼に抱きつこうとしますが…スカッ。

 そりゃそーですよね。ホログラムには実体がないんだから、触れるわけがありません。


「うう…残念…」


 空を切った両手とコリスくんとを交互に見つめて、涙をちょちょ切らせるミユちゃんを見て…ミコトも庇護欲をそそられてしまったのか、


《…ま、彼くらいのサイズなら問題ないでしょ》


 そう呟くなり、


《あ?…ぅをっ!?」


 突然、現実味を増したコリスくんの身体が、バランスを崩して倒れかけました。

 いえ、気のせいではなく…明らかに実体があります!?


「コリスくんっ!?」

「お、おぅ、大丈夫だ…。

 つーかお前、メチャメチャ柔らけーな…」


 慌てて抱きとめてくれたミユちゃんの、生まれて初めて知った生身の触感に、コリスくんも目を白黒させています。


《彼の周辺の微粒子を集めて、肉体を再構成してみました。光点の集合体だったホログラムが質量を持ったイメージですね。

 AIとしてのパフォーマンスは幾分低下しますけど、そのほうが私も好都合ですし♩》


 ニヤリと微笑むミコト姉さん。なるほど、ヤンチャ坊主は"手の届くところ"にあったほうが、より管理が容易になると…。

 ちゃっかりしてますね。


「そーゆーコリスくんもプニプニで可愛いよ。えへへ♩」

「あ、あんましジャレつくなよ…」


 さっそくお互いの感触を存分に確かめ合う、ミユちゃんとコリスくんが…たまらなくラブリー♩

 これはもしかして…新たな恋の予感?



◇



 その後は場所を屋内に移して、月面姉弟の気持ちばかりの歓迎会を開催中です。

 初めて見る人間たちの住居内の様子に、ミコトもコリスくんも物珍しそうに辺りをキョロキョロ見回しています。


「あり合わせの材料で用意したから、お口に合うかどうか解りませんけど…」


 数日間留守にしていたせいで、すっかり痛みが進んでいた冷蔵庫の食材から使えるモノを掻き集めてこしらえた、気持ちばかりのご馳走をコリスくんに振る舞うと…


「…!? なんだコレ、うんっめぇ〜ッ☆」

《これは…予想以上の味わいですね♩》


 初めて『食事』を口にした彼だけではなく、そこからの五感情報を共有しているミコトまでもが目を丸くします。

 喜んでもらえたようでなによりです…けど。

 大喜びでお料理を口いっぱいに頬張るコリスくんとは裏腹に、直に口にできていないミコトは少し寂しそうですね。

 食事というものは、味や匂い以上に、食器を使って料理を取り分け、自分の口へと運ぶ…そんな一連の"作業"や、その結果得られる食材の"舌触り"から得られる満足感が大きなウェイトを占めます。

 だから、その感覚が無いのでは、楽しさも半減なのではないしょうか?

 う〜ん…せっかく訪れた地球なのですから、もっと満喫して欲しいですよね…私の事実上の『母親』には。


《…お気になさらず。今の私には、食欲よりも…》


 と、我が家のダイニングの天井を見上げ…

 その遥か先、巨大な月の隣に居並ぶように停泊していた旗艦『ソル・クレスタ』と、その姉妹艦で目下建造中の『きぼう』に夢を馳せるミコト。


《あんなに美しい船は初めて見ました。ええ、アレは良いモノですねぇ…♩》


 思い描くだけではなく、実際に両艦の立体映像を手元に浮かべて、宝飾品でも愛でるかのようにうっとりした目つきでクルクル回しています。

 やれやれ…彼女もやっぱり女の子ですねぇ。


「フム…ならば今後の友好の証に、もう一艦造るとするか?」


 …ヘッ!? ちょちょちょっと皇帝サマ、アータまたそんな安請け合いを…!

 『きぼう』の建造だけでも、地球上の全ての国々の年間予算が何年分も投じられているというのに…!?


「なぁに、どうせ造るなら一艦も二艦も同じことよ」


 確かに…かの伝説の超巨大戦艦『大和』ですら、姉妹艦として『武蔵』や、途中で空母に設計変更となった『信濃』が存在したのは有名な話ですけど。

 既に『きぼう』で得た建造スキルがある今なら、ある程度のコスト削減も望めるでしょうし…。


「それに…我が花嫁たちの母君の申し出ならば、是非とも叶えてやりたいところだしな!」


 過去の経緯から『母親』という存在には弱いシャムス皇帝としては、イイトコ魅せたい願望があるのでしょうか?


《イヤ〜ン太っ腹! ありがとぉ社長ー♩》


 どこぞのCMのように義理の息子にすり寄る私達の母親を、マコさんがもの凄い形相で睨んでますよ…くわばらくわばら。


《そうと決まれば、私の要望リストをお渡ししておきますね♩》


 どうやら最初からおねだりする気満々だったらしいミコトは、事前にちゃっかり用意していたらしい新造艦への要望書を、電子ファイル形式で皇帝サマに手渡しています。


「……。」


 それを横から盗み見たシリウス師団長が、さっそく眉間にシワを寄せてこめかみを押さえているとこれから察して、だいぶん無茶な要求が書かれているのでしょう…。


「さ、さて! 食事が終わったら、久しぶりに街へ出てみないかい?」


 気まずい雰囲気を変えようとしてか、インドア派のシドさんらしからぬ粋なご提案が。

 ここ最近バタバタしてて、ゆっくりショッピングする余裕もありませんでしたが…ナイスですね♩

 モーント星団をはじめとする全宇宙からもたらされた最新技術のおかげで、このわずかな期間に街並みもかなり様変わりしているといいますし。


《でしたら私はお留守番とゆーことで…》


 あらま、肝心要の主賓であるミコトが、欠席を申し出ましたよ?

 好奇心旺盛な彼女の割には意外ですけど…


《いえね、こちらは遥か上空から皆さんのおそばにお邪魔している以上、情報密度が高すぎる街中は何かと障害が多くて…》


 あー…スマホの位置情報や、カーナビのGPSやテレビ受信が、屋内や地下だと狂いまくるようなものですか?

 地球よりも遥かに進歩した技術があるかと思いきや、そういうところは昔ながらなんですね。

 でもでも、さっきのお料理といい、一人だけ除け者みたいになってるのが…


《…誰かが『媒介』になってくれれば話は別なんですけどね〜…》


 …はい?


《つまり、誰かの身体に乗り移ることで、コリスくんとみたいに感覚を共有化できるんですよ。

 例えるなら…幽霊に身体を乗っ取られた、みたいな感じで♩

 これなら私は対象に意識を飛ばすだけで済むんで、行動制限がかな〜り緩和されるんですけどぉ…?》


 解り易いけど、なんでわざわざ怖い例えにしますか?


「そーゆーコトなら…決まりですね、お姉様♩」


 ちょっマコさん、押さないでくださいよ!?

 アータ時々みょお〜に理解が早すぎるってゆーか、そもそも私の同意は!?


《ではさっそく♩》

「あちょっ…ぅほっ!?」


 いきなり不意打ちで何かが頭の中に「ぬ゛るんっ」と潜り込んでくるような強烈な違和感に、思わず変な声が洩れてしまいました。

 軽い眩暈(めまい)を覚えながら辺りを見回せば、ミコトの姿はもう掻き消えていて…


《…侵入成功ですね♩》

「うわっ気持ち悪っ!?」


 私の口を勝手に動かして喋る彼女に、耐え難い拒絶感が。

 なにしろ見た目には一人きりで二人分喋ってるんですから、


「…はたから見ると頭のオカシイ人にしか見えませんね」


 そういうアナタはもう少し姉の尊厳を尊重していただけませんかね、マコさん?


「そうかい? 僕の目から見たら、ミサさんて案外へっぽこだから…」

「ああ、今さらもう一匹増えたトコで大差ねーよな?」


 なんでこんな時ばかり意気投合してるんですか?なシドさんとラリスくんの辛口批評に、ミコトも思わず苦笑してます。

 二人とも、こんな絶世の美女を捕まえといて、なんたる失礼な!?


《ともかくこれで念願の、殿方との初デートも体験できます♩》


 勝手に操った私の身体で、シドさんやラリスくんに無遠慮に腕を絡めて、両手に花状態のミコトさん。

 さすがの私もここまで明け透けにはできないってゆーか…トンデモナイ淫乱じゃ〜ないですか、このアマ!?


「やれやれ…仕方ないね」

「久々にハメを外すとすっか?」


 シドさんとラリスくんも溜息混じりに頷き返しますけど…私が知る限り、ここ最近の彼らってハメが外れっぱなしぢゃあーりませんか?

 とにかく、こうして一家総出で街へと繰り出すことが決定したのでした。



◇



「いや…こりはちょーっと変わり過ぎじゃないですかね?」


 ほんのしばらくぶりに見た街の景観に、私は思わず唖然としました。

 しがない地方都市とはいえ、そこそこ栄えた我が街でしたけど…

 この短期間で未来的な建物が所狭しと建ち並び、ド派手な広告看板が至る箇所に設置され…

 明らかに地球外の人種が普通に街を闊歩してるし、空を見上げれば奇妙キテレツな乗り物がひっきりなしに飛び交ってて…

 もはや首都東京を遥かに超えた、SF映画さながらな宇宙都市の様相を呈しちゃってますけど!?


「でも昔のお店もちゃーんと残ってるんだよ。マコちゃんと初めて入ったカラオケとか!

 せっかくだから、行ってみる?」


 年相応にはしゃぎまくりなミユちゃんには悪いけど、


『…遠慮しときます。』


 初デート時の小っ恥ずかしい想い出がまざまざと甦って、ユニゾンで首をブンブン横に振る私とラリスくんの様子を見て、


《…ほぉほぉ、そんなコトが…♩》


 んげ。まさかミコトの奴…私の記憶を勝手に読んでますね!?


《お恥ずかしながら、私、そーいった経験は初めてなもので…これは期待できそうですネ♩》


 娘たちがとっくに経験済なのに、その母親が未経験者という摩訶不思議な事態が発生しちゃってますけど。

 てゆーかいったいどこまでやらせれば気が済むんですか、このヒトは?


《…いったい何の話をしてんだコイツら?》


 一人だけ置いてきぼりで頭に"?"マークを浮かべまくってるコリスくんに、


「なんなら…"お姉ちゃん"と一緒に、オトナの階段昇っちゃう?」


 見た目は幼くとも、中身はお年頃の女の子なミユちゃんが、妖艶に微笑みます。

 こっちはこっちで将来が楽しみですね♩


「…をっ? なぁ、アレって…」

「あっミサお姉様!?」

「皇帝様たちも一緒だわっ!」

『お姉様ァ〜☆』


 私達の存在に気づいた群衆が、我も我もと集まってきて、街はあっという間にパニック状態に…!

 これはもう、デートどころじゃありませんね…と、私達は顔を見合わせて笑い合います。


「…それで、お姉様?」

「アレ…本当に大丈夫なんですか?」


 一斉に空を見上げた群衆が、口々に訴えるのは、やはり…今にも地上を押し潰さんばかりに迫り来る、巨大な月のシルエット。

 各国政府や宇宙連盟の公式見解でも、幾度となく安全性を訴えてはいますけど…人々の不安はなかなか解消されないようです。


《…それでは、当事者の私から改めてご説明さしあげましょう》


 一時的に私から離れたミコトのホログラムが群衆の前に立つと、警護役のコリスくんも慌ててその隣に躍り出ます。

 実に神秘的で美しい二人の姿に、詰めかけた人々からは「ほぉ…♩」と感嘆の声が。

 人間の性(さが)なんてものは、意外に単純で…どんなにこじれた問題も"美しさ"の前ではすべて帳消しにされるものなのです。

 この模様は瞬く間にネットで世界中に拡散されて…これで騒動も少しは沈静化することでしょう。


 …この日のうちに地球と月は同盟条約を締結し、新たに宇宙連盟への加入が決定されたのでした。

 そしてそれは、かつて宇宙を席巻した絶滅人種『ルナリアン』とはまた違う、『新生ルナリアン』の歴史の幕開けともなったのです。



◇



《ソレはソレ、コレはコレで…私達も独自に"性の営み"について探求しましょう♩》

『…あはは…』


 一人だけノリノリなミコトに、私達は乾いた笑いを返すのみ。

 ココは街中から少し離れた裏通りに位置する、三たび登場のラブホテルの一室です。

 世間がどれだけ様変わりしようとも、そこに男と女がいる限り、こうした施設は未来永劫、廃れることはないでしょう。

 そして私とシドさんとラリスくんは、ミコトに半ば強引に誘われるまま、なおも街中観光を継続中の他メンバーから離脱して、こうしてココにおわす次第でして…。


《さぁさぁ皆さん、いつまでもウブなネンネのようにまごついてないで、いつものようにズズイっと♩》


 とは言われましても…三人一緒はさすがに初めてなもので、みんな勝手がわからず…。


《…なんだか案外チキンですねぇ? それでも夫と息子を手玉に取ってヤリさくったド淫乱ですか?》

「どわぁーれが淫乱ですか誰がっ!? あーもーわかりましたよっ!!」


 ミコトの挑発を受けて、率先して服を脱ぎ始めた私を見て、シドさんはポカーンとしてますけど…


「ちょい待ち! どうせなら…俺が脱がしたい」


 照れた顔で私を羽交締めにして止めたラリスくんに、私のハートはいつになくドッキンこ☆

 脱がせたがり屋の彼ならいつものことなのに…おかしいですね?

 けれどもそんな私の事情にはお構いナシな彼は、ダブルベッドに私を優しく横たえて…上着のボタンを一つ一つ丁寧に外して…スカートを静かに脱ぎ去って…。

 そんな様子の一部始終を、シドさんが固唾を飲んで見守っていて…。

 ドキドキ…やっぱり変です。もう慣れっこな行為のはずが、ラリスくんの一挙手一投足にイチイチ緊張して…?


《…ドキドキどきどきっ☆》

「って、やっぱりアナタのせいですかっ!?」


 身体情報を私にリンクさせているミコトの精神状態が、私のほうにもフィードバックされてるみたいです。


《だ、だって…こんなの初めてアひんっ!?》


 ブラを脱がせようとしたラリスくんの小指が、私の乳首を爪弾いただけで、ミコトが身体を大きくのけぞらせました。

 よくよく見れば、自分でも経験したことがないほど乳首が硬くしこってます。

 それを彼が見逃すはずもなく、


「へぇ? いつになく素直じゃねーか…?」

「あんっ!? ダ、ダメこんなの…んあっ!?」


 私の身体を知り尽くした彼に、急所という急所を手当たり次第に攻められて…

 もはや私とミコトのどちらのものとも判然としない未曾有の快感が、ひっきりなしに襲ってきます。

 こんなの…耐えられない…っ!


「あ…はぁ…んう…っ」

「スゲェな…もうグッチョグチョだぜ?」


 私の股間をまさぐった彼が、興奮した声を上げて…羞恥心に苛(さいな)まれた私は、たまらず両手で顔を覆いました。

 その指の間から、彼がテキパキと服を脱ぎ捨てている様子が垣間見えて…

 雄々しく反り返った彼のソレが、私の入り口にあてがわれて…


「あ…だから、ちょっと待っ」

「いまさら待てるかっての!!」


 ズドンッ!という衝撃を伴って私を刺し貫いたソレが、一気に奥まで押し込まれました。

 と同時に、今まで経験したこともないような激しい痛みが…!?


「ゔぁ…ぐ…ふ…っ!?」

《こ、これが…破瓜…♩》


 ってやっぱりミコトの仕業ですか!?

 いくら初体験だからって、そんなトコまで完全再現しなくてもいいんですよっ!

 思えば、前回は最初にシドさんがお相手でしたから、優しく優しくリードしてくれましたし…ぐっすん。


「コラコラ、最初から乱暴すぎるよ。バトンタッチだ」


 涙目な私を憐れんだシドさんが、そそくさと服を脱ぎながら選手交代を告げます。

 自分でもやりすぎたかな?と思っていたらしいラリスくんは、渋々私の中から抜け出ていきました。


「何故だかついつい忘れがちになるけど…ミサさん。キミは宇宙でも類稀な貴重な存在なんだからね…♩」


 ずいぶん失礼なことをのたまいながらも、言葉通りの優しい愛撫を伴って、シドさんがゆっくり私の中に分け入ってきました。

 あはぁ〜コレコレ、この安心感♩

 正直、慣れてくると少々物足りなさを感じなくもないですけど…初めてのうちはこれくらいが丁度イイんです。


《…お優しいんですね》

「おかげさまで、新婚時代を思い出したからね」

《お気に召したなら、今の感覚をリセットすれば、何度でも初夜が迎えられますよ♩》


 やめなさい。それで痛みに耐え抜くのは私なんですよ?


「にしても、女ってのは器用だよな。こうやって何人もの男を咥え込めるんだからよ」


 なんてコトおっしゃいますかラリスくん、人を娼婦みたいに!?

 信頼するアナタ達が相手だから、私も恥をしのんでこんなコトしてるのに…人の気も知らないで! ギュウ〜ッ!!


「あ゛痛だだ引っ張んなちぎれるっ! 揉むな噛むな擦るなっ!」


 腹いせにアレをいじくってあげたら、いつになく慌てるラリスくんが、また可愛くて…♩


「どっかの誰かさんの差し金で、初めてしてみましたけど…たまには3Pも良いものですね♩」

「ホラ、言質をもらったぞ? この淫、乱、奥、様、が…っ!」

「ひゃふんっ☆」


 私の言葉にカチンと来たシドさんが、遮二無二腰を動かして、そのまま果ててしまいました。


《こ、これが噂に名高い…。

 こんな単純な行為で子供ができちゃうだなんて…まさに生命の神秘ですね》


 遅れて下腹部から溢れ出すシドさんの子種を指ですくって、アカデミックな感想をもらすミコトですけど…


「ヘヘッ、"親子どんぶり"はまだまだこれからだ…ぜっ!!」


 選手交代したラリスくんがまた私にまたがって、開き切ったままの膣口に一気に突入して来ました!


「ゔぁんっ!? そ、そんな言葉、どこで覚えたんですか…?」

「メガネが持ってた漫画。」


 ですよね〜。マコさんも性知識だけは豊富ですから、皇帝サマもさぞかしお悦びでしょう…。


 …こうして私達はミコトの気が済むまで、ホテルでの乱行を繰り広げたのでした。

 良い子のみんなはくれぐれも真似しちゃダメよン♩(←何をいまさら…)



◇



《…実に堪能しました♩》


 ツヤツヤした顔に満足げな笑みを浮かべてホテルを出た私"達"の後ろから、


「あんだけやらかしゃ、そりゃ満足もするだろうぜ…」

「よくよく考えたら二人分だものね…」


 半ばゾンビと化したラリスくんとシドさんが、腰をさすりながらヨタヨタついてきます。

 実に嘆かわしい…それでも宇宙最強の二大種族ですか?


「…んで、この後はどーすんだ?」

「このまま街へ向かおう。そろそろ皆、充分満足して帰ってくる頃合いだろうしね」


 気づけば日もとっぷり暮れかけて、街灯に明かりが灯り始めています。

 もう少し行けば飲食店が建ち並ぶ界隈ですから、なんならそこでみんなでお夕食って流れでもいいかもですね。

 さんざん運動し尽くして、もうお腹もペコペコですし…別の意味では満腹ですけど♩


「…あ、いたっ! お姉さま〜♩」


 ちょうどタイミングよく、ミユちゃんとコリスくんのコンビが私達を見つけて駆け寄ってきました。

 小っちゃい子が二人揃って走ってくる様は、本当にラブリー♩…だけどホテル街という場所柄、あまりふさわしくはないかもですね。


「ってゆーか…なんで私達がココにいるって判ったんですか?」

「お姉さま達なら、他にどこへ行くってゆーんですか?」


 さすがは犬型宇宙人ならではの嗅覚…はあまり関係ない気もしますけど。

 さも当然のように答えるミユちゃんの思考にいささかの恐怖を感じるとともに、いいかげんワンパターンすぎる自分の行動を改めなくちゃいけないなーと、人知れず冷や汗をかく私なのでした…。


「せっかくだから、これからみんなでお食事しよーってことになってるんですけどぉ。

 みんなもう先にお店行っちゃったんで、お迎えに来たんですよ〜♩」


 …予想通りの展開に、私達はクスッと笑い合って、


「それじゃあ、お言葉に甘え…て…?」


 快く応じて足を踏み出そうとした途端、強烈な立ちくらみにも似た感覚が襲ってきて、私はその場でたたらを踏みました。


「おいおい大丈夫かよ。張り切りすぎて腰でもやっちまったか?」

「キミももうイイ大人なんだから、無理は禁物だよ?」


 すぐさま身体を支えてくれたラリスくんとシドさんが、口々に気遣ってくれますが…まだ十代のうら若き美少女をつかまえて、言いたい放題ですね?

 でも我ながら身体の丈夫さには自信があったし、これくらいで疲れるだなんて初めてなんですけど…?


《…………。》


 こんな時にはいつも一言多いミコトが、いつになく静かなのが気になりましたけど…


「もしかして…アナタが取り憑いてると、いつも以上に疲労度が増すとかいうことはありませんか?」

《大昔のPCじゃあるまいし、推奨動作環境はそんなに高くありませんよ。

 …ただ、私も初めての経験ですし、何らかの不備があってもおかしくはありませんからね》


 こらこら、だからそーゆー大事な説明は最初にしときなさいっての。



◇



 などと愚痴グチ考えながら、ミユちゃん達の先導に従ってしばらく歩くと…

 たどり着いたお店は意外にも、個人経営の小洒落た小料理屋でした。

 てっきりファミレスあたりで済ませるものとばかり思ってましたけど…考えてもみれば、総勢八名もの大所帯で突然押しかけたりしたら、お店にとっても迷惑ですよね。


「なのでお店は貸し切りにしちゃいました♩」


 え゛っ、いやそーゆーのってますますご迷惑だし、高くついちゃいません?

 などとおっかなびっくり暖簾(のれん)をくぐれば…


「いらっしゃいませー♩ 本日は当店をご利用いただき、誠にありがとうございまーす!」


 出迎えてくれたのは、一見して明らかに宇宙人と判る、褐色肌の小鬼風な女店員さん。

 店の奥の板場に立つのは、同じ肌色と角を持った逞しい男性の板前さん。

 …もしかして、ご夫婦なんでしょうか?


「はいー! 皆様のおかげで、晴れて念願のお店を持つことができましたー♩」


 私の顔色を察した小鬼の女将さんが、実に嬉しそうに答えてくれます。

 私達の顔はもうあれだけ大々的に全宇宙に広まっちゃってますし、それがきっかけで地球へ訪れる宇宙人観光客もうなぎのぼりに増えているとか。

 また、宇宙規模で考えれば土地店舗や各種資格も比較的簡単に入手できることから、地球という新天地での商売を考える者も多いとか。


「フム、来たようだな。そんなところで立ち話も何だ、早く席に着くがよい」


 今はお店の一客に過ぎないというのに、我が家のような振る舞いで私達をいざなう皇帝サマに続き、


「なに、気に病むことはない。私はとうにココの常連だからな。ハッハハ!」


 いつになく上機嫌な師団長殿なんて、徳利(とっくり)片手にもう出来あがっちゃってますけど?


「最近、訓練中にちょいちょい姿が見えなくなるから、どこ行ってんのかとおもったら…。

 ほどほどにしといてくださいよ〜師匠」


 溜息まじりなフレイアさんも、心底怒ってるわけではなく、ダメ親父を気遣うデキた娘みたいな感じで…。

 往年の香港カンフー映画みたいな師弟かつ親子関係ですけど、もうお互いすっかり馴染んでるみたいで、かえって安心できますね♩

 私達も言われるままに着席して、目の前に並んだ数々のお料理をさっそくひとつまみ…


「…美味しいっ☆」

 

 基本的には日本の家庭料理な味わいですけど、そこにスパイシーで絶妙な味付けがされていて、いつまでも際限なく食べられそうな感じです。

 お箸を使って小皿に取り分けるスタイルだから、お作法を気にせずワイワイ楽しめますし、大人数にはもってこいのお店ですね♩


「ありがとうございまーすっ♩

 正直、まだ開店したばかりだから、お客さんはそれなりですけど…」

「またまた〜ぁ。ネット検索したら、もう結構な評判ぢゃあないですかぁ〜ヒック?」


 小鬼の女将さんに珍しくウザ絡みするマコさんですけど…もしかして、酔ってません?

 宇宙人枠で実年齢は不詳な彼女ですけど、見た目はまだまだ学生なんですから、くれぐれも人目につかないようお願いしますよ?


「あ…らったら『私達も気に入ってます♩』って集合写真をお店やネットに貼っとけば、いい宣伝になるんびゃらいスか〜?」


 若干呂律が回らないながらも、それでも頭脳明晰なのはさすがですねぇ。


「あ、それは本当にありがたいお申し出なんですけどー」

「…よろしいんですかい? でしたら恐縮ながら、是非お願いします」


 それまで寡黙に包丁を握り続けていた小鬼の板さんが、店の奥からのっそり出てきました。

 角が生えてるだけにかなりの威圧感ですが、よくよく見ればイケメンで、可愛らしい女将さんとは実にお似合いです♩

 お料理の腕は抜群なのに、このコワモテな見た目で損してたって面も、確かにあるかもしれませんね…。


「アンタ、またそんな…忘れてるかもしんないけど、この人達は王族様なんだよ? 本来ならこんなお店に気安く来てくれるよーな人達じゃ…」


 あ、やっぱり宇宙でもそーゆーもんなんですね。皇帝サマはともかく、シドさんも師団長さんもそうとは思えないほど気さくだから、てっきり勘違いしてたかも…ですけど。


「だからこそだろうが。王族の皆さんでもお気に召す味とわかりゃ、今まで以上に客は増えるし…これから何かと必要になるだろう?」


 コワモテな面構えには不釣り合いな優しい笑みを浮かべて、女将さんのお腹を撫で撫でする板さん。

 ってことは…!?


『おめでたうございますーっ☆』


 貸し切り店舗は一気に祝賀ムードに包まれました。


「いやはや、お恥ずかしい限りで…」

「二人して地球に降り立ってから、あたしの妊娠が判明しちゃいましてー♩」


 皆の祝福を受けて照れまくるお二人さんですけど…あ、でも開店早々のこんな忙しい時期に…。


「あの…私で良ければお手伝いしますよ?」

「あたしも手伝うーっ!!」

「僭越ながら、あたいも仕事がないときはバイトで食い繋いでたかんね♩」


 見かねたマコさんやミユちゃん、フレイアさんまでもが助っ人に名乗りをあげます。

 てか保護管理官(ガーディアン)のお仕事って歩合制なんですね…皆さんご苦労様です。


「いえいえ滅相もない! 王族の皆さんにお手伝いさせたとあっちゃあ、どんな裁きを受けることやら…」


 と恐縮至極な板さんに、気のいい皇帝サンはさも当然のように、


「良いではないか。王族とて、市井の暮らしぶりを知ることは重要だからな。

 それにマコ自身がやりたがっているのであれば、別に咎めはせんぞ?」


 実に理解ある旦那さんを得られて、マコさんは本当に幸せですね♩

 こうなったら私も負けてはいられません!


「あ、でしたら私…も…ぅぷっ!?」


 勢いよく挙手したところで、またしても先程の立ちくらみが…いえ、今は着席してるのに…おかしいですね?

 しかも同時に激しい吐き気まで催してしまって…。

 幸いすぐに治ってくれましたけど、うっかりこんな処でリバースしてしまったら、お店の評判どころか私の悪評が出回ってしまうところでした。


「ま、まさか、ウチの料理がお口に合わなかったんじゃ…!?」


 幸福ムードから一転して真っ青になる小鬼夫婦に、ラリスくんはヘロヘロ手を振って、


「気にすんな、さっきもあったことさ。

 年甲斐もなくはしゃぐからだぜ、年増♩」


 ムッキィ〜〜ッ!? だから私はまだ十代だってのにっ!


「いや…思い当たるフシは無いわけでもない…けど、まさかな…」


 やけに深刻そうなシドさんが、腕組みをして考え込んだところへ…


《…その"まさか"です。》


 今までずっと沈黙していたため、すっかり存在を忘れていたミコトが食いつきました。

 そしてそのまま、信じられないコトを平然とのたまいます。


《ミサトは…『妊娠』しています。》



◇



「…………は?」


 長い沈黙のあと、私がやっと絞り出せたのは、そんな短い声だけでした。

 それは他のみんなも同様で…寝耳に水とはまさにこのことでしょうか。


「…い、いや、だって、あの…計算合わなくないですか?」


 恥をしのんで、恐る恐る問い返します。

 私とシドさんが結婚してから、もうかれこれ半年以上にはなりますけど…

 実際にそーゆー関係になったのはつい最近だし、ラリスくんに至っては本当に先日なんですよ?

 普通に考えれば、どうやったって…


《ですから、それはごく普通の地球人の場合でしょう? アナタ達は宇宙人…普通じゃないんです》


 あー…よもやこの期に及んで、その事実をイヤってほど痛感させられるとは…!


「考えられないことじゃないね。

 僕らモーント人の場合、現在ではクローン繁殖が主流になってるから、直接的な性行為における妊娠確率データなんてもう何世紀も前のモノしか現存しないし…

 ラリスくんらグラビス人に至っては、宇宙難民になってかなり経つから、データ自体が存在しないんだ」


 ここぞとばかりに宇宙人種学者のシドさんが博識ぶりを遺憾なく発揮しますが…早い話が「判らない」ってコトですよね。


「だが『ルナリアン』に関しては、それこそ他の人種の比ではないほど生殖行為が盛んで…要するに『絶倫』だったという伝承がある。

 ホラ、インドには『カーマ・スートラ』っていう、いわゆる性教本があるだろ?

 アレの元になったのが、ルナリアンがもたらした様々な知識らしいんだ」


 絶倫て…。

 古来より、人類の歴史には宇宙人が深く関わっていたとするトンデモ学がまことしやかに囁かれてましたけど…こんなところでマヂだったとわ…。


「加えて、繁殖力もすこぶる高かったという。

 宇宙中で乱獲の憂き目にあった彼らが、それでもなかなか絶滅には至らなかったのは、ひとえにソレの賜物さ」


 ネズミ算式に増えた御先祖様のおかげで今の私がいると知って、たまらなく複雑な気持ちではありますけど…。

 結果的には、そんな希少種族に自ら終止符を打つべく、地球人との交配を選択したルナリアンの宿命(さだめ)の、なんて皮肉なことか…。


「ともかく…おめでとう。僕も嬉しいよ」


 そっと私の肩を抱いて、優しく囁きかけてくれたシドさんのおかげで、場内は一気に祝福ムードに。

 先の店主さん達のご懐妊の件もあって、二重の喜びです♩…が、


「ま、どっちの子かはまだ判んねーけどな♩」

『…え゛?』


 ラリスくんが放った余計な一言に、店主さん達の顔がピシッと凍りつきました。


「あっいえっ、ウチは王族だから多夫一妻制なんですよぅ♩」

「あ…そ、そーなんですねぇ〜アハハ…ハ?」


 慌てて取り繕った私の苦しい弁解に、一応は納得してくれたらしい彼らですけど…

 場内には一転してビミョ〜な空気が漂いはじめました。どうしてくれるんですか、コレ?


「…ということは…この私も早期妊娠の可能性がある、ってことですよね?」

「ブバアッ!?」


 そこへさらに余計な爆弾を投下したマコさんの何気ない一言に、皇帝サマは呑んでいたお酒を怒涛の勢いで噴射し、店主さん達はいよいよ顔面蒼白に…。


「い…いやぁ、キミの場合は地球人による代理出産という形だから、体質も母体準拠で、そこまで極端なことはないんじゃないかな?」

「そうですか…残念です…」


 めげずに講釈をたれたシドさんに、マコさんは心底残念そうにガックリ肩を落として、


「ま、まぁ…まだまだこれから頑張れば、それでよかろう?」

「…そうですね…旦那様♩」


 そこに助け船を出した皇帝サマとの仲睦まじい雰囲気が、店主さん達をますます青ざめさせて…


「あ、あのぉ…よろしいんですか、アレ?」

「世間的にはモロアウトでしょうけど…なにぶん王族ですしねー♩」


 そんな彼らの至極当然な疑問に、笑ってごまかすしかない私なのでした。

 ところが…そんな和やかな空気を根底から覆す言葉が、よりにもよって私の口を借りたミコトから繰り出されます。


《…ソレです。私が危険を冒してまで、ミサトを地球へと送り届け…次のマコは代理出産方式へと切り替えたのは》


 養育係として月へ呼び寄せた『リンクラー』…お爺さんお婆さんをそそのかし、今はもう無力化されたコリスくんの熾烈な攻撃網をかいくぐってまで、私を地球へと降ろした…

 そうせざるを得なかった理由とは…


《永年の培養実験の成果で、ついに『ルナリアン』であるミサトの創生に成功はしたものの…

 母体による自然分娩を伴わない彼女の体組織は非常に不安定なもので、そう長くは持たないだろうと予想できました》


 え…いったい何の話を…?


《だからこそ、私はアナタを手放すことを決意したのです。

 曲がりなりにも一つの生命体として生まれたからには、それなりの人生を存分に満喫してほしいと…。

 それが…『母親』である私にできる、せめてもの罪滅ぼしだと…》


 …………。

 恐ろしく重苦しい空気が場を支配します。

 もはや誰も何も言えないまま、ミコトと私のやり取りを固唾を呑んで見守っています。

 渦中のミコトが私に向ける眼差しは、母性の慈愛に満ちたものでありながらも、深い悔恨の念を伴っていて…。


《正直に申し上げて…ミサトの身体は、この出産には持ちこたえられないでしょう》


 それって…つまり?


《アナタ達が新たな生命を授かる、その時が…

 ミサトの最期になります。》



◇



 楽しい宴から一転して…あの後、どうやって自宅まで帰ったのか、自分でもよく覚えていません。

 それから私はシドさん達の勧めで、上空の『ソル・クレスタ』内にて精密検査を受けました。

 モーント星団皇国の象徴でもある旗艦内には、地球上の医療機関を遥かに凌ぐ最新鋭の医療設備が整っているのです。

 そこで下された、私への診断結果は…いずれもミコトの見解を裏付けるものでした。


 それで解りました。お爺さんお婆さんが、常に私のそばに張り付いていた理由と、第三者への売却を急いでいた理由が。

 比較的長命な種族が多い宇宙人の彼らから見れば、脆弱すぎる私の容態が、きっと不安でたまらなかったのでしょう…。


「…なんで…こんな…っ」


 自分の無力さに肩を震わせるシドさんに、私は…何も言ってあげられません。

 そこへラリスくんが意を決したように、


「なぁ…この際、ガキには悪いけどよ…」

「…いや、それは愚策だよ」


 彼が言わんとすることを察したシドさんが、強い口調で制止します。


「なんでだよ!? ガキ産んだら、コイツは死んじまうんだぜ!? だったら産まなきゃいいだけだろ!?」

「…それでも、ほんの少し寿命が延びるに過ぎない。これはもっと根本的なところの問題なんだ」

「原因が判ってんなら、ソイツをどうにかすりゃいいだろっ!?」

「どうにも出来ないんだよ、だからっ!!」


 シドさんがラリスくん相手に声を荒げるところなんて、初めて見ました。

 けれども、怒りに打ち震える彼の目には、うっすら涙が滲んでて…

 その怒りも、ラリスくんへというよりは、むしろ自分に向かっていて…。


「つまるところ、コレは『ルナリアン』の遺伝子に最初から備わっていた欠陥だったんだ。

 それ故に彼らは積極的に交配を繰り返すことで、少しずつソレを改良・克服し、長寿命へと変わっていったんだろう…。

 そしてソレは、ルナリアンの素性そのものに密接に関わっていて…決して切り離せない箇所なんだ」


 皮肉にも、私の遺伝子は『ルナリアン』を忠実に再現しすぎたが故に、先天的な欠陥までもを取り込んでしまったようです。


「それなら…しょうがないですね。

 私は…私の宿命に従います」

「ミサさん…っ」

「本当に…それでいいのかよ、お前は…っ」


 全てを受け入れる覚悟を決めた私の言葉に、シドさんとラリスくんが唇を噛み締めますが…


「納得なんて……できるわけないじゃないですか、こんなの…っ!」


 みんなの手前、我慢しようと思ってたのに…やっぱり無理でした。

 だって、こんな…生まれてくる子供の顔すら見られずに、死んでいくしかないなんて…!

 しかも、その時はもう、間近に迫ってて…。


「私はまだ、旅行にも行ったコトないんですよ!?

 ずーっとこの街から出られなくて…せいぜい『ソル・クレスタ』と月面要塞を往復したくらいで…まだ、何もできてないのに…!

 みんなと一緒にやりたいコトが、まだまだ沢山あるのに…!」


 堰を切ったようにとめどなく溢れ出す言葉は、後悔ばかりで…。

 まだこれから何でもできると高を括って、何もしなかったツケが、こんな形で回ってくるだなんて…。


「私は…まだ死にたくない…死にたくなんかないんですよぉ…っ!!」


 月並みなセリフですけど、いざそれを口にしてしまうと、いよいよその現実が身近に感じられて…ただただ、涙に濡れるしかありませんでした。

 でも…不思議と怖くはありません。

 それは、たぶん…シドさんとラリスくんが、きっと最期までそばにいてくれるから。


「…じゃあ…子供はどうする?」


 むせびなく私の肩を抱いて…シドさんが優しく問い掛けます。


「俺も…お前の意志に任せる。自由に選んでくれていいぜ」


 ラリスくんも反対側から私を抱いて、そっと囁きかけます。

 この二人は、いつでも私を最優先に考えてくれて…今さらながら、本当に感謝しかないです。

 欲を言えば、そんな優しい二人と、もっと一緒にいたいんです。

 できるだけ長く…できることなら、永遠に…。


 けれども…生まれてくる子供には何の落ち度もないし、そんな罪を背負わせたくなんてありません。

 そのためには…私自身が、最後の最後まで幸せに生き抜くこと。

 短かったけど、とても充実した良い人生だったと、胸を張って言えること。

 そうすれば、その後の私の人生は、笑って子供に託すことができる…。


 …私は決心しました。


「…産みます。誰がなんと言おうと。」


 シドさんもラリスくんも、ただ黙って頷き返します。

 たぶん、私がそう答えることを最初から予想していたのでしょう。

 でも…これはどうでしょうか?


「その代わり…一つ、お願いしてもいいですか?」



◇



 …翌朝。


「心配するな。お前達の留守は我々が責任をもって預かる」

「何から何まで済まないね、兄さん」

「何をいう。可愛い弟のたっての願いだ」


 シリウス師団長らに礼を述べるシドさんを、シャムス皇帝陛下が優しくねぎらいます。

 三兄弟が地球で過ごした時間は、彼らの結束力をより強固にしたようです。


「お姉様の留守中は、私がお家をしっかり守りますから」

「あたしもあたしも! あっちのお店も頑張っちゃうからねっ♩」


 マコさんとミユちゃんの仲良しコンビにお任せすれば、たいていのコトは大丈夫でしょう。


「お前もついてくのかよ?」

《あら、独りでお留守番は心細い?》

「独りじゃねーだろ? みんな一緒さ♩」


 いまだ私に憑依したままのミコトに恨み言をつぶやくコリスくんの頭を、フレイアさんが陽気にポンポンあやします。

 万一、私に何かあっても、ミコトが着いててくれればいくらか融通は利くでしょう。

 それに、世界のどこにいようと、すぐさま『ソル・クレスタ』が回収してくれる運びになってますし。


 私が望んだ最後のワガママ…それは、シドさんとラリスくんと三人だけで『新婚旅行』に出掛けることでした。

 物心ついてからというもの、一度もこの街を離れたことがない私…。

 せめて最後に、私が愛した世界をこの目に焼き付けておきたいと、二人にお願いしてみました。

 けれども二人は予想外に快諾。

 何かあれば自分達が対処するからと…♩


「保護管理官(ガーディアン)としても夫としても、最初で最後の大仕事だしね」

「相変わらずカタイねぇ〜センセは。女房がそうしたいっつったら聞き届けてやるのが男の甲斐性ってもんだろ?」

「フッ…言うようになったじゃないか、ニワカが?」

「ほんの数ヶ月違いだろ? コイツへの愛情なら、アンタにも負けないぜ♩」


 本当にこの二人は…。

 一時期は主に私のせいでギクシャクしてたようですけど、今ではすっかり元通りの凸凹コンビです。

 彼らに出会ったおかげで、私の人生は本当に輝かしいものになりました♩

 もう、どんなに感謝してもしきれません。


「それは僕も同じだよ。キミがいてくれたおかげで、個人的には一番の懸念材料だった兄上たちとの仲も回復できた」

「俺もだな。いっつも心のどっかにずぅ〜っとポッカリ空いてた穴が…お前のおかげでやっと塞がったんだ」


 お互いの出会いで何かが変わったのは、私だけではなかったみたいです。

 人は常に誰かとの出会いと別れを繰り返し、常に変わり続ける…。

 そう考えれば、今回もさほど特別なことではないのかもしれません。

 だけど…


「ミサお姉さまぁ…」「お姉様…」


 瞳に涙を溜めたミユちゃんとマコさんが、私にしがみついてきます。

 今回の旅で、私の人生もおそらく終わり…。

 ということは、可愛い妹達とはここで今生のお別れになってしまう可能性が高いのです。

 彼女達だけではなく、その様子を優しく見守るシャムス皇帝やシリウス師団長、フレイアさんにコリスくんとも…。


 最期の最期に大切な人達がそばにいないというのは、正直とても心細いですし…私の悩みどころでもありました。

 けれども、みんなにはなるべく、私の綺麗な想い出だけを残してほしいっていうか…苦しんで死ぬところを見せたくはなくって。

 私だって、最後に見栄くらいは張っておきたいじゃないですか。


「…そろそろ行こうか?」


 いつの間にか車を出してきたシドさんが、運転席から呼びかけます。

 その後部シートには、ラリスくんが我が物顔でふんぞり返って…。

 思えば、この三人だけで車でお出掛けするのって、第一話以来じゃないですか?


「…ふふっ、そうですね♩」


 私も颯爽と助手席に飛び乗って、みんなに笑顔で手を振り返します。

 みんなの声援を受けながら、車はエンジンを噴かして静かに走り出します。


 さようなら、みなさん。

 さようなら、私が育った街。

 だけど、寂しくはありません。


 窓から空を見上げれば、

 頭の上には今にも落ちてきそうなほど

 巨大な月が。

 世の中はいつだって変わり続けて…

 いつも新鮮な驚きに満ちているのです。


 そんな、

 いまだに知らない未知への期待で、

 私はこんなにも、

 ワクワクしているのですから…!




【第十六話END】

 いよいよ最終回目前!…というところで、驚愕の事実が発覚してしまう今回ですが。

 こうなることは、連載を始めた割と早い段階から決めていました。

 世の中を面白おかしく引っ掻き回したヒロインが、ただで済まされるはずはないだろうと。

 むしろ最期が決まっていたからこそ、好き勝手できたという側面もあります。


 でも、あまりしんみりさせすぎるのも違うかなーってことで、ラストはなるべく爽やかに締め括ってみました。

 とはいえ、まだ一話分残ってますが(笑)。

 本来なら今回で最終回でも良かったんですが、各キャラのその後もじっくり書いてやりたくて。

 そうなると少し長くなりすぎるかなーと前後編に分けた次第で。

 なのでボリューム的にはいつもより少なめになっていますが、そのぶん余韻はバッチリ残せたかなーと。


 実はこの連載の第十ニ話あたりを書いていた頃に、前の仕事を離職することが決まりまして。

 それから毎日ずーっとバタバタしてて、有休消化とかでゆっくり執筆できるかなと思いきや、再就職活動でかえって余裕が無くなったりして(笑)。

 それでも無事なんとか新しい職場も決まり、先日から働き始めています。


 そのため、また執筆に多少の時間は要するかもしれませんが、最後の最後までキッチリ完走する所存です。

 ラスト一話の完成まで、もうしばらくお付き合いくださいませ♩

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