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愛しさと切なさは心細さしか産まない

【前回のあらすじ】

 私達の宿敵だった故・井谷奈いやな記者を子飼いにしていた宗教団体『真世界統合協会』。

 その教祖が祖国の自宅で惨殺された当日、同教団に協力していた世界中の政治家や資本家が、同様に殺害されていたことが判明。

 小国の国家予算にも匹敵する莫大な教団資金は、その前後に何者かによって全て持ち出されていた事実も発覚しました。

 彼らの背後にいたのは何者で、いったい何が目的なのか?

 今もって皆目不明ですが、今後も予断を許さない状況です。


 それはさておき、私とラリスくんは約束通り、週末の親子デートにおでかけ。

 彼の陰謀で、普段は絶対着ないギャル服に着替えさせられたり、そのラリスくんも初めて着たゴスロリファッションにご満悦だったり、そんなナメた息子をゲーセンでボロ負けさせてやったり、その後のカラオケボックスで腹いせに押し倒されたりと…。

 まぁ色々ありましたけど、予想以上に楽しかったですね♩

 その最中に、重度の朴念仁だった彼もようやく、私への愛情が他の娘とは違うことを認識できたようですし…。

 だから私は、気長に待つことにしました。

 ラリスくんが、ミユちゃんとの関係をちゃんと精算して、さらに私をシドさんから奪うことができたなら、そのときは…と。

 …こうして書いてみると、なんだかメチャクチャ計算高い女ですね…私。

 私の本心がいったい何処にあるのか、自分でもいまだに解らないというのに…。


 そんな複雑な想いを抱えたまま、デート帰りに駅前の書店に立ち寄った私達は…うっかりバッタリ、ミユちゃんとマコさんに出くわしてしまいまして。

 さらにそこへ突然、ラリスくんの同僚である『保護管理官ガーディアン』のフレイアさんが登場!

 燃え盛る炎のように情熱的な赤い瞳と髪を持った彼女は、どうやらラリスくんを追いかけて地球を訪れたようで…。

 ところが、昔と違って女心が理解できるようになったラリスくんが、「お前、俺のこと好きだったのか!?」などと不用意に暴露してしまったから、さぁ大変!

 彼への秘めた?想いを公衆の面前でバラされてしまったフレイアさんはブチ切れるなり、巨大な『遮光器土偶』に変身して、お店を木っ端微塵に破壊してしまったのでした…!





「ミサさん、その格好は?」


 目の前で対峙する巨大な土偶とハニワそっちのけで、私のあられもない痴態に大注目のシドさん。

 こんな小っ恥ずかしいギャル服でいるときに限って、旦那様に思くそ目撃されてしまいましたァーーッ!?


「コ、コレは…ラリスくんに買ってもらいました…」


 不倫がバレて旦那に問い詰められた一見貞淑な妻(←つーかまさにソレだろ)のように、私は涙ながらに真相を打ち明けます。

 実際には不倫ではなく親子デートだし、今日、彼と二人でおでかけすることはシドさんも知っているから、何ら気後れすることはないはずなのに(←言い訳すなや!)…。

 って、そんなことよりも(←開き直りやがった!?)、いつもエレガ〜ンスな装いで大学教授夫人を気取ってた私の実態が、こんな破廉恥な格好で街中を闊歩する変態女だってシドさんにバレちゃったことがショックで…。(←とりあえず、全国のギャルに謝っとけ)


「フム…なるほど、ラリスくんがねぇ…」


 小難しい顔で腕組みして、なにやら考え込んだシドさんは…おもむろに巨人化したラリスくんを見上げて、


「ラリスくん…………ナイスッ☆」


 !?

 親指立ててサムズアップする旦那様に、私、思わず目が点になりましてよ?


「いや〜ミサさんって何着ても似合うとは思ってたけど、こんなのもイケちゃうなんてね♩

 僕にはない発想だし、エロ可愛くて眼福眼福♩」


 予想外に気に入られちゃってましたーっ!?


「なんなら、明日からソレで大学通ってみてもいいんじゃないかい? 他にもそんなカッコで通学してる子が大勢いることだしネ♩」


 wktkしつつ提案するシドさんを見て…あぁ、やっぱり彼もオッサンなんだな…って、嫌が上にも納得しちゃいました。

 服を買ってもらうだなんて、ここまで露骨なラブラブぶりを見せつけても、まだラリスくんを信じて疑わない彼には、一抹の罪悪感を覚えなくもありませんが…

 せっかくのお申し出ですけど、断固拒否しますっ♩


「そんなことはともかく…どーすんですか、この騒動…?」


 羽織ったパーカーを無理やり引き伸ばして胸元を隠しつつ、ジト目で問う私に、


「ん、そーだね…」


 やっと我に返ったシドさんは、空襲跡みたいに焼け野原となった書店の残骸を見渡して…

 次いで、その元凶である巨大遮光器土偶を、呆れ返った視線で見上げて…


「ラリスくん、そろそろトドメ刺しちゃって?」


 嗚呼なんたる非情な公開処刑宣言!?

 いよいよ巨大土偶vs巨大ハニワのコンクリートジャングル対決が見られるんでしょうか…?


《あいよ。フレイア…》


 シドさんの指示を受けたラリスくんは、ファイティングポーズも取らずに土偶をまっすぐ指差して、怒気をはらんだ声で…


《前にも言っといただろ?

 今度やったら…マジ絶交だってな。》

《うえぇえスンマセン先輩っ、これはものの弾みで…キライにならないでぇ〜〜っ!?》


 …ハイ、勝負終了。

 土下座して巨大ハニワの足下にすがりついた巨大土偶の戦意喪失が認められましたので、ラリスくんの圧勝ってことで。

 なんてゆーか、このフレイアって子…気の短さはラリスくん以上だけど、チョロさはミユちゃん以上かも…。

 てか痴話喧嘩のたびに、ものの弾みで街を破壊されたらシャレにもなんないですけど。


 今回の被害:書店一軒全壊、ならびに周辺の建造物の半壊。幸い死傷者はナシ。

 だからといって、これだけの大騒動を巻き起こしておきながら、シドさんとラリスくんが平謝りしたくらいでお咎めナシになっちゃうだなんて…この街の人々は、宇宙人を甘やかしすぎじゃないですかね?

 いくらこの場所が今では、世界一宇宙人に出会える街として有名だからって…。

 なお損害賠償はすべて、フレイアさんの今後のお給料から天引きされるそうな。これは当然ですね♩





「自己紹介はもう済んだようなものだけど…このフレイアって子は、ラリスくんが研修を受けたときの同期生だよ」


 しょーもない理由で多大な犠牲を払った街からコッソリ逃げ延びた私達は、いつものように我が家にて反省会の真っ最中です。


 『保護管理官ガーディアン』になるためには、様々な資格審査や研修が必須。

 モーント王族第三王子であるシドさんの推薦を受けたラリスくんにおいても例外は認められず、数年間に渡る厳しい学習プログラムを経て、初めてプロとして認められたんだそうで。

 それでも、自然と動物に好かれるというチート級の特技を持つ彼の成績は、過去一、二位を争う優秀さだったんだとか…。

 ホント、人は見かけにはよりませんねぇ。


 で、その研修期間中に知り合ったというフレイアさんは…

 さっき出会ったばかりの頃の高飛車な態度から一変して、借りてきた猫のようにおとなしくなって…


「ぐすんっ…センパァイ…」

「だからなんで俺が先輩なんだよ、オメーの方が歳上だろ?」


 …まぁ、こうやってじゃれ合う程度には仲良しサンってことなんですね。


「ラリスくんの過去トモ…ぅぅっ」


 そんな二人を遠目に睨むミユちゃんの顔がコワイけど、見た目に怖くて強そうなフレイアさんには、なかなか挑めない様子ですね。

 思わぬライバル出現にタジタジってところでしょうけど…ラスボスはこの私ですから♩


「『ブレイザー』である彼女の戦闘力については、さっき片鱗を見せた通りピカイチだったんだけど…」


 シドさんによれば、フレイアさんの種族『ブレイザー』は炎の扱いに長けた生粋の狩猟民族で、保護管理官ガーディアン中でも戦闘に特化した『アタッカー』に抜擢されることが多いんだとか。

 以前にも述べましたけど、密猟者はたいてい武装していて、なかには軍隊並みの強力な装備や組織力を誇る厄介な連中もいるそうで…。

 それらに出くわした他のガーディアンからの救援要請を受けて活躍するのが、彼女ら『アタッカー』なわけですね。


 ちなみに、シドさんやラリスくんが擬態…いわゆる変身するときには、市販のツールが必要となりますが…

 ブレイザーは何も用いずとも、最初から通常形態と、より高熱の火炎が使用可能なアーマー形態…いわゆる土偶型を任意に切り替え可能という、宇宙でも稀な種族なんだとか。


「でも、その強さが災いして、肝心の保護対象者に怖がられることがしょっちゅうでね…。

 たまたま優秀なラリスくんとバディを組んだことで、かろうじてプロ試験にパスできたくらいなんだよ」


 あ〜、それで同期のラリスくんを必要以上に尊敬して『先輩』呼ばわりした挙句、同期生って以上のシンパシーを感じちゃった訳なんですね…。

 そんな好き好きオーラ全開でイチャコラしまくりなフレイアさんに、ついさっきまで彼女を男の子だと思い込んでたラリスくんは迷惑そうに、


「で…まださっきの質問に答えてないだろ?

 なんでお前がココにいるんだよ?」


 世界が宇宙人の存在を公式に認めて以来、堂々と地球を訪れる彼らも次第に増えてきたようですが…

 受け持ち区域がキッチリ決まっている保護管理官ガーディアンの、普段は隣接宙域にいるはずのフレイアさんが…どうして地球に?


「あれ、先輩たち知んねーの? 本部から応援要請が出てるんだけど、地球方面への」

「…本当かい、ソレ? 僕らは何も聞いてないけどな…?」


 シドさんが小首を傾げます。

 担当者本人である彼らが何も知らないというのは、変な話ですね…?


「おおかた、そこの絶滅種とメガネ姫のせいだろ? 二人とも、とっくに有名人だからな」


 ラリスくんの見解に、全員ひとまず納得。

 私が自身を絶滅種の『ルナリアン』だと語った配信動画は、瞬く間に宇宙中に拡散され、それを観た銀河皇帝がわざわざ見学に来る程度には話題になっているようですし…

 その皇帝サマと事実上の婚約関係にあるマコさんも、今じゃ宇宙イチ有名な眼鏡っ子ですしね。

 あ…ということは…


「兄上が手を回したのか…」


 銀河皇帝シャムス陛下はシドさんのお兄さんでモーント人。

 そして、宇宙連盟の下部組織である『保護管理局』は、もともとモーント人がルナリアンを保護する目的で発足させた経緯がありますからね。

 なので、皇帝サマの要請とあれば、管理局本部も無視する訳にはいかないでしょうし…

 実は弟のシドさんを誰よりも気にかけていながら、それを知られたくないヒネクレ者の皇帝サマが、地球側には内緒でコッソリ御触れを出していたのかも…?


「あと、コレは関係あるかどうか知んないけど…ここ最近、月の地殻変動が活発化してるんだってさ」

『月の地殻変動!?』


 フレイアさんの意外な一言に、お勉強不足なミユちゃんを除いたすべての人が驚きました。

 ご存知の通り、月は地球の衛星にして、水や大気が枯渇し、見渡す限り岩山しか存在しない荒涼とした場所です。

 地球からの観測では火山活動すら確認できないことから、"死の星"と呼ばれて久しいのですが…


「いや厳密には、月面の断層や、地球との重力バランスの関係から『月震』と呼ばれる地震が頻発しているんだ。

 ただ、その震度は比較的小さめで、深刻な事態をもたらすほどではない…って、今までは目されてきたんだけどね」


 シドさんがすかさず補足説明を入れます。

 

「ただし…忘れてもらっちゃ困るのは、アレがかつての『ルナリアンの移民船』の成れの果てだってことだ」


 そう…月の正体は、かつて私の御先祖様を太陽系まで運んできた、途轍もなく巨大な宇宙船だったのです。

 もう気が遠くなるほどの遥か昔に乗り捨てられてからは、経年劣化ですっかり朽ち果てて、あんな有様になってしまいましたが…。

 そのため、月の周辺は『聖域』とされ、何人たりとも立ち入り禁止な『禁忌タブー』と化しているのです。

 でも、ということは…


「何者かが、月で何かを企んでる…ってことか?」


 誰もが薄々思っていたことを簡潔にまとめたラリスくんの弁に、皆の表情がこわばります。


「同時期に、例の教団の教祖が暗殺されて、貯め込んだ資金がゴッソリ消えたのも…偶然ではない…?」


 シドさんの補足に、背筋を冷たいものが伝い下りていきます。


「それを言うなら、そこのルナリアンも…」


 と言いかけたフレイアさんを、ラリスくんが睨みつけて黙らせました。

 でも、それは…私も気になりますね。

 個人的には…私達『ルナリアン』に最も近い『地球人』のマコさんとの出会いにも、作為めいたものを感じるんですけど…?





「…けど、僕らが此処でこうしていくら議論してても、何の進展もないことだけは間違いなさそうだな。

 とりあえず、即戦力のフレイアさんが来てくれたのは正直、心強い」


 と、ゆーことは…


「ミサさん、まだ部屋は余ってたよね?」


 …やっぱり、彼女もしばらくお泊めする流れになっちゃうんですね。

 シドさんの問いかけに渋々頷いた私を見て、フレイアさんは意外そうに、


「え? このルナリアン、先輩のペットじゃないんスか?」

「…あ゛?」


 何故だか怒りの眼差しを手向けるラリスくんに、フレイアさんは慌てて取り繕って、


「え、いや、だって、こんなツンツルテンで卑猥な奴隷服買ってやったりしてるじゃないスか?」


 奴隷服!?…ギャル服って、宇宙基準だとそんな感じなんですか?

 いやまぁ、私基準ではちょお〜っとばかり破廉恥かなーと思わなくもないですけど…。

 ところが、そんな彼女の言い草にカチンときたのはラリスくんだけではなくて…


「…フレイアさん。彼女は僕の『妻』だよ」

「え……『つま』!? ってことは、あのあのっ…シド先輩、結婚してたんスか!?」


 まぁ彼女とてお年頃の女の子ですからね。

 『結婚』という最強のパワーワードにビビるのも無理はないでしょう。


「ということは、彼女は『モーント星団第三王子夫人』ってことなんだけどね?」


 え? あ…全然意識してなかったけど、言われてみればそーゆーことになりますよね。

 でも…実際には、シドさんは私ん家の婿養子という立場なんですけど…この場合はどーなっちゃうんでしょうか?


「あとな、この星ではセンセと俺は『親子』って扱いになってんだよ。

 つーことは、コイツは俺の『母ちゃん』ってことだな…!」


 えっ…今の今まで一度たりとも私を母親だと認めてくれなかったラリスくんが…初めて私のことを『母ちゃん』って…!?

 う、嬉しい…♩

 ラリスくんがなんだか胸が熱くなりました。

 …けど、その一方で…何なんでしょうか、この一抹の寂しさは?


「ヒッ、ヒィイ〜〜〜〜ッ!?

 すんませんスンマセン大変ご無礼をお許しくださいましーっ!!」


 どうやらラリスくんだけではなく権力にも激弱だったフレイアさんは、一転して私に平謝り。

 そんな彼女の変わり身の早さに苦笑しながら、ラリスくんはそっと私に耳打ち。


「ま、俺自身はまっぴらゴメンだけどな。いまさら母ちゃんだなんてよ」


 …え?


「お前なんか…俺のダチくらいで丁度いいだろ?」


 …ぅわ…なんだか、こっちの方がよっぽど嬉しいかも?

 こないだまで、もっと私を母親扱いしろって、散々叱りつけてたのに…

 本当に現金な女ですね、私って。


「セッ◯スフレンドってヤツだな♩」


 ブゥッハァ!? ど、どこでそーゆー言葉を覚えてくるんですかっ!

 まだ、したコトもないクセに…っ!?


「…さぁ? どーだかなぁ…」


 え?…な、なんなんですか、その持って回った言い方は?

 し、してないですよね…私達?

 あれ、でも…先日の夜…。

 …あれ?…あれれれれぇ…!?

 などと、私が大いなる不安にかられていたところへ。


「…あれ? 皇帝サマから…?」


 着信アラームに気づいたマコさんが、懐からスマホを取り出しました。

 チャットアプリに、フィアンセ様からメッセージがあったみたいですね。

 多忙なはずの彼は、その実かなりの筆マメで、トラ◯プ大統領なみの頻度で何かしら書いてよこすので、それ自体はさほど珍しくもありませんが。


「…改めて考えると、つくづくトンデモナイ人達っスね…」


 VIP揃いのメンバーに、畏怖を通り越して呆れ返るフレイアさんの面前で、マコさんはさっそく皇帝サマからのメッセージに目を通して…


「…え…?」


 にわかには信じがたい様子で、その文面を何度も反芻しています。


「…何かあったのかい?」


 その表情に不穏な気配を感じ取ったシドさんが呼びかけると、


「…どうぞ。」


 マコさんは答える代わりに、自分のスマホをシドさんに差し出しました。

 私達もつられて画面を覗き込むと…そこには、皇帝サマからのこんなメッセージが…。


《お前の両親がやっと口を割ったぞ》

《心をしっかり保って聞くがよい》

《あの者たちは…》

《お前の本当の親ではない》


 …え。


「…まぁ…薄々そんな気はしてました…けど…」


 気丈に振る舞おうとすればするほど、青ざめた顔でブルブル震え出すマコさんを気遣いつつ、


《シドゥスです》

《彼女に代わってお尋ねします》

《彼らが両親でないなら、何だというのですか?》


 シドさんが明瞭簡潔に問い合わせれば、


《フム…そうだな。ここから先は》


 間髪入れずに皇帝サマのレスが返ってきて…本当に多忙なんでしょーかね、この人?


「…直々に説明したほうが良かろう」


 またも間髪入れずに、今度は本人が転送されて来ちゃいましたよ!? フットワーク軽すぎ!


「ヒィッ!? 皇帝陛下…ホンモノ!?」


 唐突な最高権力者のご登場に、フレイアさんまでもがブルブル震え出しますが…

 まぁ、彼の突飛な行動はいつものことですからね。

 とりあえず、お茶でも出しておもてなししておきましょう。





「まずは案ずるが良い。あの者達は、今ではすっかり落ち着きを取り戻している」


 長ソファの隣に腰掛けたマコさんを慰めるように、シャムス陛下は彼女の頭を愛おしげに撫で回します。

 民家のリビングで、フィアンセとおくつろぎの銀河皇帝サマ…なんともレアでシュールな絵柄ですね。

 てゆーか傍目には、ド派手な売れっ子ホストが初来店の眼鏡っ子を口説き落としてるよーにしか見えないし…。


「だが、先日の番組内での井谷奈某いやななにがしの処刑に続き、今度は教祖や関係諸氏の怪死と来たら、さすがに身の危険を感じたらしくてな」


 そこでマコさんのご両親は、皇帝サマに当面の身柄の保護を依頼してきたそうです。まぁ元よりそのつもりだったそうですけど。

 だからといって、タダで引き受ける訳がありません。交換条件として皇帝サマが提示したのが…


「お前達の娘…麻胡マコの素性を洗いざらい話せ、と促した。

 自分達が手塩にかけて育てた我が子に、あそこまで非情になれる道理が…余にはどうしても理解できなんだものでな」


 日頃からの体罰…公衆の面前での暴行…銃口を突きつけて人質に取り…挙句「お前なんて産むんじゃなかった」発言…。

 あの二人がマコさんに仕向けた目に余る非道な行いは、私達が知るだけでも枚挙に糸間がありません。

 どう考えても、愛情の裏返し…などで済まされる範疇をとうに逸脱しています。

 果たして、その理由とは…?


「結論から言って…麻胡は、あの二人の実の娘ではなかったのだ。」


 あえて淡々と述べた皇帝サマの無慈悲な言葉に、マコさんは口を真一文字に結んで、全身をこわばらせます。

 その様子を見て、皇帝サマは矢継ぎ早に、


「だが…紛らわしい言い方にはなるが、確かに腹を痛めて産んだ子には相違なかった」


 ???…どゆこと?


「…『代理出産』…というヤツかな?

 クローンが主流のモーント人には馴染みのない繁殖行為だけど」


 シドさんの推考に、皇帝サマも「それだ」と肯定します。


「彼らが教団に入信したばかりの頃、教祖側からその話を持ちかけられたらしい。

 "将来の教祖を産み育んでほしい"と。

 ちょうど、自分達になかなか子供が授からず苦悩していた時期に、またとない名誉な話…と、二つ返事で引き受けたそうだ」


 当時、前教祖はすでに亡く、その妻である現教祖も高齢だったことから、そんな話が出てきても不思議はないかもしれませんけど…


「…あれ? ちょっと待ってください。

 私の両親が入信したのは、私が小学生の頃だったはずですけど…?」


 そこでマコさんが意外そうな声を上げました。

 確かに、私達と初めて出会った時にも、そんな説明をしていましたね。

 数年間もの開きがあるなら、単なる勘違いではなさそうですが…?

 でも、そんな疑問が出ることは皇帝サマの想定内だったようで、


「うむ、それこそがこの話の肝だ。

 二人もてっきり、前教祖らの凍結精子と卵子を用いた簡易的な妊娠出産になると思い込んでいたらしい。

 だが…」


 そこで皇帝サマは、出されたお茶を一口啜って、


「…目隠しをされた二人が連れていかれたのは、いったい何処だか見当もつかないほどの超未来的な空間だったらしい」


 超未来空間…と聞いて、私は思わず、以前に訪れた大学地下の保安官事務所や、永蘭えいらん病院の広大な地下施設を思い出しました。

 そして…おそらく、その連想は当たっていたのでしょう。


「二人はそこで手術室のような部屋に寝かされ、気づけば手足を拘束されて身動きがとれなくなっていた。

 そして…やたら黒目がデカくて肌色の悪い、謎の人物達に取り囲まれ、あまりの恐怖に悲鳴を上げたあたりで記憶が途切れたらしい」


 いやソレ、まんまUFO内でグレイに身体をいじくられちゃう系の体験談じゃないですか!?

 その多くは、トンデモ話で荒稼ぎしたい精神科医の、インチキ催眠術が原因のでっちあげだって言われてますけど…

 でも今はもう、宇宙人が実在する御時世ですしね。


「…再び気がつくと、二人は自宅の寝室に戻されており、半日ほどの記憶が途切れていた。

 その後しばらくして妻が体調に異変を感じ、病院で診察を受けた結果…妊娠が発覚したとのことだ。

 あの日以来、どうしても恐怖体験が甦ってしまうため、性交渉はまったく無かったにもかかわらず」


 怖っわ!? これまたB級SF映画さながらの筋書きですね。しかも実際に妊娠させられてるとか、洒落にならないですよ!

 二人は恐怖のあまり、一時は中絶して逃げ出すことも考えたそうですが…教団の監視が常に付き纏っていることを知ると、もう後には引けなくなったようです。


「そして出産当日、二人は日頃から利用していた馴染みの産婦人科を訪れた…はずが、いつの間にか例の超未来空間へと移送され、知らないうちに出産処理が済んでいたという」


 産みの苦しみを味わわずに済んだのは不幸中の幸いかもしれませんけど、こうもたびたび怖い思いが繰り返されると…。

 …あぁ、それで二人とも宇宙人反対論者になってしまったのかも?

 それだけ怖い体験をしていれば、無理もない話ですね。


「その後しばらくして、教団本部から手渡された我が子を見て、ごく普通の子供だったことにようやく胸を撫で下ろしたそうだが…」


 そうしてマコさんは、晴れてご両親の待望の子供になったわけですね。めでたしめでたし♩


「いや…その"しばらく"の期間が異様に長すぎた。なんと一年近くも経っていたそうだ」


 一年…!? 産み落としたばかりの子を抱くことも許されず、その間ずっと離れ離れに…?


「さらに驚くべきは…その一年を経て返された我が子が、十歳前後に急成長していたことだった」


 !? そ、それは…笑うに笑えないし、おめでたくも何ともないですね。

 よく、UFOにアブダクションされて行方不明になった人が、数十年後に当時の年齢のまま、ひょっこり帰ってくる話がありますけど…それとは真逆のパターンですか。

 そして、その子には既に一通りの知識や記憶がプリセットされており、両親を遥かに凌駕する優秀さだったとか…。

 おそらくは、モーント人が持つクローン技術と同等の処理が施されたのでしょうけど…現在の地球人にそのような技術はありません。

 つまり、この件には明らかに宇宙人が介在しているのです…!


「あ、それで…!」


 それまで黙って話の聞き役に徹していたおかげで、いるのかいないのか判らなかったミユちゃんが、そこで初めて口を挟みました。


「ほら、私達の中学校って、狭い学区だから、たいていの人は幼稚園くらいから顔馴染みなんだよね。

 でも、マコちゃんって中学生から急にクラスメイトになったでしょ? しかも、すんごい美少女だって、みんな騒いでて…」


 そういうミユちゃんも負けず劣らずの美少女だと思いますよ。チビっ子すぎてなかなか目につかないだけで。


「でもでも、そんなにカワイイ子で、しかも同じ学区内にいたってゆーのに、だぁ〜れも知らなかったから、みんなどゆこと???ってなっちゃってたんだよ」


 その理由は、皆の小学校入学の時期には、マコさんはまだこの世に存在していなかったから…。

 そんな得体の知れない『怪物』を養うことになってしまった、両親の葛藤はどれほどのものだったか…想像にかたくありません。

 ちなみに人間の記憶は、多少の認識違いは自動的に調整され、やがて違和感なく繋がるようになります。

 マコさんはそうして、自身が両親の実の子供だと思い込んでいた…。


「だが…あの二人にとって、麻胡という存在は、彼らの平穏な日常に突然降って湧いた『異物』以外の何物でもなかった。

 それでも最初は"将来の教祖候補"として、自分達がその養育に関わっているという誇りだけで、かろうじて理性を保っていられたそうだがな…」


 皇帝サマは、あとはお察しの通り…と目を伏せました。

 確かに自分達が産んだ子でありながら、違和感の塊な我が子に、次第に狂わされた彼らは、やがてその鬱憤を『暴力』という形で晴らすようになり…。


"お前なんて、産むんじゃなかった…!"


 マコさんの母親がそう吐き捨てたときには皆、なんて酷い奴だと憤慨したものですが…

 ここまでの裏事情を知ってしまえば、まさに文字通りの…長年の苦悩の果ての、魂の吐露だったのです。

 我が子であって、我が子ではない…。

 そんなマコさんに、二人が両親としての愛情を傾けることは…ついに最後まで、できなかったのでした。


「…以上が、余があの二人から聞き出せた顛末の全てだ。

 麻胡のためにも、ここらで一度ハッキリさせておきたかったのだが……済まぬ。」


 隣で、もはや真っ青な顔でブルブル震えるマコさんを気遣って…あの皇帝サマが、珍しく頭を下げました。


「いいえ…おかげで、やっと…全部、納得できました…」


 すべての真相が、望んだ通りのモノとは限らず…知らないままの方が良かったこともある。

 彼の口から語られた事実は…マコさんにとっては、あまりにも残酷な現実でした。


「納得…できたのに…。

 どうして…こんなに…悲しいのかな…?」


 不意に溢れ出した彼女の涙は、あとからあとから…とめどなく、彼女の頬を濡らし続けます。

 そんなマコさんの小さな身体を、皇帝サマは全身で力強く抱きすくめて…


「たとえ、お前が何者であろうとも…

 余は、全力でお前の全てを受け入れ…守り抜く。

 これまでも…これからも…っ!」


 そう囁きかける彼の目尻から、一筋の光がこぼれ落ちました。





 泣きじゃくるマコさんを連れて、皇帝サマは再び席を離れました。じきに戻ってくると言い置いて…。

 それからそろそろ小一時間が経とうとしていますが…あの状態の彼女を、誰がどうやって慰められるというのでしょうか…?


「…………」


 私達の間には、重苦しい沈黙が横たわっていました。

 何とかしてあげたい…けど、何もしてあげられない。そんなもどかしさだけが皆の心に居座り続けています。

 けれども、ただ漠然と二人の帰りを待ち侘びていただけではありません。

 マコさんの正体が気になっていたのは、皇帝サマだけではありませんから。


「…どう思う? さっきの話」


 ようやく口火を切った、いまいち要領を得ないラリスくんの問いに、


「…これで間違いないだろう。やはり、マコさんは『ルナリアン』だったんだ」


 シドさんは明確な答えを返します。

 でも確か、以前は"限りなくルナリアンに近い『地球人』"って見解だったんじゃあ…?


「それは、地球人の母体を通して生まれたからだよ」


 なるほど?…でもそれだと、純粋なルナリアンは永遠に生まれないことになるんじゃ…?

 という私の質問に、シドさんは静かに首を振って…こう問い返しました。


「『トキ』って鳥を知ってるかい?」

「えーっと確か…戦前には日本各地に生息していた鳥ですよね?

 でも、その美しい羽色を目当てに、大昔から乱獲が続いて…今世紀初頭に最後の一羽が死んで、絶滅したとか…」

「あれ? でも、よくニュースとかで、今も飛んでるトコを見るよ?」


 私の解説に、ミユさんが素朴な疑問を返します。

 するとシドさんがまたも、


「アレね、実は中国産のトキなんだ。日本産が絶滅したことを受けて、中国から譲り受けたモノを、繁殖のために放し飼いにしてるんだよ」

「??? 中国産のが増えても、やっぱり中国産になるんじゃないの?」


 ミユちゃんの疑問はごもっともですけど…

 私が聞いた話によれば、


「中国産のも日本産のも、品種としては大差ないそうなんですよ。だから、それが日本の環境に馴染んで繁殖を繰り返せば、いずれは日本産のトキと同一になって…」

「日本産が復活するってワケ。

 海外から来た人も、日本に住み続けて世代を重ねれば、いずれ日本人と呼ばれるようになるよね?」


 後半はシドさんが補足してくれました。

 が、何度聞かされても、素直には頷けない理屈ですよねコレ。

 だから、そこを槍玉にあげて攻撃する差別主義者も後を絶たないわけで…。

 生物学って本当にややこしいです。


「そして、僕は…

 今回の件は、ミサさん。キミにも絡んでくるんじゃないかと考えている」


 …え? シドさん、いったい何を…?


「一連の黒幕が、『ルナリアン』の元となるモノをどこから調達したのかは不明だけど…。

 ミサさんは純然たるルナリアンだから、何らかの方法…たとえば僕達モーント人のクローン技術と同様な手法で生み出された、人工生命体である可能性が高い。」


 …!?


「一方、マコさんは人間を介して生まれたものの、やはりいずれはルナリアン化する…と考えれば。

 黒幕が何を目的としているかは、もう明らかだよね?」


 …ルナリアンの…復活…!


「そう。黒幕はそのために今、様々な手法を試みている途上なんだと思う。

 つまり、広義の意味では…ミサさんとマコさんは『姉妹』に他ならなかったんだ」


 私と彼女が…姉妹!?

 それはもちろん、驚きではありましたけど…

 それ以上に、嬉しくもありました。

 この広い世界に、たった一人だけだと思っていた私にも…ちゃんと『家族』がいたんですから。

 シドさんやラリスくんとはまた違う、『血縁者』という意味合いでの。


「でも…何か腑に落ちない」


 そこで腕組みをしたシドさんは、さらに考え込みます。


「これだけの資金と手間暇をかけて…果たして、それだけが目的なんだろうか?」


 確かに…もはや宇宙全域を揺るがすほどの騒動に発展しているというのに…単にルナリアンを復活させるだけが目的なら、ここまで手の込んだことをするでしょうか?


「あと…地球通貨って、宇宙基準から考えれば、レートがかなり安いですよね?

 なのに、なんであの教団を利用して、地球人からお金を巻き上げるような真似をしたんでしょうか?」

「へぇ、詳しいね?」


 シドさんが目を見張ります。ラリスくんとのデートで確認したばかりですからね。

 私達ルナリアンを巧く利用すれば、先日のエイラス人事件のように、より小金持ちな宇宙人相手に、もっと効率よく稼げる方法がいくらでもあるというのに…。

 もっともあの時は、お爺さんお婆さんがどういう訳だかわたしの売買処分を急いでいて、そこにつけ込んだエイラス人にかなり安く買い叩かれてしまったようですけど。


「…僕の憶測が正しければ…それさえも逆手に取れる方法が、一つだけある」


 ををっ、どうやら結論が出たようですね!?

 シドさんの名推理が冴え渡ります!

 

「おそらく…黒幕の『最終的な目的』は…」


 『最終的な目的』?…やっぱり、さらにその先があるっていうんですか!?

 シドさんから飛び出した、思いもよらない言葉に、その場の誰もが注目したところへ…


「…待たせたな」


 せっかくの話に水を差すように…と言ってはいけませんけど、皇帝サマが再び忽然と姿を現しました。

 もちろん、その傍らにはマコさんも一緒です。

 けど…あれだけ悲嘆に暮れていた彼女が、今は頬を紅潮させて…まるで、幸せの絶頂みたいな…?


「あっ…」


 一歩、足を踏み出しかけたマコさんが、何もない所でつんのめります。

 皇帝サマは、そんな彼女の肩を優しく抱きかかえて、


「無理をするでない…まだしばらくは辛いだろうからな」

「すみません。まだちょっと…慣れなくて…」


 …んん?

 やたら紅潮した様子に…歩きにくそうな仕草に…

 それ以上にこの、明らかに以前よりも親密度が増した二人の距離感は…

 …ハイ、もう間違いありませんネ。


 コイツら『婚前交渉』やりやがったな!?


「フム…まぁ、そなたが落ち着いたようで何よりだ」


 なるほど、コレは確かに皇帝サマにしかできない『慰め方』ですね!?

 確かに、自らの存在意義を根こそぎ失って打ちひしがれた者を救うには、これくらいの荒療治が最も効果的でしょうけど。

 つーかソレって、マコさんの年齢的にどーなのよ?…とツッコミたいのも山々ですけど。

 彼女もまた『ルナリアン』であることが発覚した以上、地球人の法の適用範囲外ですし…

 それ以上に、銀河皇帝を咎められる輩など皆無ですしッ!

 くれぐれも、"実年齢は一桁台"とゆーあられもない事実に注目しないよーに!


「…え〜っと、とりあえず…おめでとう?」

「……はい…♩」


 私の祝福を素直に受け止めて、幸せそうに微笑むマコさんが…いつにも増してカワイイけど、エッッッロ!!


「さ、さて…用は済んだし、これ以上の長居は無用だな」


 自分達の『行為』が私達にバレバレだったことを悟った皇帝サマは、そそくさと帰り支度を始めます。こーゆートコだけ小市民よのぉ…。


「…そんな顔をするでない。いずれ近いうちに、また会いに来る」


 名残惜しげに見つめるマコさんの頬を愛おしげに撫でて…彼女が小さく頷くのを確認した皇帝サマは、


「では、またな!」


 マントを翻して片手を挙げたポーズのまま、何処ぞへ転送されていきました。


「…皇帝陛下って、あんなに気さくな人だったんスね?」


 台風をやり過ごした後のようにホッと安堵したフレイアさんが、独り言のようにこぼしました。


「やれやれ、こっちの話もろくに聞かずに…相変わらず騒がしい人だ。

 仕方ない、さっきの話はあとでそれとなく伝えておくよ」


 数日前までの兄弟間のわだかまりが、もうすっかり解消したらしいシドさんが、苦笑を交えて呟きます。

 それならば…私の役割はやはり、残されたマコさんのアフターケアでしょうか。





 あれこれやってる内にふと気がつけば、もう夕飯時だったので、みんなで食卓を囲んでモグモグタイム。

 フレイアさんが加わって、総勢六名の大所帯に。シドさんと結婚した当初、ここまで賑やかになるなんて予想だにしませんでした。

 でもその席上で、ミユちゃんとフレイアさんは終始ピリピリムードに。

 お互い、自分こそが最もラリスくんと親しいと思ってる人達だから、そりゃあね。

 けど…それ以上に彼と親密になりつつある人が、ここにいますけど?

 ウフフ…優越感ってステキ♩


 夕食後も、三人はピリピリムードのまま、ラリスくんのお部屋へと消えていきました。

 意外と気配り上手な彼が、両極端な彼女たちの仲をうまく取り持ってくれることに期待しましょう。

 …って無理か♩


 そして私とマコさんは、恒例にしてずいぶんお久しぶりな感もある、待望のお風呂タイムです。ハ〜スカポンスカポン♩

 その場で私は開口一番、私たち二人が事実上の姉妹らしい…というシドさんの見解を伝えました。

 彼女は大いに驚きつつも喜んでくれて、


「道理で…出会ったときから、不思議と他人な気がしなかったんですよ」


 という胸の内を明かしてくれました。

 ご両親の所業に怯えながらも、最初から私に好意的だったのには、そんな理由があったんですね。

 私としても、天涯孤独だと思っていた自分に、彼女のように愛らしい身内があったことは喜ばしい限りです♩

 それはさておき…


「ところでマコさん…痛かった? 痛かった?」


 さっそく、いつぞやの入浴時の逆襲をする私に、彼女は若干迷惑そうな顔を赤らめて、


「そ、それは…まぁ…痛くないワケないですよ、あんなの…」


 ですよね〜。

 決して長くはない今までの彼女の人生の、大半が作り物の大嘘だったと知って…

 自暴自棄に陥りかけたマコさんに、皇帝サマはずっとそばに寄り添って、根気強く励まし続けてくれたそうで…。


「とにかく、もう…あんなにイイヒト、他にいなかったから…なんとかして、感謝を伝えたくて…。

 あなたの好きにしてくださいって言ったら、わかったって…そこから先は…とっても優しくて…男らしくて…♩」


 その時を思い返しながら赤らむ彼女に、つられて私も、シドさんとの馴れ初めを思い出して…胸が熱くなりました。

 自身の孤独を悟った人間って、どうしても、自分を理解してくれる人との繋がりを求めてしまうんですよね…。

 いわゆる『承認欲求』に近い現象でしょうか。


「そういえば…あの傷を見たときの、彼の反応は?」


 マコさんの全身には、両親に付けられた生々しい傷跡が、今も鮮明に残っています。

 彼らがそこまで非情になれた理由は理解できたものの…やはり、人として常軌を逸してますよ。


「それについては…何も言わなかったですね。嫌でも目につくはずなんですけど…ただ、とても綺麗だって…」


 マコさんはそう答えて頬を染めます。

 さすがは変態紳士、心得てますねぇ。


「あと…彼の身体に残る傷が、私以上に酷かったこともあって…」


 …え? あのやんごとなき皇帝陛下のお身体に…そんな場違いな傷跡が!?


「前王に付けられたものだって言ってました…」


 あぁ…それで納得できました。

 やはり前王は、玉座に居座る器にはふさわしからぬ小者に過ぎなかったようですね。

 兄である前々王がなかなか崩御せず、その息子であるシリウス第一王子との後継者争いを余儀なくされた彼は…結局、兄を病死に見せかけて暗殺し、強引に後を継ぐという暴挙に出ました。

 しかし、それだけでは腹の虫が治まりきらなかった彼は、前々王の息子であり、親子ほども歳の離れたシャムス第二王子に当たり散らしていたのです。

 けれども兄弟思いな第二王子は、他の王子にまで被害が及ばないよう、黙ってその仕打ちに耐え続けたんですね。

 いずれ、父を殺した前王への復讐を果たして玉座を奪還し、父や自分や、兄弟みんなの恨みを晴らすことを夢見て…。


「彼を選んだ私の直感は、間違いじゃなかったって…心の底からそう思ったら…自分にも、やっと自信が持てました…♩」


 解ります。自身の曖昧な立場に不安を覚えていたのは、この私も同じでしたから。

 そんな私を、シドさんが、初めて全肯定してくれて…♩

 思えば…最初の頃のマコさんがシドさんに強く惹かれていたのも…姉妹ならではの当然な成り行きだったのかもしれませんね。

 そんな彼女も、今では心の底から信頼できる、自分だけの良き伴侶を見つけて…


「…あ、先生のコトは今でもお慕いしてますよ♩」


 …あ゛?


「陛下に憧れたのだって…ぶっちゃけ、先生の御兄弟だからですし。

 同じ遺伝子の持ち主なら…どっちに転んじゃっても大差ないですよネ☆」


 …アカン。これはアカン!

 やっぱどっか倫理観狂ってますわ彼女、宇宙レベルで!

 これにて一件落着かと思いきや、ますます予断を許せなくなった、イケナイ妹なのでした。





「ハッハハ、なかなかヤルじゃねーかクソチビ♩」

「アハハッ、ツルペタさんこそ♩」


 お風呂から上がって、再びリビングに戻った私達の目に、異様な光景が。

 あんだけいがみ合ってた、フレイアさんとミユちゃんが…メッチャ仲良くなってるゥーッ!?


「…どゆこと?」


 二人の傍らで呆然としてたラリスくんに尋ねれば、


「どーもこーも、見てのまんまだよ。

 ゲームやらせたら馬が合ったらしくてよ、イキナリ仲良くなってやんの」


 なるほど。なんでか忘れがちですけど、ミユちゃんは犬型宇宙人のケンネル人で、実はメッチャ小回りが効いて一撃必殺な狩猟民族。

 そしてフレイアさんは中距離〜後方支援向きで広範囲攻撃が可能な、火炎放射が得意なブレイザー。

 実世界においてもゲーム内においても、互いの利点と欠点を補い合える戦友として、惹かれ合うものがあったのかもしれませんね。

 なにしろ狙ってる『標的』が同じだから、反目するよりは共闘したほうが効率が良いでしょうし。


「ウヘヘヘ誰がツルペタだよ? そのチビ乳、あばらごと引っ剥がしてやろーか?」

「剥がせる部分すらない断崖絶壁よりはマシでしょムヒョヒョヒョヒョ♩」


 …ホントに仲が良いのかどうかは甚だ疑問ですけど…。

 ともあれ、ここ一番の懸念材料が片付いただけでもありがたいです。


「…あれ、そういえばシドさんは?」


 彼の姿だけ見当たらないのでラリスくんに問い合わせれば、


「皇帝の兄貴に伝えておきたいコトがあるとかで、さっきから自室にこもってるぜ」


 あ、たしかにそれらしいコトを言ってましたっけ?と思い起こしたところへ、


「さすが兄上、話が早い」


 心底感心したそぶりで、シドさんがリビングに戻ってくるなり、急いでテレビの出力をネット画像に切り替えました。

 画面には…クレーターだらけの何処かの星が映し出されます。

 照りつける太陽光に、クッキリとしたコントラストを形造る岩山しか見当たらず…

 カラー映像なのにモノクロ画像と見紛うほどの、他に対比するものが何もない荒涼としたその光景は…一周回って、シンプルな美しさを覚えるほど荘厳で…

 もちろん何処にも見当たらない、初見なはずの風景なのに…どこかで見たことあるような、無いような…?


「月面だよ。裏側から接近してるんだ…『ソル・ラディアンテ』がね」


 なるほど、これが実際の月…道理で親しみを覚えるはずです。

 先ほど転送されて母星に帰還したはずの皇帝サマが、今度は旗艦を駆って、間近の宙域にまで遠征ですか。

 先日実行されたアルテミス計画にて、地球人類が初めて目にした月の裏側は、普段目にする表側以上にクレーターが多くて、平地がほとんど存在しないことが明らかになりました。

 かつてのアポロ計画から半世紀越しでやっと到達した、地球人にとっては神の偉業にも等しい聖域サンクチュアリに、ものの数時間で出張可能だなんて…

 話が早いというより、相変わらずフットワークめちゃ軽ですね、あの皇帝サマは。ここいら辺の銀河ではイチバン偉い人なのに。

 …でも、なんでそんな場所に?


「そもそも月の周辺って、誰も近づけない禁忌宙域だったんじゃ…?」

「兄上にそんなルールが通用するとでも?」


 ですよね〜。


「あと、この短時間でここまで肉迫できる船が『ソル・ラディアンテ』以外にはないって事情もあってね」


 宇宙人というとUFOに乗ってくるイメージが強いですけど、実際には地下空間の転送機を利用して、直接いらっしゃる方がほとんどだそうですよ。

 公共機関が発達した都市部で、自家用車を持ってない人が大半なのと同じ理由です。

 ホラ、宇宙船って高いし、燃費や駐機代もバカになりませんからね。

 その点、『ソル・ラディアンテ』なら皇帝サマの号令一下ですぐ動かせるし、何処へでも一瞬で行ける『超次元振動ワープドライブ』なる、いわゆるワープ機能も搭載してますし。


「で、さっきの話の続きだけどね」


 あっさり話を切り替えるシドさん。この人の変わり身の早さも、ある意味では皇帝サマ以上の脅威だと思うんですけど…。


「キミ達ルナリアンの復活を目論む黒幕がいるとするなら…ソレは当然、月を根城にしてるんじゃないかな?ってことを、兄上にメールしてみたんだ。

 そしたら"ほぉ、面白そうだな。ちょっと見てくる"ってね♩」


 そんなコンビニ感覚であーた…。

 ご近所で発生した火事や事故現場に、必ず顔を出さなきゃ気が済まない田舎のおやぢですか?


《見ておるか弟よ? キサマの推測は…どうやら大当たりのようだぞ》

「陛下…♩」


 テレビ画面越しに聞こえてくる、愛しのフィアンセのシブい美声に、うっとりしまくりなマコさん。

 おそらくは旗艦のブリッジからの中継なのか、他のクルーの音声も紛れ込んでザワついた雰囲気で、なかなかの臨場感です。

 でも、私やシドさんをはじめとするその他大勢は、まったく別の箇所に注目していました。


「なんですか…アレ?」


 機体が月面に近づくにつれて、予想以上に荒れ果てた地表の様子が明らかになって…

 それも、遥か太古に崩壊したような歴史の重みを感じる傷痕ではなく、ごく最近発生した地震跡のような真新しい瓦礫が、所構わず散乱してて…

 そんな地形を縫うように、幾筋もの亀裂がマスクメロンのように走ってて…

 その真下から、周囲の岩石とは如実に異なる、金属質の質感を伴うメカメカしい物体が皆見えて…!


「…月って…本当に宇宙船だったんですね…」

「うん。しかも…まだ生きているよ。ホラ」


 私の素朴な感想に応えたシドさんが指差す箇所を見れば…地表の亀裂の端々に、新たな地割れが次々に発生しています。

 よく見ると、大地が微妙に振動しているようですが…これは、潮汐力が原因の『月震』とは明らかに違う揺れ方ですね。


「ということは…誰かがまだ、あの中にいるんですか?」

「そういうことになるね」


 簡潔に答えたシドさんは、そこで少し考え込んで…


「それが黒幕本人かは、まだ判らないけど。

 たとえば…キミの保護者だった、あの『リンクラー』みたいな下働きの連中かもしれないし」


 思わぬところで懐かしい人達の名前が出て、私は息を呑みました。

 シドさんによれば、私の生まれは恐らくあの船内で、お爺さんお婆さんはその養育係として就労していたのでは?…と。

 彼ら『リンクラー』が持つ強力な催眠能力は、人を匿うにはうってつけの技術ですから。

 けれども、ルナリアンである私の価値に目が眩んだ二人は黒幕を裏切り、強奪した私ごと地球へと降下し…

 追手から逃れながら、私の商品価値が最も跳ね上がる今日まで、辛抱強く育て上げたのでは…と。

 でも、最終的には私への情にほだされてしまった二人は、顧客だったエイラス人への譲渡計画を自ら反故にして、非業の最期を遂げてしまう訳ですけど…。


「その一件がなければ、今日までの一連の事件も、その裏にいるだろう黒幕の存在を知ることも…

 僕ら家族が、こうして出会うこともなかったんだから…まさに数奇な巡り合わせってヤツだよね」


 世の中は良くも悪くも、なるようにしかならないものなのでしょうか。

 だけど…それら全ての発端が、この月面に帰結するわけです。

 そして…おそらくは、私やマコさんの出生の秘密もココに…!


「私の…秘密…?」

《フム…もう少し近づいてみるか?》


 マコさんの呟きが聞こえたらしい皇帝サマは、船の進行方向を月面へと向けます。

 好きな女の子にはカッコイイところを見せたいものですしね、解ります♩


「兄上、くれぐれもご注意を…」

《何を臆しておるのだ弟よ。船体全体にリフレクトシールドが張り巡らされた我が艦が、古代文明ごときに劣るはずもあるまい?》


 あらゆる攻撃を跳ね返す反射リフレクトシールドの効力を過信する皇帝サマですけど、それってフラグ…


《ッ!? 月面に高エネルギー反応!》

《特定地点に著しい高温化が見受けられます!》


 ホラ言わんこっちゃない!? にわかにブリッジが騒然とし始めましたよ!


《至急、緊急回避を…!》

《ダメだっ、間に合わないっ!》


 えっえっ!? どーなってんのコレ!?

 なにぶん画面越しなので、何をどうする訳にもいかなくて…

 SF映画のクライマックスシーンに面食らう観客みたいに、ただただ見守り続けるしかない私達の目の前で、


《フッ、案ずるなと言っておろう? この艦にはリフレクトシールドが…》


 なおも余裕をぶちかます皇帝サマの背後で、眩い閃光がほとばしったかと思うと…!?


《麻胡…ッ》


 最後にそう口走った皇帝サマの、恐怖にひきつった顔がアップになったところで、中継画像がフリーズして…

 そのままブロックノイズが画面全体を覆い尽くして、ブレブレな人物画像がまるで現代アートみたいな、とんでもなく怖い絵面になったかと思えば、端からブラックアウトしていって…

 そこで通信はピタリと途絶えました。


「兄上…兄上ッ!?」


 血相を変えたシドさんがテレビ画面に呼びかけますが…真っ黒な画面は沈黙したまま、何も応えず…。


「…陛下…?」


 そう呟いたっきりへたり込むマコさんの姿が、痛々しすぎて…もう見ていられなくて…。


「マコちゃん…っ」


 そんな彼女に抱きついたミユちゃんが、代わりにもらい泣きしてるのが、また耐えられなくて…。


「…こーゆーのって、どーすんのが正解なんスか先輩?」

「俺に訊くなよ…」


 フレイアさんに問い詰められて困惑しているラリスくんと、なす術なく突っ立っていた私とで、なんとなく目が合って…


「ちょっと来い」


 言われるままに、二人連れ立ってリビングを後にしました。





「…まぢヤベェなコレ…どーすんだよ?」

「私に訊かないでくださいよ」


 とはいえ、こんな殺伐とした状態の皆をほったらかして、そばを離れるわけにもいかないので…

 隣のダイニングキッチンのテーブルに二人して座って、二人して頭を抱え込む私とラリスくん。


「だってよぉ、おかしいだろ? あんな、殺しても死なねぇよーな奴がよ…」

「滅多なこと言うんじゃありません。まだそうだって決まったわけじゃないのに…」


 と言ってはみたものの、あんな状況で他にどんな可能性があるって言うんでしょうか。

 自分もよく知ってる人が、あんな一瞬で…。

 そう考えたら、不意に亡くなったお爺さんお婆さんを思い出してしまって…。


「…人ってね。ある日突然、いなくなっちゃうんですよ。

 それこそ、何の心構えもできない内に…。

 …お別れさえ、できないままで…」


 そこまで呟いた私の肩を、急にラリスくんが抱き寄せて、


「なんでお前まで泣いてんだよ…バカヤロ」


 自分でも気づかないうちに、私は涙を流していたようです。

 そして…


「それくらい、俺だって知ってるっつーの。

 思い出させんじゃねーよ…」


 そういうラリスくんの目にも光るものが…。

 若くして両親を亡くし…人ではないけど、伝説の霊獣ドラコロナタスとの辛い別れを味わった彼のほうが、私よりもよっぽど人生経験豊富なんでしたね。


「だから、前にも言ったけどよ…お前は絶対、黙っていなくなるんじゃねーぞ?

 お前まで失くしちまったら…俺はたぶん、今度こそ立ち上がれねぇ自信がある」


 いったい何の自信ですか?


「わかってますよ。こんなにワガママな子供を置いて、どこに行けるっていうんですか…?」

「子供扱いすんなよ、だから…」


 涙混じりに見つめ合う、いびつな親子…って、自分で認めちゃいましたけど。

 誰もがお通夜みたいにしめやかな、こんな場面で…自分でも最低だと思いますけど…

 溢れる想いは、もう、止めようがなくて…

 どちらからともなく、互いに顔を寄せて…


「…もう浮気か? 愚妻よのぉ…」


 唐突に背後から呼びかけられた声に、驚いて振り向けば…!?


「…陛下?…陛下ァッ!」


 信じられないモノを見た顔のマコさんが、涙腺を崩壊させて彼にしがみつきます。

 今度は護衛として同行したシリウス近衛師団長が、熱烈なその様子を見て、


「お前…ついに手を出しおったな? やはり先刻、一人だけで行かせたのは誤りだったか…」


 と頭痛を抑えると、皇帝サマも親にイタズラがバレた子供みたいに苦笑しています。

 ともかく…私とラリスくんの秘密を、この二人に知られてしまいましたね〜ぇ?

 さて、どーやって始末して差し上げようかしら…ウフフ♩


「フム、これぞまさしく絶滅種の本性か? 実に興味深い♩」

「我らも"温厚で平和な"ルナリアンについてはそれなりに調べてきたはずだが…やはり伝承はあてにならぬものだな。…さては別種か?」


 カブトムシやクワガタを目の当たりにした子供のように、興味津々な眼をギラつかせる皇帝サマと、警戒心を露わにする師団長さん。

 一触即発な雰囲気の間に割って入ったのは、


「陛下、お姉様も…ここは私に免じて、何卒…」


 ケッ、一人でイイコちゃんぶるつもりですかぁマコさん? ちょおーっと男の味を知ったくらいで、ずいぶん上から目線ですねぇ〜?

 などと、ついついフ◯ーザ様口調で凄みそうになったところへ…


「兄上も、兄さんも…よくぞご無事で…」


 チッ、シドさんの邪魔が入りましたか。命拾いしましたねぇ〜皆さん?


「だから案ずるなと…と言いたいところだが、支払った代償は存外大きかったのぉ」

「よもや、モーント技術のすいを極めたリフレクトシールドをあっさり貫きおるとはな…」


 皇帝兄弟は溜息混じりに、揃ってダイニングの天井を見上げます。

 もちろん、我が家の天井に何があるというわけでもないので…

 皆、慌てて屋外に飛び出して、夜空を見上げれば…


「…これはまた…派手にやられたねぇ」


 シドさんが溜息をつくように…

 大きな満月に照らされて、我が家の遥か上空に佇むのは…以前見たときの美麗さや荘厳さからはかけ離れて、半ば瓦礫と化した旗艦『ソル・ラディアンテ』のあられもない姿。

 このぶんだと、相当数の犠牲者も出たんじゃ…


「いや、それについてはリフレクトシールドの恩恵でな、これほどの損傷の割に死傷者は皆無だった」


 師団長さんが言うには、件のシールドは単なる防壁としてだけではなく、高密度エネルギーの建材としても機能するため、この状態でも短距離間の運行なら問題ないんだそうで。


「だが、このままではワープドライブにも耐えられん。すぐさま修復工事に取り掛かっても、しばらくは動かせんだろうな…」

「と、いうわけだからして…しばらく厄介になるぞ」


 …へ? 皇帝陛下サマ…今、なんて?


「我らもしばらくはこの家に住まうぞ、と言ったのだが?」


 んな勝手なっ!?


「先程の件…水に流してやっても良いとは思うが…タダという訳には…のぉ〜う?」


 グッ…ドチキショーこの性悪皇帝まぢでブチ殺す…っ!


「陛下…♩」


 早速、ラリスくんにまとわりつくミユちゃんみたいに皇帝サマにベッタリなマコさんを見てると、断るに断われなくて…。


 こうしてなし崩し的に、モーント星団皇国超VIP三兄弟と私たち庶民の同居生活がおっ始まってしまったのでした。




【第十一話END】

 今回あたりから、ようやくルナリアンの秘密に迫っていきます。

 以前にもサブタイトルで述べた通り「全てのフラグは残らず回収する」のがモットーの作者ですので、今まで散々匂わせてきた伏線についても、いくらか回答させてもらっとります。

 そのため、これまでにも充分すぎるほど不幸のズンドコだった麻胡には、またまた涙に暮れてもらう可哀想すぎる展開になってしまいましたけど…ちゃんとご褒美があるから、それで許してやっておくんなまし♩

 あんなどーしょーもない両親でも、それなりに触れ合ってきた思い出があるから、なおさら悲惨に見えるだけで…

 考えようによっては、出生の秘密がいまだに何も解明されていない美沙兎のほうが、よっぽど酷い仕打ちとも言えますしね。


 このお話を書いていた当時、現実世界では、北海道の女子高生殺害事件が世間を大きく賑わせていまして…

 特に主犯格の内田梨瑚容疑者については、まさに小説を超える残虐ぶりに、久々に怒り心頭に発しましたよ。

 まだ若干二十代前半という若さにして、おおよそこの世のクズというクズを余すことなく寄せ集めて煮詰めて発酵させたような正真正銘のクズモンスターが、なぜ爆誕するに至ったのか…と。

 裁判においても一見、被害者遺族に謝罪してるようで、その実、自分に都合よく解釈した偽証言を滔々と語れる神経の図太さは、もはや人智を超越してますね。

 おそらくアレの頭の中には、いまだに「私は微塵も悪くなくて、被害者が全部悪い。だからコレは当然のこと」…という捻じ曲がった正義感が居座っているんでしょう。

 仮に本当に事故だったとしても、ヒト一人死んでいるのに、自分はまるで無関係だと言いたげなふてぶてしい態度。

 アレこそまさしくエイリアンですよ(笑)。

 そんな行き場のない怒りも、今回の筋書きには少なからず影響を与えているかと。


 でも世の中、決してそんなクズ人間や胸糞展開ばかりじゃない。

 イイ奴ばかりじゃないけど〜悪い奴ばかりでもない〜♩

 …ってなことを体現したかったので、終盤のオチは思くそ日和りました(笑)。

 つーか、死にかけネタはシドゥスで一度使ったから、もぉいいだろ…と。

 これ以上マコたんをいぢめるのはやめたげて!と(笑)。

 まぁ、一度はあっけなく敗走を余儀なくされた相手に、後々万全の体制で再戦を挑むのは、RPGの定番ですしね。

 その時の殴り込み要員として、皇帝サマにはまだまだ活躍してもらわにゃなりませんし、旗艦『ソル・ラディアンテ』を登場させたのも、そのためですから。


 その旗艦の修理にはまだまだ時間が掛かりそうなので、すぐさまリベンジという運びにはなりません。

 進展していそうで何も変わってない美沙兎とポラリスの関係も、まだモヤったままですし、そこいらへんも何とかしないと…。

 …え、シドゥスはどうするのかって? だって美沙兎の旦那様でしょ…って?

 ククッ…ヤダなぁ。

 このお話の真主人公は、最初から美沙兎とポラリスに決まってますよ。

 初回からハッキリそう書いてあるでしょ?(笑)


 ってな次第で、次回は久々に穏やか?な日常編となりそうです。

 前回から登場させたっきり、まだこれといった活躍の場がないフレイアにも、ちゃーんと見せ場を用意してありますからネ♩

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