第二十八話 願い事一つだけ
ここーー光圀島では惨劇が行われていた。
しかし、それは。
誰にも知られることはなかったのだが。
一人の《人円類》の少年。
剣ボンドによって目撃されることになった。
鮮明に明るみになった衝撃。
そんな彼と共にするのは。
島民の少女、間宮リナ。
彼女はシャベル片手に巨大な蜘蛛に闘いを挑み。
怪我なく無傷で圧勝するほどの手腕だ。
《人類》と呼ばれる。
至って何処にでもいる地球人であり。
至って何処にでもいる日本人だ。
ジジジーー……。
ジーー……。
『「……--何、言ってんだよ? リナ、お前」』
バサバサーー……。
真っ暗闇の中。
蜘蛛の目が真っ赤に浮かび上がる。
突風が吹き。
ボンドのコートが横に大きく浮かび上がった。
『「あんた言ったじゃない! 私みたいな人間がいるから魔法が使えないって!」』
『「ああ。言ったよ? だから、何だって言うんだよ!?」』
手を結びながら。
二人は立ち止まる。
『「島民は私だけなら?? それでも使えないの?!」』
ようやくここにきて。
ボンドも、リナの言いたいことを理解した。
『「…--一人……そぅか。リナ……一人なのか!」』
『「ええ! 私が、ただ一人にーー生存する島民よ!」』
『ボンド君。ヤれそう?』
ジジジーー……。
ジーー……。
《パドラBOX》の向こうから。
バーチャル初号のサト江もボンドに訊いた。
(たった一人でも……《人類》だ。出来るか?)
ボンドも考えた。
(全くいないってんなら。話しは別だが)
そして、リナを見た。
ジジジーー……。
ジーー……。
『「私が一人いても。使えないの? ボンド????」』
『「いや。俺は落ちこぼれなんだ。《半身半獣》だからさ」』
『「????」』
『「それに。俺は獣人化の方が得意だからーー魔法はきちんと習ったこともねぇんだョ」』
はにかんだ。
苦笑交じりの笑顔をするボンドに。
『「でも。きっとーーボンドなら出来るよ。もっと自信を持って!」』
『「リナ……悪ィ」』
リナは顔を横に振り、手を握り締めた。
『「私はボンドの可能性を知ってるから!」』
『「……--リナ」』
ボンドはリナの手を引き。
木の幹に押し当てた。
『「何? またーー伝達行為とか、するの?」』
頬を染めたリナがボンドに訊いた。
それにボンドも、
『「ちげぇよ。キスをするんだよ」』
リナの身体を強く押し付け。
噛みつくようなキスをした。
『「っふ! ん……」』
その息遣いに。
『そんなことをしている余裕も、猶予もないと思うのだけど?』
バーチャル初号のサト江が口を挟んだ。
ボンドも唇を離し。
『「分かってるよ! ったくよーッ! 出刃亀‼」』
『分かっているなら。終わってからにして頂戴な』
『「ああ! そうするぜ!」』
木から降ろされたリナは。
幹に身体を預けていた。
(今までのはノーカンで、今のが初キッスよね)
唇を手で押さえているリナに、ボンドが言う。
『「なァ?! リナ‼」』
『「!? ぇ、ええ! っそ、そうね‼」』
リナも大きく頷いた。
『? 待ってーー何か。ファイルが開いたわ』
バーチャル初号のサト江が二人に言う。
『「ファイル? って何よ。サト江」』
『「そいつァ。俺達に関係があるのか?」』
二人は怪訝な表情で。
《パドラBOX》の中のバーチャル初号のサト江を見た。
『視る? 止める?』
--Pi……。
『「やァ。このファイルを見ているということは、俺は死んだね?」』
画面に小さな画面が開いた。
それ以上は大きくはならないようで。
音量も最弱だった。
『「《パドラBOX》の中には俺の全ての研究を詰め込んでいる。それをどうつかぉうが、それは。手前らが決めりゃあいいさ。だがなー研究ァ。手前の掌には収まり切れねぇぜぇ? 神にすらなれるって研究もあらァ。人間止める覚悟があるなら。使えァいいさーー……だがなァ。俺は承知しねぇ。パスワードを入力が必要だ。三回だ、その三回間違えたら。そのファイルは消滅するよぉうになってらァ。」』
饒舌に眉間にしわをよせながら。
鬼灯トントが語り掛けてくる。
『「後。この研究は随時解除され。人間界、いや世界を蝕むだろう。そうするようにーー娘にされるのも時間の問題なんだよ。参った娘だよ♪」』
煙草を吹かす鬼灯トントがカメラを睨みつけた。
『「俺は娘に手を出せねぇ。愛してるからねェー一応は」』
灰皿に押し付け。
『「手前らに。俺の財産と引き換えに依頼があるんだ」』
泣き声で声が震えていた。
『「俺は後悔をしている。愛を教えることをしなかったことを」』
--Pi……。
ジジジーー……。
ジーー……。
『「後悔なんかしてんじゃねェよ‼ 馬鹿じゃねェのかよ‼」』
ボンドがそう叫んでいた。
『「でも。それだけの伝言じゃ何も出来ないわ」』
『そぅね。でもーーしなくちゃいけないの』
冷淡に言うバーチャル初号のサト江。
『「でも! だけどよぉー~~っ‼」』
そして。
ッド、ォオオオンん゛ン゛‼
それも唐突に終わりを告げた。
ジジジーー……。
ジーー……。
『「!?」』
『「っこ、この地響きはっっ‼」』
光圀島に黒煙が上がった。




