第二十四話 最期のトント
鬼灯トントの母親は言った。
『命を弄ぶ行為は許さない』ーーと。
何がよく、何が悪いことなのかすら。
誰一人として教えず。
彼は真っ直ぐに育ち。
ひょんなことから遊心と、暇つぶしついでの研究に。
終にはーー喰われる結果を迎えた。
--Pi……。
『博士? いいの? 喰べても』
『ああ。いいよ♪ お嬢さん』
『博士』
『ああ、何だい? サト江』
『博士』
『ああ。何だい? サト江』
『愛してるわ』
『‼ おいおい。俺を泣かせる気? 参ったねぇ~~』
『愛しているわ』
ガジ!
『ずっとーーこうしたかった』
『っつ! ぅ、うう゛……ゆっくり、味わいな。終わりだから』
『……終わり? 何が? 博士』
トントを喰べながら、サト江が訊く。
息絶え絶えに、
『……ァ、俺は……居なくなるんだよ? この世界から、ね』
優しく応えた。
『--君の細胞の一部に……っく! っがァアアッッ‼ っぐ……』
深い箇所を喰われたトントが。
痛みに絶叫した。
トントの血で真っ赤の口で、
『駄目。ずっと、喰べていたい……博士だけを』
『無理だよ。無理……った、っふ……サト江』
骨と、血管が見える腕は真っ赤に染まっていたが。
何とか上にし、トントはサト江の頬に手を添えた。
そして。
彼はか細い声で。
『産んだことをーー後悔しているよ』
ーーPi……。
「ぅ、わァああ……」
「グロ。これは俺……ぅ、っぷ!」
ドン引きの二人に。
バーチャル初号のサト江が、
『この後、博士はこときれたの』
眉間にしわを寄せて言った。
『その後、サト江はーー居なくなった』
「監視カメラには映っているでしょう?! この研究施設には沢山あるんだし‼」
「確かに。一理あるがーー……相手は化け物だ。どうとでもなるだろうよ」
「でも! そんなの‼」
「居なくたって。どれくらいだ? サト江』
『四時間』
「私が寝てる間の……出来事なの?? 博士の死は……」
『ええ。そうよ、リナ』
愕然とするリナに、
『その間にーーここ光圀島も死んだの』
淡々とバーチャル初号のサト江が言う。
「嘘だッッッッッ‼‼」
リナは頭を抱えた。
一体、どこから突っ込めばいいのかすら。
何もかもが分からないのだ。
「……島民はどうして、居ないんだ? この島に生命反応が感じられねぇ」
『いい質問ね、でも愚かな質問だわ。ボンド』
ボンドが頭を掻いた。
「かもね」
短く吐き捨てた。
ガタン。
椅子からボンドは立ち上がった。
「もう、ここにゃあ要はねぇ。行くぞ、リナ」
「!? ぇ、ええ!」
『そう、行くの。自分からーー』
「手前も行くんだよ! バーチャル初号のサト江!」
『!?』
「博士の使ってた端末とかあっだろう? そん中に引っ越せ!」
『ボンド。貴方』
「一緒に外に出るぞ!」
勇ましく三人が去った研究室のモニターが。
巻き戻っていく。
止まり、止まりで。
--Pi……。
『サト江。君には姉が居るんだ』
『姉? 博士、それはーー』
『君みたいな特殊能力もない人間の容姿だ』
『博士』
『ああ。何だい、サト江』
『それはーー』
--Pi……。
『この研究に必要なのは何だろうねぇーサクラ君』
『博士。私はこの研究にーー私を提供しましょうか?』
『……え?』
『私の膣を』
--Pi……。
『おっぎゃあ! おっぎゃあ!』
--Pi……。
『間宮君。済まないねーこんな俺の研究に』
『いいえ! 鬼灯トント博士の研究を手伝えることは名誉なことです! それは妻も同じです!』
『はい! 私も名誉なことと思っています! なので! 夫とも相談したのですが‼』
--Pi……。
たった一つの純粋な心が歪み。
周りをも虜にし、突き進んだ研究に。
携わった全ての研究員は消えた。
終には。
その研究の結末をも知らずに。




