第十四話 世界の中心
真っ暗な通路には、バーチャル初号のサト江の姿もない。
(っこ、この展開は、何なのよ‼)
(恐らくだけどよォ。あいつらはーー)
ゆっくりと歩き出す。
近くに寄れば、白い衣類が破けた。
彼らが身体を小刻みに揺らしながら。
立ち竦んでいた。
(光と、熱かなんかを頼りにしているに過ぎない)
息を潜めながら。
彼がリナに言う。
そこ言葉に、
「んな訳がーー」
顔を近づけた瞬間。
「ッシャアアアァあああッッ‼」
鋭利な牙がリナへと向かった。
「!?」
突然のことに、リナは防御もままならない。
「っこ、馬鹿女ッ‼」
慌ててリナを片手で持ち上げ。
ボンドが、そいつを蹴飛ばした。
ッガ、ンんンッッ‼
(いいから黙ってろよ! 死にてぇのかよ‼)
「--……っく!」
◆
『母はいつだって自分中心に回っているんだ』
◆
ふとだったが。
バーチャル初号のサト江が思い出した。
それに、反射的に訊き返してしまう。
『それはキミも同じじゃないか。トント博士』
見えないようになっていた彼女に、
「誰だって……いや、俺だってーー同じは嫌だね」
ボンドが呟くように言う。
『--《人円類》は、本当に面倒な生き物だよね』
次いでサト江も、強張った声で言う。
(何? 俺たちを馬鹿にしてんの??)
『まさか、まさか♪ そんな、そんな♪』
言い合いながらもリナを抱えたまま。
ボンドが突き進んでいく。
ただ。
たまにーー死体に触れてしまい。
攻撃を受けるも、何とか防御した。
「あのさーいい?」
(何だよ! 大きい声を出すんじゃねぇよ!)
リナを胸元に下して、顔を額をつけながら言う。
唾が勢いよくリナの顔に飛び散る。
「……一か所に、ライト点けとけばよくない?」
そのリナの言葉に。
ボンドの目が泳いだ。
(だ、と言う案が……案だが。サト江)
ぱっちん!
サト江が照明を操作して。
二人から離れたところに点けると。
勢いよく、走って行った。
巻き込まれないように、壁に身体を寄せ。
事なきを得るのだった。
「……何だったの、結局ーーあれは」
「さァ? どうだっていいさ。リナ?」
「? 何よ」
「お前、ダイエットしろ! めっちゃくちゃに重い‼」
ボンドの一喝に。
リナも拳を握った。
「--~~これでも、っに、二キロ痩せたのよ‼ 死ね‼」
◆
通路を進むと。
そこには大きくも、頑丈だと分かる扉があった。
ガラスの窓から覗く室内には。
大きな液晶が幾つもあった。
液晶には様々な映像が流れていた。
「……この中に。マッドサイエンス野郎が居るんだな?!」
『居ないわ。何回も言わせないで』
「居ないってんならよぉーこんな、地下の研究所に何だっーー」
リナがボンドの口を手で覆った。
「--……殺す気ね? 私たちを!」




