第十二話 真っ黒な馬鹿たち
鬼灯トントの研究の原点はーーどの時代の先駆者と同じだった。
知りたい。
誉められたい。
そして。
その頂点も、やはりーーその時代も同じなのだ。
「そのトントって博士は? この研究所に、リナの言う女と居るのかよ?」
バーチャル初号であるサト江と共に。
通路を進んで行く。
『いいえ。居ないわ』
ボンドの質問に、サト江がさらに続けた。
『居たのだけど、もう居ないのよ。博士は♪』
喜々とした声で、ボンドに言う。
「馬鹿って……そいつに創られておいーー」
『ボクを産んだのは間宮夫婦。勘違いしないで』
立ち止まりボンドを睨みつけた。
『ボクはーー間宮リナの妹なの♪』
「っふ、ざけんじゃないよ‼」
ぶん! とサト江に拳を向けるも。
ただ、映像が乱れるだけだった。
「おい。止めとけよ、リナ」
「--~~っくそぉう~~!」
最初に彼が創ったのはーー生物だった。
遺伝子学を専攻し、研究していた母親の影響が大きい。
そして、彼は沢山の知識を頭に詰め込み。
十三歳のときに、蜘蛛を創った。
蜘蛛に心奪われ、心酔していたからだ。
しかし、彼の母親は発狂し。
『命を弄ぶことは許さない‼』
彼の研究を奪いーー抹消した。
息子であるトントすらも精神病棟に処置入院させた。
だが。
彼の研究は死んでいなかったのだ。
産み出した蜘蛛が、子蜘蛛を産み。
彼の病室に住み着いていたからだ。
そして、母親の研究による事故によって死に。
彼女の巨額の富と、その研究施設を手に入れた。
もう、この世に。
彼を閉じ込め、制止する抑制力はない。
研究に没頭する自由を手に入れたのだ。
その施設は移設しーー光圀島に建設された。
間宮夫婦と、この島に上陸した。
サト江はーーこの当時、居なかった。
『彼は良くも悪くも。研究が大好きだったの』
「ほぉ。いい趣味だなァー」
棒読みでボンドも言う。
「--……こうなる前兆は、あったのかい?」
サト江に詰め寄るように訊く。
真っ白な廊下の天井には、細かな模様がある。
灯りに照らされ、鈍く輝く。
『前兆? っふ! 何を言っているのかな、キミは』
「? どういう意味だよ」
『そんなものは。彼が自我を持ったときからあったよ』
吐き捨てるように言うサト江に。
「だからよォーどう言う意味なんだっつぅの!」
ボンドも、言い返した。
リナは、口を挟むことは出来なかった。
彼女の《妹》宣言に、頭には怒りしかなく。
考える隙間もなかったからだ。
「つまりなんだァ? 創造主になりたかったってことなのか?」
面白半分に、ボンドが言うと、
『ええ。彼は認められたかったから』
サト江が頷いた。
『--母親に認められなかったと言う劣等感が。大人になっても、心の中に巣くって、彼を蝕んでいたのよ。脚光を浴びたいとかじゃなくて、ただ』
「すごいねって、一言が。欲しかったってわけかよ。大の大人の男が」
歯を噛み締めながらボンドが言う。
その言葉に、ようやくリナも。
「馬鹿ばっか。この物語のみんな、馬鹿ばっかじゃない」




