58 浴場に咲く白百合
今回は鎮撫騎士団長イリアーナをメインにしたエピソードになります。
スタンス城の戦いにおいて、アイゼは他の何にも代えがたい戦功を賞されたと自負したが――実はもう一人、かの女騎士に匹敵する恩賞に与った者がいた。
それは、王子軍においては新参に分類されるものの、王家への忠義に関しては疑いようもない忠臣――元鎮撫騎士団が団長イリアーナである。
***
スタンス城が宴の喧騒から落ち着きを取り戻したのは、月が西の空に傾き始めた頃だった。
形式上はお開きと相成った宴であったが、それでも自身の天幕に戻ろうとしない兵達が一部おり、彼らは己たちで二次会を開催したものの、流石に疲れ果てたようで、初夏の夜風に抱かれながら、思い思いに広場で横になっている有様であった。
これから詳らかにされる乙女の秘め事は――そんな折に行われた一幕である。
「ふあぁ……いい湯だな、イリアーナ」
「は、はいっ! これまでの疲れが落ちていくのを感じます」
――かぽーん。
現在イリアーナは、上官であるアイゼと共に、スタンス城の湯殿にいた。
かつてリュカとアイゼが混浴に浴した湯殿であり、アイゼにとっては印象深い場所である。
リュカは貴い身分が故――この時代においては贅の最上級に値する湯浴みを行ったのだが……。
自分一人のために大量の湯を沸かすのは、あまりにも勿体ないと吝嗇ぶりを発揮し、侍臣に残り湯を使う許可を出したのである。
こうしてリュカの次に入浴を果たしたのが、先の戦において常に先陣を斬りながら城攻めを指揮した、アイゼとイリアーナの女騎士組であった。
「んっ……はぁ……行軍中は沐浴すら叶わなかったからな……これも殿下の思し召し……ありがたく頂戴しよう」
「そ、そうですねっ!」
イリアーナは頬を赤くして答える。
慣れない湯浴みでのぼせてしまったのではない。
彼女の色めいた視線は――悠然と海を制する大帆船の如く、浮力を得る程に実った――アイゼの乳房に注がれていた。
イリアーナは20を迎えてもなお、貧相な自身の胸元を比較する。
アイゼと比べれば、彼女の乳房は瘠地のようなものである。
だが――彼女は羨望の念から、アイゼの乳房を凝視している訳ではなかった。
「大きい……ごくり」
思わず本音が漏れてしまうイリアーナ。
しかしその一方――
「(殿下の残り湯……少しくらいなら、飲んでしまっても構わないだろうか……はぁはぁ)」
――普段であれば周囲の視線に敏感なアイゼも、現在に限っては、脳裏を埋め尽くす煩悩に思考の幅を取られ、彼女の色めいた視線に気付くのに遅れてしまった。
イリアーナがたっぷり一分は、アイゼのデコルテから続く柔い峻険を凝視した後に、ようやっとアイゼは、かつて可愛がっていた部下からの、情熱的な視線に気付いた。
「ん? イリアーナ、どうかしたのか?」
「あっ、いえっ! な、なんでもございませんっ!」
我に返ったイリアーナは、慌てて誤魔化すと、顎まで湯船に浸かる。
そしてお茶を濁すように、湯船に浮かんだ花を掴み、その弁を弄るのであった。
「しかし、こうしてイリアーナと二人きりになるのは、久々だな」
「そ、そうですね。アイゼ様が鎮撫騎士団にいた頃は、よくあなたに慰めて貰ったものです」
「そうだったな……しかし、五年の内に随分と精悍になったと思ったが、こうして髪を解き、顔から険が抜けると、まだまだ昔の面影が残るな」
アイゼは過去を慈しむように、顎まで浸かったことで、より一層顕著に見えるイリアーナの丸顔を見守る。
今のイリアーナはアイゼへの憧れから、亜麻色の長髪を馬の尾のように一本結びにしているが、かつては肩口までの短髪であり、童顔なのもあいまって、子リスを彷彿とさせる愛嬌を携えていた。
それが今では、5000の騎馬を率いる国王直属の騎士団筆頭なのだから、世の中どう転ぶか分からないものだ――というのが、アイゼの談である。
「ああ――いや。今の発言は、イリアーナを軽んじた訳ではない。お前はかつてとは見違える程に成長した。それはガーナーゲート砦での戦いや、スタンス城での戦いで、十二分に承知しているとも。わたしも、うかうかしていたら、いずれ追い越されてしまうかもな」
「……そんなこと、ないです」
「ん?」
ちゃぽん――イリアーナは、異を決したように、湯船から腰を浮かし――アイゼに向かって一歩、にじり寄った。
そして、クリクリとした小動物のような、大きな瞳孔を上目遣いにする。
その頬が紅潮しているのは、湯船によって血流が活発化しているからではない。
積年抱き続けてきた――恋慕によるものであった。
「わたしはまだ……あの時のままなんです。到底、ヒルデガルド様の後任が務まるような人間じゃないんです。いつも不安で、でも部下にはそんな姿を見せる訳にはいかず、押しつぶされてしまいそうなまま、ヒルデガルド様とアイゼ様の幻影を追い続けている、あの時の小娘のままなんです……だからアイゼ様……あの時のように、慰めて、くれませんか?」
顔から険が抜け、鎧を脱ぎ、髪を解いた今の彼女は、まるで色を知らない無垢な乙女のようだ。
「……そうか。分かった」
アイゼは優しく微笑むと、両手を広げてイリアーナを受け入れる体勢を取る。
イリアーナは、アイゼの太ももの上に尻を預け、その豊かな双丘の深い谷間に、丸い頭を潜りこませたのであった。
イリアーナは13歳で、騎士見習いとして鎮撫騎士団に入団した。
当時の騎士団長ヒルデガルドは、彼女の秘められし才能を即座に見抜き、厳しい薫陶を施した。
しかし――親の心子知らずと言うように、イリアーナは自分の才能を自覚しておらず、己にだけ苛厳に接するヒルデガルドの、折檻にも等しい調練に心が挫けそうになっていたのだ。
そんな幼い少女の心をケアするのが、当時副団長だったアイゼリーゼの役割であったのだ。
訓練後の沐浴の時間、アイゼは上官用の個別沐浴場に、イリアーナを招いては、現在のように、彼女の小さな身体を抱きしめて、慰めてやっていた。
それがイリアーナにとっては、挫けそうな心を支える大きな支柱だったのである。
アイゼとイリアーナは四歳差であったが、13歳と17歳はもはや大人と子供程の差がある。
そんな彼女が、敬愛を情愛と誤認してしまうのは、致し方のないことであった。
そして恋慕の情は、アイゼリーゼが鎮撫騎士団を辞してからも冷めることなく、彼女の心を燻り続けたのである。
「(ふふ。立派になったと思ったが、やはりまだまだ子供のままだな)」
しかし――今の彼女は色を覚えた20の大人。
かつての無邪気な子供ではない。
つまり――
「んっ……あっ……ちょ、イリアーナ? なんか、手つきが……嫌らしく感じるのは、気のせい、だろうか……?」
「はぁはぁ……アイゼ様……アイゼ様のおっぱい……柔らかいおっぱい……っ!」
――イリアーナはアイゼの豊満な乳房に肉欲を抱いているのである。
かつての母親の母乳を求める無知な子犬ではなく、疼く下腹部の飢えを満たすために、獲物に齧り付くハイエナの如き手つきで、アイゼの乳房を揉みしだいでいた。
無論アイゼの太ももの上に置いた、ぬらついた陰の核に摩擦を与えるのも忘れていない。
「ちょっ! イリアーナ……そろそろ、いいのではないかっ!?」
「まだですっ! あと五分、いや十分お願いします!」
「あっ! ああっ! イリアーナっ! やめっ!?」
スタンス城の夜が、艶声と共に更けていく。
かくしてイリアーナは、五年間の空白を埋めるように、アイゼの乳房をこれでもかと貪るのであった……。




