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悪魔のシェアハウス――悪魔は人を騙すけど嘘はつかない。《友情》《裏切り》《契約》《願い》すべてを賭けた選択の脱出劇  作者: ユキマル02
【異変】

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第57話『Re:Re:』



【登場人物】


まもる:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。


冬美ふゆみ:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。


孝志たかし:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。


五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。



【登場する悪魔たち】


放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。


宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。

名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。


シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?


清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』

軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。

誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。


メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。

冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。


整備士シンさん

部屋の整備や修理を担当する悪魔。

無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。


「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔


普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。


最近新しい契約者を得た。



寝室清掃の悪魔


銀髪眼鏡のメイド服を着た少女の悪魔。

主人公誠が偶然にも遭遇した裏方の悪魔。


普段は清掃が終わるとシェフの用意した食事を厨房に設置されている

従業員休憩室で食べている。


かなりのネガティブ思考で一人で突っ走り結論が出るとすぐに手持ちのナイフで自害しようとするので困る。まだまだ謎の多い悪魔である。




(以降、悪魔たちは順次追加予定)



 ――たぶん、一番最初に異変に気付いたのは俺だったと思う。



「なぁ、やっぱり誠がここまで起きてこないのって変だよ」

「別に寝過ごすことなんて、よくあることやろ?心配しすぎとちゃうん?」


 意外にも俺の言葉に反応したのは放課後の悪魔だった。

 俺が今いる場所は、いつもの食堂だ。


 今日は珍しく早めに起きたんだけど、食堂に行けば朝の仕込みをしているシェフがいたから、温かいお茶を飲みながらみんなを待ってたんだ。


「あれ?誠は?」


 俺の次に来た五十嵐に聞けば、「ノックしても反応なかった。爆睡してんじゃね?」という答えがあくびと共に返って来た。


「すげぇ眠そうだな」


「うん。最近ゲームやってんだよね。それが、なかなか面白くて、シリーズ通してやってたら朝になってたわ」


 右手で目をこすりながら五十嵐がいつもの席に着く。


「ふーん。つか、え?片手でゲームってできんのか?」

「ん?あぁ、俺やってんのポケット(ゲーム機の名称)だけど。寝転んで、口に箸咥えてやれば楽勝だぜ?」

「いや、どんなやり方だよ……ま、あんまやりすぎんなよ」


 そのまま五十嵐と雑談を続けていると、いつものメンバーが食堂に集まってくる。

 だけど、誠だけが一向に姿を現さなかった。


 最初は、前の日に悪魔同士の戦いがあったから、少し疲れてるのかもしれないって思ったけど、いつまで待っても姿を現さない誠に俺は、違和感を覚えた。


「俺、心配だから起こしてくるわ。今日の朝食はアイツの好きなパン出てるし」


 そう言って立ち上がった俺に放課後の悪魔がまた声を出した。


「なんでそんな心配なん?」


「本人も言ってたんだけど、誠の家のルールみたいなもんでさ、朝食は家族そろって必ず7時には食べるんだって」


「へぇ、今どき珍しいお家やねぇ。で?違和感の理由は?」


 頬杖をつきながら放課後の悪魔が紅茶を一口飲んだ。


「ここに来てから宇佐美に起こされてるらしいけど、宇佐美がいなくても癖みたいなもので、7時前とかには目が覚めるって言ってたんだ」


 このシェアハウスに時計はない。

 だけど、毎日の習慣って抜けないものだ。


 俺は、起きたら無意識に歯を磨くより先にゴミ出しをしている。

 ここに来た数日間も、起きたら部屋にあるゴミ箱を確認してた。


「誠が寝過ごしたとして……あの時間に正確な宇佐美が起きてないこないのは、変だな」


 隣でパンにバターを塗りながらシェフがそう言った。


「確かに、宇佐美なら誠のこと叩き起こしてきそうだもんな」

「それか、ウサギさんなら誠サマが起きませんー!って、私たちのところまで飛んできそうだもんね」


 五十嵐は食後のマカロンを頬張りながら、冬美は両手でホットココアを持って冷ましながら会話に参加する。



〖誠くん、大丈夫かなぁ〗


〖くそ眠い。あぁ、地下ってどこまで作ったっけなぁ〗


〖誠のやつ、なんかあったのか?確かに孝志の言うようにアイツってそこまで長く寝てることってないんだよな〗


〖マカロンかぁ。パンケーキが食べたかったなぁ〗


〖孝志、他の奴の声を聞いておけよ〗


 

 ――今、俺の耳には全員の心の声が聞こえている。

 

 心の声を聞く限り、この場にいる人間、悪魔は嘘をついてないみたいだ。


「ふーん。なるほどなぁ、判断材料は揃ってるな」


 予想通りというか、放課後の悪魔から心の声は一切聞こえてこない。

 それよりも、俺の違和感に一番最初に答えたのが放課後の悪魔というのも意外だった。


「よしゃ。おじさんも着いていくわ」


 紅茶を片手に持ったまま放課後の悪魔が立ち上がる。

 俺は、続くように慌てて立ち上がると悪魔を見上げた。


「へ?つ、着いてくって」

「誠クン起こしに行くんやろ?」

「う、うん。でも、俺一人で」

「朝からなぁ、なぁんか嫌な気配がすんねん」

「いやな気配?」

「あぁ、おじさん的には予想が外れてくれたらいいんやけどねぇ」


 放課後の悪魔はズズッと音を立てて最後の一口を飲み終わると、ダンッとカップをテーブルに置いて出口へと向かった。


 この悪魔は、出会ったときから食事の所作がすごく綺麗だと認識している。

 音を立てて紅茶を飲むなんてこと、今までなかった。


 その行動から悪魔がイラついてるのだと、なんとなく感じ取ることが出来た。


「あ、待って!置いていくなよ!」


 俺も「ごちそうさま!」と言って食べ終わった食器を重ねると、すぐに放課後の悪魔の後を追った。


 すぐに後ろからパタパタと複数の足音が聞こえてくる。

 たぶん、冬美か五十嵐か、野次馬の悪魔が来るのだろうと思った。



◇◇◇



「はぁ……アイツ、あの悪魔っ、足早いって!」


 放課後の悪魔はポケットに手を入れてすたすた歩いてるだけなのに、異様に足が速かった。

 最初は徒歩だったのが、いつの間にか駆け足で後を追いかけていた。


「あ、いた!」


 階段を駆け足で上ると、誠の部屋の前には放課後の悪魔がいた。

 更に駆け足で近づいて悪魔の隣に並ぶ。


 少し息を整えて、部屋の扉をノックしようと右手を動かした時だった――


 ドガンッ!!


「へ?」


 俺は、一瞬何が起こっているのかわからなかった。


 一瞬の強風。横目で見えたのは、黒い革靴で――


「えぇ!?」


 目の前にあったはずの扉は部屋の奥まで吹っ飛んでいた。

 扉は蹴られたところから、くの字にひしゃげてヒビが入っている。


 放課後の悪魔が誠の部屋の扉を蹴破ったんだ。


「おまっ、ちょっ、なにしてんだよ!?」

「目覚ましにはちょうどええやん。 ……チッ、この魔力。やっぱりか」



 放課後の悪魔は部屋に入ると何かを感じたのか、舌打ちをして誠のベッドまで近づいていった。

 やっぱりおかしい。今の音がもし聞こえてたなら、普通の人間なら驚いて飛び起きるはずだ。


「ま、誠?そろそろ起きねぇと、お前のパン無くなっちまうぞ?」


 室内は薄暗くて、異様な空気が漂っていた。とにかく心が落ち着かない。

 早くこの空間から親友を連れ出したくて、誠の肩を少し強くゆすったが……反応がない。


「っ誠!なぁ、起きろって!!なあっ!!」


 今度は力を込めて強く揺さぶってみたけど、誠の閉じた瞼が開くことはなかった。

 布団に入ってるはずなのに、服越しに感じる体温が異様に低い。


「孝志!どうした?なにがあった?」

「孝志くん!」


 俺の声が聞こえたのか、廊下で中の様子を見ていた二人が駆け寄ってきてくれた。


「ま、誠が、さっきから揺すってんだけど、全然起きねぇんだっ!」


「起きないって……っ」


 俺の言葉を聞いて冬美が青ざめた表情を浮かべて、俺と同じように誠の肩を揺すった。

 さっきから嫌な想像ばかりが頭を駆け巡って、鼻の奥が痛かった。


「誠くん!朝だよ、起きて!ねぇ!誠くんっ!!」


 誠を起こそうとする冬美に声は震えていた。

 俺もひたすらに誠の名前を呼び続けた。


 ふと目線を誠の腕の中の宇佐美へと向ける。

 こんなに周りがうるさいのに宇佐美も起きる気配がない。


「っなんで……」


 とにかくこの空間は異様でしかなかった。


「なぁ、お前。さっき嫌な予感がするって言ったよな?誠は今、どうなってんだよ!?」


 俺は後ろにいる放課後の悪魔に振り返って叫ぶように言った。

 親友の危機かもしれないんだ。なりふり構ってられない。


「ここにいる誠クンはな、魂だけ『あっちの世界』に連れて行かれた、抜け殻やねん」


「抜け殻って、どういうことだよ」


 冬美のすぐ隣で支えるように肩を抱いていた五十嵐が悪魔を睨みつける。


「そう睨まんといてやぁ。五十嵐くんよりもな……俺の方がイラついてんねん。つーわけやから、シェフ!」


 放課後の悪魔は誠から目線を外さないまま、後ろに待機していたシェフに声をかける。


「はぁ……呼ばれなくてもやることはわかっている。もうすでに医療機器の手配は頼んである」

「流石やね!たぶん、ギリギリ持って一か月。ま、それまでには見つけるけどな。点滴のほうはシンちゃんに頼むわ」

「マジかよ。俺、医者やってたの10年前だぜ?」


壊れた扉の前でしゃがみ込みながら「直すのめんどくせえ」とぼやいていたシンさんが驚いたように顔を上げた。


「シンちゃん興味あるからって内科も外科も救急も、なんでもやっとったスーパードクターやろ?シンちゃんの腕信じて、おじさん頑張るわ……まぁ、ペナルティー食らいたいなら別にええけど」


「げっ、完璧脅しじゃねぇか!……ま、いいけどさ。サポート頼むわシェフ」


「あぁ、承知した」


 悪魔たちは俺たちの存在を無視して、後ろの方で今後の予定をぽんぽんと決めている。

 言葉が断片的にしか拾えなくて、誠と友達の俺たちがこの空間で一番置き去り状態だった。


「い、一か月って、点滴って……っ」


 俺はゆらゆらと歪む視界の中、静かに眠る誠を見下ろした。



 誠……、死んだり、しねぇよな?



「なぁ、孝志クン。キミ、もしかして、おじさんのことただの人間とか、思ってないよな?」


「えっ」


 不安で押しつぶされそうな俺の心の隙間に、その悪魔の声は大きく響いた。

 ソイツとは距離があるはずなのに、その声は俺のすぐ耳の近くで聞こえているようだった。


「おじさんは、悪魔やで?」


「っ!」


 悔しいけど、俺はその言葉を聞いた瞬間に……安心したんだ。

 それは、他の二人も同じなのだろう。


 冬美は泣き腫らした目で放課後の悪魔に希望の眼差しを向けていた。


「あ、じゃあ。僕の能力使って体だけ動かそうか?それならご飯食えるんじゃない~?」


「無理やね。今の誠クンは『植物状態』みたいなもんやから、栄養点滴が一番いいと思うわ」


「そっか、残念!」


「犯人はこの際どうでもいい。誠は大丈夫なのか?それだけが知りてぇ」


 五十嵐の声に話し合いをしていた放課後の悪魔の瞳が俺たちの方に向けられる。

 この状況で素直に信じないあたりが五十嵐らしい。


 でも、俺たちと違う行動をする五十嵐がいるから

 俺は盲目的にならずに周りを見る余裕ができる。


「ええ判断やねぇ」


 眼鏡の奥の赤い瞳は、異様なほどに冷たくて、見ているだけで背筋に悪寒が走る。

 そこにいつもの軽い雰囲気はない。


 近寄りがたい雰囲気に珍しく五十嵐がたじろいで後ろに一歩引いていた。


「時間もないし、俺も説明するのめんどくさいから。結論だけ言うわ――誠は、俺が絶対取り戻す」


「! い、意外だな。お前は、俺たちのために、なにかしてくれるなんて思ってなかったよ」


「ん~?もしかして、善意でやってるとか、そんなアホなこと思ってないよな?」


「違うのか?」


 五十嵐が聞き返すと、放課後の悪魔は鋭い目線のまま言葉を続けた。


「五十嵐くんの契約は衣食住が安定した世界や。眠り続けるのは安定やなくて……」






 ――異変やねん。









最後まで読んで頂きありがとうございました。


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