第39話『ドキドキ!悪魔と地獄のお料理クッキング(前編)』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。悪魔が嫌いなので悪魔に対して少しだけ口が悪くなる。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。誠の握るおにぎりが好き。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこにはある理由が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに異質。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、【時計】の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?
清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』
軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。
誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。
メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。
冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。
整備士
部屋の整備や修理を担当する悪魔。
無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。
「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔
普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。
最近新しい契約者を得た。
(以降、悪魔たちは順次追加予定)
「え!?風邪 !?」
「……うるせぇ」
僕の声に目の前に立つシェフが顔を歪めて耳を塞ぐ。
そこに孝志の姿はなく、腕を組んだシェフが扉に背を預けた状態で僕と会話をしている。
「だ、大丈夫なの?」
少し声を抑えながらシェフに聞けば「今日一日安静だな」と冷静な答えが返ってくる。
「一日って、もしかして……かなり熱高いの?」
「39度」
「さ、39度!?」
前の日に、調子が良くないとは本人に言われていたけど、この風邪はシェフの能力を使ったからなのか……?
「孝志が風邪なのはわかった。でも、お前がいるのは納得いかねぇ」
後ろから聞こえた低い声に、僕の肩がビクッと震える。
孝志の風邪のことで頭いっぱいになっていて、後ろにもう一人いたのを忘れていた。
「看病は俺たち人間がする。お前は飯でも作ってろよ」
五十嵐くんは、そこまでわかりやすく態度を変える人間じゃないけど、シェフに対して例外だ。
「俺が孝志に何かするとでも?残念だが、看病は孝志の命令だ。俺は命令に従ってるまで」
こればかりは、シェフのせいじゃないから申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
シェフは扉に背を預けた状態で、帽子の影から静かに五十嵐くんを見下ろしている。
五十嵐くんも鋭い瞳でシェフを見上げていた。
「友達を心配する気持ちはわかるが、片腕で何ができる?」
「看病を俺一人でやるってか?俺もそこまで馬鹿じゃねぇよ」
「アイツは友達に迷惑をかけたくないと思っている、だから俺に頼んだ。孝志の友達ならそれくらい察してやれないのか?」
「それも承知で言ってる。アイツは少し遠慮しすぎなんだよ」
「孝志の気持ちは無視するのか?……それこそ、傲慢だな」
「看病されることを迷惑だって思ってる孝志の方が馬鹿なんだ」
まさに、一触即発という言葉が正しい状況である。僕は冷や汗が止まらない。
どこか、会話に割って入れるタイミングを探していると、違和感に気づいた。
シェフが五十嵐くんと会話しているのに『手を上げていない』
「げほっ……五十嵐が、腹立つからって挙手制を破棄したんだよ」
「え!?た、孝志!」
僕の疑問に答えたのは孝志だった。
孝志は頭に冷えピタを貼った状態で、顔を真っ赤に扉からひょっこり顔を出していた。
口に出したつもりはなかったけど、顔に出ていたのかもしれない。
「まだ安静にしてろ」
少しよろけた体をシェフの太い腕が支える。
孝志はシェフに「ありがと」とお礼を言うと、僕たちの方に顔を向ける。
「孝志、だいじょうぶなの?」
心配になって近づこうとした僕をシェフの手が静止する。
「おい、あまり近づくな。風邪が移る」
「あっ、ごめん。……汗、すごいね」
「ははっ、久しぶりにこんな高い熱出たかも」
「体つらくない?」
「けっこうヤバイかも」
力なく笑う孝志に、さっきまでの勢いが嘘のように五十嵐くんが弱弱しい声を出した。
「ごめん。俺が、うるさかったから。起こしたよな」
「いや、最初から起きてたから、大丈夫」
「起きてて大丈夫なのか?」
「昨日、早めに寝たせいもあって、あんま眠くねぇんだよなぁ」
「そうか。無理だけはすんなよ」
「おう……その、シェフに看病を頼んだのは本当なんだ。五十嵐には無理してほしくねぇし」
孝志はそこで言葉を切ると、次に僕の方へと顔を向ける。
「誠も……俺の看病するくらいなら、少しでも脱出できる手がかりを探してほしい」
僕たちを見る孝志の顔は赤く、息遣いは荒い。
こうして立って話をするのも本当は辛いのだと思う。
「シェフも、俺のワガママ聞いてくれてありがとな」
「はぁ……お前のそれは我儘にすら入っていないと何度言えばわかる」
シェフは呆れたように溜息を吐き出すと、背にしていた扉から離れて孝志の頭をぽんっと撫でた。
「お前は風邪を治すことだけを考えろ」
「……おう」
「……」
僕は二人のやり取りを見て違和感を覚える。
だって、前にシェフが頭を撫でた時、孝志は泣いていたから、さっきもまた泣いてしまうんじゃないかって心配していたけど、シェフを見上げる孝志の表情は優しかった。
「孝志、その……もう、平気なの?」
「なにが?」
「いや。平気なら、別にいいんだ」
あれは、作戦会議で起こったことだ。
近くに五十嵐くんがいる以上は、この話は続けない方がいい。
「わかった。看病はシェフに任せるよ。五十嵐くんも、それでいいよね?」
「あぁ」
五十嵐くんは不機嫌な顔で二人を見ながら、仕方ないとばかりに深くため息を吐いて小さくうなづいた。
「でも、それ以外で僕に何かできることがあったら遠慮なく言ってね」
「看病はいいとして、シェフ。朝飯はどうするんだよ?お前はここの専属料理人だろ?」
「! あ、確かに」
五十嵐くんに言われて初めて、ご飯問題に気づいた。
「朝食は無理だが。昼食以降は作る予定だ。それまでには孝志の熱も下がるだろう」
「朝食は無理って、えっと、じゃあ……各自で作るって感じになるのかな?」
「そのことなんだがな。誠、先ほどお前は「何かできることがあれば遠慮なく言ってね」といったよな?」
僕を見るシェフの表情は相変わらずの無表情であるが口元が少しだけ上がっている。
「えっ、う、うん。言ったけど」
なんだろう……シェフの雰囲気が、デートしろと言ったときに似ている気がする。
「孝志からのリクエストだ。誠の作った『おにぎり』が、朝食に食べたいそうだ」
「へ?ぼ、ぼくのおにぎり?」
シェフの言葉に驚きながら孝志の方を見る。
困ったような表情をしながらも、期待に瞳を光らせている孝志と目が合った。
「いやぁ、誠が俺たちにおにぎり作ってくれた夢見ちゃってさ。久しぶりに食べたくなっちゃったんだよなぁ」
「え!?」
「食材は好きに使え。ちなみにおにぎりは人数分作ってもらう」
「に、人数分!?」
(あれ?悪魔含めて、ここ何人住んでたっけ!?)
絶句する僕の隣では「お、ついに俺も誠のおにぎり食えるのか」と五十嵐くんが嬉しそうな声を出している。
「ぼ、ぼくのおにぎりなんて、シェフの料理に適うわけがないと思いますけどぉ?」
情けなく震える声で言えば、シェフは呆れたようにため息をついた。
「お前は孝志の言葉を疑うのか?」
「えっ」
「朝食におにぎりを出した日の、孝志の言葉を思い出せ」
シェフに言われて僕はあの日の孝志の言葉を思い出した。
「っほ、本当に、僕のおにぎりでいいの?」
「うん。最後に誠のおにぎりが食べたいんだ」
「最後?」
「っ、あぁ、悪い。言葉の使い方が悪かったな。だって、こんな機会じゃねぇと誠のおにぎりが食えないって思ったんだ」
「そんなことないよ。孝志が頼めば、あっちに戻ってからだっておにぎりくらい作ってあげるよ」
「!そ、そっか。なんだよ、じゃあ、もっと早く頼めばよかったな~」
孝志が何気なく言った言葉に胸がザワついた。
間違いだとしても、絶対に言って欲しくない言葉だ。
「お前たちは孝志を休ませる気があるのか?」
「あっ」
「はぁ……俺も昼食までにはコイツの世話を終わらせたい。そろそろ戻らせてもらうぞ」
そう言ってシェフは孝志の体を軽々と持ち上げると肩に担いで後ろ手で扉を閉めた。
「バタン」という扉の閉まる音が静かな廊下に響いた。
……しばしの沈黙。
「あの野郎。病人をなんっつー運び方してんだよ」
確かに、シェフの運び方は人間の運び方じゃない、米俵の運び方か、誘拐犯の運び方だ。
でも、あそこで『お姫様抱っこ』するのは、孝志が可哀想だろう。
「あ、宇佐美。今って、何時?」
もう定位置となりつつある腕の中のウサギに話しかける。
【ただいまの時刻は7時40分でございます!】
「げ!もう朝食まで時間ないじゃん!!」
「いや、お前は専属の料理人じゃないし、今回はイレギュラーだ。遅れても問題ないし、俺が許す」
「い、五十嵐くん!」
僕の不安な声に的確な答えをくれたのは五十嵐くんだ。
やはり、持つべきものは友達だ。
「お米って炊けてるかな?おにぎりの材料は……」
「さっきシェフが食材は好きに使っていいって言ってたろ?米も含めて、おにぎりの材料が全部そろってなきゃ、あのセリフは出てこねぇよ」
「なるほど。確かに、そうかも」
料理に関しては妥協しない悪魔が食材の管理を怠るなんてことは絶対あり得ない。
「時間も時間だし、片腕でしか使えねぇけど。俺もおにぎり作るの手伝うよ」
「えっ、いいよ。無理しないで」
「いや。手伝うよ。ちなみに俺は米を炊いたことも無いけどな」
清々しいほど自信たっぷりのドヤ顔で言うものだから一瞬、反応が遅れた。
「えっ!?うそでしょ!?」
「いや、嘘じゃない。本当」
呆れ気味に僕が「そんな自信満々に言わないでよ」と言えば五十嵐くんは、首を傾げた。
「事実だからな。嘘をつく必要がどこにある?」
「どうしよう。あまりにも清々しくて、怒る気すら起きない」
「まずは厨房に行こうぜ。ここで話してたら、面白好きな悪魔たちが集まってくんぞ」
「そ、そうだね」
「え?おじさんのこと呼んだ?」
まるでタイミングを見計らったかのように、間延びした声が背後から聞こえてくる。
後ろから聞こえてきた声に、僕は渋々、振り返った。
案の定、そこにいたのは【放課後の悪魔】だった。
「うわっ、最悪なやつが一番最初に来たよ!」
黒いシャツに黒ぶち眼鏡、スウェットと言った休日のお父さんみたいな恰好なのに、お洒落に見えるのが腹立たしい。
「今日のシェフは誠クンなん?おじさんもおにぎり一緒に作ってあげよか?」
「結構です!」
「遠慮せんと、これでもおじさん料理上手いんやで?カップラーメンに、冷凍めんゆでるのもおてのものや!」
「それ料理じゃない」
「え?ホンマに?せやったら、ほかになにあったかなぁ」
「僕は、レトルトカレーとか好きだよ~。日本製品は特に美味しいよね」
――増えた。
放課後の悪魔の背後には水玉のパジャマを着たもう一人の悪魔が立っていた。
「くそっ、そうだ忘れてた。悪魔は一人いたら、どんどん増えるんだった」
「ゴキブリみたいに言うんやめて?」
「諦めろ、誠」
僕の隣では五十嵐くんが悟ったような、諦めた表情で悪魔たちを見ている。
流石、五十嵐くんだ。切り替えが早い。
「こいつらの習性を忘れて、モタモタしてた俺らが悪い」
「もう完璧虫扱いやん!ホンマに、誠クンたちは面白いなぁ」
「そこで喜ぶところがコイツらしいよね」
「だな」
「誠クンもおじさんに対して口悪くなってない?」
シェフみたいに優しくしてや~と嘆く悪魔に僕は冷ややかな目を向ける。
「でもさぁ、全員で握れば早く食べれるし、残りの時間も有効に使えるんじゃない~?」
「!」
いつも軽薄なことしか言わない悪魔が珍しくまともなことを言った。
「ん~?誠くんさぁ、なんか失礼なこと考えてない?」
「いや、ちゃんと真面目なこと話せるんだなって。驚いてた」
「あれ?僕に対しても遠慮なくなってきた?」
「今までの自分の行動を胸に当てて考えてみなよ」
「え~?僕、なにかしたかな?」
首を傾げながら清掃の悪魔は胸に手を当てた。
コイツに関していえば、僕は何度コイツに怯えたことか。
僕は映画館の時のことを思い出して
怪我をしていた方の手に目線を落とした。
それに気づいた五十嵐くんが声をかけてくる。
「手、どうかしたのか?」
「あぁ、うん。1階を探索してる時にアイツと映画館で会ったんだ。それで、その色々あって……手に爪を立てられて」
「爪を立てられた?どれくらいだ?」
「かなり深く。血も出てた。でも、アイツが映画館を出て行ったとき、その怪我が治ってたんだ」
「血が出てたのに治ってた?」
僕の言葉に五十嵐くんが顎に手を置いて考えるようなそぶりを見せる。
「うん。あのときは混乱してたけど、今思えば妙だなって」
もしかしたら、あの現象は――
「アイツの、能力のヒントなんじゃないかなって」
「怪我が治る……回復能力とかか?」
「回復か。確かに、その可能性はあるかも」
傷が治ったなら回復能力と考えるのが普通だ。
でも、シェフの能力を知ってるからこそ、悪魔の能力はそこまで簡単に見破れるものではないことは知っている。
シェフの能力が、影と影の間を行き来すると聞いた時、僕は影の間を移動できるものだと思っていたけど、実際は違った。
シェフの能力の使い方を聞いて、僕は改めて思った。
悪魔の能力は、『人間の常識』で考えたらダメだって……。
「う~ん。ダメだな、心当たりがないや」
たぶん。こいつの能力も、回復とか、そんな簡単なものではないのだろう。
「これは、僕の勝手なイメージだけど」
僕は隣にいる五十嵐くんに聞こえるくらいの声で言葉を続ける。
「回復能力って優しい感じがすると思うんだ。でも、僕は怪我が治ってるような感覚もしなかった」
まるで、怪我なんて初めから無かったような感覚だった。
「ごめん。これ以上は、まだうまく言葉で言えないんだ」
「無理すんなよ。能力のことは後で考えればいい。まずは、朝飯作ろうぜ」
「うん。そうだね」
そうだ。まずは、目の前の問題を片付けてから次のことは考えよう。
「すっごく癪だけど。おにぎり作るの、手伝ってもらってもいい?」
僕は二人の悪魔の前に立って深く頭を下げた。
「言葉と行動がちぐはぐ過ぎへん?」
「癪って……」
「背に腹は代えられないので。というか、僕は孝志たちの分作るから、そっちは自分の朝ごはん自分たちで勝手に握ってくれ」
「温度差酷くて風邪ひくわ!酷ない?えっ、おじさんたちも誠クンのおにぎり食べたい!」
「僕もたべたい!」
「誰が悪魔に握るか」
「悪魔差別やめて」
「マジかよ。お前ら、おにぎり作ったことねぇの?簡単だぞ」
「予感はしていたけど。また増えた…!」
階段から上がってきたのはシャツに短パンといったラフな格好をしたシンさんだ。
そして、シンさんの背後には見覚えのある少女が一人――
「あ!2人ともいた!も~来るの遅いから、何かあったのかと思って心配したんだよ?」
「ふ、冬美!」
「朝食の準備はもう整っておりますよ、五十嵐様」
「めっ、メイド?」
(あれ?これ、前にも似たようなことがあった気が……)
「風呂のときみたいだな」
僕の隣で五十嵐くんが少し疲れたような声を出した。
そうだ。あの時と、状況が似ている。そっくりだ。
「あ、悪魔大集合」
その言葉に悪魔たちの目線が僕の方へと向けられる。
悪魔たちはまったく同じタイミングでニヤリと悪魔らしい笑みを浮かべた――。
最後まで読んで頂きありがとうございました!




