第38話『約束の公園』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこには“ある理由”が…。悪魔が疲弊するくらいガチガチの追加契約を作った。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに“異質”。誠たちを翻弄する存在。
宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、“時計”の役割も果たしている。
名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。
シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢は本物。つい最近新しい契約者を得た。…誠たちの味方?
清掃の悪魔:常にテンションが高くノリの軽い青年。この空間の『清掃員』
軽い口調からいきなり雰囲気がガラッと変わるため油断できない。
誠が苦手意識を持っている悪魔。シェフとは古い友達らしい。
メイド:丁寧な口調で微笑む、美しいメイド姿の悪魔。
冬美専属の「レディースメイド」として身の回りの世話を担う一方でその本性は冷酷かつ策略家。「性格は悪いです」と本人も公言している。つい最近新しい契約者を得た。
整備士
部屋の整備や修理を担当する悪魔。
無骨だが気さくで、誰とでもすぐに打ち解ける“面倒見のいいおじさん”のような存在。
「嘘を見破る能力」を持つ特例の悪魔
普段は豪快に笑う気のいい兄貴分だが常軌を逸した執着と狂気がのぞく、油断できない悪魔である。
最近新しい契約者を得た。
(以降、悪魔たちは順次追加予定)
―――ねぇ、本当に来ると思う?
彼女の言葉は夕暮れの公園に小さく響いた。
「え?」
「小林君だよ。本当に来ると思う?」
繰り返される言葉に横へと目線を向けると、真っ黒な瞳と目が合った。
何を考えてるのか、わからない目だ。
(こうしてみると本当に立花って、周りの人が言うようにかわいいよな)
どうして接点の少ない俺たちが公園のブランコに座って小林を待っているのか……
それは、今から1時間前の話だ――。
「立花さんにお礼がしたいんだ」
「おれい?……別に、お礼なんていらないよ」
立花がいじめっ子を飛び蹴りした日、小林が帰り支度する立花に声をかける。
「何かしたい」「いらない」の押し問答を続ける二人を俺は少し離れた位置で見ていた。
そういえば、あの国語の本読み事件の日も小林は「お礼がしたい」と言っていた。
俺としては周りに腹が立って勝手にやったことだから、気にしなくていいって言ったんだけど……
「犬飼君は周りの目を気にしないで助けてくれたから。それって、すごいことなんだよ。僕は、誰も助けてくれないことを知ってるから」
「小林……」
「言葉で「ありがとう」なんていくらでもいえる。でも、僕は見える形で君に「ありがとう」を伝えたいんだ!」
「わ、わかったよ。じゃあ、なんか、食べ物とか?」
「お菓子でも大丈夫?」
「えっ、うん」
「明日持ってくるよ!」
小林は宣言通り、次の日に「チョコパイ」を袋ごと持ってきた。
チョコパイって高いイメージがあったから、正直貰ったときは嬉しかった。
「あのさ、立花」
助け舟を出そうと思って、小林が俺に言った言葉を同じように伝えようと足を前に一歩踏み出した時だ。
ぐうううううううう~~…
「……」
「……」
「…………」
三人の間に、場違いで間抜けな音が響く。
「い、今の音って」
音の発生源に俺と小林は目を向けると、そこには顔を真っ赤にして俯く立花がいた。
「っいま、のは、そのっ」
「立花、お前、もしかして」
ぐうぅう……
「……」
続くように響いた音は、俺の腹からだった。
今度は立花と小林の目線が俺の方へと向けられる。
「あー、その……」
少し前は夕飯は母さんが置いていった金で弁当を買って食べていた。
けれど、母さんが出て行ってしばらく経ったときに
父さんはいつもの弁当を片手にして俺に言ったんだ――
『仕事もしてないお前が、父さんと同じ弁当を食べてるのはおかしいと思わないか?』
『えっ』
はじめ、俺は父さんが何を言ってのかわからなかった。
でも、珍しく父さんが仕事帰りに買ってきたお弁当の袋には、一人分の弁当しか入ってないのが外から見てもわかってしまった。
『孝志』
なによりも、父さんの顔だ。
俺に食パンの袋を掲げて見せる父さんの顔は……
『明日から、お前はこのパンを食べなさい』
小林をいじめていたやつと同じ表情をしていた。
腹が鳴ってから俺たちの周りには気まずい空気が流れている。
腹が減っていることは事実だ、言い訳もできない。
俺は腹を押さえながら、もう一度立花の方を見る。
「もしかして、2人ともお腹減ってるの?」
「!う、うん」
「お、おう。ちょっ、ちょっとだけな!」
素直に聞いてくるのが小林らしい。
小林は、顎に手をやり考えるような素振りを見せると俺たち二人を交互に見る。
「えっと、お腹ってどれくらい減ってる?お菓子で足りる?」
「えっ、わかんない。でも、夜も、朝も…」
立花はそこで言葉を切ると、少し迷って「…食べてないから」と小さく呟くように言った。
「夜もって、え!?た、立花さんほとんど食べてないじゃん!大丈夫なの!?」
立花の答えに小林が驚いて大きな声を上げる。
「小林、声が大きいぞ」
俺はそれをすぐに止めた。
「えっ、あっ、ごめん。あんまり聞かれたくないことだよね」
「う、うん。できれば」
立花が小林にご飯のことを話したのは意外だった。
俺と同じくらい嘘か本当かわからない噂が立花にもある。
虐待されているとか
母親の店で立花が働いてるとか
男とヤってる……ここらへんはよくわかんねぇけど。
やけに細い手足や、足に複数ある痣を見て俺と近い家庭環境なのは、なんとなく感じていた。
「犬飼くんは?」
「へ?」
突然、話をふられて反応が遅れて間抜けな声が出た。
「犬飼くんもお腹、減ってるんでしょ?」
「えっ、あ、うん……俺も、立花と似たようなものだから」
「えっ、犬飼くんも?」
「っあ!」
流れるように、言いたくない言葉が口から勝手に出てしまった。
「あ、いやっ、さっきのは違くてっ」
「夜も食べてないなら、お菓子なんてダメだよな」
「こ、小林?」
「他に何かあったかな…………米?」
小林は真剣に考え込むと、何かに気づいたように顔を上げて――
「あれなら、すぐに作ってもらえるかも!」
俺たちに笑顔を向けた。
「2人は公園で待ってて!僕、おにぎり作って持っていくから!!」
そう言って小林は机に置いていたランドセルを背負うと教室を出て行った。
遠くの方で先生の「廊下は走るな!」と注意する声が聞こえる。
「おにぎり?」
突拍子もない小林の言葉に俺と立花は、互いに顔を見合わせると追いかけるようにして教室の外に出て、遠くなってく小林の背中を見ながら首を傾げた。
◇◇◇
「小林のやつ、遅いな」
さっきまで公園で遊んでいた子供たちは母親が迎えに来て帰ってしまった。
公園に残るのは、俺と立花の二人だけだ。
「……」
き、気まずい……。
俺と立花に接点はないし、会話も数える程度だ。
沢山話したのなんて、一年生の頃にシャワーの使い方を教えたときくらいだろう。
「なんか、お前。変わったよな」
「変わった?そうかな」
「うん。前は髪なんて伸びっぱなしで、風呂だって入ってなかったじゃん」
「お風呂は、犬飼くんのおかげだよ」
「シャワーの使い方、わかった?」
「うん。ありがとう」
「そっか」
「うん」
(なんか、人間と会話してる気がしねぇな……)
立花は必要最低限の言葉しか使わない。
そこに感情はなくて、聞かれれば答える、綺麗なロボットみたいな印象だ。
「あのさ、と、友達のこと助けてくれてありがとうな」
「友達?あぁ、小林くんか。別に、助けたつもりなんてないよ、ただムカついただけ」
「ははっ、俺と一緒だな!俺も、小林助けたのって腹立ったからなんだ」
「犬飼くんも?」
「うん。でもさ、そのおかげで……友達になれたんだ」
「犬飼くん、嬉しそうだね」
「へへっ、うん。すっごい嬉しいよ」
お互いが「友達になりたい」と言って友達になれたんだ。
そこで会話が再び途切れて、手持ち無沙汰さに
足をぶらつかせて、下の砂を蹴っていると――
「今の犬飼くんって、前の犬飼くんみたいだね」
「えっ」
立花の言葉に驚いて振り返った。
立花は俺の方を見ないまま、夕暮れの空をゆっくりと見上げていた。
「3年生に上がる前までは、犬飼くんよく笑ってたから」
「……!」
立花は両手を前に出すと、その一つ一つの指をゆっくりと曲げた。
その仕草は、歳以上の幼さを感じた。
「シャワーは犬飼くんで。髪型とか、女の子みたいな、可愛い動き?クラスの女の子を見て学んだよ」
「ま、学んだって」
立花の話には心当たりがあった。
暗くて臭くて可愛くないと言われていた立花は、今やクラス一番の美少女と呼ばれている。
立花が変わったのは、二年の後半だ。
その頃から立花は女の子らしい恰好をするようになった。
いつも前髪で隠していた顔は、小学生とは思えないくらいに整っていた。
彼女が前髪を切って登校してきた日には、男子は頬を赤らめて立花を見つめていたのを覚えている。
「お母さんも誰も教えてくれないから、見て盗んだの。そしたら、いじめられなくなった」
立花をいじめていた女子も、手のひらを返したように「立花さん可愛い!」と言って仲間に引き入れていた。
「喋り方も、クラスで人気の女の子を見てマネしてみたんだよ」
無口で近寄りがたいと言われていた彼女の周りには常に人がいるようになった。
教室で周りに人がいないときは昼寝ばかりしているけど……
「笑顔は犬飼くんをマネしたんだけど」
友達なのかわからない生徒に囲まれて、彼女はいつも作ったような笑顔を浮かべていた。
「可愛いくないって殴られたの……私、犬飼くんの笑った顔好きなんだけどなぁ」
「……っ」
立花の口調は、それが日常のような口ぶりだった。
わからなかったその言葉が、痛いほどに、苦しいほどにわかってしまった。
「笑えるようになって、よかったね」
そう言って、立花はクラスメイトに向けている作った笑顔を俺に見せた。
「だったら、なんで」
立花は周りの動きを見て、自分を変えてきた。
そんな、周りを一番気にしている人間が――
「小林のこと、助けてくれたんだよ」
隠していた感情をむき出しに怒りをぶつけていたのか、気になった。
「えっ」
俺の言葉に、ゆっくりと立花の目が見開かれる。
「わからない」
「えっ?」
「気づいたら、手にほうき持ってたの……血が、こわくて」
「こわい?」
立花は目線を自分の足元に向けると足元にある砂を軽く蹴った。
「どうして、何も、悪いことしてないのに。血を流すのは、いつも、私の方で……あいつらは、服が綺麗で、泣いてなくて、笑ってるの。そんなの、そんなの……っ許せないじゃん」
「立花……」
立花の言葉は俺の胸に深く突き刺さった。
(そうだ、いつも、血を流すのは俺の方で……父さんは、いつも綺麗だった)
暗く沈んでしまいそうな思考になった時だった――
「遅くなってごめん!!!」
「っ!!」
薄暗くなった公園の入り口、こちらに向かって走ってくる友達の姿が見えた。
「本当に来た」と後ろから立花の戸惑ったような声が聞こえて、少し笑ってしまう。
「はぁっ、はぁっ……ごめん、2人ともっ。母さんが、ぼ、僕に握れって」
「えっ、それって、もしかして」
肩で息をする小林の手にはビニール袋が握られていた。
呼吸を整えると小林は俺たち二人の前を通り過ぎる。
俺たちは顔を見合わせると、無言で小林の後をついて行った。
「ほらほら、2人はココに座って!」
「えっ、うん」
ついて行った先にあったのは公園のベンチだった。
小林に勧められるまま、俺と立花はベンチに座る。
「えっと、僕、料理とかしたことなくて……その、美味しくなかったら、ごめんね?」
そう言いながら小林はビニール袋の中から野球ボールサイズのおにぎりを取り出して、俺たちに三つ手渡した。
握りたてなのか、手に持ったおにぎりは温かかった。
「あったかい」
「これ、本当に……小林が握ってくれたのか?」
おにぎりに目線を向けたまま、呟くようにして言えば「うん」と自信なさげな返事が返ってくる。
「おにぎり握る時って一回一回、手を水につけるんだけど、それ忘れて何回も火傷しちゃって、それで遅くなっちゃったんだ」
よく見ると小林の手はほんのり赤くなっていた。
「っ火傷してまで、俺たちのために、握ってくれたのか……?」
おにぎりを持つ手は震えていた。
手に持ったおにぎりが「俺たちのために小林が握ったおにぎり」だと思うとすごく、特別なおにぎりに見えてしまう。
胸に温かい何かが広がって、鼻がツンっとした。
「本当は母さんみたいに、綺麗な三角作りたかったんだけど」
「ま、まん丸だね」
「うっ……」
「具も、はみ出しまくりだな」
「うぐっ、ご、ごめんね」
「た、たべていいの?」
待ちきれないとばかりに立花が少し頬を赤らめながら小林を見上げる。
「えっ、うん。あ、温かいうちにどうぞ!」
「っいただきます!」
「い、いただきます」
小林に感謝して、丸くて温かいおにぎりに齧り付いた。
「っ!!おいしい!!」
「うまい」
久しぶりに食べた温かいご飯に、米の甘さに、俺たちは夢中でおにぎりを食べた。
一口、二口目と食べて行けば、中身の具が顔を出す。
「ん!この具って、もしかして鮭フレーク?」
食べながら小林に聞けば、不安そうな顔が少し和らいだ。
「うん。冷蔵庫探したら鮭フレークのビンがいっぱいあったんだ」
「へ~。いいよな、鮭フレーク。俺、好き」
「はじめて食べたけど、鮭フレーク?おいしいねぇ」
口元に米粒をつけて立花は笑った。
「っ!?」
不覚にも俺は、その笑顔に見惚れてしまった。
だって、今の立花すごく可愛かった。
はじめて、自然に見えた笑顔だと思った。
「おいしいっ、おいしいよ、小林君」
立花はあっという間に一つ目のおにぎりを食べ終えた。
そして、小林にお礼を言いながら二つ目のおにぎりに齧り付く。
「お茶もあるからね。2人ともゆっくり食べなよ」
俺たちの食いっぷりに小林は呆れるどころか、持ってきた水筒と紙コップにお茶を注いで、俺たちに手渡してくれた。
「お前、お茶まで用意してくれてたのかよ」
驚きながらお茶を受け取ると、小林は「僕じゃないよ。母さんが持って行けって言ったんだよ」と困ったように笑っていた。
「本当に、うめぇよっ、ほんとうに、さ」
噛み締めるたびに甘さが広がって、もっとゆっくり食べたくなった。
一気に食べてしまうのがもったいないって思ったんだ。
小林は綺麗な三角を握りたかったって言ってたけど、腹ペコな俺たちしてみれば、不格好で、丸くて、具がたっぷりのおにぎりは最高のごちそうだった。
「美味しいっ」
「よ、喜んでもらえてよかっ」
「すごく、おいしいよ……っうぅ、おいしいぃっ」
「た、立花さん?」
立花は手におにぎりを持ったまま、ぽたぽた涙を落としていた。
「っあったかくて、やさしいあじがするんだね…っお米って、こんなに、美味しいんだね…っ」
「!っ立花」
涙を流しながらおにぎりを頬張る立花を見ていると、視界が歪んで手に持っていたおにぎりが見えなくなった。
「うぅっ」
「っ泣くなよっ、立花ぁっ」
気づいたら、俺の頬に涙が伝っていた。
だって、温かいご飯なんて母さんがいた頃にしか食べてなくて
それから、毎日のように食べていたのは温かさの感じない弁当で……
「あったかいご飯っ、食べたことなくてっ」
「っきゅ、給食で……食べてるじゃんっ」
「ちがうのぉ!だって、だって……っこの、このおにぎりは、冬美たちのために小林くんが握ってくれたおにぎなんだもんっ!!」
立花がおにぎりを持ちながら首を大きく左右に振った。
そうだ、このおにぎりは、小林が手を火傷してまで、俺たちのために握ってくれたおにぎりなんだ。
「っふゆみのために、なにかしてもらったことなんて、なくて……っそれが、すごくっ嬉しいんだよぉっ!!」
そうだ、俺たちは傷つけられるばかりで……俺たちだけの、何かを与えてもらったことが無い。
泣きながら食べているせいか、ポロポロと何粒も米が口元から零れ落ちる。
そんな俺たちを小林は泣きそうな表情をしながらも、ポケットから取り出したティッシュで何も言わずに涙を優しく拭きとってくれた。
(っお前は、どこまで優しいんだよ)
服の袖で何度も涙をぬぐったけど、涙は止まらなくて、ただ袖に米が付くだけだった。
あぁ、米って、こんなに温かかったんだなぁ……
「ごちそうさまでした」
三つあった大きなおにぎりはあっという間に食べ終わってしまった。
名残惜しいけど、もう手元におにぎりはない。本当に、美味しかった。
自分のために作られた料理を久しぶりに食べた気がした。
満たされた腹に満足していると「犬飼くん、立花さんっ」と小林に名前を呼ばれた。
声のした方に目を向けて――俺たちは驚いた。
「!?えっ、な、なんで泣いてんだよ?」
「こ、小林くん?ど、どうしたの?」
小林は泣いていた。
「ちがっ、違うんだっ」
小林は袖口で涙をぬぐうと、一瞬うつむいてから顔を上げた。
その瞳は強く揺るぎない光を宿していて、俺と立花はその強い瞳に釘付けになった。
「2人は、きっと嫌がるかもしれないけど、ぼくは、優しい人が好きなんだっ!優しい人が、理不尽にいじめられて、お腹が減って、泣いておにぎりを食べる世界なんてっ、そんなの間違ってる」
「っ、小林」
「っぼく、母さんのこと絶対説得するから!毎日は、無理でも、週に1……いや、3回っ!今日みたいに、2人のために。おにぎり、握ってもいいかなぁ?」
「小林くん……っ」
「おまえっ……どこまで、優しいんだよ……」
おにぎりを無心で食べている間に小林はずっと俺たちのことを考えてくれてたんだろう。
そう思うと、胸がぎゅっと苦しくなった。
(でも、嫌な感じじゃない。すごく、心地のいい苦しみだ)
立花も同じようで、止まっていた涙が瞳からあふれ出ていた。
「っいいの?そんなに、甘えて、わたし、友達じゃないのに」
「っだったら、俺たちと友達になろうぜ」
「え?」
「へ?」
俺の言葉に二人が振り向き間抜けな声を出す。
間抜け面の二人に俺は満面の笑顔を浮かべた。
「友達になろうぜ!俺は、小林を守ってくれたお前なら、友達になってもいいなって思ってるけど」
「っぼ、ぼくも!その、立花さんが嫌じゃなければ…友達になりたい!」
俺の言葉に続いて小林も遠慮がちに声を上げる。
立花は涙で濡れる瞳を大きく開いたかと思うと、袖口でゴシゴシと涙をぬぐった。
「っな、なりたい!!小林くんと、犬飼くんと、友達になりたい!!」
「び、びっくりした~。お前、そんな大きな声も出せるんだな」
「その、勘違いしないで欲しいの!わた、冬美は、おにぎりが食べたいから友達になりたいんじゃない!
二人だから、友達になりたいの!!!」
公園に響くほどの、立花の大きな声に俺は胸が熱くなった。
(そうだよな。自分を気にかけてくれる相手がいるってだけで、嬉しいよな)
俺がそうだった。アイツが何気なく俺に渡してくれた絆創膏で俺の世界が広がった。
自分一人が不幸だと思っていた俺に、アイツは一人じゃないと教えてくれた。
「えっと、じゃあ……明日から、友達としてよろしくね!立花さん!」
小林は照れ笑いを浮かべて、立花に手を差し出した。
「冬美でいいよ!冬美って呼んで欲しい!私も、誠くんって呼ぶから」
立花はその手を優しい笑みを浮かべながら、強く握り返した。
「えぇっ!?その、い、いきなり名前は僕のハードルが」
「お、いいな。俺も明日から誠って呼ぶわ!」
「犬飼くんまで!?あの、僕、下の名前で呼んだことなくて」
「冬美いいこと思いついた!明日からみんなで登校しようよ!待ち合わせ場所はこの公園!」
立花は勢いよくベンチから立ち上がると、公園の真ん中をくるくると嬉しそうに回った。
そこには、いつも作っている笑顔はなかった。
立花は子供らしい自然な笑顔を浮かべている。
「お、いいじゃん。じゃあ、7時集合な!」
俺も立花と同じように立ち上がると、そのまま小林の手を掴んだ。
「わっ、ちょっと2人とも話聞いて!?」
転びそうになりながらも、小林は俺に引っ張られて、立花のところにたどり着いた。
「もう夜も暗いし、みんなで帰ろうぜ!」
「そ、そうだね。じゃあ、僕と犬飼くんで」
「孝志」
「うっ、た、孝志くんで立花さんを」
「冬美だよ?」
「ふ、冬美、さんを家まで送るよ」
「えへへ、じゃあ誠くんの、お言葉に甘えさせてもらおうかなー」
「んじゃ!行くか、誠。荷物、俺が持つよ」
「あ、ありがとう。いぬ……孝志くん」
「はは!早く慣れなきゃだね!誠くん」
「が、がんばりますぅ」
慣れない名前呼びに苦戦している小林に俺たちは笑って二人で小林の手を引っ張った。
「ありがとな、誠」
「ありがとうね、誠くん」
この言葉はきっと後ろにいる小林には聞こえていない。
二人だけに聞こえた言葉。
だから、俺たちは互いに驚いたように顔を見合わせて――
「あははっ!」
「ははっ!」
笑った。
◇◇◇
「……ゆめ、か」
体に感じる気怠さと熱で自然と目が覚めた。
布団から起き上がり、周りを見渡してみる。
(ここ、どこだ?広いし、俺の部屋じゃない)
「あ。そうか、シェアハウス?だっけ?」
ベッドの上で数分ぼうっとしていると、次第に目が覚めて自分の状況を思い出す。
それにしても、体が重くてダルい。
「シェフが運んでくれたのか?」
昨日、俺はシンさんと契約をした。
腹にシンさんの腕が埋め込まれたところまでは覚えている。
あとは……激痛で、何を話したのか、対価が何だったのかすら覚えていなかった。
(まぁ、それは後でシェフに聞けばいいか)
それにしても、体が熱くて重い。
「けほっ!あー、これはあれだなぁ」
この症状は、ちょうど夢で見たから覚えている。
「誠に、メイドの話したかったんだけどな、ゲホッゲホッ!」
本当なら今日、影の能力で得たメイドの情報を話す予定だった。
(これは、結構ヤバイかもしれない。)
「あー…シェフ~」
俺は布団にできた影に向かって声をかける。
誠の次にできた、頼ってもいいと思った悪魔。
「風邪引いたかも」
俺の声に反応するように影は大きくぐにゃりと動いた――
最後まで読んで頂きありがとうございました!!




