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第18話『契約』

【登場人物】


まもる:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。


冬美ふゆみ:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。


孝志たかし:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。


五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。

放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこには“ある理由”が…。

悪魔に騙されたことにキレている。



【登場する悪魔たち】


放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに“異質”。誠たちを翻弄する存在。


宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、“時計”の役割も果たしている。

名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。


シェフ:この空間の専属『料理人』。無口で寡黙、人間があまり好きではなく、長話も嫌い。料理に対するこだわりは現実のプロと遜色なく、「料理に関しては嘘はつかない」という姿勢に、誠は“他の悪魔とは違う”ものを感じている。



(以降、悪魔たちは順次追加予定)











「…あのさ、放課後の悪魔のルール聞いてから、ずっとわかんねぇことがあって…」


 緊張した空気の中、沈黙を破ったのは隣に座る孝志だった。


「孝志?」


 孝志は真剣な表情でカップの中の紅茶に目線を落として迷いながらも言葉を続けた。


「悪魔の能力を聞いたとして

 それで強い悪魔か弱い悪魔ってわかんの?


 今、シェフの能力聞いて…

 その、気ぃ悪くしたらごめん…。

 

 正直、「うわ、コイツ最強だ!」って感じはしなかったんだよ」


「…なかなか鋭い質問だな。馬鹿そうに見えて核心をついてくる」


「え?馬鹿?」


「その通りだ。弱い悪魔、強い悪魔は見た目や能力だけではわからん」


「は!?そ、そしたら、契約する意味ないじゃないか!!」


 シェフの言葉を聞いて僕は怒りに立ち上がった。


 味覚を失う恐怖もあって、少し気が立っていたのだろう。

 膝がテーブルにぶつかって、ガチャンッとカップがうるさい音を立てる。


 (騙された!やっぱり、悪魔が作るルールなんて最初から“フェア”じゃなかった…!)


「落ち着いて話を聞け。

 アイツが言ったルールを思い出せ。

 そして、しっかり考えろ」


「ルールって…確か、悪魔一人一人、能力、契約の対価が」


「違う、そのあとだ。そのあとが重要なんだ」


「あとって…確か…」



『ココはな、五十嵐くんの願いを叶えるための空間であり


 おじさんの『暇つぶしのゲーム』やねん。

 悪魔はな、楽しいことめっちゃ好きやねん!


 もし、キミらがこの空間を出たいと思うなら――


 強い悪魔を見つけて、契約して、おじさんを殺してな~』



「!…そうか」


 シェフが言ったとおりだ。


 冷静に言葉を整理すれば、本当の意味が理解できる。


「最初と最後で『言葉の意味』が違うんだよ。」


「言葉の意味が違うって、どういうことだよ?」


「僕たち、強い悪魔って言葉に気を取られてたけど…


 あれって「強い悪魔と契約しろ」って意味じゃなかったんだ。


 本当に大事なのは最後の言葉—


 強い悪魔を『見つけて』ってとこ!」


「?つ、つまり、どういう意味だ…?」


 僕の説明に孝志が頭上にハテナマークを浮かべている。


「契約は見つけた後の話なんだ。

 だから、強い悪魔を見つけるためには、

 他の悪魔の能力を使わなきゃいけないんだ」


「!じゃあ、悪魔と契約するのは、絶対条件ってことだったのかよ」


「うん。シェフの話が本当なら、たぶんアイツもココに集められた悪魔の能力を知らない。まぁ、アイツの場合そこも楽しんでる可能性あるけど」


「いや、絶対楽しんでるだろ。自分が殺されることも含めて」


「…やっぱり僕、悪魔って苦手かも」


「得意なやついねぇだろ」


「…それで?どちらが俺と契約するんだ?」


「…」


「……」


「おい、いい加減キレていいか?」


「まっ、いやっ、申し訳ないと

 思ってるんですよ!


 でもっ、味覚ってすごく、すごく大事なものなんですよ!?


 失ってはいけないモノなんですよ!?


 そんなっ、そんな…カンタンに

 決められるわけないじゃないですかっ!?」



 僕はキレた。


 清々しいほどの逆ギレである。



「すげーな誠、悪魔相手に逆切れしてる」


 孝志の呆れた声を横に聞きながら、僕はカップに残った紅茶を一気に飲み干した。


「っぷは、焼きたてパンの味が感じられなくなるのは嫌だ!」


「お前どんだけ焼きたてパン好きなんだよ」


「漫画とやらの影響を受けすぎだ。

 悪魔を甘く見るな。

 泣いても喚いても契約は絶対だ。」


「…っわかってますよ」


 シェフが正しい。

 僕は自分の見てきた緩い悪魔のイメージをシェフに重ねていた。


 (だから、僕は覚悟を決めるためにも飲んだんだ)


  ―――最後の紅茶を。


 味覚を失う怖さに、カップを持つ手が震えていた。

 

(ここで迷うな。覚悟を決めるんだ…)


「…誠、無理なら俺が」


「ううん。僕が言い出したことだから、僕がやる」


「誠…」


 契約する悪魔は一人じゃない。

 過去を見れる悪魔を探して、契約しなきゃいけないんだ。


 どうしてこの空間を作ったのか…。

 五十嵐くんが話してくれないなら――


 僕たちで『見る』しかない。


「孝志はもう一人の…悪魔と契約して欲しいんだ」


「それはわかってるけど。

 でも…シェフの話が本当なら…


 その、俺たちが欲しい能力を持ってる悪魔がいない可能性だってあるんじゃねぇのか?」


「!…っそれでも、僕は契約するよ。だって…他の悪魔も知らない能力をシェフは、教えてくれたんだよ?逃げるなんてこと、 できない」


 (あれ?僕は、何言ってんだろ?)


 混乱する頭に、責任感と恐怖する心に押しつぶされそうになって今の僕は、正常な判断能力を失っていた。


 さっきからずっと、僕を見るシェフの赤い瞳から目が離せない。


「僕が、契約しなきゃ…」

(でも、契約したら…味覚を失う…)


 自分が今、ちゃんと呼吸をしているのかすらわからない。


 ぐるぐると世界が、視界が回って、気持ち悪い。



 (息がうまく吸えない。心臓ばかりが暴れて、脳に酸素が届ていない気がする)


 「ぼくが、やらなきゃ…っ」


 (吐きそうだ。でも、シェフがせっかく淹れてくれた紅茶を、吐くなんて、できない…)











「っ教えたのは、契約してもお前が逃げられないからだろ!?」


「っ!?」


「もし、探している悪魔がいなかったら、お前の対価が無駄になるんだぞ?」


「…えっ」


「正社員、なるんだろ?」


「!」


 歪んでいた視界に、孝志の真剣な表情が映る。


「俺は、バイトしかしたことねぇから、テレビの知識しかねぇけどさ。

 飲み会とか、付き合いとか、そういうのってあるんじゃねぇの?


 味覚失ったら、お前、絶対変な目で見られるんだぞ?」


「孝志…」


「俺は…っ頑張ってるお前が、そんな目で見られるくらいなら…









 俺がやる。」



「!?な、なに言ってるんだよ孝志っ!」



 ダメだ。孝志だって、ココから出たら仕事が、


 (お父さんにご飯作るんだろう?)


「…大丈夫」


 (お父さんと一緒にご飯食べるって…)


 孝志は唇を震わせて今にも泣きそうな顔だった。


 それなのに…本当は僕と同じくらい怖いくせに…

 

 僕を安心させるためなのか、孝志は口角だけを引きつらせて、笑っていた。


「ダメだ。ダメだよ…孝志…っ」



「シェフ…俺と」



「孝志っ!!」













「『契約』してくれ」





















『承知した』




「!?あ゛っ痛っっ」


 突然、複数の人の声が重なったような不協和音が頭に直接響いた。

 強烈な頭の痛みに、脳がグラついて視界が二重に見える。


 (なんだこの音、人の声?頭が、割れるように痛いっ!気持ち悪い…!聞いてるだけで吐き気がする…っ)


「一体、何が起きて…っ」


 僕は痛む頭を押さえながらも、シェフの方に顔を向けた。




「…えっ」


 


 ――いない。



 さっきまで目の前に座っていたシェフが消えていた。




「っどこ、に…」





「あがっ…っ」



「!?」



 隣から聞こえてくる、苦しげな声。



「たか、し…っ」


 声のした方に顔を向けると、孝志の背後にはシェフが立っていた。


 (いつの間に、移動したんだ…!?)


 シェフは片手で孝志の首を押さえ、指先を使い顎を上向きにすると、もう片方の手の人差し指と中指で孝志の舌を引っ張り出している。


 そして、ブツブツと小声で何か呪文のようなものを唱えていた。


 孝志の顎を抑えるシェフの太くてがっしりした浅黒い手からは、黒いオーラがゆっくりと立ち上っていた。


「ぅあ…っは…ッ」


 開きっぱなしの口からは唾液が零れ落ち

 それが首筋を伝い、服に黒いシミを作っている。


 孝志の瞳からは、涙が止めどなく流れ落ちていた。


 (体が、動かない…っ声も、出せない…っ)


 苦しむ孝志に少しでも何かしてあげたいのに、僕の体も、声も、本来の役割を忘れたように機能してくれない。



 (孝志…っ…っ孝志…っ)


 心の中で、必死に、何度も何度も

 孝志の名前を呼び続けた。


 (動けっ!動けよっ…!友達が、苦しんでるんだ…っ!)


「ぐっ…うぅ…っ熱いっ」



 声も出せない。



『いま、味覚を取っている。大人しくしてろ』



「はぁ…っいひゃい(痛い)」




『もうすぐ終わる』




 僕は、ただ涙を流して




「ううッ…ゥぐっ…はぁ゛…痛っ」



 親友が、苦しんでる姿を—―



「痛っ…っぁ゛あ゛…っっ」



 



 見ていることしか、できなかった…

















『…終わったぞ。〖ご主人様〗』



 顎を固定していたシェフの手が離されると、孝志が体をくの字に曲げて盛大に激しくせき込んだ。


「っゲホッ!…ッゲホっっ!!あぅ…っはぁ…クッソ、マジで…いってぇ…っな」


「た、たかしぃ゛~」


 体の硬直が溶けた瞬間、僕は泣きながら抱き着いた。


 男同士とか関係ない。


 少しでも孝志がちゃんと僕の隣に”存在しているのか”確認したかった。


 (ごめんっ…ごめん…っ)


 体も動かせない。声も出せない中で、ずっと…孝志の苦しそうな声や泣いてる姿を見ていた。



 ――いや、見てることしかできなかった。


 大切な友達が殺されるんじゃないかって、怖かった。


「ゲホッ…っなんで、お前が泣いてんだよ」


 孝志が呆れながらも僕の涙を袖で拭ってくれる。


「っだって、怖かったんだ…っ孝志が、し、死んじゃうじゃないかって…っ」


 (僕のせいで、僕が、直前になって怖気づいたから)


「殺すわけないだろう。五十嵐様より殺害は禁止されている」


 孝志の背後にいたシェフは、目の前のソファーに座って優雅に紅茶を飲んでいた。

 

 紅茶のカップを持とうとしたところで、右手に付着したものに気づいたシェフが流れるようにその――


 孝志の唾液を舌で舐めた。


「なっ!しぇ、シェフ…!?そ、それ、た、たかしの」


「?どうした」


「ど、どどしたって」


 (なんで舐めたの!?)


「驚く意味がわからんな。契約した時点で契約者の体も体液も、等しく俺のモノだ。」


「!!?」


 (エロい…!なんだこの悪魔、エロいぞ!?)


「孝志!」


 友達の貞操に危機感を感じて、僕は少し顔を赤らめながら孝志の肩を強くつかんだ。


「僕から絶対に離れないでね!!絶対だよ!!」


「えっ、どうしたまも」


「絶対だよ!!」


「?おぉ、わかった」


「…騒がしい」


 紅茶を飲みながらシェフが本当に迷惑そうな顔で僕を見る。


(いや、あんなの見たら誰だってビックリするし、警戒するよ!)


「あ…本当に味しねぇ」


 味覚が無くなったことを確認するためか、

 孝志は紅茶を一口飲むと、つぶやくように言った。


「孝志…っごめん」


「ん?気にすんなって」


「気にするよ…だって、ココから出ても、孝志は美味しいもの食べられなくなるんだよ?」


(気にしない方が無理だ。)


「うまいもん食えなくなるのは困るけど…でも、俺は…父さんのところに帰りたいから」


「…っそうだね…ごめん、ありがとう。僕は、このことについて…もう何も言わないよ…っ」


「おう。そうしてくれると助かるわ」



 僕と孝志には帰りたい理由がある。

 そのために、ココまで来た。


「…次の契約は、僕が絶対するから。…もう、怖気づかないよ」


「あぁ、そんときは任せた」


「うん!」


「…なぁ、シェフ。今ので、契約は終わったのか?」


「あぁ、ご主人様は」


「あの、そのご主人様ってのやめてくんね?なんか、恥ずかしい」


「なら、なんと呼べばいい?」


「えっ、うーん…孝志でいいよ」


「承知した。…孝志、契約は完了した。」


「マジで?俺、影の中に入れるのかよ?」


「おい。俺の能力に関わる言葉は喋るな、絶対にだ」


「あっ、ごめん」


「孝志、体は大丈夫?具合悪いとこない?」


「うーん、味感じなくなったくらいで、あんま実感がー」




 言いかけたところで、孝志の手に持っていたカップが傾いた。


 中に残っていた紅茶が、びちゃっと絨毯の上に零れ落ちる。



「えっ」



 ドサッという音と、膝に感じる重み。


 目線を下に向けると僕の視界には、明るい髪色が見えた。



「孝志…?」



 突然のことに、孝志が僕の方に倒れてきたのだと理解するのに時間がかかった。





 そして、僕も――




「あ、れ…なんか」


 ( ねむ、い…)


 抗うことのできない強烈な眠気に襲われた僕はそのまま、孝志の上に折り重なるように倒れた…。



( なんで、いきなり眠く…?ダメだ…眠い、孝志は……シェフ…)














『おやすみさないませ、誠サマ』









◇◇◇






「今回使った、砂糖は失敗だったな」


 最後の一口を飲み切ると、カップを静かに置いた。


「明日、新しいのを注文しよう」


 飲み終わったカップを置いて、目の前のソファーに折り重なるように眠る子供たちへと目線を向けた。


 中身は高校生らしいが、俺からしてみれば赤ん坊のようなものだ。


「朝の仕込みのためだ。薬を盛った、すまんな」


 コイツ等は特に無駄に時間を使う傾向があるからな。

 だから紅茶に『睡眠薬』を盛らせてもらった。


 テーブルの上の食器をキッチンに運んで、ポケットの中から人形を一体取り出し、ふうっと息を引きかける。


 すると、人形はエプロンと頭巾をかぶった顔の無い人間の姿に変わった。


『お呼びでしょうか、ご主人様』


「洗い物を頼んだ」


『承知いたしました』


「さて…まったく、なんで俺が子供の世話など」


 一人は俺の新しい契約者だが、もう一人はただの子供だ。


 子供が寝てる手前、『シェフ』でいる必要はないだろう。

 帽子を消して、上着を脱ぎ、楽な格好に戻った。


 寝てる子供の一人、孝志を抱きかかえると

 皿荒いを終えた人形から歯ブラシを受け取る。


 そして、主人を膝にのせて歯を磨いてやった。


「虫歯になられたら困るからな。それにしても…



 灯台下暗しというやつだな『宇佐美』」


 主人の歯を磨きながら眠る子供の傍らにいる『使い魔』に声をかける。


『えぇ、まったく。そうでございますね、ご主人様』


「コイツ等はいつ気づくんだろうな…


 求める能力の一つ…


 『記憶を読む』悪魔がすぐ近く…

 お前であることに」


『それはわかりません。教える気もございません』


 可愛いウサギは前歯を出してくすくすと笑った。


 子供にはただの可愛いウサギに見えている使い魔に宿る能力は俺が“他の悪魔から奪って与えた”ものだ。


「あれだけ廊下でデカい声で話していれば、嫌でも耳に入ってくる」


 別に俺は心読んだわけではない。心は読めないからな。

 悪魔は耳がいいんだ。地獄耳ってやつだ。


『それにしても漫画や本で知った程度の知識で悪魔と契約するだなんて』


「知らないのは当たり前だ。本物の悪魔を知ってる人間などほとんどいない。」


『あぁ…!なんと人間とは愚かで、間抜けな生き物なのでしょうか!!はぁ~とても、いとおしいですぅ…』


 「正直、お前を連れてこの子供が来たときは驚いた。…俺が能力に関して話をしているときも、コイツ等はお前を悪魔だと認識していなかった」


 能力は他の悪魔に知られてはいけないと話をしていた時、子供は、隣に座るウサギに目線すら向けていなかった。


「見た目というのは恐ろしいものだな。宇佐美」


 と、少し呆れたように言うとコイツは、

 ゲラゲラと可愛さの欠片も無い下品な笑い声をあげた。


 『だから宇佐美は、この姿が大好きなのでございますよ。ご主人様』


 俺からしてみれば宇佐美は可愛さの欠片もない、悪魔みたいなやつだ。

 まぁ、俺も同じ悪魔だ。宇佐美のことは言えない。



「…聞かれたときに答えればいい。聞かれなければ黙っていろ」 


『えぇ、もちろんでございます』


「…契約と聞けば、人間は勝手に大層なものだと思い込む。

 『使役』という対価なしの軽い契約もあるが…」


(それこそ、知ってる人間の方が少ないけどな)


「まぁ、俺がわざわざ教える義理も無い」


 俺が今まで契約した人間には子供もいた。

 しかし、皆、対価を知ると「やめてください」と命乞いをしてくる人間ばかりだった。


(味覚は人間にとって生きる上で必要な物だ)


 コイツは、孝志は…すべて聞いたうえで俺と契約をした。


 「あの説明を聞いて迷いなく契約すると言ったときは正直、驚いた…。珍しい人間だ」


(“毒親持ち”の子供特有さは、あるが…)


「俺が見てきた人間は『自己防衛』タイプが多い。コイツの、異常なまでの『自己犠牲心』は、なんだ?」


 考えながら、もう一人の子供に目を向ける。


 もう一人の子供には、終始表情に“迷いが見えていた”


 人間の中によくいる。

 テンプレートのような子供だと思った。


 だから、考える時間を与えないように逃げ道を塞いだ。

 あの子供は自分のせいで友達が犠牲になったと責めていたが…


「まぁ、自己犠牲でもなんでもいい…」


 それは、間違いだ。


 俺はあの二人が部屋に来た時から――




 孝志が迷いのない目をしていたのに気づいていた。




「俺は、道を補正しただけに過ぎない」



 元々、欲しかったものだ。

 利用する手はないと思った。



「あの子供には、魂はモノであると言ったが…」



 それは、興味のない人間に限った話で

 “悪魔が欲しいと思った人間は別だ”。



「…人間はすぐ死ぬ」


 俺は空いた方の手で、ゆっくりと主人の頭をそっと撫でてやる。


「死んだら“神の元”に戻ってしまう」


 人間である限り、人間は作り出した神のものだ。

 契約して共に地獄に堕としても、必ず転生してしまう。


 ずっと手元に置いておけない…。


 俺たち悪魔はそれが気に入らない。


 だから、対価で“一部”を奪う。

 転生しても、匂いでわかる。気配でわかる。


 何度でも探し出して―――






 “俺のもの”にするために。



「…」


 眠る子供の胸元に静かに手をかざすと、人には見えない『魂』が現れる。


『おぉ~!これは、なんと美しい~』


 現れたものを見て宇佐美が歓喜の声を上げる。


 孝志の魂は、周りの景色が透けて見えるほど透明で美しかった。まるで水晶のようだ。


 (ここまで澄んだ魂も珍しい…)


 澄んだ魂は悪魔にとって『宝石』のようなもの。

 人間でその『宝石』を持っているのは、本当に稀だ。



「…懐かしいな」


 この色を見ていると――


 まだ俺が“人間だった頃”を思い出す。



 故郷の村近くの砂浜に、たまに流れつく透明で綺麗な石があった。

 俺はそれを集めるのが好きで親友と一緒に海に行っては、その石を集めて“宝物”にしていた。






『テオ!いつもありがとう』



『気にすんなって!真面目で仕事人間の俺の友達が、唯一好きなモノなんだ。手伝うに決まってるじゃん!』



『あぁ、本当に綺麗だ…。もしかしたら、この石は“神様の落とし物”なのかもしれないな…こんなにも美しいものが、人間の物であるはずがない』







『そうだろうな。神様は、いつだって俺たちのことを見守ってくださっているんだ』






「…さて磨き終わった。」


 (少し、嫌なことを思い出してしまったな…)


「…はぁ、もう一人も磨いてやるか」


 磨き終わった主人の体を隣に寝かせると、

 向かい側に眠る子供に向けて手を伸ばす。


 手首を返し人差し指を上にあげる。

 すると、ふわっと子供の体が宙に浮いた。


 浮き上がらせた状態でそのままゆっくり膝の上に降ろしてやる。


『孝志さまだけでよいのでは?』


 ソファーからテーブルに飛び移った宇佐美が呆れたような声を出しながら俺を見上げてそう言った。


「コイツは騒がしいし、うるさいが…飯の食べっぷりは見てて気持ちがいい。虫歯になったら、それも見られなくなる」


『はぁ、ご主人様は本当にお優しいですね』


「料理のためだ。人間のためではない」


『はいはい。そいうことにしといてあげます』


「…」


『ご主人様がお気に入りなのも理解できます。




 ……まったく、面白い子たちです。


 人間というのは、本当に、飽きませんねぇ』





 宇佐美は、黒くつぶらな瞳を細めると

 眠る子供たちを見下ろして微笑んだ。














最後まで読んで頂きありがとうございました!

今度からあとがきを短くします。

読みやすさを優先するためです!

感想や応援など頂けましたらとても嬉しいです!

(裏話やちょっとした話は活動報告に書く予定です)


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