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第13話『戻りたい理由』

【登場人物】


まもる:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。


冬美ふゆみ:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。


孝志たかし:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。


五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。

放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこには“ある理由”が──。




【登場する悪魔たち】


放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁で話すが、ときどき標準語に戻るのが逆に怖い。常にテンションは軽く、距離も近い。見た目は人間のようだが、明らかに“異質”。誠たちを翻弄する存在。


宇佐美:誠専属の『コーディネーター』。時間や場所を問わず服を用意できる能力を持ち、寸分の狂いもなく時間を把握できるため、“時計”の役割も果たしている。

名前は『宇佐美』。白くふわふわした毛並みを持つウサギの姿をしている。


(以降、悪魔たちは順次追加予定)








「あれ?そういえば五十嵐くんは?」


 階段を一段下りたところで前を歩く孝志に声をかける。


「さっきまで一緒にいたぜ。でも、あいつ…お前になんか気ぃつかったみたい」


「…そっか」


 …本当は、廊下を出た時から五十嵐くんがいないことには気づいていた。

 そして、孝志の言うように彼なら僕に気を使うのはわかっていた。


 食堂まで、彼の不在を追求しないまま行くことは出来る。

 でも、せっかく孝志が繋ぎ止めてくれた“細い糸”を僕の感情だけで切りたくはなかった。


「…僕は、五十嵐くんがやったこと許せないよ…。

 でも…五十嵐くんって意味のないことは…」


 腕の中にいる宇佐美の頭を撫でながら言葉を続ける


「絶対にしないのは…友達だから、知ってる」


 声を絞り出すように言えば孝志が

 ふっと小さく笑って、自分の左手を見た。


 その手は―――

 

 さっきまで五十嵐くんの右手を握っていたほうの手だ。



「…そうだな。俺らの中でアイツが一番頭がいい。

 頭のいい奴ってさ…きっと考え方も見えてるものも、違うんだよ…」


「……なぁ、孝志…放課後の悪魔が言ってたこと覚えてる?」


「ん?あぁ…強い悪魔を探して自分を殺せ?だっけ」


「うん。でも、それ以外にも言ってただろ?

 “悪魔一人一人、能力、契約の対価が違う”って」


 ベットに横になっていた時にずっと考えていたことがある…



「…この空間にいる悪魔の中に…


 “人の記憶が見れる悪魔”っていないのかなって…」


「!お前、まさか…五十嵐の記憶を見るつもりなのか!?」


 孝志が僕の方を見上げて驚いたような声を出した。


 声に驚いた宇佐美から腕から落ちて孝志の足元にいた猫田とぶつかり

 そのまま2匹はじゃれあいを始めた。…可愛い。



「…リスクがあるのはわかっている」


 記憶が見れる悪魔を探すということは――


 もう一人の悪魔と“契約”するということだ。


 僕たちはまだ、あの部屋にいた悪魔たちの

 能力、契約条件、対価すら知らない。


(僕一人なら無理だ…)


 でも、孝志に協力を頼むとしても、僕には“確認”しなければならないことがある。


 

 もう僕は、勝手に決めつけて

 “心で完結”させることはしない。



「…あのさ、孝志は……



 元の、世界に戻りたい?」


「!」



 僕の問いかけに孝志の目が見開かれる。

 たぶん、聞かれるなんて思ってなかったのだろう。



 冬美が戻りたくない理由は、彼女の家庭環境を考えれば納得できる。



 それと同時に、僕は――



「孝志が戻りたくないと言っても…納得できるんだ」


「誠……俺は」


 孝志は拳を強く握るとうつむき、視線を地面に迷わせた。


「冬美が、戻りたくない気持ちもわかるよ。

 この空間には何でもそろってる。


 俺が無理して働いて金稼がなくても、餓死もしなければ…


 誰にも殴られない世界だ。…最高だよな」


「うん、そうだね」


 僕は孝志が言葉を続けやすいように相槌を返した。

 だけど、僕は孝志の話を聞いて少しだけ不安になってしまう。


 (…最高って、やっぱり孝志も、冬美と同じで戻りたくないって思ってるのかな)


「でもさ、俺は…やっぱり父さんを…見捨てられないから…」


「!…孝志」


「お前が五十嵐を許さないように、俺は…


 父さんが俺にしたこと、許すつもりはねぇよ。


 でも…俺の頭にはさ、一人で酒飲んで泣いてる

 父さんの後ろ姿が、記憶の中から離れねーんだ」


 孝志は唇を強く噛み締める。


 その唇は、次に吐き出す言葉に迷い、

 何度も開いて、閉じたりを繰り返していた。


「俺、だけなんだ…あの背中守ってあげられんの。

 大人になったら、守るって決めたんだ」


「…孝志」


 きっと、孝志の頭の中には殴られた記憶だけじゃない。


 お父さんに遊園地に連れて行った記憶も

 病院の帰りに内緒で連れて行ってもらったランチの記憶も…

 

 幸せな記憶と、辛く痛い記憶が…


 交互に全部が映像のように流れているのだろう。



「でも、孝志は卒業したら一人暮らしするって」


「…俺が出て行ったら、父さんまともなご飯なんて食べれないだろ?

 だから、晩飯は俺が作って食べさせてぇなって。


 酒も用意するけど、少なくすれば父さんも暴れたりしないと思うから」


「…まさか、あの『まかないが出るから』って言ってた理由って…」


「あー……実は、料理の勉強も兼ねてたんだよな。

 なるべくバランス取れた飯、作ってやりてぇじゃん?」


「!…はは、孝志は…ほんとうに…っほんと、すごいよ」


 孝志は幸せな記憶も辛い記憶も、全部受け入れて。

 それでもお父さんを大切にしたい気持ちが勝ってしまうんだ。


 (僕は家族に殴られた経験が無いから、孝志の気持ちを一生理解することは出来ない…)


 だけど、孝志はこんなにも辛い経験をしているのに

 いつも僕たち家族の話を楽しそうに聞いてくれるんだ。



 まだ、孝志と友達になったばかりの頃の話だ。



 他の家族の話なんて孝志には聞いてて辛いだろうって思って、なるべく言わないようにしてたら、意図時に避けてるって孝志に気づかれて、正直に話したら逆に孝志に怒られた。




『そんなのイチイチ気にすんなよ。俺の家は、俺の家!お前の家と比べることなんてしねーし!俺さぁ、誠の家族の話聞くの好きなんだ』


『でも、孝志は、その…辛くないの?』


『…それやられる方が、同情されるよりキツイ』


『!ご、ごめんっ、でも僕は同情なんて』


『あー、悪い。別に怒ってるわけじゃねぇから…俺にとって誠の家族はさ、ショーケースの中のケーキなんだ』


『ケーキ?』


『ほら、売り物じゃねぇ何段にも重ねられたケーキあるだろ?俺は、昔からアレ見るの好きでさ、一人で見に行ってたんだ』


『孝志…』


『欲しいとも、買えるとも思ってねぇ…無駄な感情も湧いてこない』


『…』


『だからさ、お前が心配することは起きねぇし。俺は外側から聞く、家族の話が好きなんだよ…』





「…僕はね…家族が大好きなんだ」


 母さんは厳しいし、妹は僕を少し下に見てる。

 父さんは普通に優しい。


 でも、毎年みんなの誕生日を必ず祝う家だった。


「クリスマスには父さんと妹と一緒にフライドチキンを買うために毎年、行列に並ぶんだ」


「あのフライドチキン屋ってクリスマスのときすげー混むもんな」


 僕の家族の話に、沈んでいた孝志の表情が少しだけ明るくなる。


「そうなんだ…寒いなか待ってるからさ、退屈した妹がよく僕のポケットの中に手入れてくるんだ。冷たくてビックリして、おっきい声出しちゃってさ…列に並んでる人たちに迷惑そうな顔で見られちゃって」


「ははっ、誠かわいそ~」


 お正月の日にはみんなでおみくじを引き行って、見せあいっこするんだ。 


 いつも仕事で忙しい父さんはイベントごとに積極的に参加してくれる。

 妹もクリスマスやお正月は友達よりも家族を優先してくれる。

 疲れた顔してる母さんも家族と美味しいもの食べてる時は楽しそうに笑ってくれる。


 僕は、そんな日常にある幸せな瞬間が大好きで、大人になったら家族が“無償”でしてくれたことを返したいって思ってるんだ。


「大人になったら、クリスマスのケーキもチキンも僕が買うんだ。

 お正月は、家族みんなに特上寿司食べて欲しい。


 五十嵐くんのとこで食べたお寿司すごく美味しかったから

 家族にも食べて欲しいんだ」


「そっか…いいな、そういうの…」


 相槌を打っていた孝志が少し寂しそうな表情を浮かべる。


 僕は小さな手で孝志の両手を強く握った。


「…っ」


 (指先が、ザラザラしてる)



 子供の手なのに、孝志の手はザラザラで固かった。



 この手はきっと、お母さんがいなくなってから、小学生でもお父さんのために出来ることを探して頑張っていた手なんだ…。

 


「孝志もできるよ!」


「えっ」


「大人になったら、出来ること沢山あるんだ!」


 あの頃、孝志は小学生だった。

 だけど、今は違う。


 ショーケースの外側から見ることも、聞くことも出来ない家族の話を、取り戻せる未来があるんだ。


「クリスマスになったらお父さんと一緒にランチに行ける、お正月だって、一緒にお寿司が食べれる!遅いなんてこと…


ううん、孝志のお父さんを大切にしたいって気持ちは…っ

絶対なんて、言えないけど…っ伝わるって信じてる!!」


「誠…」


「だから、悪魔を倒して、みんなでココから出るんだ!絶対に!!」


 孝志には家族を諦めて欲しくない。

 ここにずっといたら、小学、高校と積み上げてきた孝志の頑張りが…


 全部…全部、無駄になる。


「僕は…ココから出て、4人でクリスマスパーティーも

 お正月のおみくじだって、一緒に引きたい!!」


「誠…」


「あとっ、あとは…っ」


 気づいたら、僕の瞳からは涙があふれていた。


「孝志が、お父さんと…一緒に、並んで歩いてる姿が、見たいよ!!」


「!っ誠…」





 だから帰ろう。



 厳しくても、辛くても




 沢山の小さな幸せが溢れる







 僕たちの世界へ…











最後まで読んで頂きありがとうございました!


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