第12話『宇佐美でございます!』
【登場人物】
誠:主人公。友達思いの優しい高校生。現在の姿は小学生。家族が大好きで早く元の世界に戻りたいと思っている。冬美のことが好き。
冬美:元気で明るい美少女。現在の姿は小学生。家庭環境が複雑で、この空間に残ることを望んでいる。
孝志:誠の親友。現在の姿は小学生。兄貴肌で面倒見がよくて優しい性格。父子家庭で幼少期は父親から暴力を振るわれていた。誠をいつも支えてくれる存在。
五十嵐:誠の親友。友達のことを大切する優しい高校生。医者の家系で裕福な家育ち。
放課後の悪魔と契約して皆を閉じ込めた張本人。そこには“ある理由”が──。
【登場する悪魔たち】
放課後の悪魔:この空間を創った存在。関西弁。
ときどき標準語に戻るのが怖い。
(以降、悪魔たちは順次追加予定)
【どーも!はじめまして!ワタクシ、誠サマの服のお世話をする『宇佐美』と申します!】
「……………ウサギだ」
僕はいま――
部屋のクローゼットを開けた状態で目の前に鎮座する。
ふわふわで可愛いウサギを凝視していた。
——時をさかのぼること5分前
「パジャマか、スウェットないかな」
安心できる場所、とは言えないけど一人の空間にいることで少し気持ちが落ち着いたのか、僕はそんな日常的なことを考えていた。
この空間から出るには強い悪魔を探さなければいけない。
あの『クセの強い』悪魔たちを見れば一日二日で出来るようなことじゃないことは僕でもわかる。
……長期戦だ。
そのためには、まず『平常』を取り戻す必要があった。
僕のサイズに作り替えられたベッドに座って考えていると部屋の奥の方、僕の身長よりもはるかに大きなクローゼットが目に入った。
「色々あって全然気にしてなかったけど……僕たちはどうして小学生になってるんだろう?」
灰色の無地のパーカーに黒いズボン。
服装を見るかぎり、たぶん、あの最後のおにぎりのときの服装だ。
つまり、僕たちが五十嵐くんと、『友達になった日』に着ていた服。
冬美の服は――たぶん、違う。見たこと無い服装だった。
それに、あの身長からして同い年かも怪しい。
確かに冬美は小柄だ。でも、あそこまで小さくはない。
四年生?……下手したら三年生の可能性もある。
(どうして冬美だけ年齢が違うんだ?)
孝志は僕と同じ六年だろう。
服があの時に着てたものだから間違いない。
僕の服は安売りセールの時に母さんが安いからって大量に買った服だ。
毎日違う服を着てても色が一緒だから、よくクラスメイトに
「服が買えない貧乏人」だとヒソヒソ話をされていたのを思い出す。
「……着替えよ」
友達との思い出と服装は切り離して考えるべきだ。
嫌な記憶を思い出したせいか、心なしか気分が重い。
僕はクローゼットに歩み寄ると、装飾の施された金色の取っ手を両手掴み開いた――
【おやおや!見つかってしまいましたか!どーも!はじめまして!ワタクシ。誠サマの服のお世話をする『宇佐美』と申します!】
「……………ウサギだ」
――ウサギがいた。
クローゼットの中には古びた台座が置かれていて
その上に真っ白な『ウサギ』がちょこんと座っていた。
しかも喋る。……喋るウサギだ。
「ウサギだ」
何度見ても、どこから見ても、ウサギだった。
【誠サマ!ワタクシのいるクローゼットを開けたということは服をお着換えするということですね!!この、宇佐美にお任せくださいませ!!】
目の前のウサギはピンクの鼻をぴくぴくさせながら、短い足で体を起き上がらせると短くてふわふわの手で手招きのような動きをする。
どうしよう、すごく煩いけど、すっごく可愛い。
「……あの」
【はい!どのような服にいたしましょうか!!】
「な、なでていい?」
【ハイ!存分にこの宇佐美を撫でてくださいませ!宇佐美は頭を撫でてもらえるのが、とっても大好きなのですよ!!】
ウサギは二足歩行の状態で前足を少し折り曲げてお腹にピタリとつけると、つぶらな黒い瞳で僕を見上げた。このウサギも、悪魔?なんだよね。
ゆ、油断しちゃいけない……!
油断しちゃいけないってわかってるけど――
(あぁっ、だめだっ可愛いすぎる!!)
「えっと、じゃあ、失礼します」
恐る恐る、目の前のウサギの頭に手を伸ばした――
「ふおおぉっ!?」
指先に触れたのは、想像をはるかに超えるふわっふわだった。
わたあめがそのまま動物になったらこんな触り心地だったんじゃないかな?ってくらい、極上のやわらかさとぬくもりが手のひらいっぱいに広がる。
しかも、ただ柔らかいだけじゃない。
毛並みは艶々でしっとりなめらかだ。
どこかほんのりと甘い香りまで漂ってくる。
優しいミルクのような、 洗いたての布団から香る温かい日向の匂い――。
「なんだよこれっ!触り心地が最高過ぎる!」
たまらず、もう片方の手で全体を包み込むように撫でる。
【ふわぁぁ~誠サマはテクニシャンですねぇ~】
「っっかわいい」
僕の手が気持ちいいのか、宇佐美はつぶらな黒目を細めて鼻をぴくぴく、耳もぴょこぴょこ揺らしている。
僕はとくに、ウサギが好きってわけじゃないけど、ここに引っ越して来る前、僕が住んでいたアパートの近くに猫を飼っているおばさんがいた。
学校帰りに塀の上で日向ぼっこしていたその猫を撫でてから帰るのが、なんとなく日課になっていた。
( 本当は、子供のころからペットを飼うことに憧れていたんだ)
「ペット飼いたい!」って言うたびに、母さんは溜息をつきながら「うちにはペット飼う余裕なんてない」と言っていた。
それでも僕は、『動物がいる生活』にどこかで憧れていた。
給食の時間にそんな話を五十嵐くんにしたことがある。
そしたら、五十嵐くんはすぐに具体的な金額を口に教えてくれた。
「猫一匹飼うとしたら、初期費用で2〜5万、あとは毎月の餌代、トイレ用品、病院代とかで……月6,000〜12,000円くらいかかると思うぞ」
「え!?ペット飼うのって、そんなにお金かかるの!?」
「冬美もネコちゃん好きだけど、無理だよぉ~」
「……ウチも無理だな」
その時ようやく、母さんの言ってた「余裕がない」って意味がわかった。
わかっていても、やっぱり動物がそばにいる生活への憧れは、心のどこかで消えていなかったのだと思う。
【誠サマは撫でるのがお上手ですね~きもちいいです~】
――今、この瞬間、僕のその気持ちが、やっと叶っている気がする!
「ん?」
宇佐美の毛を堪能していたら、指先に固いものが当たった。
よく見たら宇佐美の背中には小さな悪魔の羽が生えていた。
白い毛に埋もれたちっちゃな悪魔の羽は嬉しそうにパタパタ揺れている。
(コイツはも~っっどこまで可愛いんだよ!?)
ぽよんと揺れるしっぽが手の動きと連動して動いているのが、とても可愛い。
可愛すぎて、キレそうだ。
( なんだこのウサギはっ、堪らないほど悪魔的に可愛い~!)
とても世間にはお見せ出来ないデレデレした表情で僕がウサギという悪魔に魅了され、撫でまくっている時だった。
「誠~、飯の時間だってよ」
――コンコンというノック音。扉の向こうから僕を呼ぶ孝志の声が聞こえてきた。
「えっ、もうそんな時間…ってか、ご飯もなにも、時間わかんないと夕飯もないよな」
【誠サマ!今の時刻は夜の19時でございますよ!】
「えっ?」
僕のつぶやきに宇佐美が答えた。
「そうか、もうそんな時間って……」
ちょっと、待って。宇佐美は、今、なんていった?
「う、宇佐美。時間わかるの!?」
【はい!宇佐美は悪魔でございますから。場所など関係なく正確な時間を把握できるのでございます!】
「どこにいても……」
(それって、凄い能力なんじゃないか?)
「ねぇ、宇佐美はそのクローゼットから出られる?」
【可能でございますよ!宇佐美は場所など関係なく、誠サマの望む服を提供できますので!】
「じゃあ連れてってもいい?やっぱり時間が分からないのは困るから」
【はい!姿はウサギのままでよろしいですか?誠サマが望めば、宇佐美は違う動物の姿にもなれるのですよ!】
「えっ、ウサギでいいよ。可愛いから」
【宇佐美はウサギ!了解いたしました!】
「じゃあ、抱っこするね」
【はい、よろしくお願いいたします!】
僕は宇佐美にそっと手を伸ばして柔らかくてお日様の香る体を持ち上げて腕に優しく抱いた。
あったかい。目をパチパチさせながら、僕を見上げる宇佐美が可愛い。
「可愛いなぁ~」
顔がにやけてる自覚はある。でも、宇佐美が可愛いから悪い、僕のせいではない。
宇佐美を片手で抱っこしながらドアノブを回すと、扉の前に立つ孝志と目が合った。
「……あ、孝志は猫好きだったもんね」
「……おう」
扉を開けて目に入って来たのは孝志の頭に乗る『子猫』
恐らく、孝志の部屋のクローゼットにも宇佐美がいたのだろう。
【どーも孝志サマのお友達サマ!わたくし、孝志サマの服のお世話をする『猫田』と申します!】
あ、宇佐美は姿を変えたら名前も変わるのか。
ウサギも可愛いけど、ネコも可愛いな――。
最後まで読んで頂きありがとうございました!




