閑話 地獄の番犬
何時からか、彼は彼らとなった。
切っ掛けは小さき者との出会い。草原で獲物を求めていた際、感じた事の無い力の流れを察知し、足が向くまま向かった先で出会った。
その者は小さく、彼ならば一瞬で食い千切る事も容易かっただろう。現に彼は始めは小さき者に牙をむいた。
だが小さきは者は逃げる素振りも見せなかった。恐怖に足がすくんだわけでも無く、その顔には喜色の笑みすら浮かんでいた。
今まで彼が見てきたのは者達の反応は大体三つだ。踵を返して逃げ出す、牙と爪を持って敵対する者、強大な力を持って超然と佇む者。
そのどれでもなく、それどころかこの小さき者の様に自分から近づいてくるものは皆無だった。
『うおおぉぉぉーーっ! カッコいいーーーっ!』
言葉の意味はよく判らなかったが、彼は自分を称えているという響きは感じ取れた。これも初めての事だ。
更に近づいて体に触れ、無遠慮に撫で回す小さき者に、何故か彼は怒りどころか心地よさを感じる。
『ねえねえ、何で頭が三つもあるの!? うわ、足太い目が赤いもふもふしてる! アニメのモンスターみたい!』
小さき者の賞賛と思われる言葉の数々に、段々と気分が良くなっていく彼。
『ねえ、名前とかあるの?』
小さき者の問いに、彼はふと動きとめた。
名前、個を表す為の記号。見た目に反し高い知能を持つ彼の種族だが、人や人に近しい種族が使うような言語を持たず、『個』と言うものにこだわりを持たない彼らにとっては必要ない物だった。
しかし、首を振って否定の意を伝えると、小さき者は何故か落胆したような表情を浮かべた。
それを見て、彼の中にどうしてか申し訳ないという感情が過る。
「あ、そうだ! じゃあボクが名前付けてあげるね!」
小さき者は明るい声を上げ、彼に向けて自分の考えた名を告げた。
――そして彼は、彼らとなった。
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