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13話 - 聖女ミラ

 甲高い金属音や、魔物の倒れる重低音が、あちらこちらで響く。

 交戦の喧騒が耳を覆いたくなるほどに大きく、鳴りやまない。

 土煙の中、魔族の魔法なのか、たまに眩く光る光に目を細めながら、ミラは遠目からどきどきと見守っていた。



 クロウ王国は、魔王率いる魔族が住む魔界にほど近い国で、度々魔族との交戦が起こる国だった。


 そこを守るのが「クロウ王国騎士団」。

 聖女と認められたミラは、その騎士団の回復を任されていた。


(……魔界とか魔族との戦いとか……そんなの、絵本の中のお話でしかないって思ってた……! 本当にあるなんて……!)


 絵本の中に入ったみたいじゃない……? しかも私聖女……!? なんかすごくない……!?!? ときらきら目を輝かせるミラ。

 エリオットにも見せてあげたかった……! とぷるぷる震える。


「おーい、聖女様がまた口開けたままトリップしてるぞー!」

「帰ってきて、聖女様ー!」

「回復お願いしますー!」


 と騎士たちの声で、はっ!? と我に返る。


「あっ、す、すみません……!」


 慌てて駆け出すと、きゃー! とつまずくミラ。

 騎士たちの笑い声が一斉に上がった。



「あー惜しい!」

「……?」


 すっと差し出された手に、はたと固まる。

 その声は、顔を見なくてももうわかる。


「ぎゅって受け止めたかったのになー!」

「……アーヴィン……――!? 血まみれ!!!」


 きゃー!!! とミラは思わず顔を覆う。


「肩だけな、肩。噛みつかれて。がぶっと――」

「いいいいわなくていい!!!」

「血見慣れないミラ、ピュアすぎ! 尊!」

「…………(軽……)」


 すん……と細い目を向けるミラ。

 しぶしぶといった顔でミラは、アーヴィンの肩に手を触れた。

 目を伏せると、ぱあっと光に包まれる。

 そんなミラを見ながら、アーヴィンは嬉しそうに笑みを浮かべると、顔を近づけるように覗き込む。

 

 すると、騎士団員たちの呆れた声が飛び交う。


「おーおー! またアーヴィンが浮気してるぞ!」

「シェリルに言っとこっと!」


 えっ!? と目を開くミラ。

 はあー? と騎士たちに呆れた顔を向けるアーヴィン。


「浮気じゃないから。ガチだから」

「引くわ、おまえ……」

「冗談に決まってるだろ……。ミラは俺専属の治療師だから」

「聖女様、何私物化してんだ、おまえ!」

「最低か!」


 隣に寄り添って傷を癒しているミラを、にっと見上げる。


「いつも悪いなー! ミラ」


 むすぅっと赤い頬を膨らませるミラ。


「……悪いって思ってるなら、魔物に突っ込まないでほしい……!」

「…………」

「……何?」

「……何今の……かっわい――」

「シェリルー! ここに危ない人がー!」

「あーミラ、シェリル召喚禁止ー!!!」


 はあー!? と遠くでドスの効いた声が響く。

 再び騎士団が笑いに包まれた。




 パシ! とシェリルがミラの目の前で手を合わせた。


「ほんっと、毎度毎度ごめんね、ミラ……! あの馬鹿、ほんとかわいい子に弱いんだから……!」


 シェリルは、アーヴィンの奥さんだ。

 騎士団補佐メンバーの中心で、しっかりもの。

 そして、ミラの面倒をみてくれる(そしてミラをこき使う)、誰からも好かれるざっくりとした人だ。


「昔からなの?」

「え? ああ、まあ、そうかな。軽いよね。でも、ミラは過去イチ」

「な、何でだろ……!?」

「ずっと、聖女様に会いたかったんだって。幼いころからの憧れの女性が聖女様というか」

「それは聞いたけど」

「まあ、でも結局は、ミラが好みなんでしょ」


 ほんとあいつは……! と慣れたようにため息をつくシェリルに、ミラは困惑気味に眉を下げる。


「そうかな……?」

「ミラ、何か不思議系だよね。ふわってしてるのに品もあって」

「ふしぎけい……」

「あと、騎士団補佐してる女性って気の強い人が多いから。ミラみたいなぽわぽわした女の子、稀っていうか希少種だからね。それでかも」

「気の強い女性……いいなあ、憧れる……! 私もシェリルみたいなしっかりした奥さんになりたい!」

「(きゅん……)」

「え?」

「……ほんとミラかわいすぎる……私もミラの旦那になりたい……!」

「な、何で!?」


 あわあわと戸惑うミラを、ぎゅー! と抱き寄せるシェリル。


「ああ、もう! あいつがミラ私物化したがる理由がわかるわ!」

「そ、そんなこと……! アーヴィンはすぐ怪我するから、それでだよ……!」

「そんなことないと思う。今頃、私と結婚したこと本気で後悔してると思う」

「そんなわけないよ……! あんなにラブラブなのに……!」

「ラブラブっていう言葉のチョイスが、もうかわいいわ」

「何で!?!?」


 遠目から、アーヴィンの「ぐっ……」という謎の奇声が聞こえ、2人は振り返る。

 なにそれ……シェリルとミラの絡みやば……鼻血が……!! とうずくまるアーヴィンに、2人揃ってドン引きした目を向けた。




 アーヴィンは、皆がミラを「聖女様」と呼ぶ中、「ミラ」と呼ぶ数少ない騎士だった。

 強いのか弱いのか、すぐ魔物に突っ込んで行っては派手に暴れ、派手に怪我してはミラの元へ下がって来る。

 そして、何かとちょっかいをかけてきた。


 騎士(しかも元いた世界の騎士とは比べ物にならないくらい交戦が多い、命がけの騎士)なんて、まるで住む世界の違う人かと思ったけど、アーヴィンがいることで自然と騎士たちとの距離が縮まり、騎士たちも「聖女」という存在をすぐに受け入れてくれたようだった。


 そのおかげか、騎士団たちといる「この世界での居場所」は、それなりに居心地が良かった。


(別に、アーヴィンがいるからとかじゃないけど)

 



 アーヴィンは軽石のように軽かったけど、騎士団員にも街の人たちにも、とても慕われていた。


「いつもありがとうねえ、騎士さん、聖女様」

「あの……怪我はありませんか?」

「うちの騎士さんたちは強いからね! 全くだよ」


 すると、ミラの背後からひょいと顔を出すアーヴィン。


「おねーさん! お店は大丈夫だった!?」

「やだ、おねーさん!? 店の前の植木が少し倒されたくらいだよ! 大丈夫」

「うわーすみません……! これ多分、うちのカイ(騎士団員)の仕業だわ絶対……! あいつ、無駄に長い剣振り回すから……!! あいつに弁償させるね」

「おいアーヴィン」(←カイ)

 

 主人の女性が大きく口を開けて豪快に笑う。

 にっ! と爽やかに笑みを浮かべるアーヴィンの笑い方は、どこか転生前に仲の良かったダニーを彷彿とさせた。


(ダニーが騎士になったら、こんな感じかな……? しかもダニーはこんなアーヴィンみたいに軽くないし真面目だから、絶対かっこいい騎士になるはず……! 将来が楽しみすぎる……!!)


 戻ったら、ダニーに絶対軽くなったらだめだよって言わないと……! と内心息巻くミラの顔を、じー……と覗き込んでいるアーヴィン。

 はたと我に返ったミラは、ぴし、と固まる。


「……………………近い……んですけど」

「まーたトリップしてんの、ミラ? ……また前の世界のこと考えてた?」

「……そう」

「ふーん……」


 すると、アーヴィンは、ふに、とミラの頬をつねった。


「マシュマロ」

「…………」


 マシュマロみたいに軽いんだぜおれ、ってこと? とミラはまた目を細めた。




 異世界へ来てしまった後もずっと、ミラは帰る方法を探していた。


(これ……久しぶりに魔法円描いてみたけど、合ってるかな……? エリオット、困ってるだろうな……解析して、何とか1日でも早く帰る方法を調べないと……!)


 この世界では、錬金術は使えなかった。

 1度、アーヴィンの前で試しにやってみたことがある。

 でも、できなかった。


「……ミラ、丸描くの上手いね」

「…………」


 この時ばかりは、ちょっとだけ救われた気がした。

 


 

 何の情報を得られないまま、気づいたら半年が過ぎていた。


 


 聖女として相変わらず慌ただしい日々を送っていた、ある日。


 ミラは、真剣な表情を浮かべながら、足早に森を駆けていた。


(街のあちこちで魔族たちの襲来……って、何かあったのかな? 魔族たちって、基本的に統率の取れていない行動はしないイメージだったけど……何か変――)


 その時。

 きゃー! と何かに躓いて転ぶミラ。


「な、何――」


 ミラが座っているその下敷きになっている黒いものに、目を瞬く。


(――人)


 きゃー!! と慌てて降りた。


「すすすすみません……!!!」

「……痛い」


 黒い巨体の顔が、わずかに動いた。

 その血まみれの顔を見た、次の瞬間――


 きゃ――!!! と盛大なミラの叫び声が、森中に響き渡ったのだった。

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