俺のしたことは、間違いだったのか
数日の時が、流れた。
勇者ラインハルトは、傷を癒し、意気揚々と、王都へ、凱旋した。
彼は、まだ、知らなかった。
自分が、何を、してしまったのかを。
凱旋の途中、彼は、とある町に、立ち寄った。
奇妙なほど、静かな町だった。
通りには、白い花が供えられ、人々は、皆、喪服を、着ている。
中央の広場では、大きな葬儀が、営まれていた。
そして、その場に──王の姿が、あった。
「おお、陛下! こんな所で、何を?」
ラインハルトは、得意げに、胸を張った。
「お喜びください! 俺は、生き延びていた魔王を、再び、追い詰めました!」
「そして、魔王を匿っていた、悪の公爵も、この手で、討ち取ったのです!」
「これで、世界は、安泰──」
「――黙れ」
王の声は、低く、凍てついて、いた。
ラインハルトの言葉が、止まる。
「お前が斬ったのは、悪の公爵などでは、ない」
王は、棺を、見つめたまま、言った。
「この国で、最も多くの民を救い……最も多く、誤解された、男だ」
「お前は今、この世界に残された、最後の優しさを──断ち切ったのだ」
ラインハルトの、背筋が、凍った。
「そんな……馬鹿な。だって、奴は……噂で……」
反論しようと、したその時。
彼の視線が、棺の傍らに、吸い寄せられた。
そこには──一人の、少女が、いた。
黒い角の、魔王。
世界を滅ぼすはずの、恐ろしい存在が。
今は、ただ、一人の少女のように。
声を上げて、泣き崩れて、いた。
愛した男の棺に縋りつき、子どものように、泣き叫んで。
その涙を見た瞬間。
勇者ラインハルトの中で、信じていた「正義」が。
音を立てて、崩れ落ちた。
彼は、震える声で、誰にともなく、呟いた。
「……俺の、したことは」
「間違い、だったのか?」
その問いに、答える者は。
もう、どこにも、いなかった。
――了。




