十話
そうして歩き続けて、二人は魔道教会へと辿り着いた。
「私の方が先に終わるでしょうから、終わったらこちらで待っていますね」
「わかった。それじゃあまた後で」
そう言葉を交わして、二人は解散した。
アルメリアは納品のため、指定された部屋へと向かって廊下を進んで行く。すると、突然背後から声をかけられた。
「お、シャノルマーニ大錬金術師ではないか」
「お久しぶりです、タルニアン陛下」
ピンクブロンドの髪を短く切り揃え、少々豪華な衣装を身にまとい、側に護衛らしき男たちを数人引き連れている彼は、この国の王であるタルニアン・エブラトレである。まだ若いながら王としてはとても優秀で、民にも慕われているという。
「貴殿がここにいるということは、依頼を受けたのはシャノルマーニ大錬金術師か。であるなら、品質は間違いなさそうだな」
「それは後できっちりと確認していただきたいところですね。名だけで安全だと思われても困りますので」
「ははっ、違いない。では私は先に行かせてもらうとしよう。寄らねばならない場所があるのでな。ではな」
「えぇ、また後ほど」
アルメリアは礼をしてタルニアンを見送り、その姿が見えなくなったであろうタイミングで頭を上げ、軽く息を吐いた。アルメリアは昔から彼のことを知っているが、その頃からどうにも苦手なのである。
(わざわざ来ているということは、彼が直接関係しているのか)
と考えてからアルメリアは考えるのはまた後でと言わんばかりに、緩く首を横に振り、再び目的地へと向かって歩みを進み始めた。
目的の部屋へと辿り着いたアルメリアは心を落ち着けるかのように軽く息を吐いてから、そのドアをノックした。入室許可の返事を確認して、部屋へと足を踏み入れた。中には当代の大魔術師と大神官、そして数名の使用人らしき人間がおり、タルニアンの姿はそこにはなかった。入室したばかりのアルメリアに向かって、大神官が口を開く。
「ようやく来たな、シャノルマーニ大錬金術師。さあ、作ってきた薬を早く出すがいい」
(相変わらず、錬金術師相手にだけ厳重だな)
そう思いながらアルメリアは呆れる気持ちを抑えながら、持ってきた錬金薬をドアの横にいる使用人へと手渡した。その人物の手によって中央に置かれたテーブルへと乗せられる。その間にアルメリアもテーブルの近くへ立つようにと誘導され、そばへと立たされる。依頼主であるタルニアンが来るまでは確認も含めてなにも出来ないため、誰も言葉を発さずに呼吸の音だけが部屋を包み込んでいた。
しばらく経ったのち、タルニアンが入室してきた。挨拶をしようとする者たちを手で制して、言葉を発した。
「待たせたな皆の者。早速ではあるが、頼んでいた物の確認をさせていただこう」
そう言うと同時にタルニアンの側にいた魔術師らしき男がテーブルへと近づいてくる。そして目的の錬金薬を手に取ると、じっとそれを見つめた。おそらく鑑定しているのだろう。ひとつひとつ丁寧に鑑定していき、終わると同時に軽く頷いた。
「タルニアン様。指定数と品質、どちらも問題はありません」
「ふむ、さすがはシャノルマーニ大錬金術師だな」
「お褒めに預かり光栄です」
アルメリアは当然だろうと思っていたが、それをおくびには出さずにむしろ、安堵したかのような表情を作っては返した。自信に満ち溢れすぎては、面倒な邪推をされる可能性があるため、そうしているのである。
「謝礼は後日教会を通して贈るとしよう。では、これに失礼する」
そう告げるや否やタルニアンは連れてきた魔術師と共に退出して行った。
「シャノルマーニ大錬金術師。そなたへの用事もこれで終わりだ。さっさと出ていくがいい」
用済みだと言わんばかりにそう告げられ、アルメリアは「失礼します」と一言だけ残して部屋を出ていった。大神官も大魔術師も大錬金術師も、立場上は同じであるはずなのに、相変わらず錬金術師へのあたりは強いままだなと半ば呆れながら、ルシエンとの待ち合わせ場所である魔道教会への入り口に戻って行くのであった。




