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02. 少女趣味なデート


(ふう、今日もなんとか、完璧な令嬢としてごまかせたわ)



 そう、私レイラ・クライトン伯爵令嬢は、社交界で完璧な令嬢だと思われている。でも本当の私は無趣味で、少女小説はもちろんドレスや舞踏会にも興味がない。令嬢の嗜みである刺繍もグレッグが作ってくれる。社交も彼が指示してくれないとわからない、完璧とはほど遠い「ニセモノ令嬢」だ。



 反対に婚約者のグレッグ・ラウザー伯爵令息は、女性が好むものは全て好きらしい。少女小説を愛読し自分で作ったケーキを食べ、大切に育てたハーブティーを飲む。趣味はもちろん刺繍。最近は真面目に頑張っているけど、本当は騎士団の仕事も嫌がっていた。



 それでも鍛えられたたくましい体でタキシードを着こなす姿は、私が隣にいるのにも関わらず令嬢達の視線を一身に惹きつけている。



(中身は女の子みたいだけどね)



 それにしても挨拶する人が途切れると、どっと疲れが出てくるわね。私はグレッグの腕をトントンと叩き、顔を近づけ小声で話しかけた。



「ねえ、もう帰ってはダメかしら?」

「来てから半刻も経ってないと思うが」

「そう……?」



 他の令嬢は着飾って社交するのが好きらしいけど、私はコルセットが苦しいしおしゃべりも好きじゃない。だから夜会って苦手だわ。時間が過ぎるのがやけに遅く感じて、本当に退屈。まだ帰れないと思うと、ベッドが恋しくてしょんぼりしてしまう。



「明日、今話題の舞台に付き合ってくれたら、帰ってもいいぞ」

「付き合います」



 夜会から開放され家に帰れる喜びで、思わずとびっきりの笑顔になってしまう。本当に私をこんなに理解してくれるのは、グレッグだけだわ! ああ! この感謝の気持ちを表すためにも、明日はどこにでも付き合ってあげましょう。私は幸せな気持ちで、グレッグと2人で早々に夜会を後にした。おやすみなさい。ぐう……



 しかし次の日の朝起きると、私の気持ちはどんよりしていた。



 はあ……観劇の約束で夜会から開放されたまでは良かったけど、いざ当日になると行くのが面倒になる私の性質はどうにかしたいわね。



 私はなにより予定がない日が大好きなのだ。お茶会の予定、人が訪ねてくる予定、それらがまったく無く、家でぼうっとしていたい。時々庭を散歩したり、突然キッチンに入って今日の夕食のメニューを聞くのも楽しい。



「はあ、おっくうだわ」



 でも昨日約束したんだから行かなきゃね。それに行けば楽しい時もある。そう気持ちを切り替えて、しぶしぶ着替えているとグレッグが迎えに来た。



「今日はありがとう。さあ行こうか!」



 メイド達がほうっとため息をつき、うっとりとグレッグを見ている。グレッグは艷やかな金髪をキラキラとなびかせ、私をエスコートする。グレッグはなによりロマンティックな事が大好きなので、こういった紳士的な行動を取ってる自分が大好きだ。まあ似合ってるし、本人も幸せそうなので特に問題はない。



 劇場についてからもエスコートは完璧で、周りからまた理想のカップルとして憧れの目で見られていた。席に着き演目を確認すると、やはり女性向けの恋物語だ。私はまったく興味がないけど、グレッグは食い入るようにパンフレットを見ている。



「この後に行ってみたいカフェがあるんだが、行かないか?」

「帰りたいです」

「明日カレン嬢とのお茶会があるだろう。付き合ってくれたら、話題になりそうな事をまとめてやるが」

「付き合います」



 そうだった。明日は前々から約束してあったお茶会があったわ。はあ、今日の予定さえなければ、心構えができたのに。本当は行きたくないけど。でも令嬢として最低限の社交をした方が、面倒な事にならないですむ。子供の頃はそれで苦労したもの。昔は本当に……いろいろ……言われて……ぐう……



 いつの間にか舞台も終わったようで、感動で目を赤くしたグレッグが私の肩を揺さぶり起こしてくれた。



「あいかわらず熟睡すると、白目になるんだな。他の人には見せないように」



 私の汚い寝顔を軽蔑するわけでもなく、むしろ小動物を見るような目で私を見ている。こういうところがグレッグの良いところだわ。うんうん、と思っていると、グレッグの悪いところが出てきた。



「しかしデート中に寝てしまうのは寂しかった。だからカフェの後、本屋にも付き合ってくれ」

「それ絶対にこの舞台が良かったから、原作の本も買いたくなっただけでは?」



 やけにキリッとした顔をしていたけど、私が指摘すると照れ笑いをしている。まあ、しょうがない。グレッグにはさんざんお世話になっているから、恩を売っておきましょう。私達は完璧な令嬢とその婚約者として、ウフフと笑いあいながら劇場をあとにした。


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