03. 乙女騎士の怖いもの
訪れたカフェは刺繍やレースがふんだんに使われている、可愛らしいグレッグ好みのお店だった。グレッグは喜びを隠しきれない様子で、私にニコニコと笑いかける。まわりから見たら、さぞかし私に惚れているように見えるでしょうね。メニューを見ながら、グレッグが好きなものを2つ注文する。
ふんだんに季節の果物を使ったケーキは、つやつやと光り美味しそうだ。用意されたものなら何でも美味しく食べる私なので、目の前に置かれたケーキ(おそらくグレッグが2番目に食べたいもの)にフォークを刺す。すると小声でグレッグが私にケーキをねだってきた。
「レイラ! 一口だけ食べさせてくれ」
「え? なんですの? 聞こえづらいわ」
「一口、そっちの、ケーキも、食べさせてくれ」
「え?なんですの?ちょっと聞こえ」
「絶対聞こえてるだろう。からかうなよ」
あら、気づきましたか。グレッグは少女趣味がまわりに知られるのをすごく嫌う。だからこそこういった場所で意地悪をするのは、ちょっと楽しい。私はケーキを半分に分け、グレッグの口元に持っていく。
「ちょっ! 一口が大きいぞ。もっと味を堪能させてくれ! 飲み込まなきゃいけなくなる」
「文句が多いですわね。はいどうぞ」
「今度は小さすぎるぞ」
「ふふ」
カフェを堪能したら本屋だ。グレッグはいったい何冊買う気だろうか。高価なものなのに惜しげもなくお金を払い、さも私に買ってあげたというフリをしている。しかしそんな上機嫌なグレッグの一番苦手なものが、帰りの馬車で襲ってきた。雷だ。グレッグは子供の頃から雷が大嫌いで、いつも私が抱きしめなぐさめていた。
「き、君は、怖くないのか?」
「綺麗だな〜と思っていますけど」
外を見ると青白い光が、曇り空を2つに割るように光っていた。ゴロゴロという地響きのような音が、街中に響いている。私達は馬車の中で向かい合わせに座っているが、目の前のグレッグは頭を抱えてふるえていた。
「俺は怖い」
「大丈夫です。雷はまだ遠いわ。私は襲いませんから、こちらにおいで〜チッチッチッ」
「猫みたいに呼ばないでくれ。行くけども」
昔のようにグレッグを呼び、隣に座らせ肩を抱き寄せる。ポンポンと腕を優しく叩くと、落ち着いたようでグレッグはふうっと息を吐いた。そういえば、一緒にいる時に雷がきたのは久しぶりね。子供の時はなにも考えていなかったけど、大人になった今、この体勢はよろしくないのでは……。
ちらりとグレッグを見ると私の胸元に顔を押し付け、すうすうと規則正しい呼吸をし始めた。
「……」
この人、一応私の婚約者よね? 男女の立場が逆転しているのは今さらですけど、この状態で寝るなんて。私けっこう胸も人より成長しておりますし、何も思わないのかしら? 妙にモヤモヤした気持ちでグレッグの顔を胸にグイっと近づけるも、何も起こらない。
なんだかツキリと胸の奥が痛んだ気がしたが、気にしないことにして私も目を閉じた。
「おはよう! レイラ!」
「……おはようございます」
気づくと馬車は私の家に着いていて、にこやかなグレッグに起こされていた。
「……グレッグは、よく眠れたの?」
「ああ! ぐっすり眠れた! 家のベッドより眠れたよ! ははは!」
なぜかしら。妙に元気があるグレッグにイライラしてくる。あなたはいつもより寝れて元気回復しているようですけど、私は別に眠ってないから機嫌も悪い。
「それは良かったわね。じゃあまた」
ニコリと笑って家の中に入ろうとすると、パシッと手をつかまれる。驚いて振り向くと寂しそうな顔をしたグレッグがこちらを見ていた。
「その笑い方やめてくれ」
「え……?」
「笑いたくないなら笑わないでいい。俺に作り笑いはやめてほしい」
「わ、わかりました」
(本当に私のことよく見てるのね)
「あと、10日後に夜会があるだろう? その日は絶対に2人で行きたいんだ。いいかい?」
「……いいわ」
「そうか! ドレスも贈るし、当日は迎えに行くから」
そう言うとグレッグは晴れやかな笑顔で帰っていく。機嫌よく歩いていく彼の後ろ姿を見送ると、不思議とさっきまでのささくれた心が和らいでいるのを感じた。




