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13 大津駐屯地。

 翌日。七時に家を出る。資料とマナ結晶の入ったカバンを背負い、籐のバスケットにイルマを詰める。

「寝てます。ついたら起こしてください」

 くわ~~とあくびをしてバスケットの中でとぐろを巻く。なんかイルマがどんどん動物化してる気がする。魂が器に影響されてどうするんだ。



 俺は車で大津駐屯地へ。高速と地道で九時前に大津駐屯地入口に到着。車を止めて、門のところに立ち番している隊員に声をかける。

「すいません。石動三佐と黒鳥教授に呼ばれてるんですが。八尾と申します」

 昨日もらった仮入場証を見せる。

「お待ちください」

 どこかへ電話をかける。待つこと30秒ほど。

「確認できました。すぐ来るそうです。車は右手の駐車場へお願いします」

「はいはい」

 ガラガラと開かれる門。プルプルとエンジンを響かせながら一般駐車場へと車を停める。

「イルマ。ついたぜ」

「くわ~~」

 バスケットの中から大あくびで返事をする。怠惰だなぁ。

 俺は車内からバスケットと資料一式入ったでかいカバンを担ぎ出して鍵を閉める。



「こちらへ」

 先程の自衛隊員が門の傍の待合室風の所へ入れてくれた。涼しい。一〇分ほどすると自衛隊カラーの三菱車が到着した。

「やあ。ご足労願ってすいませんな」

 朝っぱらから元気に暑苦しい。俺は助手席に座る。石動三佐がでかい体を押し込んで三菱車を運転していた。

「三佐でも自分で運転するんですね」

「はっはっは。ここには場所を間借りしてるもんで、全部自分らでやらんとだめでしてな」

「ああ、そういえば本拠地は大阪でしたか」

「ええ、あ、先に言わんといけないことがありました」

「はい?」

 石動はゴソゴソとシートの隙間からクリップボードを取り出す。

「それにサインと拇印をお願いします。いわゆる守秘義務の確認ってやつです」

「はいはい」

 おれは複写式の確認宣誓書を読む。まぁ内容はよくある文言だが、最後が普通じゃなかった。ざっくりいうと『この宣誓が破られた場合は捕まります』って書いてある。仕事の契約等での守秘義務確認だと『捕まるかもしれないし弁償させるかもしれないからね』って感じで書いてあるが、さすがに自衛隊。まあ、書かなきゃ話が始まらんので書くけどな。



 程なく、大きな扉の付いた丸い屋根の大きな建物に到着した。体育館みたいだ。倉庫?

「このハンガーをまるごと借りてるんです。ある程度は秘密が守られます」

 そう言うと石動は宣誓書を確認して、一枚を俺に渡す。ハンガーって格納庫だっけか?

「では、こちらへ」

 大扉の隅っこの人用扉から中へ入る。中に入っても目隠しのパーテーションがあった。

 それを迂回して広い空間へ。巨大ロボがあぐらを組んで座っていた。

「エイジ君。保護者がきたよ」

 まるでエイジが補導された中学生のような扱いだ。

「お、コウジロウ。顔を見るのは初めてだな」

 俺を見つけるとシュタっと右手を上げる。なんで顔知らないのにわかったんだ?

「よう、エイジ。元気そうだな。なぜ俺だとわかった?」

「はは、マナパターンは知ってたからな。イルマと一緒におれのところに来る男はコウジロウくらいだろう?」

 なるほど。マナパターンてのもあるのか。敵味方識別装置みたいだな。



 俺はバスケットからイルマを出す。

「エイジさん。無事ですか」

「お、イルマ、やっと声が出るようになったか」

「おかげさまで。なんとか音声変換ができるようになりました」

 イルマのハーネスには、前側に羽のように薄く左右に広がるマナ結晶が取り付けられている。これはセリカと考えた念話変声器だ。こいつには受け取った念話を音声に変換・増幅する魔法陣を刻み込んである。これでやっとイルマはタイピングラッシュから解放された。



「さて、石動さんから話は聞いているかもしれんが」

「ああ。塔の攻略作戦のことだろう?」

「と、それに必要な魔法使いの育成、だな」

「魔術師は一朝一夕には育たんぜ?」

「まあ、そうだろうさ。だがあまり猶予はないかもしれん」

「……何かあったか?」

 エイジがそのでかい体を屈めて声を潜める。



「今朝から世界中の塔が活性化している、とネタが上がってた」

 スマホを操作して塔関連の記事を見せる。そこには各地の塔からモンスターが溢れ出しているという状況を伝えていた。まだ小型獣サイズなので警察や軍で対処できている。一番最初に溢れたのがイギリス。日没とともに現れた。日本でも同様の現象が起きると予測しているようだ。

「じゃぁ、ここでのんびりしてる暇はねぇな」

「まぁ、まて」

 エイジがゆっくりと立とうとしたが、それを止める。

「最初のイギリスも他の国も殲滅撃退は可能なレベルらしい。まだ慌てる時間じゃない」

「……で、どうするんだ?」

「当初の作戦通り、自衛隊員にいくつかの魔法を使えるようにして、塔を攻略してもらうか、エイジが塔を攻略するか、だ」

「マリカは?」

「流石にまだ出せんよ。本人は行きたがってるけどな」

「マリカは結構優秀な魔法使いだぜ?」

「そうは言ってもな」

 準備も何もなしでダンジョンには入れられん。



「今、マリカ用の魔法補助ユニットを作ってる。それが出来たらまぁ、なんとか。かな」

「マリカさんってのはだれかな?」

 背後から石動が声を掛けてくる。

「俺の幼馴染ですよ。ダンジョン攻略に噛ませろってしつこくてね」

「ほほう。ぜひ会いたいもんですな」

「ダメだよ。石動くん。マリカちゃんはまだ中学生だよ」

 黒鳥教授も居た。石動がでかくて隠れてしまっていた。つーことは。

「おはようございます。マリカちゃん?は今日は来てないんですね」

 相模原ももちろんいる。セットか。



「一応、俺のカバーできる範囲の隊員を集めた。総数四十五名。この中から魔法使いを選別してほしい」

 ズラッとハンガー内に並んだ自衛隊員。女性隊員もわりと多い。一〇人ちょっとは居るだろうか。


「えーと、八尾光路郎と申します。AI関係で黒鳥教授にお世話になっているものです。時間もないことですので説明を……」

 と、不審顔の隊員達の前で説明を始める。魔法の適性検査を先にする。



「では、魔法適性を調べます。こいつはイルマ。おそらくこの中で一番の魔法使いです」

「えへへ、それほどでも」

「うわ、フェレットが喋った……」

 名前順なのか一番目は荒井さんという女性隊員だった。

「では手を出してください」

 イルマがにゅっと手を出し、ぴとっと手を合わせる。



「……悪くないです。十分魔法が使えます」

『ちなみに今の人のオド量どれくらいだ?』

 念話でセリカに聞いてみる。

『イルマさんよりちょっと少ないくらいですね。およそ一八〇〇』

 こうして魔力検査はすすむ。四十五人の中から十分に戦闘魔法が使えるのが六人。全て女性隊員。魔法は使えるけれどオドが少なく、戦闘は出来ない位なのが一〇人。これは男女半々。そしてその他は俺と同じく、オド量が極端に少ない人達。全員男だった。



『なぁ、もしかして女性のほうが魔法って馴染みやすいのか?』

 念話でイルマに聞いてみる。

『どうでしょう?私の元の世界だとほぼ半々、ちょっと女性が多いかな、くらいですけど』

『世界が変わると、魔法の性質も変わるのかもしれんなぁ』



 持ってきたマナ結晶。全て一センチ級の小さなものだ。それを取り出す。

「これから配るこの球体は『マナ結晶』といいます。コレは魔法を補助するもので、無くても魔法は使えるのですが、圧倒的に楽です」

 並ぶ隊員全員と相模原にも渡す。

「私もですか?」

「オドが格段に多いんだから参加してもらう」

 石動が後ろから相模原の肩をがっしりと掴んで逃さない。

「あの、私、戦闘訓練とかしたこと無いんですけど」

「大丈夫。これからするのは体力は関係ない」

 逃げられないっぽいと悟ったか、相模原の顔に苦笑いが浮かぶ。

「あー……わかりました。上司には石動さんから言っといてください」

「了解した」

 ニカッといい笑顔の石動。こわい。



「イルマ。みんなに直接の指導はできるか?」

 俺はマナ結晶を配るイルマにきいてみる。

「まぁ、なんとかやってみますが、なにぶんこの体なのでスタミナ限界は低いですよ」

「ああ、えs……食事は用意してもらってる」

「今、餌って言いかけましたね?えさって。体はフェレットですけど中身は人間ですからね?」

「わ、わかってる……つもりなんだが、つい」

「がーー!ついってなんですか!やっぱりペット扱いですか!」

 音声会話出来るようになったらやかましいなこいつ。



「まぁ落ち着いてくださいな。イルマ先生」

 背の高い、石動よりは細身の男性隊員に後ろからひょいと持ち上げられるイルマ。

「ということで、魔法の指導、お願いしますよ。イルマ先生」

 石動よりは年下だろう。中年に足を突っ込んだくらいの男性隊員。石動並の大きな背丈で筋肉量以外は石動に負けていない。その大きな掌の上にイルマを乗せている。

「……」

 お?イルマが固まった。背の高さにびっくりしたか?それとも顔が怖かったか?そんなに強面でもないと思うが。

「……あの」

「はい?」

「お名前をお伺いしても?」

「おお、これは失礼しました。中部方面隊第三師団所属。千林一等陸曹です。よろしくお願いします。イルマ先生」

「……よろしくセンバヤシさん。あの、下の名前は?」

「直也です。呼びやすい方でいいですよ」

「では、ナオヤさん、と」

「はい、イルマ先生」

 じっと千林と目を合わせてプルプルしてるイルマ。



 ん?イルマの様子が変だな。

『セリカ、見えてる?』

『はい』

『イルマの様子がおかしいんだけど、どうしたんだ?』

『……アドミニストレータには女性の扱いを学んでいただきたいものです』

『何故ここで俺の話になる?』

『いえ、特には問題はないと思われます。イルマさんも女性だということです』

『……わからん』

『……マリカさんも苦労しますね』

『何故マリカが出てくる』

『いえ、何も』

 むー、イルマもセリカもよく判らん。



 石動に促され、イルマの魔法講義が始まった。ひとまずは全員で聞くようだ。

「では、魔法の使い方を説明します。先ほどの結晶を使うと簡単なんですが、まずは無しで基本から」

 と、結晶を千林に預け、無手で短い右腕を突き出す。ちなみに今は千林の掌の上だ。

「さっきの魔力検査であなた方のマナ・ゲートは開いています。意識を集中するとマナの動きが見えるはずです」

 イルマの腕の前にマナが集まっていくのが見える。それは薄い赤霧だったのが、次第に赤い塊になって浮かぶ。テニスボールくらいまで集める。その時間およそ五秒。

「これを燃料に魔法を行使します。自身の内に有るマナ、オドといいますが、これは呼び水のようなもので、オドだけでは魔法を使うのは難しいです。まぁ相模原さん位、規格外な容量だったらオドだけでも可能ですが」



「赤きもの、熱きもの。そは全てを焼くもの。我が呼び声に応えよ。……ファイアボール」

 マナの球体は詠唱の最後の発動ワードと共にテニスボール位の赤い火の玉になる。

「「「「おおおおお」」」」」

 隊員たちがどよめく。そらいきなり火の玉が出てきたらびっくりするわな。

「本来でしたら、これを敵に投げつけるんですが、まぁ、デモですから」

 キュと掌を閉じると火の玉が音もなく消える。

「「「「おおおおお……」」」」

 反応いいな君ら。そういえばイルマがちゃんと魔法使ってるの初めて見るな。



『セリカの代理詠唱?』

『いえ、今はイルマさんが自前で使っていますよ』

『ほほう、魔術師というのは間違いじゃなかったんだな』

『怒られますよ』

『内緒にしてくれ』

『……』

『セリカ?』

『いえ、なんでもありません』



「では、トーチかウォーターを端から使ってみてください。呪文は配った紙に書いてあります。消費マナの目安も書いてあるので、それを参考に強度を高めてもいいでしょう」

 イルマを横から見てるとちゃんと先生みたいに見えてくる。普段はポンコツなのにな。



「さて、こっちは問題なさそうだ、我々はこっちだ」

 一緒に見学していた石動が肩を叩く。

「はい」

 エイジのところまで移動。まぁ、場所は同じハンガーの中なんだが。



 エイジの前に会議用長机が置かれ、地図が広がっている。

「魔法の講習は終わったかね?」

 教授が持ってきたコロナにモニタをつなげていろいろ設定している。

「始まったとこですよ。後はイルマにまかせてきました。あの調子だと難度一くらいはすぐに使えるようになるでしょう」

「ふむ、魔術師部隊の割り振りは後で考えよう。先に行動方針を決めたい」

 石動がタブレットをタシタシ操作して会議モニタに映像を出す。静電パネルじゃないのか。わりと力強く操作してるな。



「昨夜の戦闘のサーモグラフだ、確認なんだが、もしかして君の『目』は、これか?」

 荒いサーモグラフィック画像が表示される。高温表示で真っ白になっている塔の周りにやや温度の低い物体が動いている。あ、そうか。光学迷彩でも周辺の微妙な温度と違いは出るのか。

「はい、ソレだと思います。よくこんな小さいのを判別できましたね?」

「ソレはシャドウが最初に判別したんだよ」

 黒鳥教授が設定をしながら言う。一応シャドウも活躍してたらしい。



「さっき確認したら、イギリスはひとまず軍が撃退に成功と出ている。まだ通常弾が効くようだ」

「『まだ』ってことは通常兵器が効かないのが居るんですか?」

「アメリカがドラゴン退治したときはバンカーバスターを打ち込んだらしい」

 なんてダイナミックな。

「どうもあいつら『特殊外来生物』は体のサイズが大きくなる毎に、通常兵器が効きにくくなるようだ。今のところ日本では四足は大きな牛サイズ以上は出てきていないが、それでも」

 石動がテシテシとタブレットを操作する。モニタにはブタ顔の人間サイズ二足歩行と、どう見ても赤鬼に見える角の生えたヒト型。背景の建物と比較したら体高三メートルは有る巨人が映っていた。

『見たまんまオークとオーガなんだけど』

『オークとオーガと思われます』

 セリカが俺の腕のスマートウォッチのカメラを通じてモニタを確認する。

「オークとオーガですか?」

「うむ、うちの若いのもそう言っていたんで個体名「オーク(仮)」と「オーガ(仮)」となっている」

「カッコ仮って」

 どこのゲームだ。と言いかけて飲み込んだ。言っても分からんだろうし、わかられても嫌だ。



「で、このオークを銃撃しても89式の5.56ミリじゃさっぱり効かん。7.62ミリの64式を引っ張り出してきてやっと、ってところでな。オーガに至ってはM2かバレットでないと傷すらつかん。ゴブリンなら89式でも大丈夫なんだが」

「M2とかバレットってハーフインチの弾丸じゃなかったっけ?」

「そう。陸自に有るもので、人力で運べる最大の弾丸だ。ソレがオーガより大きいと効かなくなる」

 なるほど。天使にいきなり対空機関砲ぶっ放したのは、それより小さいのが効かないと分かってたからか。

「で、天使にガンタンクは効きましたか?」

「……87式の非公式名称はやめてもらおうか。一応、スカイシューターという愛称がある」

「でも、わしその名前で呼ばれるの聞いたこと無いよ?」

 黒鳥教授が余計なことを言う。

「ぐ、まぁ、通りがいいほうが使いやすい……じゃなくて」

「はい、で87式の効果は?」

「正直微妙。一応ダメージは通ってるようだが、天使は平気な顔してたよ」

「35ミリ砲でも微妙って……卑怯くさい」

 あとは自走砲か対戦車誘導弾だな。



「なぁ、さっきから言ってるのはモンスターへの攻撃が通らないってこったろ?」

 エイジが上(物理)から声を掛ける。

「ああ、我々の太刀打ち出来ないモンスターが出てきた時には頼むよ」

「それなんだが」

「無理か?」

「いや、そうじゃなく。銃を撃つとき、弾に魔力を載せりゃ通るぜ?たぶん」

『「「「え?」」」』

 俺の含めてみんな驚いた。ついでにセリカも驚いた。

「マジで?」

「おう。俺の元の世界でも弓矢とかでモンスター射るときは、魔力を乗せて打つとちゃんと刺さるしダメージも通る。こっちでも同じじゃないかな?」



 石動が腕を組んで何かを考えてるようだが。

「よし、小型がポップしてきたら確保させとこう。実験だ」

 携帯電話で何処かへ連絡する。

「字面だけみると危ない人だな」

「まぁ、そういっても実験せんことにはな?」

 教授もコロナのセットが終わったのかこっちに混ざってきた。



「エイジ、もしかしてその剣も使うときには魔力……マナを使うのか?」

「手持ち武器は体に触れてる限りは、マナを供給されてるのと同じだからな。ちゃんとダメージは与えられる」

 剣とかも投げたらダメってことか。

「常時魔力を帯びた「魔剣」ってのもあるけどな」

 ん?

「……じゃぁ、銃に常時マナ供給させれば」

 と、石動が名案っぽい事を言うが。

「でも、魔術部隊以外にもマナゲートを開かせるのは骨だぞ?魔力の使い方も得手不得手が有るだろうし」

 教授にダメ出し。される。むぅ、と唸った石動はエイジを見上げる。



 武器への常時魔力供給……銃にマナを帯びさせる事ができれば、一般隊員でもモンスターへダメージを与えられる。という、可能性が出てきた。

「そううまくいきますかね?」

「さて、やってみんとわからんさ」





「よし、実験開始」

 その日の夜。夕暮れからポップしだした小型のゴブリンを六四式で一掃して待機していると、オークがポップしだした。

『MU01よりCP。標的確認。オーク。六。攻撃準備よし。送れ』

 89式を伏せ撃ちで構える魔法使い部隊の女性隊員。意識を集中すると銃本体へ緩くマナがまとわりついているのが見える。島に上陸して89式の有効射程ギリギリから照準する。

「CPより各MU。目標オーク。三単射、攻撃、はじめ」

 声を荒らげること無く石動が無線へと号令。



 タン……タン……タン。

 単発射の音が響く。

『三単射。効果有り。送れ』

「こちらCP。一斉射撃。初め」

 タタタタタタタ……。連射音が対岸まで聞こえる。



『セリカ。あっちの状況も判るんだろう?』

『もちろんです』

 視界に一〇インチ位のモニタが浮かぶ。うへ、なんだこりゃ。

『網膜に直接幻影術を懸けて表示しています。アドミニストレータにしか見えていません。現場隊員のマナ結晶からの映像です』

 便利なんだが、無茶するなぁ。

 小さなモニタには連射でバタバタと倒れていくオークが映っている。

『射撃終了。残存……無し。送れ』

 無線のスピーカーから無事にオークを倒せたことを報告される。



「魔石が取れるはずなんですが。回収できますか?ガラスみたいなのです」

 千林の肩の上でそれを見ていたイルマが石動に声をかける。

「魔石?ああ、死体の消えた後に出てくる、ガラスみたいな鉱石だな?わかった」

 戦闘終了を無線しようとしていた石動が無線マイクのボタンを離して返事する。



「CPより各MU。撃退場所周囲を確認、死体消滅跡に残るガラス状鉱石を回収。完了後帰投せよ。以降、ガラス状鉱石を「魔石」と呼称する。送れ」

『MU01。了解。ガラス状鉱石「魔石」を回収後、帰投します。終わり』



「一応、効果はありそうですが……」

「うむ。だが魔法使いに銃を撃たせるのも効率が悪い。なんとかならんかね?」

 石動が俺を見る。え?武器改良も俺がするの?

「考えてはみますが……いいんですか?俺、一般人ですよ?」

 ニカッといい顔で石動が笑う。

「なーに、今は特殊技術顧問だ。問題ない」

 そう言いながらファイル入れから一枚の写真付きカードを取り出した。

「ああ、入場許可証ですね……お、パウチじゃなくて樹脂印刷でICカード仕様って、厳重ですね。えーと」

『民間協力。特殊技術顧問(MU班)』と、書かれたIDを見る。



「無線でも言ってた「エム・ユー」ってなんです?」

「マジックユーザー。魔法使い班では言いにくいのでな」

「若い隊員の意見ですか?」

「うむ。語呂もイイ。悪くない」

 んー。この省略は確かTRPGだったかな。



「度々思ってましたけど。自衛隊ってオタクが多いんですか?」

「よく言われる。たしかにその傾向は強い。だが個々人が何らかのスペシャリストだと思えば、そう悪いものでもない……と、思う」

 理解有る上司ってのはいいね。



「まぁ、そんなことを言ってるからいつまでも三佐なんだが」

 え?

「もしかして」

「うむ。普通四五歳だと二佐でもおかしくない」

 ああ、いろいろあるんだなぁ。

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