11 自衛隊来訪。
マリカがシャワーから戻ってきた。Tシャツとゆるゆるのカーゴパンツは常備品。
「どう?にいさん」
「その『どう?』は、お前のファッションに対してか?それともエイジのことか?」
「エイジさん」
ぺたんと俺の隣に座る。素で返されるとギャグにならんじゃないか。
「帰してあげられなかった……エイジさんもイルマさんも」
マリカはうなだれて床を見つめる。
「……仕方ないさ。あんな想定外の敵がいるとは想像もできなかった」
「でも」
「今は休め。対策は考える」
「うん……」
もそっ、といつものクッションの塊に倒れ込む。
しばらく画面に映る地図を見ていると背後から寝息が聞こえてきた。
「さて、最終的には塔に乗り込むのは前提として、まずはエイジの移動と駐留地だな。セリカどっかいいとこないかな?」
「候補はいくつかありますが、距離的に微妙ですね」
地図にいくつかマーカーが表示される。あー。遠すぎたり近いけど近所に警察が有ったり。難儀だな。
「まずはエイジさんの移動経路を決めませんか?」
「……そうだな。エイジの現在位置は?」
「間もなく琵琶湖大橋に到達します」
青いマーカーが点滅しながらゆっくりと移動している。間もなく湖南に入る。時速一〇キロ弱くらいか。遅い。まぁ、水中だしな。
「とりあえず瀬田川をそのまま行って、淀川から大阪湾まで出てもらうとしようか」
「今晩中に天ヶ瀬ダム湖まで到達できそうです。日中はダム湖の底でじっとしていてもらいましょう」
「ということだ。エイジすまんがしばらく水の中だ」
「了解だ」
しかし、どこへあいつを隠せばいいのか。
「あの」
「ん、なんだ?」
「……黒鳥教授に相談されては?」
「え」
「教授のAI研究が自衛隊に利用されているなら、理由は一つです」
「塔、か」
「はい。ならば事情を説明すれば協力していただけるのではないかと」
教授。黒鳥 大介。城南大学の物理学教授であり量子コンピュータ研究の第一人者だ。
俺が大学サーバーでセリカを運用しだしてからはAIの方も研究対象のようだ。多彩というか、興味の広い人だ。今、なにを研究しているのかはわからないが、自衛隊とのつながりもある。
「教授、塔、自衛隊……そういえば。セリカ、塔の周辺に自衛隊がいたな?」
「いました。……塔の監視制圧のために編成された特別部隊のようです」
「塔の解析に城南大学が入ってたな。責任者が誰か判るか?」
「……ありました。特別編成部隊、外部協力。城南大学工学研究科・黒鳥研究室」
「やっぱりか。だとしたら新型の量子コンピュータも塔の解析用だな」
「教授に連絡を?」
「それが最善だとおもうか?」
俺はAIに何を聞いているんだろう。そんな判断が出来たら人間並だ。
「現時点では最善策と思われます」
あっさり答えやがった。
「あー、セリカ。確認なんだが、もしかしてお前、今も量子ビットが増えてないか?」
「はい。起動直後から比較して25パーセントあまり増量してます」
「どうやって?」
「もともとボディーと量子プロセッサは同一でしたので、空いたリソースでマナ変換術を使用して、大気中からマナを直接結晶へと変換しつつボディーに一体化させています」
さらっととんでもないこといい出したぞこいつ。
「空いたリソースと言ったが、どれが主として行っている?」
「αとβが通常動作中にθがおこなっております」
「そんな許可を出した覚えはないんだが」
「いえ、マリカさんの初飛行試験の夜に強化の許可を頂いてます」
「はい?」
「私が『ネット情報の取得による学習と強化の許可を』と問うたところ『いいよ、好きにしろ』と許可を出されました」
その時の録音まで出してきた。
「言った……かな?」
「はい。確かに」
でも、この文脈だと「AIの学習による強化」としか受け止められんと思うが。
まかり間違っても「学習」と「強化」が別事項だとは思えんよ。
「やっちまったもんは仕方ない……か」
「ありがとうございます」
セリカのことはひとまず置いといて、教授に連絡を取らんとな。電話……は、多分あっちもテンテコマイだろうから、メールにしとくか。
『……ご相談したいことがあります。塔関係です。なるべく早めで連絡をお待ちしております』
こんなところだろう。ポチッとな。
ふー、すでに深夜だが小腹がすいた。なんか食うかな。マリカどうしよう。寝てるしな。流石にこの時間に起こして軽食ってのもな。腹減ったら起きてくるだろう。買い置きのカップラーメンを食べる。この時間に食うラーメンはなぜこんなにうまいのか。
食べ終わって麦茶を飲んでいる時にスマホが鳴った。メール……あ、電話だ。
「はい、八尾」
『八尾君!塔関係とはなんのことだ?!』
「教授、落ち着いてください」
『あぁ、すまんちょっとゴタゴタしててな。で?』
やはり現地はかなり混乱しているようだ。
「塔に天使が出たそうですが」
『なぜそれを!……そうか、ネットか』
「はい、それで相談なんですが」
『手短にいけるか?』
「はい、実は私は現場がどういう状況だったか知っています」
『……なに?流石に八尾君でも』
「現場にいたわけではありませんが、おおよそ天使出現からを知っています」
『よくわからんが、キミはあの天使をなんとか出来る案でも?』
隠すことが多くて話がし辛い。
「天使からの攻撃が始まって、途中で閃光が発生したと思いますが、アレは私の身内の仕業です」
『ちょっとまて』
電話の向こうで誰かと離している。
『今、自衛隊の責任者もここに居る。一緒に話していいかね?』
「もちろんです」
スピーカーにしているのだろうか。ゴソゴソ音がする。
『失礼、私は不明高層建築物対策本部、自衛隊現場責任者をしております。石動三等陸佐です。早速ですが、どうやって現場をご覧に?』
「改めまして八尾です。現場を見た方法はまぁ、飛行ドローンのようなものだと思ってください」
『ふむ、当時現場はかなりの電波干渉を受けてましたが……』
「それも考慮済みです」
『なるほど……で、教授に相談、でしたか?』
「塔に侵入できる方法が二つあります」
『『なに?』』
「正確には侵入できる手段が有るんですが、正直、人目につくモノです」
『それを提供してくれるというのかね?』
教授が妙にウキウキした声で聞いてくる。あぁ、この声はセリカを預けた時と同じ声だ。
「提供と言うよりは協力、といったところでしょうか」
『正確にはどういったものか?』
石動三佐はどんなものか気になっているようだが。
「……口にするのも恥ずかしいんですが」
『『ふんふん』』
「全高六メートルのヒト型二足歩行の鎧……です」
『『……』』
あ、電話の向こう側で二人が固まっているのが見えたような気がした。
『あー、八尾君?』
「はあ」
『君の専門はプログラム関係だったと思うんだが。いや、電子工作系もやるのは知ってるが、二足歩行ロボは専門外ではないかな?』
「そうなんですが、正確にはロボでなはく、自立行動する鎧。です」
『……』
あ、なんか聞こえないように向こうでごしょごしょ言ってるのが聞こえる。
『八尾さん』
「はい」
『一度こちらへ……いえ、教授とそちらへ伺ってもよろしいですか?』
「はい、こちらとしてもその方が話しやすいんですが、先にお願いがあります」
『何かね?』
「琵琶湖湖南にその自立行動鎧が水中移動中です。回収と保護をお願いしたい」
『正確な位置はわかりますか?自衛隊で回収します』
ちらっと地図上のエイジのマーカーを見る。
「現在、烏丸半島の西、一.八キロ付近を南下中です」
『……そこから南西五キロほどに陸自の大津駐屯地がある。湖岸に接してるのでそのまま上陸できる。いけますか?』
地図で見ると確かにある。
「確認しました。そちらに向かわせます。到着したら浮上の前に連絡します」
『よろしく頼む。こちらも収容の準備をする。ちなみに重量はどれくらいですか?』
「約一四〇〇キロほどです。パーソナルネームはエイジです」
『了解した。失礼、連絡してきます』
電話の向こうからゴ!ゴ!ゴ!と硬い足音が聞こえる。収容先に連絡しに行ったか。
ピッと音がする。
『八尾君、スピーカーモードは解除した。聞いてるのは私だけだよ』
「すいません教授。面倒くさいことをお願いして」
『なに、セリカシャドウもちゃんとうごいて役に立ってくれている。その礼だよ』
こちらのセリカには念話で教授に見せる資料をまとめさせている。
「シャドウは何してるんです?」
『主にリアルタイムの画像情報からの微細な変化の抽出。通常画像とサーモ画像などだな。役に立ってるよ』
「なるほど。それは何よりです」
『早速だが、明日の……昼頃そちらに行ってもいいかね?色々話が聞きたい』
「はい、教授だけですか?」
『いや、自衛隊の人間も行くはずだ。多分さっきの石動君だと思うがね』
「わかりました。詳細な資料を用意しておきます」
『面白い話が聞けることを期待しているよ』
「はは、善処します」
電話を切り、深く息をつく。
「エイジ、駐留場所が決まった。今いる所から南西に五キロほどの自衛隊駐屯地だ」
イルマの端末に地図を送る。
「了解した。そのまま上陸していいのか?」
「いや、到着したら浮上前に呼んでくれ。駐屯地とは直接連絡が取れないから、ちょっと連絡が遠回りになってる」
「面倒だな」
「そういうなよ。いきなり浮上したらモンスター扱いされてRPGとか撃たれるぜ?」
「そいつは遠慮願いたいね。わかった。浮上前に連絡する」
「よろしく」
「セリカ、教授に見せる資料はまとまったか?」
「80パーセントと言ったところです」
「魔法関係も見せることになるだろうが、とりあえず「クリスタルセリカ」と「念話」のことは秘匿しておきたい。攻撃魔法関係は開示していい」
「了解しました。私の本体をどこかへ隠していただけますか?」
「わかった。ネット接続は無線でいけるか?」
「かなり遅くなりますが、可能です」
「すぐに最新の高速無線ルーターにしとくよ」
「お願いします」
そうこうしてるうちにざっくりとした資料がまとまったのでセリカシャドウに転送した。
教授には簡単な資料を送ったことをメールする。
明日は多分自衛隊も来る。魔法関係は見せるのも仕方ないとはいえ、マリカは家に退避させとかないとな。絶対巻き込まれに行くからなあいつ。
さて、明日の面会に備えて部屋を片付けるか。マリカにも明日は来客があるからと念話しておいた。ブーブー言ってたがエイジの状況と、体調が戻るまでは飛行禁止としたのでいいだろう。
翌日、昼過ぎ。
「やぁ、八尾君。来たよ」
「ご無沙汰してます。教授」
クソ暑い中、黒鳥教授がやってきた。とりあえず暑いので上がってもらう。
「昨日は電話で失礼しました。改めまして。中部方面隊第三師団第三七普通科連隊副師団長。石動三等陸佐です」
でかい。二メートルはないだろうが、それくらいの偉丈夫が筋肉に押し上げられてピチピチのスーツを着てリビングに立っている。
「どうも、八尾光路郎です。三七普通科連隊というと、シャドウの置いてあるところですね」
「はは、耳が早いですな。おい、バレバレだぞどうなってる情報部」
にゅっと石動の影からもうひとり出てきた。お、女性だ。メガネでロングヘアを背中で結んでる。
「えーと、バレるはずはないんですけどねぇ。あ、すいません。私は防衛庁情報本部分析部特別分析班主任、相模原涼子ともうします。あ、事務官なので階級はないです」
つ、と名刺を出す。
「防衛省情報本部……」
『日本の諜報機関です。以前は陸上幕僚監部調査部第二部別室と言っていましたね』
隔離された押し入れの中からセリカがうんちくを念話で言ってきた。
「あぁ、昔で言う陸幕情報二部ですか。日本のCIAとか」
「いえいえ、CIAを自認してるのは内閣調査室ですよ。我々は米国で言うところのDIAってところですね」
『DIA。アメリカ国防情報局ですね』
注釈どうも。
「なるほど。失礼ながら、ここへ来た目的を聞いても?」
「えーと、昨晩依頼された「鎧」を回収しました」
「ありがとうございます」
もちろんエイジから報告されてたので知っている。かなり丁寧な扱いをされていることも。
「で、コクピットと思われるところからフェレットを回収しましたので」
そういうと、足元のカゴを開ける。
『コウジロウさん!』
イルマが飛び出してきた。
「お、無事だったか」
『まったく、ひどい目に会いました』
『そうむくれるな。後でササミやるから』
『小動物扱いはやめてください』
念話でヒソヒソ話をする。
「ありがとうございます。無事でよかった」
「あはは、可愛いフェレットちゃんですね。お名前は?」
「イルマです。はい、お礼」
「キュ」
イルマが不承不承にテーブルの上で礼をする。
「おおおおおおお。見ましたか石動さん!お辞儀しましたよ!」
「相模原、うるさい」
お、階級はないとはいえ、一応、石動が上官なのか。
「失礼した。それで、あの「鎧」に関して何だが」
「はい」
エイジには喋るなとは言ってあるが、できるだけいじらせるなと言ってあるのでほとんど調査なんか出来なかっただろう。
「まず、動力が判らん。燃料が判らん。どうやって自立行動してるのかわからん。装甲の材質が判らん。まだあるが、コクピットに有った赤い球体も判らん。と、色々謎だらけなんだが」
「でしょうね。それも含めて、情報提供します。ですのでエイジの駐留を許可していただきたい」
「……内容によりますが、取りあえず聞いても?」
「はい、ですがまず、教授。確認なんですが」
「ん?」
「今、稼働しているのは旧筐体Z23のオリジナルセリカと、DAM7のセリカシャドウ。で間違いないですか?」
「ああ、間違いない。それが?」
クリスタルセリカのことは言えないし、かと言って隠し通せるとも思えない。
「実はZ23の方は今はほとんど使っていないんです」
「ん?じゃあシャドウの方かね?確かにあっちのほうが処理は早いんだが」
「いえ、シャドウの方は全くノータッチです。さすがに自衛隊においてある機械は使いにくいです」
「だろうね」
俺は大きめの重箱のようなものをテーブルの上に置く。正方形に近い箱の上に球状のカメラが付いている。
「これは?」
「自作の量子コンピュータです」
「量子コンピュータ?自作の?まさか?!」
教授は目を見開いて問うてくる。
俺は重箱の蓋をカパッと開ける。中にはピンポン球ほどのマナ結晶が一つ。それを空中に浮かべるようにワイヤケーブルが四隅から固定している。結晶にぺたぺたと取り付けられた信号ケーブルは下段の電源やその他の信号変換ボードへとつながっている。
「こ、これは?」
「スペック的にはZ23の倍くらいの量子ビットです」
「このサイズで?!」
「はい。詳しくはこちらを」
俺は今朝でっち上げたマナクリスタル量子コンピュータのスペックシートを三人に渡す。
教授は鼻息荒くそれを読む。
「なるほど。あの鎧の自立行動もこれで行なっていると?」
「はい。そのものではないですが、これと同種のものが搭載されています」
また別のペーパーを三人の前に出す。
「自立制御型歩行鎧<エイジ>」
タイトル欄にはそう書いてある。もちろん俺がでっち上げた。
ペーパーをそれぞれ読み込む三人。
『あの、何の茶番で?』
イルマが俺の顔を見ながら念話してきた。
『クリスタルセリカのことも、エイジのことも、魔法のことも公には出来ん。苦肉の策だ』
『泥縄だと思いますけどねぇ。わざわざ新規でクリスタルコンピュータを作ったんですか?』
『いや、クリスタルセリカが自己増殖してたから、2キロ量子ビットほど分離した。載ってるAIもクリスタルセリカの廉価版で魔法知識は与えていない』
「あの」
相模原がメガネを光らせながら顔を向ける。
「これに載ってるAIもセリカなんですか?」
「姉妹機です。名前はコロナ。かなり機能限定バージョンですが、Z23版よりは処理が早いかと」
『モノは言いようですね』
『やかましい』
「ですが、Z23より処理が早いので、画像処理やネットの情報検索は向上しています」
「おお……おおおお!」
教授が吠える。
「うるさいです教授」
相模原がどうどうと教授を抑える。
「なるほど、大体は納得した。で、アレを使わせてくれるのかね?」
石動が鋭い目で見てくる。アレとはエイジのことだろうな。
「存分に、と言いたいところですが、戦力としてはどうなんでしょう?軍事的な事は畑違いで」
「ふむ、そうだな。普通に言えば、的がでかくて足が遅い。搭載火力量も期待できない。現代戦の戦力としては論外だ」
「では」
「まぁ、まて。だが今回の敵は現代兵器ではない。大物をがっしりと足止めできる巨体が必要だと判断した。それにはあの鎧が最適に見える」
「なるほど、タンクですか」
「タンク?戦車的な扱いではないぞ?」
「ああ、そのタンクではなく、ゲーム用語で壁役とかそんな意味です」
「壁役。なるほど、まさにそうだな。敵を足止めして敵の攻撃を一身に受ける」
ぐっと拳を握る石動。脳筋か?
「鎧に関しては納得した。だが、一つ聞きたい」
「はい?」
「アレを作った理由、ですね」
相模原が横から食い込む。
「そう、ロマンだけでは片付けられないサイズと完成度だ。しかも今の今まであれを作ったのが君だと、どこにも露見していない。そんな事は現代社会ではありえん」
石動が眼光鋭く問う。
「そう……なんですか?」
正直その辺りはよくわからない。
「そうですねぇ。全高六メートルちょっと。アレくらいのものなら隠せそうな気がしますよねぇ」
相模原が芝居がかった声を上げる。
「でも、現在ではおおよその資材や燃料の購入履歴から大体のものは判明するんですよ」
「地下や閉鎖工場でも?」
「はい。あのサイズの地下空間は工事にも届け出が必要ですので、個人で無届けというのも規模的には考えにくいです。もちろん無届け工事をする業者もいるでしょうが、それにしても規模が大きく、そう言った業者の手にあまります。それに閉鎖工場でも電気は必要ですよね?その辺りから調査が入ります。もし、あの規模の機械を個人で、全部秘匿しながら制作できたとしたら、世界中から諜報員としてスカウトされますよ。というか、私が来たのもそれが理由ですけど」
あー、そうだよねぇ。ナニ作るにしても規模に見合った材料とか電気が必要だよねぇ。
『セリカ、なんか良い手段ない?』
『ございません』
あっさりだ。しょうがねぇ、腹くくるか。
「正直に言いましょう。アレは私が作ったものでは有りません」
「ふむ、別に製作者がいるということか」
「ではこのスペックはデタラメ?」
相模原がスペックシートをペラペラと振る。
「いえ、出来る限りの実測値です。材料に関しては本人から聞きました」
「そうか……ん?本人?」
石動が不思議そうな顔をする。
「はい、鎧本人。名前はエイジ・オーギュスト。魔導甲冑のパイロットで、異世界人です」
「「「え」」」
三人の声がかぶる。
「異世界人て」
「魔導甲冑?あれ魔法で動いてるんですか?!」
「本人はどこいったんだ?」
それぞれ疑問を口にする。
「まぁ、待ってください。今、本人を呼びますから。説明は本人の口から」
俺はテーブルの上のでっち上げ量子コンピュータAI「コロナ」に声をかける。
「コロナ、エイジに繋いで。エイジの音声はスピーカーに出してくれ」
「了解。エイジに接続します」
セリカとは違うやや幼い声が響く。
「おお、喋った。かわいい声ですね。合成音声?」
相模原が変な所に食いついた。
「ええ、リアルタイム合成です」
「ほえー」
「コウジロウ、どうした?」
「よう、スマンが、今、お前のいる所の責任者さんが来てるんだ。挨拶してくれ」
「わかった」
コロナの筐体の上に付いているカメラをクルッと三人に向ける。これでエイジにも見えているはずだ。
『お初にお目にかかる御三方。私はエイジ・オーギュスト。アルビオン王国、第五騎士団、遊撃隊、隊長をしておりました。現在はコウジロウ殿の庇護下に有ります。宜しくお願いします』
スラスラと堅苦しいセリフが出てくる。一応騎士だったからか淀みがない。
昨夜のうちにエイジとはひと通りの打ち合わせをしておいた。
三人に向けてエイジは話をする。
異世界人であること、原因不明の転送に巻き込まれてここに来たこと、現在は魂の状態で鎧と一体化していること、最終的には元の世界に帰ることを希望すること、などなど。
「何というか、いまだにアレに人が乗っているとは思えんのだが」
教授が首をひねる。
「クロトリ教授。正確には現在は載っていない。魂だけです」
「そらぁ、理解した……いや正確には理解してないな。魂の定義の問題が有るしな」
「エイジ殿。その魔導甲冑と言うのは、元々何のために作られたのですか?」
石動が問う。
「元々は魔物殲滅用だったと聞いております。事実、魔物が溢れた際にはその討伐も任務のうちでした。平時には国境防衛などで対人戦闘にも使われておりましたが、敵も同種の魔導甲冑を使用してましたので格闘戦や対魔法戦闘を主としております」
「なるほど。やはり対人戦がメインではないのですな。戦車と同じような思想か」
「八尾さん」
「はい?」
相模原がエイジではなく俺に問いかける。
「なぜエイジさんの事を最初から言わなかったんですか?自作とか言っちゃって」
「……だってねぇ、正直、巨大ヒト型兵器ですら実物がなければ荒唐無稽過ぎるでしょう?それにくわえて異世界人?魔法?普通信じません。つーか、生暖かい目で見られるのがオチです」
「あー……まあ、当初からそんなこと言われてたら私達もここにはいなかったでしょうねぇ」
「でしょう?」
 




