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振られ話

上上手取は、一人きりの街角 が舞台で『水たまり』が出てくる失恋する話を2500文字以内で。持ち時間は一時間。

 雨が降っている、雨が降っている。彼女との待ち合わせの最中に急に降り始めた雨の中で俺は一人佇んでいる。こんな日の街角では俺のことを訝しげな目で見るヤツはいるが足を止めて立ち止まるような人はいない。


 今日は彼女とのデートの日だ。特別といえば特別だが毎週のようにデートしている俺達からしてみればもはや日常的と言って良い行程。あいにくと彼女と出会った日は気分がふわふわとしてしまっていてどんなことをしていたのかをよく思い出せないのだがとても楽しかったことは思い出せる、


 ビシャリと、俺の近くで誰かが水たまりを踏みしめたようだ。俺は跳ねた水が足元にかかることも気にせず彼女を待ち続ける。そうさ、彼女に会えることに比べたら足に泥がかかることなんてどうってことない些細な事だ。


「おい、愚弟。お前なにをしているんだ」


 そんな俺にかけられた声は俺の頭より20センチは低い位置から発せられたものだった。


――――――――


 雨の中一人街角で佇みずぶ濡れになっている弟の姿を見やる。必然身長の低い私のほうがこいつを見上げることになってしまうのが腹立たしい。この一ヶ月デートに出かけると言っていた割にいつも焦燥して帰ってくるのでこいつの知り合いに問いただしたところなんと一ヶ月も前にこいつはすでに振られてきたらしい。それなのになぜ毎週のようにデートに出かけると言っていたのか? それが気になって後をつけてみればすでに振られているあの女のことを3時間以上も待ち続ける始末。おまけに雨がふりだしたのにお構い無しだ。


 この先こんなことが続くようならこいつはダメになってしまう。だから姉として私はこの弟に現実というものを突き付けてやる必要がある。憎まれるかもしれない。恨まれるかもしれない。少し寂しいがそれも受け入れよう。


 そして私はその言葉を口にした。


「哲也、お前は振られたんだ」


――――――――


 ――お前は振られたんだ。


 なにを言われたのかわからなかった。いくら姉とはいえ言っていい冗談と悪い冗談がある。冷えていた身体がカッと熱くなるのを感じた。


 俺は反論する。俺がいかに彼女を愛しているか。彼女がどんなに素晴らしいかを。


 ――でもそれって哲也の思いだよね。あの女は哲也のことどう思っているの?


 ナニヲバカナコトヲ、ソンナノカノジョモオレヲアイシテイルニキマッテイル。サイゴニカケテクレタコトバダッテ……


 ――別れましょう


 ズキンとその言葉が俺の胸に突き刺さった。


 ――あなたのことは友達としてはいい人だけど恋人としては物足りないわ……あの女が哲也を振った時の言葉を一言一句教えてくれたわ。


 チガウ! チガウ! カノジョハソンナコトイワナイ! キョウダッテ……


――哲也……もう楽になっていいのよ……


 おねえちゃんに掴みかかろうとしてその顔を睨みつけたらおねえちゃんお目からは涙があふれていた。おねえちゃんと僕の顔立ちはよく似ている。その泣き顔がまるで鏡に写った僕が泣いているように見えて。


 ……ああ、俺は泣いているのか。


 そう認識した途端、この一ヶ月間我慢していたものが僕の双眸からも溢れだした。


――――――――


「それじゃ帰りましょうか。久しぶりに手でも繋いで……ね?」


 突然堰を切ったように泣き出した弟をなだめ雨のやんだ街角を歩く。

 少し恥ずかしいけど昔のように手を繋いで私達は仲良く家に帰るのでした(まる)



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