あくどい笑み
上上手取は、誰もいないプール が舞台で『紅茶』が出てくる失恋する話を1000文字以内で書いてみましょう。持ち時間は一時間。
「それじゃ私達別れましょう。あの女の誘いに簡単に乗ったあなたが悪いんだからね」
そう言った彼女は僕の胸を乱雑に突き飛ばし僕に背を向けて立ち去ろうとしている。突き飛ばされた僕の足元には何もない。そう、ここは切り立った崖の上。後は落ちるしか……
ドボーン
思考の途中で水面に叩きつけられた。
「なぁ……やっぱ学校のプールじゃ雰囲気でないよ」
「いいじゃない火サスごっこ。それにあんたが浮気をしたのは事実じゃない!」
プリプリとそんな擬音を幻聴しながら彼女の顔を見やる。……あれはただ買い物に付き合っただけで僕にやましい気持ちは一切ないのだがそう説明しても彼女は聞く耳を持たない。
彼女の頼みにしたがって水泳部の部活の終わりの空いた時間を貸してもらいこんなことをやっている。
「やあやあお二人さん。痴話喧嘩は終わったかな? これ差し入れ」
二人の時間に乱入してきたのは俺の幼なじみで水泳部の部長。放り上げられたペットボトルを受け取り銘柄を見ると定番の午後ティーだった。
――――――――
差し入れの紅茶を飲み干すと彼女は先に帰ってしまった。何だったんだ一体。
ちなみに彼女が言っていた買い物に付き合った女というのはこの幼馴染のことだ。普段は化粧ッケがないが、俺とふたりきりで出かけるときは妙にめかしこんでまるで別人の装いをしてくるんだよな。
で、彼女が立ち去った後幼なじみとしばらく会話していたんだがその様子を彼女は帰ったふりをしてこっそり見ていたらしい。
そしてつきつけられる「別れましょう」の言葉。意味がわからない。
「私というものがありながらそこの幼なじみと誰もいないプールで二人っきりでイチャイチャと! もう我慢できませんわ!」
僕は幼なじみになんでだろと問いかけてみると幼なじみもわからないといった様子。ほんとなんでだろ?
……だがその時の僕は幼なじみがこっそりとあくどい笑みを浮かべていたのに気づくことはなかった……




