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由衣と祐也  作者: 雪月花
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野球部躍進の秘密

 今日の試合で、祐也はあのポテンヒットも含めて3本もヒットを打っていた。夜、「おめでとう! かっこよかったよ!」とメッセージを送ったら、夕飯の後ぐらいに返信が来て、ちょっと外に出れるか、という。「いいよ」と返して、うちと祐也の家の間の垣根(両家の間は1mぐらいの高さの垣根しかない。しかも、行き来ができる扉もある)のところで落ち合った。


 「懐かしいね。子どもの時はよくここから行き来して遊びに行ったり来たりしたね」

 「そうだな」

 「それより、おめでとう。あんな強豪校相手にすごかったね~。5点もとれて」

 「相手が崩れてくれたってのもあったけどな。でも、応援のおかげもかなりあるぞ」

 「そう? だったら嬉しい」

 「ああ。みんな喜んでた。初めてだったんだよ。あんな声援を観客席からもらうのは」


 そう言いながら、祐也は少し照れくさそうに笑った。その顔がすごく良くて、なんだかまぶしかった。


 「そうなんだ。うん、そうだよね。うちの学校で、自分の部活以外の応援に行こうなんて、ほぼありえないもんね」

 「だろ? だからさ、自分の名前をコールしてくれるなんて、感激しちゃって、みんながんばっちゃったんだ」

 「あはは、良かった! みどりちゃんのおかげだよ。彼女が周りに声かけて始めたんだよ」

 「そうか、すごいな、酒井は」

 「うん、姉御みたいだよ。かっこいいよ」

 「ほんと、ありがとう。……次も来てくれるか?」

 「うん、行くよ! 祐也、がんばれ!」

 「お、おう! ……由衣が来てくれれば頑張れるよ」


 そうボソッと言う祐也の顔に、ちょっとドキッとしたのは佳代ちゃんとみどりちゃんには内緒にしておこう。


 その後、祐也が打ったヒットの話になったのだが、相手の投手の球は重くて、とてもがーんと打ち返せる感じじゃなかったので、当てただけだと言った。


 「そうなんだ。あの、ピッチングを見てても思ったんだけど、なんかうちのチームってすごいよね」

 「すごい?」

 「うん。だってさ、なんていうか……力では相手のK高の方が圧倒的に強そうなのに、なんだかこちょこちょっと点とっちゃうし。ピッチャーもあんまり速くなさそうな球なのに、コントロールが良くて、なんとなく打ち取っちゃうし。なんていうのかなぁ、軍師がいるんじゃないかって思ったよ」

 「……いる」

 「えっ?」

 「いるんだよ、軍師。……ほんと、由衣ってすごいよな」

 「は?」

 「だってさ、かなりの人間が、うちの学校がここまで来たのはただのラッキーだって思ってるぜ。いや、ラッキーもあるけどさ。でも、それだけじゃないんだよ。いるんだよ、軍師が」


 なんか面白い展開になってきた。野球部の躍進の秘密?ってことなのかな。


 「その軍師って、鈴木先生?」

 「ビンゴ」

 「軍師って言い方が日本史っぽいもんね。ははは。でも意外。スポーツやる人っぽくないよね、鈴木先生」

 「ああ、自分で野球やってたわけじゃないみたいだけど、もともと観戦は好きだったらしい。去年、俺たちが入部した時に顧問になったんだって。それまでの先生が引退して、顧問を引き受けてくれたらしい。で、うちのチーム見ていて、強くなる戦略を練る、と言い出したんだよ」

 「え、たとえば?」

 「例えば、ピッチャーなら、豪速球投手はいくらなんでも無理だろ、だから徹底的にコントロールをよくする。そして、直球に加えて、変化球も。ともかくコントロールを磨かせたんだよ」

 「やっぱり! あのコントロールの良さは意図的に鍛えたものだったんだ」

 「うん。で、秋の大会から今の大会中も、みんなで交代で全校のビデオを撮った。それで、選手一人ひとりのくせなんかを調べて、キャッチャーはそのデータを詰め込んで試合に臨んだんだよ」

 「えーっ! そのデータ分析は誰がやったの? 先生?」

 「ううん、先輩。大学生の先輩数名の力を借りた。みんな面白がってやってくれたよ。それに、大学の野球部にツテがある先輩もいて、練習方法や強い選手の攻略方法なんかのアドバイスもしてもらったり、まぁ、いろんな人の力を借りたんだよ。でも、やっぱり一番の功労者は鈴木先生だな」


 そう祐也は言うけれど、その先生を信頼して練習してきた選手たちはかなりエライんじゃなかろうか。私がそう言うと、


 「それまでがあまりに弱すぎたせいで、過去に固執する理由がなかったのと、鈴木先生が破天荒だったせいじゃないかな。部活の顧問先生って感じじゃないんだよ。なんとなく戦国時代の武将みたいでさ、みんな結構頭使って戦略会議したりして。楽しいんだよ」


 ……進学校っぽいかも。



 けっこう話し込んでしまって、蚊に刺されるからって、途中で、私たちは祐也の家のリビングに移動していた。まだおばさまたちは帰ってない。


 「あ、そうだ、夏休みの古文の勉強のことなんだけど、祐也が良ければ、問題集用意しとくよ」

 「あ、頼む。ありがたいよ」

 「うん、わかった」

 「じゃ、うちのリビングは昼間ほぼ空いてるし、またここでいいか。それとも、どっか行くか?」

 「ここを借りられるなら嬉しい。広くて気持ちいいし。うちのリビングでもいいし、私の部屋でもいいけど」

 「えっ?!」

 「え?」

 「いや、なんでもない。うん、じゃ、うちか由衣んちでってことで」


 そう言いながら、祐也の目は泳いでる。あれ? この前もこんな感じのことがあったような気がするけど、なんだったっけ?




 結局、準々決勝は敗退。でも、なかなかいい試合をしていた。実際、その試合のことはTwitter上で話題になっていて、学校でも、部員に「がんばったな」「残念だったね」なんて声をかけていたクラスメイトもけっこういたし、朝礼で校長先生からも褒められていた。

 うん、私も自分が褒められたみたいに嬉しかった。実際、負けた時は泣けちゃったし、ね。私たち6人組はこのことでまた仲良くなった。みどりちゃんの応援も効いたのかな。ふふふ。


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