母の活躍と手ぶくろ
クリスマス当日は終業式。各々の家のクリスマスはイブに終わるということで、例の6人で、クリスマスイルミネーションを見に行くという計画を立てた。場所は私の最寄り駅から電車で10分のショッピングモール。かなり大きなツリーがあることでこの辺では有名なんだよね。
午前中で学校が終わるので、一度家に帰って着替えて、夕方モールに再集合ということになった。
実は、この集まりのことを数日前にお母さんに話したところ、翌日、駅ビルで待ち合わせを約束させられ、洋服をばりっと揃えられた。
「えー、いつものみんなで集まるだけだから、いいよ~。お金の無駄だよ~」
と叫ぶ私をキッとにらんで黙らせつつ、黙々と洋服を選ぶ母は怖かった。結局、クリスマス分だけではなく、あれやこれやと着せられて、私のそれまでの衣服量の半量分ぐらい新しい洋服を買われた。
「誰が着るの、こんなに……」
というと、お母さんは、
「由衣の洋服がもともと少なすぎるのよ! 高校生の女の子なんだから、もっとあってもいいくらいよ!」
「え、でも、身体は一つしかないのに……」
と文句をたれながら、へとへとになってげんなりした顔の私と対照的に、ショップの定員さんと真剣に相談し、どっさり洋服を買った後の満足げな母の顔はきらきらしていた。
「お母さん、今までそれほど私の外見にこだわってなかったじゃない。なんで急に……」
「それなのよね~。女の子だし、そのうち少しはオシャレするんじゃないかと思って傍観していたんだけど、一向にそんな気配はない。この子はこういう子なんだから、まぁいいか、とも思っていたんだけど、この前の文化祭に行って、ハッとしたのよ」
「はい?」
「よそのお嬢さんはちゃんとかわいく年頃の娘さんになっているのに、うちの子ときたら、背だけはすくすく伸びたものの、外見も中身もどうも成長がおぼつかない状況なんじゃないかと。制服以外は小学生の着ているものと大差ないし、こんな感性のまま大人してしまってはまずいんじゃないかと思っちゃって。この時期を逃したら、私の口出しできる時期はないのかも、と危機感を持ったのよ」
ひどい言われよう! たしかに私の服は……シ、シンプルで……あまり女の子っぽくはないけれど、でも、中身はちゃんと高校生だし、勉強もしてるし!
そんな感じの抗議をすると、お母さんは、
「いや、中身っていうのは、そういうことじゃないのよ。情緒というかなんというか。ともかく、まわりの友だちを見てみなさい。自分の行動や考え方とどう違うか。自分の道を行くのもいいけど、自分のまわりの人に興味を持つことも大事よ」
ふ~む。
そういえば、みどりちゃんたちがわかって私だけがわからない、ということが時々ある。そんなときに、毎回、「由衣だからね~」とか言われるけど、あれは「由衣にはわかんなくてもしょうがないね」という意味な気がする。
私には未知の領域があって、だいたいの人はそこが理解できているのに、私はそこに到達していないらしい。これは由々しき自体なのかも。でも、それとこの大量の洋服とどう関係するの??
クリスマス当日、学校から帰ってきた私を手ぐすね引いて待っていた母は、出かけるのに着る服をコーディネイトしてリビングのソファに置いて見せた。
げっ、やっぱりコレか。買う時から、げーっと思っていたミニのキュロット……。なんでこんな寒いのに、短いのはくのー?と恨めしげな顔で母を見れば、文句を言うなら迎え撃つわよ的なドヤ顔だったので、おとなしく従うことにした。紺のチェックのキュロットに、白いニット、水色のコート、それにブーツ。
私の背がわりとあるせいか、ブーツのヒールはぺたんこで、それはほっとした点だ。
それにバッグまで新しいのをもたされて、髪もハーフアップにされた。しかも、おでこ出し。
この文化祭二日目に美花ちゃんがやってくれた髪型をお母さんはとても気に入っていて(ポンパドールというやつです)、自分でも時々やっている。
ピンポーン。玄関のベルがなった。
「あ、祐也だ」
と玄関に走ろうとした私の腕をつかんで、母が何かを差し出した。
「コレ、塗っていきなさい」
「なに?」
「リップクリーム」
「いらな「ぬっていきなさい」
「……はい」
それだけ言って、お母さんはインターフォンに走り、「は~い。あら、祐也くん~」なんて、優しく応えていた。
リビングにある鏡を見ながら、するっとリップをぬる。テーブルの上にそのリップを置いていこうとしたら、お母さんが走ってきて、コートのポケットに入れられた。
「気をつけて行ってらっしゃい」
ご機嫌な顔の母であった。
「お待たせ」
外に出ると、ちょっと北風が吹いていて寒かったからか、少し肩を丸めて祐也が立っていた。
「寒いね~。気温はそれほどでもないはずなんだけどね。風のせいかなぁ」
そう言いながら歩き出す私のあとを、祐也は歩き出したはずなのに、何の反応もない。ん?と思って振り返ると、びっくりしたような顔で、立ち止まった。
「祐也? どうしたの?」
「なんで……」
「え?」
「なんで、そんなかわいい格好……」
「え? 変? 変かな? だめ?」
「あ、いや、ううん、似合ってる。すごく」
「良かった。お母さんに、無理矢理着せられたんだ」
「そっか。なんか、ちょっと由衣じゃないみたいで……、びっくりした」
「祐也、それって……ほめてる?」
「あ、うん。うん。ほめてるよ。由衣……かわいい」
そう言って、祐也は顔を背けた。耳を赤くして。
私はといえば、ぎゃ~~~っ!心の中がじたばた! きっと私の顔も真っ赤だと思う。
しばらく二人とも無言で歩きながら、駅へ向かう。
祐也がポツリと、
「だんだん冷えてきたな」
確かに。夕闇が深くなるにつれて、しんしんと冷えてきた。
「しまった~。手袋、忘れちゃった」
はぁっと、手に息を吹きかける私。祐也が自分の左手の手ぶくろを貸してくれる。
「いいよ~。祐也が寒いでしょ」
「大丈夫だから、使え」
左手に大きな男モノの手袋をすると、祐也の体温が残っていて温かかった。
「あー、あったか~い」
そう言うと、今度は私の右手がとられた。
びっくりして祐也の顔を見ると、やはりそっぽを向いていた。耳を見たけれど、今度は暗くてわからなかった。
二人とも何も言わずに、手をつないだまま、駅までの道を歩いた。




