8.ふたたび劇場へ
「善は急げと言うでしょう?」
いつにも増して嬉しそうな叔母と共に、わたしは舟に揺られていた。
叔母にジョンと出会ったときのことを話したのは、まだ一昨日のことだ。
そして、今日の演目にジョンが出演するという情報をどこからか得た叔母に有無を言わさず連れ出され、今、わたしはここにいる。
とはいえ、今回はわたしも別に抵抗するつもりはなかった。
むしろ、叔母の情報網と行動力には感心したし、ありがたくもあった。
いよいよ、舞台に立つジョンが見られる。
そう思えば、外出の準備をするのも前回ほど苦痛ではなかった。
「ええ。ありがとうございます、叔母さま」
「いいのよ。私も、こうして一緒に楽しめる趣味が増えるのは嬉しいわ」
ふふふっ、と叔母が笑う。
その笑みには、現実世界に生きている人間に、わたしが関心を持ったことに対する興味が滲んでいる。
「叔母さま」
「いいのよ、大丈夫。エレーナの言いたいことはわかっているわ」
「本当に?」
わたしは疑問を抱いている。
自分自身の気持ちが、わからない。
あの夜、出会ったジョンは、舞台衣装を身に纏っていた。
彼はこの世界にいたけれど、創作世界とこの世界、ふたつ世界のはざまにいる、境界のあいまいな存在だったのでは?
「あれこれ考えても詮の無いこと。実際に観て、会って、感じたものが真実よ」
叔母はわたしの目を見ると、諭すように言った。
舟を降りると、周囲からの視線を感じた。
グラレインヴィエット公爵令嬢の叔母と、その公爵の孫でありハルヴェール侯爵令嬢のわたしという組み合わせは、確かに目を引くのだろう。
もしかしたら前回も同様の状況だったのかもしれないけれど、その時のわたしは周囲の様子にまで気を配る余裕がなかった。
だから、気が付かなかっただけかもしれない。
劇場の周辺は相変わらず賑わっている。
芝居を楽しみにしている人々の思いが伝わってくる。
いよいよ、だ――。
気持ちが高揚するのが、自分でもわかった。




