第八十三話 神滅雷帝VS剣撃王
---アビル視点---
この形態は、数ある俺の魔装の中でも特に強力なタイマン特化仕様。
耐久力を破壊力にまわし、骨格の再構成を行うことで、的を小さくしている。
一度この形態になると一部の魔術が使用出来なくなるため、予め魔術式を両眼に埋め込んでおく。
能力値の再配分も同時に行い、天撃級魔術を持つ属性のランクを下げて、神剣術の火力を増加させる。
この形態は、神剣術を扱える形態だ。
古の戦乙女には遠く及ばないが、それでも、素の俺よりは強い。
天撃の魔術王改め、剣撃王だ。
「ぜやぁああ…!」
少女のなりで気合いを溜め、俺は剣を握った。
ゼルマの剣速は、カグヤの居合×3倍と想定される。
まともに打ち合えば、負けこそしないが苦戦を強いられるだろう。
それに加え、彼の加速術式[雷速]が厄介。
雷速は、神速や狂速といった比喩表現を交える加速術式では無く、本当に雷と同速になることができる、極めて凶悪な神術。
凡庸魔術とは比べるべくも無い。
これに対応するにはこちらも速度を上げるしかないが、まだ身体が馴染んでいないので、博打に出ることになる。
となれば、まだ早い。
じっくりとジワジワと、確実に削いでいこう。
なに、問題は無い。
どうせ俺が勝つんだ。
俺が最強だ。
「消滅剣!」
俺は虚空に円を描いた。
円から放射される白銀の閃光は、あらゆる物質、力を滅却せしめる、破壊を超越した消滅の光だ。
とくと味わえ。
「こんなものが、雷帝に届くと思ったか!」
ゼルマが大鎌を深く構え、斬り裂いた。
その隙を見逃す俺では無い。
「消えろ、法輪の狛犬」
「消えるのは貴様だ、天撃の守り人」
真っ向からの撃ち合い。
剣が鎌を掠める。
刃先が滑り、リーチの差で分が悪い。
だが、突きならどうだ。
「千剣、糸線番」
俺はひたすらに突いた。
当たる。
いける。
肩や足、胸部以外の全てに負傷を与えている。
でも、決定打に欠ける。
ダメージは、奴の再生速度を大きく下回っている。
この心臓部の宝玉。
まさかとは思うが……神滅因子か。
「チィ…!」
俺は鎌を斬り払い、飛び退いた。
これ以上の接近戦は不毛と判断した。
それに、身体のコントロールが効かない。
まだ慣れないか。
「大した男だ。我を相手に、ここまでやるとはな」
ゼルマは随分と偉そうに言う。
「貴様の目的は雷神を討つこと。だがどうも腑に落ちん。何ゆえ家族を手にかける」
「兄に勝る弟などいない。それを証明するためだ」
「ああなるほど……そういえば貴様は敗者だったな」
「如何にも。だが我はまだ生きている。生きてさえいれば、あの憎き末弟を屠れる。屠れば我が名が天上に轟く。神滅因子を手にした今、我に敵う者などこの世の何処にもおらんわ」
「戯けたことを。ちゃんと見ろ。いるではないか、貴様の今、目の前に」
「……」
「雑魚を蹴散らせる程度の力を手にしたぐらいで、いい気になるな。俺は貴様の何十倍も強い。それを今、証明してやろう」
「……クククッ。退屈させるなよ? 道化」
ゼルマが視界から消えた。
更に速度が上がった。
だからなんだ。
俺よりは遅い。
「追って捕まえてやる!」
走りながら、両眼に魔力を込めた。
奴が接近する刹那を逃さない。
後方、東方、前方、来た。
南西方からだ。
瓦礫、土、枯れ木。
素材は無限にある。
自然の盾で防御して、カウンターを決める。
「隻眼侵食従者」
生物を操る能力は、形態変化と共に性質も変わる。
その力は有機物、無機物にまで侵食する。
要塞より強固で、砲弾よりも薄い壁を作った。
「小癪な真似を…!」
砂鉄が大鎌を銜えた。
ゼルマが鎌から手を離し、距離を取った。
俺は術を解き、居合の型で突進。
「せやぁ…!」
紙一重で空振り。
クソっ、また捕捉しなくちゃならない。
鎌は消えた。
この一瞬で回収された。
「ククッ……その乱れ髪。あの娘にも重なって見える」
ゼルマが顔を抑えて笑っていた。
「…あの娘?」
「テトラ。無様に散った、あのポンコツよ」
その言葉を聞いた時、俺はこの日一番の最速で斬りかかった。
膂力で圧倒しているが、防がれた。
……テトラ。
やはり死んでいたのか…。
「あのポンコツの叫びを、お前にも聞かせたかったなぁ!」
「外道め…」
剣筋を弾かれ、蹴り飛ばされた。
熱くなるな。
感情を抑え込め。
……無理だ。
湧き上がる逆鱗に唆され、我慢できない。
「加撃が荒くなったな! まあ無理も無い! 自分を愛した女が、他の雄に犯されたのだからな!」
挑発に乗ったらダメだ…。
わかってるのに。
「黙れ…」
「特に貴様の名前を出した時は最高だった! ボロボロに謝罪を口にして、穢身を後悔しつつ、激しく踊っていたぞ!」
「黙れと言っているのが聞こえないのか……?」
剣撃が、段々と遠のく。
届かなくなっていく。
「……っ。痛いな」
大鎌を左肩に受けてしまった。
もらってしまった。
結果、血中に流れこむ五月蝿い音色に、血管が弾けた。
これが、死神笛の能力。
精神攻撃と怪音波を合わせることで、敵の心拍数を急上昇させて自壊させる。
怒れば怒るほど、失血死のリスクは跳ね上がる。
だが俺は、不老不死だ。
血など無限に湧かせて、怒りなど確殺殺意に昇華してくれる。
「テトラは…俺のことが好きだったのか…」
たかが一年そこいらの付き合いで、どうして。
そこまで人を好きなれるんだ。
「最早、戦意すら喪失したか…」
ゼルマの鎌が、俺の腹部にめり込んで。
受けた剣は砕けて散って。
両断スレスレで斬り飛ばされた。
「がはっ…!」
凄まじい速度で叩き付けられた。
肺は潰れ、即座に再生。
全身の傷はゆっくりと治癒されていく。
「ハァ…ングッ…」
眼前に迫るゼルマ。
こいつは強い、とてつもなく。
精神を乱されれば、間違いなく殺される。
不老不死の弱点を知らなくても、突破は可能だ。
もしそうなれば、コウやカグヤが。
一呼吸の間に殺されてまう。
「アビル…!」
カグヤが全身血だらけで駆け寄ってきた。
ああそうか……始末したのか。
アルストロメリア兵団も、メルフィアの従者も。
処刑人も首を撥ねられていた。
一人残らず死んでいた。
「来るな…殺されるぞ」
「殺されるのはアビルだよ! いいから早く逃げよ…ね?」
逃げられないってわかってるのに。
カグヤはまだ、泣くのを我慢してる。
強いな。
この場にいる誰よりも、お前が輝いて見える。
なら俺は一切の出し惜しみをせず、絶対的な暴力で勝利しないと釣り合わない。
隣に居れない。
「死の瀬戸際に見せる顔ではないな」
紫電の水源。
ここは、神の雷で支配された。
ゼルマが振るう大鎌が、更に大きくなった。
「死ねないからな、二つの意味で」
俺はカグヤを軽く抱き締め、頬に口付けを施し、今一度剣を握った。
「貴様は真の魔術王を見る資格がある。最も、これが最後と願いたい」
本当は使いたくなかった。
天撃級が制定される要因になった、反逆者の絶技なんて。
でも、もういい。
戒めを解く。
「ふぅ……」
一度深呼吸。
カグヤがそこに居る。
カグヤが見ている。
カグヤの傍で、傍らで。
俺に敗北は無い。
「覇号殲滅戦態」
もって十数分の絶技。
魔力濃度は神の領域に達し、地形を変化させる。
得物は極彩色の剣。
時空を斬り裂く、諸刃の剣。
この姿で使用するのは初めてだ。
「アビル…なの?」
カグヤは驚いた顔をしていた。
今の俺の容姿に、びっくりしていた。
かつて戦姫が至った聖女の姿に。
「次から次へと、引き出しは無限か?」
ゼルマは動じず、大鎌を構えた。
油断も隙も無い、強者の威圧を纏う。
「ここから先、目を逸らすなよ」
俺は一歩踏み込み、ゼルマの両腕を斬り落とした。
「なに…!?」
更にもう一歩踏み込み、次は左足と腹部を斬り裂いた。
「ぬぅ! ガァ…!」
ゼルマが退く。
姿が小さく見えるほど遠く、距離を取る。
さすがは雷帝、素晴らしい速度だ。
同じ神族でも、気配を察知できる者はごく僅かだろう。
でも俺にはハッキリと見えた。
止まって見えた。
一歩で接近できるほど、その距離は近い。
「な…なんなのだ! その速――!」
俺は死神笛を粉々に砕いた。
そこからゼルマの右足を切断し、達磨にして、矢継ぎ早に剣を振るう。
「ウォオオオオァアアアアアア――!!!」
神滅因子諸共、粉微塵になるまで斬った。
首一つを残して、血の池を作った。
あとは…これを割るだけ。
「ああ…エリス様。やはり……貴方の目に狂いは無かっ…」
俺は剣を振り下ろし、ゼルマの脳漿をぶちまけた。
その後、何度も踏んだ。
踏んで踏んで、塗り広げた。
ペースト状になるまで、ぐちゃぐちゃにした。
「ほら、どうした…? 俺を殺すんじゃ無かったのか?」
やめられない。
終わりが見えない。
聖女の姿で…こんな。
でも、でも。
「なんで……」
なんで、テトラが殺されなくちゃならないんだ。
わからない。わからない。
何にもわからない。
考えたくない。
「お疲れ様…アビル」
ふわっと背中に感じた温もり。
魔術を解くおまじない。
姿形が、元に戻った。
「すまん…少々取り乱した」
「……うん、わかってる」
カグヤのお陰で戻ってこれた。
深い海の底から、俺を引き揚げてくれた。
彼女は恩人だ。
もう、飲み込まれてはいけないな。
後は、そうだな……うん。
最後の仕事が残ってる。
コウを見送らないと。
俺の弟子を。




