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第七十七話 知らぬが吉

 リコルドの容態は非常に悪かった。

 敵軍を退けたとの事だが、ダメ押しに呪詛を吹き込まれた形跡があり、片腕が機能していなかった。

 切創十二箇所、深手は三箇所。

 どれも正中線を狙われていた。


 時間は要したが、何とかリコルドの蘇生は済んだ。

 リラが施した応急処置が延命に繋がり、俺の解呪魔術と治癒魔術で一命を取り留めた。

 久しぶりに奮ったぞ、神級魔術を。


 また、ミゼルの精神状態は回復傾向にある。

 俺が三日三晩添い寝して落ち着かせたのだ。

 セアリーですら手を引いた彼女を、俺は全肯定しつつ、優しく慰めた。

 このことに関しては、後でリコルドに正式な謝罪しようと思う。

 他所の妻を寝取ったと言うと語弊があるが、実際そう思われても致し方ない。

 それに、彼女の不安定な精神は、人肌を求めていた。

 まあ、ありがちな話だ。

 人肌が恋しいってやつだ。

 三日目に突入した頃には、夜這いされかけた。

 彼女は、老人が好みなのだろうか。

 宣言しておくが、俺は断じて手を出していない。

 信じてくれ。


 と、俺はカグヤに全てを告白した。


「野獣の思考回路って、そんなもんよね」


「全肯定からの抱擁は反省している。だが、あの状況では、ああするしか無かった」


「ミゼっち喜んでたでしょ?」


「いや、そんなに喜んでいる様子では無かった。むしろ、罪悪感に苛まれていたぞ」


「ふーん…そうなんだ」


 凍てつくような氷の目。

 暫くはまともに近寄ってこないぞ、これは。

 二週間空けたのが不味かったな。

 早期に片付けるべきだった。


---


 セレスティアから戻り、二週間が経ち。

 トータルで四ヶ月が過ぎた頃。

 テトラの異変に気づく。


「お前…その痣」


 日に日に増えていく痣。

 当初は擦っただの、転んだだの、落ちただの。

 あらゆる事故を語っていたが、ここまで来ると異常だ。

 手も足も、頬も腹部も痣だらけ。

 打撲痕と内出血が多すぎる。


「あんまり、ジロジロ見ないで…下さい」


 何かを隠匿するような苦悶の表情。

 初めて、テトラが俺を拒絶した。

 

「何があったのだ?」


「言いたくないです…」


 テトラは口をつぐむ。

 カグヤは、何かを知っているようだったが。


「俺には、教えてくれないのか?」


「はい。アビル様には、絶対に言いたくないです。死んでも嫌です」


 こうもハッキリ断言されると、流石に傷つくな。


「ならせめて、もう少し寄って話さないか?」


「……嫌です」


「どうして…」


 いや、よそう。

 これ以上は加虐だ。


「汚れが移っちゃいますよ…」


 ぽそっと、か細いテトラの声が。

 微かに香ったアレの匂いが。

 もしそれが、日常的に行われていたとしたら…。


「あら、二人共辛気臭い顔をしてどうしたのです。わたくしも混ぜてくれません?」


 メルフィアの仕業か。

 そうとしか思えない。


「死ぬ覚悟は出来てんだろうな?」


「まあ怖い、いきなり脅迫ですか。酷い話です」


「とぼけるなよ貴様…」


「はぁ……いい加減覚えなさいよ。コウ、殺しますわよ…?」


「……」


 言いなりになるしかない。

 悔しいな。

 怒りが増してしょうが無い。


「テトラと俺の部屋を共用にしろ。さすれば俺も大人しくする。これ以上、無理は言わん」


「構いませんよ。その代わり、夜分は彼女をお借りします。と言っても、わたくしが借りる訳ではありませんけど…」


「誰だ、言え」


「アビル様には、絶対に言いたくないです…ってね」


 そう言い残し、メルフィアが部屋を出ていった。

 あいつは初めから全て聞いていた。

 魔術が使えない、感知ができない。

 鼻を頼りに探るしかない。


「もう行ったかな…? 出てもいい?」


 テーブルの下に潜り込んでいたカグヤ。

 器用な奴だ。


「ああ。出て来い」


「よいっ…しょ」


 カグヤが長椅子に座った。

 足の組み方といい、ふんぞり返る姿といい、猛者感が否めない。


「カグヤちゃん…」


「どうせなら三人一緒がいい。これ以上、アイツらの好きにさせんな」


「でも…わたし…」


「アビルは気にしないよ。ちょっとぐらい悪戯したって、誰も文句言わないから」


 安眠を妨げるなら、文句は言わせてもらう。


「なら、期間を設けようか…?」


「!」


 テトラが触覚をピンと立てた。

 ある筈の無い触覚を立てた。

 それを弟のミーロンに察知された。

 ミーロンがドタドタと慌ただしく部屋に入ってきた。


「姉さん! 僕と寝ましょう!」


 修行後、汗だくになって駆け出してきたのが目に見える。

 ミーロンのシスコンが強烈過ぎて、カグヤが白目を向いている。


「でもミーロンは、いつもメルフィア様と……ふぁ…」


 テトラが意識を失う。

 寝不足以前の問題だ。


「ちゃんと見れるのか? 少しだけ不安だぞ」


「何を言いますか。僕は姉さんの弟ですよ? 頭のつむじから、足のつま先の爪まで知り尽くしてます」


 なんとも危なっかしい小僧だ。

 彼ほどの美男子なら、落とせる女性も多いはず。

 なのに、姉。

 いやほんと、お前。凄いな…。

 幸せそうで。


「うん、じゃあ任せるよ」


 カグヤが弱りきったように言う。

 どことなく、不安げだ。


「はい! お任せ下さい!」


 ミーロンはテトラを担ぎあげて去っていった。

 傍目から見ると人攫いなんだよな。

 それも、かなり良くない方の。


「ねぇアビル。あの二人は、ずっと一緒にいられる?」


 カグヤが意味深な事を言う。

 こういう時、彼女は決まって悄然とした面持ち。


「いて欲しいと願う」

 

「それは、どんな形になっても?」


「もし引き裂かれたなら、俺が送り届ける。俺にはその力も、覚悟もある。慣れっこだ」


「そっか。やっぱアビルは凄いや」


 カグヤの言ったことは、最後までよく分からなかった。

 でも妙に生暖かく感じた。

 まるで、俺よりも現実を見ているようで。

 少しだけ気持ち悪かった。

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