☆10 「効果『爆発』を習得しました」
つくしは考えた。
「もしかして錬金術って、つかうと爆発しちゃう……?」
実際はもちろん違う。
違うのだが、つくしにとっては自分の体験したことが全てである。
「とりあえず装備取りにいかなくっちゃ」
つくしが死んだ場所まで戻って経験値とアイテムを回収していると、また同じところにヒールハーブが生えていた。
「わーい。またヒールハーブゲットぉ」
喜んでヒールハーブを採取していくつくし。
だが、いつものように錬金釜を取り出したところで、ぴたりと動きを止めた。
「調合したら、また爆発しちゃうのかなあ……」
ここで爆発すれば、また同じ道を往復する羽目になる。つくしは考えた。
「どうしよう。やめとく? んー…………。いいや。やっちゃおう! だって、つくし錬金術師だもん!」
自ら選んだ錬金術師という職業につきまとう爆発という業。それを背負う覚悟を決めたつくしであった。
そして見事に爆死したのであった。
「もー! こうなったら、とことんヒールポーション作っちゃうから! 死んでもべつに損とかしないし!」
もともと他にできることもない。レベル上げをするにも回復アイテムが必要なのだ。ならば、まずはその回復アイテムを量産することからはじめればいい。
つくしは爆死を繰り返しながらヒールポーションを作り続けるマラソンをはじめたのだった。
ポーションのストックが10を越えたころ、つくしのステータスに変化が現れた。墓石に触れて失った経験値を回収すると、レベルが5から6に上がったのだ。
「あれ? つくしレベル6になってる。戦ってないのに変だなー。なんでだろう」
錬金術師のような生産職は、戦闘の他にもアイテムを作ることで経験値を得ることができる。だがつくしはそれを知らない。
「まいっか」
つくしは特に気にすることもなく、再び調合に取り掛かり爆死した。
その後も調合と爆死を幾度も繰り返し、つくしの所持するポーションの数は100に届こうとしている。調合による経験値でレベルも少しずつ上がり、いまやつくしはレベル8である。
このころになると、つくしは爆死することも調合の手順のひとつとして数えるようになっていた。
「これでー、100個目完成っ!」
つくしが100個目のヒールポーションを調合し、同時に100回目の爆死を遂げたとき、ぴこん、という効果音とともにメッセージが表示された。
〈効果『爆発』を習得しました〉
「ん、なんだろこれ。爆発って?」
メッセージはすぐに消えてしまった。
死んだままではなにもできないので、つくしはとりあえずリスポーン地点へと戻った。
「さっき変なメッセージ出てたけど、なんだったんだろう」
首を傾げながらも、つくしの足は墓石の方へと向かい始めている。もはや癖だ。
調合したポーションの数が50を超えたあたりから、つくしも「そろそろ充分じゃなないかな?」とは思っていたのだが、辞め時がわからなくなっていた。
なにしろアイテムを回収しに行くとヒールハーブが生えているのだ。それを見ると、つい錬金釜を取り出して調合を初めたくなってしまう。そうするとつくしは爆死してしまうので、またアイテムを置いてリスポーン地点へ戻ることになり、回収に向かうとヒールハーブが生えている。
恐ろしいループの罠につくしははまっていた。
『姉さん、夕飯の支度ができましたよ』
どこからか、蘭の声が聞こえた。
VRギアについたマイクが、外の音声を拾っているのだ。
「あれっ、もうそんな時間?」
つくしは慌ててメニューを開き、時間を確認する。
「わっ、ほんとだ。もう8時になってる! えーとえーと、蘭ちゃん、ちょっとまってー! 装備だけ回収させてっ」
つくしは真っ青な空へ向かって叫んだ。すれ違ったプレイヤーが怪訝そうな顔でつくしを見ている。
ゲーム内の音声を外部スピーカーに出力するためには特定の操作が必要なのだが、もちろんつくしはそんな操作もVRギアの仕様も覚えてない。伝わらないのを承知で蘭に向けて叫んだだけだ。つくしは墓石へと向かって走る。
『姉さん? あ、まだゲームやってたんですね。ええと、姉さーん……って、聞こえないですよね。私もログインしないとだめなのかな』
「聞こえてるんだけどなー。ログアウトしたら、聞こえてるよ―って蘭ちゃんに教えてあげなくちゃ」
『寝てるみたい…………いまなら、何をしてもばれないのでは……?』
「えーっ、蘭ちゃんなにしてるの? も、もしかして……つくしのおかし勝手に食べちゃったりしてないよね!?」
つくしは急いでアイテムを回収し、ヒールハーブを無視してログアウトを選ぶ。しかしゲームが終了してもVR空間から抜けるまで1分間の休息時間を待たなくてはいけない。つくしは気が気ではなかった。
「蘭ちゃーん!」
現実の世界に復帰してすぐに蘭を呼ぶつくし。視界はVRギアで塞がれているので真っ暗なままだ。
「は、はいっ!?」
明らかに慌てている蘭の声が耳元から聞こえた。つくしは起き上がってVRギアを脱ぐ。
蘭はベッドのそばで膝立ちの体勢で固まったままつくしを見ている。
「聞こえてたんだからねー」
「な、なんのことです――まさか、こっちの声、ゲーム内でも聞こえるんですか……?」
「うん。聞こえてた」
「違うんです! あれは――」
「つくしのお菓子食べてない?」
「……食べませんよ。それに、ほら、もう夕飯ができてますから。早く食べないと冷めちゃいますよ。ね、行きましょう、姉さん」
食べ物の話題になったのを幸いとばかりに、蘭は立ち上がってつくしを夕飯に促す。
「むーっ。蘭ちゃん、なんかイタズラしようとしてたでしょー」
「い、いたずら!? してません! してませんよっ」
蘭の声は上ずっている。だが、つくしも本心では蘭が悪いことをするとは思っていないので、からかうような口ぶりだ。
つくしは蘭の腰に抱きついた。
「ほんとかなー」
「あっ、姉さんやめてっ。くすぐったいですっ。本当に、なんにもしてませんから」
やめては言うものの蘭は特に抵抗もせず、つくしにされるがままになっている。
「夕飯はロールキャベツとからあげですよ」
「ほんと!? やったあ! はやくいこう、蘭ちゃん!」
メニューを聞いて目の色を変えたつくしは食卓へと走っていく。
蘭はつくしのあとを歩きながら楽しげにくすりと笑った。




