エピローグ ~あなたの胸に飛び込みたい~
恥ずかしすぎる告白から2か月が経って、 私と奏太君は、すっかりサッカー部公認カップルになった。
私のための見学席までできちゃったくらい。
びっくりしたのは、例のマネージャーさんは彼氏持ちだったってこと。
「どういうこと!?」って鈴ちゃんに聞いたら
「カラスが黒くてしゃべれないのは、神様にいい加減な報告をして罰を受けたから。
明日翔も、嘘吐きには気をつけた方がいい」
なんて悪者っぽいことを言ってたけど、言ってる鈴ちゃんの顔は少し赤かった。
要するに、私に勇気を出させるために嘘をついたってことらしいんだけど。
そのお陰で奏太君とお付き合いできるようになったんだから、感謝しかないよね。
遥ちゃんからは、
「あ~あ、まさか明日翔の方が先に彼氏作るとはねえ」
って言われてるけど、別に羨ましそうってこともない。
実は遥ちゃんは結構告白されては断ってるらしいから、多分、私のことからかってるだけだと思う。
それで、明日のクリスマスイブは、奏太君と久しぶりのデートの予定。
さすがに冬休みになってサッカー部の練習もお休みになったから、2人でショッピングモールにお出かけ。
あそこのイルミネーションが綺麗だって評判だから、デートコースとして人気があるんだって。
マフラーもなんとか編み上がったし、可愛くラッピングもしたし。
奏太君、喜んでくれるかな。
「うわあ、綺麗だね」
「ああ」
噂どおり、イルミネーションはすっごく綺麗だった。
広場中央のクリスマスツリーを中心に、色とりどりのLEDが光ってて。
ただ…
「予想はしてたけど、カップルばっかだな」
「そうだね…」
周りは、私達と同じカップルばっかりで、すごく混雑してた。
えっと、ロマンチックとかそういう気分じゃないくらい。
「帰っか?」
「そうだね…」
結局、私達は、少しだけイルミネーションを見た後、ファミレスに入っておしゃべりすることになった。
クリスマスのディナーなんて、私達のお小遣いじゃ無理だもんね。
せめて気分だけでもってことで、ご飯食べてプレゼントの交換をして。
イブのデートでファーストキスとか、ちょっと憧れだったんだけど。
手を繋いで家まで送ってもらって、帰り際。
「メリークリスマス。これからもよろしくな」
ギュッと抱き締められて、キス、された。
手を振りながら走ってく奏太君を、私は手を振ることも忘れて呆然と見送った。
多分、真っ赤な顔してる。
夢、叶っちゃった。
次は、私の方から、奏太君の胸に飛び込んでみよう。
今度は、きっとできるから。
これにて完結です。
今年の8月30日、小鳩子鈴さまの活動報告で、「歯が浮くほど甘いポエム」というキーワードの下、13人が連作でポエムを綴りました。
鷹羽もこれに参加し、なななん様の「俺を見て」と対になる形で「ボールになりたい」を書いています。
そして、その2編から派生した、サッカー部の少年に片想いする少女のお話を書きたくなったのです。
その頃、なななん様が男バージョンで「七男」と名乗るようになったため、ヒーローの名前が「七男」君になりました。
主人公の名前は、鷹羽飛鳥をもじって「小鳥遊明日香」にしたのですが、なにしろ内気な子ですので、誰かに背中を押してもらわないと話が進まないなあ、ということで、女友達として、ポエムのとりまとめをしてくださった小鳩子鈴さまと、先にラブポエム発の恋愛小説を書かれた遥彼方さまから名前を戴き、鈴ちゃんと遥ちゃんの登場が決まりました。
そうしたら、「小鳥遊」に合わせて、鳥絡みの名字で2文字、1文字にしたくなって、「烏丸鈴」と「鴻遥」になったのです。
これによって名前によるギミックが決まり、主人公の名前が「明日香」から「明日翔」に変わりました。
ちなみに、鈴が言っているカラスの話は、ギリシャ神話のアポロンとカラスのお話です。嘘をついたとか真偽を確認せずに報告したとか諸説あるようですが、鈴は敢えて嘘を教えて焦らせるという意味で使っています。
七男については、なななん様がプロのフルート奏者ということで、当初「振戸七男」にしようと思ったのですが、さすがに7人兄弟にもできず、「七男奏太」に。
結局、名字に意味を持たせることはできませんでした。
元になっているポエムが両片想いですから、当然、七男も明日翔を好きなわけで。
明日翔は鈍いので気付いてませんが、わざわざ墨汁を借りに来たのだって、明日翔に近付くためです。
内気で消極的なヒロインというのは、実に動いてくれません。
考えてみると、鷹羽の作品の主人公って、アクティブな女の子が多いですね。その方が書きやすいからだろうなぁ。
さて、内気な少女の告白物語、いかがだったでしょうか。
楽しんでいただけたなら、嬉しいです。
結局、ファーストキスも受け身になってしまいました。
けれど、きっと今度は自分から飛び込めるでしょう。
告白した勇気は、明日翔の中にちゃんと根付いていますから。




