にゃにゃにゃ(白猫視点)
母様のような人を妃にして、可愛い子猫たちに囲まれて、父様のようにいい王様になる。
小さい頃からずっと夢見ていたこと。
王国の兵士も国民もみんないい猫たちばかりだったから、王様になるのには何の不安もなかった。
狼の国では、弱い王様は噛み殺されてしまうらしいけど、僕たち猫の国ではそんなことはない。
みんなが協力し合って、のんびり暮らしている。
メス猫の独占禁止法とか、よく分からない法律を大臣たちが上げてくるのだけには、僕も父様もうんざりしているけど、不満なんてそんなことくらいだ。
王様になるために、魔法も、剣術も、お勉強も、何一つ手を抜くことなく頑張ってきた。
すべては可愛い妃のためだった。
大臣たちは事あることに、いい王様になれなきゃ、妃様が来ないよって脅すんだ。
それが嫌で、僕はいつも嫌なことも全部逃げないでやってきた。
体がびしょびしょになる水浴びだって、自分から飛び込んで行ってやったし、嫌いな種類の魚だっておいしいって言いながら食べてやった。
大臣たちもやがて、非の打ちどころのない王子だって言ってくれるようになった。妃が来たらすぐにメロメロになるだろうって、太鼓判を押してくれるほど。
そして待ちに待った召喚の日。
召喚されたのは、なんだか僕たちとは少し姿の違う妃だった。
でも、僕の妃。
ずっと待ってた妃。
嬉しくないはずなんてなくて、好きにならないはずなんてなくて。
僕は毎日毎日、妃に会いに行った。
妃は僕たちの言葉が分からないみたいだけど、そんなことは気にならなかった。
朝挨拶に行けば、そっと抱き上げて頭を撫でてくれる。
僕以外の猫にも同じようにするのは妬けるけど、僕の妃は優しいから仕方ない。
花も送ったし、妃のドレスもメス猫が好きなもの、みんなに聞いて回って選んだ。
でも、妃は僕がどれだけ誘っても応じてはくれなかった。
他の猫たちは誘惑するように見てくるけど、僕が好きなのは妃だけ。
妃が口説かれてくれるまで、他の猫なんて見るつもりはなかったんだよ。
でもほら……尻尾を振りながら意味深な目で見つめられたら、出来心の1つや2つ……。
もちろん、落ち着いてみれば後悔しかなかった。
体にまとわりつく他のメス猫の香りは自分でもはっきり分かるほど。会いに行けばバレないはずなんてなくて、僕は妃を避ける日が続いた。
妃が会いに来るかもしれない、そうしたらなんて言い訳しよう。
そう考えていたのも最初の2・3日のうちだけで。
妃は僕がいないことを、他の猫たちに聞くことすらしなかった。
落ち込んでいるうちに、あのメス猫が子猫を生んだのだと聞かされた。
妃以外の子だろうと、王子の子は王家の子。
乳離れした子猫を引き取る日が来て、僕はやけっぱちの気持ちで、子猫を連れて妃に会いに行った。
嫌われてしまうかもしれない。
すごく不安だった。
でも、妃は何の迷いもなく、嬉しそうに子猫たちを見つめていた。
妃に申し訳ないって思った。
妃は僕たちとは姿が違う。
だから、僕のことが好きでも、きっと僕の子猫は生めないんだ。
子猫をあんなに愛しそうに見つめているのに、妃は子猫を生めないんだ。
「にゃー!!」
僕は妃にぎゅーって抱きついた。
王子になる子猫は妃じゃない猫に生んでもらう。
でも、僕の妃は妃だけ。
その日から、僕は毎年、子猫を連れて妃に会いに行った。
妃はいつも嬉しそうな顔で、僕も嬉しかった。
子猫が子猫を生んだら、子猫と子猫を連れて妃に見せに行った。
妃はいつもよりもっと喜んでくれて、僕もすっごく嬉しかった。
子猫の子猫が子猫を産んだら、子猫と子猫と子猫を連れて妃に見せに行った。
僕も長生きだったけど、妃はもっと長生きで。
僕たちと違う妃は、僕たちよりずっと長生きなのかもしれない。
だから、僕は子猫たちに、妃を大事にするよう何度も何度も言い聞かせた。
子猫も妃が大好きだから、心配はいらないのかもしれない。
でも、妃のために、できるだけのことはしておきたかったから。
若い頃のように満足に走り回ることができなくなっても、美味しいものが少ししか食べられなくなっても、妃が隣にいてくれるから、毎日幸せだった。
仕事はもう全部子猫たちに任せているから、僕は眠気に誘われるままに、妃の隣でうとうとする日々。妃は僕の背を優しく撫でてくれて、僕だけが少しだけ先に逝ってしまうことを悟ってか、少しだけ寂しげだった。
とくんとくんと、心臓の音がゆっくりになっていく。
かすんでいく目に、妃の悲しそうな目が映る。
「にゃー」
寂しい妃を一人にしてしまう。ふいにそう思った。
僕はみんなにとっていい王様になれたと思う。
でも妃にとっては?
弱っていく心臓がギュッと苦しくなる。
僕はずっと分からない振りをしてきていた。
「にゃああ」
僕たちとおんなじ姿の母様は、父様と仲良くて幸せそうだった。
でも妃は、僕とも子猫たちとも仲が良かったけれど、本当はいつも寂しそうだった。
恥ずかしがることもなく大胆に僕以外のオス猫たちを抱き上げる無邪気な王妃。
僕は妃が妃で嬉しかったけど、妃は……。
妃の暖かい手が慰めるように僕の背中を撫でる。
暖かい手から、妃の愛情、優しさが伝わってくる。
「みー」
妃が好き。
妃を寂しくしちゃったのは僕だけど、でも僕は妃がいてくれて、
「にゃにゃにゃ」だったよ!