第35話 理不尽には、理不尽を
地獄の揺り籠につくった拠点には、バルバトスの組織が使うスペースの他に、私の専用スペースとして、マスタールームを造らせている。そのマスタールームやバルバトスたちが使うスペースは、聖域結界を固定しているので、死霊術を使っても効果がない。
この地獄の揺り籠には、拠点に出来る空間が幾つもある。そういった場所は、私の眷属の擬態スライムか朱雀蜘蛛かが占領しているので、その一つに移動し、そこで死霊術の実験をした。
夢の中でヒュプノスになれば、死霊術を完全に使いこなせるが、目覚めた後の私は、死霊術の初心者になってしまう。
試行錯誤を繰り返して、死体捨て場にあった骨から10体のスケルトンをつくりだした。
さて、このスケルトンたちを進化させるには、アンデッドどもを喰わさなければいけない。私はスキル付与でスケルトンを強化し、短剣と肋骨の奥の魔石を守るため鉄の胴鎧を装備させて、迷路の中を進撃させた。
しかし、スケルトンは強化しても弱すぎる。あっというまに、この迷宮に湧き出るゾンビやグールに襲われてバラバラにされた。ただし、スケルトンには強みもあって、バラバラにされただけでは死なない、というか、活動を停止しない。肋骨の内側にある魔石を砕かれない限り、バラバラにされた骨が集まり、再生して立ち上がる。
人間ならば、火魔法や聖魔法でスケルトンを消滅させるか、魔石を砕いてとどめをさすが、知性が無く物理攻撃しか出来ないゾンビやグールは、スケルトンをバラバラにするだけで攻撃を終えてしまう。
すると、バラバラにされた骨は、自然に集まって復活し、再び、ゾンビやグールに向かっていく。これが延々と繰り返されるので、ついに倒されるゾンビやグールが出てくる。
通常のスケルトンはそれほど強く無いが、強化したスケルトンは、噛みつき攻撃で、ゾンビやグールを倒すことが出来る。そして、倒れたゾンビやグールにスケルトンが群がって、骨になるまで喰らってしまう。消化するための内臓がないのにどうやって喰っているのか分からないが、喰われたゾンビやグールの身体は、消えてなくなっていく。
私が生み出したスケルトンたちは、ゾンビやグールを喰らって強くなっていき、一晩でスケルトンウォーリアに進化した。
スケルトンたちが強くなっていく様子を、ずっと見守っていたいが、そういうわけにもいかないので、いったんマスタールームに戻った。
バルバトスに命じていた商会が、いよいよ動きだすと報告があった。
「王都までの各街には、既に斥候を向かわせています。斥候から、報告があり次第、本格的に動く予定です、エルセラムの壁内では、すでに、裏社会の一角を押さえました。隣の街のべラリア、その向こうのシルベルトでもすでに活動を始めていますが、それより向こうでは、まだ動いていません」
「兵隊は足りている?」
「十分です」
「こちらで動かしたい小人数の精鋭を貸して欲しいのだけど、余裕はある?」
「何人ほど、お要り用ですか?」
「5~6人、でいいかしら」
「ならば10人見繕いましょう。後ほど、ここに向かわせます」
マスタールームのソファで待っていると、バルバトスが10人の兵隊を連れて入って来た。全員が黒装束に身を包んでいる。
「あなたたちの名前を聞く気はないわ。あなたたちには、あることをやってもらうけど、成否の報告は不要よ。失敗したり、出来そうもなかったら、そのまま中止して欲しいし、その連絡も不要よ。これから命令することは、これから何度も繰り返すから、今は無理だと思ったら諦めてほしいの。分かったかな?」と念を押すと、10人とも黙って頷いた。
私は収納から、皮袋を10個取り出して、ローテーブルに並べた。
「この皮袋には、ゴブリンの魔石が50個ずつ入っているわ。このゴブリンの魔石を、エルセラムの街の有力者、領主とその家族とか、貴族とその家族とか、商人とその家族とかの寝室の屋根裏とか窓の外の桟とか暖炉の灰の中とか、眠る場所の近くの見つからないところに置いて来て欲しいの。置いてくるのは1か所につき1個でいいわ。誰のところに置くかは、相談して、手分けしてね」
10人の黒ずくめは、1人1袋ずつ手に取ると、黙ったままマスタールームから出て行った。
彼らに渡したのは、ヒュプノスが人の夢に干渉するためのアンカーになる魔法陣を描き込んだ魔石だった。
この魔石をこの国の有力者たちの寝室の側にばら撒いて、ヒュプノスの力で、上層社会を誰にも知られずに洗脳し、誘導していく。
この国の経済は、カーミラープール商会に、物流面から支配させていく。
そして、単純な暴力が支配する底辺の犯罪者や裏社会は、バルバトスに縄張りを広げさせて支配を広げていく。
この世界の理不尽を、私の理不尽で踏み潰す準備が、こうして出来上がった。




