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運命の実  作者: 葡萄鼠
はじまり
2/11

よく知られたお話

 どこの国でもあるように、その時、ある国同士が戦争をしていた。しかしある国は負け、ある国は勝ち、ある国は静観していた。

 そして勝った国へ、負けた国と静観していた国から娘が一人ずつ賠償の形、それから友誼の証にと贈られたのです。勝った国の国王は丁度妃や愛人すら一人もなく、それを受け取り二人の「きさき」が側につくことになりました。国王は「妃」として迎えた娘を見て、初めて「恋」というものを知ることになったのです。

 愛おしい女の名を呼び、傍に置き、触れては睦言を囁き……。そんな日々を送るうち早々に妃が懐妊する吉報が舞い込みました。

 それはそれは国王も喜び、国の慶事に周りも祝福の歓喜を降らせました。

 

 それから子が生まれるまでの十月十日、日に日に大きくなっていく自分のお腹を満ち足りた表情で見つめる妃はふと、こんな願いを口にしました。


「この雪地のように美しい白に、血のように鮮やかな赤、黒檀のように艶やかな黒を持った子がほしいわ」


 それはとても寒い雪の降る日。生まれてくる子のために繕い物をしていた后が、ふと黒檀でできた窓枠に収められたガラスの向こう側で煌く純雪に目をやったとき。誤って己の指を針で刺してしまい、己の指にまあるい宝玉のように浮かび上がった血を見たからでした。


 そうして幾日かの時間(とき)が流れ、妃は願ったとおりの可愛らしい娘を産み落としました。

 国王の子の誕生は国を挙げてお祝いされ、三日三晩祝福の熱は冷めず昼は太陽が、夜は煌々と燃え盛る炎が灯され暗闇は息を潜めていました。

 娘はすくすくと成長し、国王と妃、使用人から温かく見守られ、のびのびと育っていきました。ただ、気がつけば高いところに登っていたり庭で土まみれになっていたりと目を離せなくなるほど元気に育ったのは嬉しい誤算だろうと、城の者達は鷹揚に受け止めていました。


 しかし、そんな幸せな日々も永く続きませんでした。

 まだ娘が三歳のころ、国だけではなく隣国中でも流行り病が蔓延したのです。

 その猛威は城にまで及び、使用人だけでなく妃にまで病魔が襲い掛かってしまったのです。


 国王は手を尽くしましたが力及ばず、妃を亡くし永久に悲しみ続け、妃によく似た娘を溺愛しました。




 ――そう。もう一人の后のことなど、初めから目に入っていなかったのです。



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