第2紙 気が付いたら森にいました。
気が付いた時、森の中で倒れていた。頭が少し痛いのと体全体に擦り傷や打撲痕がある以外、体に不調はなかった。あたりを見渡すが、カバンなどは落ちていない。念のためポケットも探ってみるが、草のかけらや砂粒が少し出てきただけだった。
所持品ゼロ。仕方がない、どこかに落としてきたのだろう。とりあえず、家に帰らないと。
そう考えたときに、さらに不幸な事実に気付いてしまった。
「あれ…、僕どこから来たんだっけ」
所持品ゼロ、そして記憶ほぼゼロ。覚えているのは、名前と年だけだ。おいおいまじかよ、とおもいつつどこか自分事として捉えられなかった。自分のキャパオーバーする出来事があったら感情がいったんストップするって本当なんだなあと他人事として思っていた。
幸い陽はまだ高い。とりあえず、森を抜けることが最優先だ。
森の中を歩きながら辺りを観察する。見たところ、マツやモミ、ブナなどの樹木が生えている。ブナは気温が低くなると葉を落とす落葉広葉樹だ。今はシャツに薄手の上着でちょうどいいぐらいだが、年中暖かいというわけではなさそうだ。花が散り、葉にまだつぼみが混じっているところを見ると、季節は春の半ばから初夏くらいだろう。樹木は適度に伐採されており、ここが自然林ではなく、人工林であることが分かる。つまり、このあたりには人がいる。
微かな希望を持って森の中を歩き続ける。気が付いた時は高かった陽もやや傾いてきた。季節的に野宿でも凍死の心配はなさそうだが、野生動物に注意しなければならない。火をおこすものでもあればいいんだけど…。
野宿がやや現実味を帯びてきたその時、どこからかガサガサと草をかき分けるような音が聞こえてきた。態勢をかがめ、全神経を耳に集中する。音のする方は右斜め前、音は徐々に近づいてくる。
心臓がどくどくなる音が聞こえる。背筋に嫌な汗が流れ、足元がふわふわした感覚に陥る。音を鳴らさぬようにゆっくりと後ずさりをする。いざとなればすぐに逃げられるように、距離をとらなければならない。…と思った瞬間に右足に衝撃が走り、視界に空が広がったのもつかの間、どしんという音とともに僕は尻餅をついた。足元にある丸太につまづいたのだ。
やばい、と思ったその時目の前の草むらからむくりと何かが起き上がった。
「おめえ、大丈夫か?」
それがおやっさんとの出会いだった。




