終章 1-3
「あ。もうこんな時間か。母さんに早く帰るって言っちゃたから帰らなきゃ」
「私もそろそろ帰らないと……」
静莉と倫が立ち上がって、玄関へと向かう。四人もあとに続く。
靴を履き終わり、そうだと言いながら静莉はきびすを返す。
「ジンちゃん、ちょっとおいで」
「え、どしたの」
言われるがまま慶仁は静莉の前に進み出ていく。
ぎゅっ
「何、え? いきなりどうしたのっ?」
「なんか、しておかなくちゃいけないと思って」
「そう? なんだか照れちゃうなー」
「よし、あんたはもう終わりっ。次はちーね」
「え、私?」
「えー、ひでえ」
静莉は不満を言う慶仁をムリやり引き剥がす。
「さあ、私の胸の中に飛び込んで来なさい!」
両手を広げて待機している静莉を、無視できるわけもなかった。智世はウブな乙女のように、おずおず静莉の前に出る。
ぎゅっ
抱きしめられた智世は、身を任せるようにして静莉の肩に額を当てた。
「なんかさ、しておかなくちゃならないと思って。変だよね。また明日会うのに」
静莉の耳元でくすぐるような声。智世は自分の涙腺がゆるむのを感じつつ、幾重にも絡まった思いを、強く抱き返すことで表現した。
小刻みに震え始めた智世を、静莉は頭と背中を優しくさすってなだめる。少し経って智世を慶仁とは対照的に智世を優しく離しつつ、倫に勧めた。
「倫さんも握手なりしておいたほうがいいんじゃない? 私の直感だけどさ」
「う、うんっ」
控えめな倫は、それでもがんばってふたりと硬い握手を交わす。言葉はとっさのことで出てこなかった。だが、小動物的な潤んだ目は、慶仁と智世を応援しているような強い意思が込められていた。
「それじゃ、また明日」
「ちーちゃんはバイトで会おうね」
ふたりは口々に言い残して帰っていった。
「……どうやら、ふたりには見透かされてるみたいだな」
慶人はあえてからかうように慶仁と静莉に言う。
「……」
ふたりとも目に涙を浮かべたまま黙り込んでいる。
「いつまでそんなしょげたツラすんなって。悲しい別れより笑って楽しい別れのほうがいいだろ」
「慶さん、それって……」
「ああ、言うまでもなく引用だ」
腕を組んでえらそうにしている慶人に、慶仁と智世は急におかしくなり、吹き出した。
「慶さんらしいや」
「自慢気に言うことじゃないわね」
「よし、今日はもう寝るか! しかも四人で川の字になって」
「やったー! あたし、けーちゃんとちーちゃんの真ん中ねっ!」
えなが飛び跳ねて喜ぶ。そんなえなの姿を見て、心がおちついたふたりは相好を崩した。
「いいね、賛成」
「えーちゃんの頼みなら、断れないわ」
「素直じゃないな」
「うるさいっ」
「まあまあ」
その夜、四人の会話は止まることなく深夜まで続いた。




