終章 1-2
「どうしたんだ急に。今日は来ないって言ってたのに」
慶人は静莉のコップにジュースを注いでやりながら、不思議そうにたずねた。
「なんかさ、急にみんなの顔が見たくなって。ね、りーちゃん」
「そ、そうなの。本当、急にね」
「ふーん、そうなのか」
慶人はチラリと智世と慶仁を盗み見る。慶仁はいつもと変わらないニヤケ面だったが、智世のほうはかなりムリをして笑顔を作っていた。
それからは食事をしながら談笑となった。思い思いに話したいことを話し、相槌を打ったり首を振って否定したり驚いたり……温かい家族のような雰囲気がそこにはあった。
しかし、そのなかで倫は徐々に思いつめたような顔になっていき、
「ね、ねえ、ちーちゃんっ」
とうとう張りつめた声を智世にぶつけるように出した。
当然、智世をはじめ、みなは目を丸くする。
「ど、どうしたの? 倫さん」
「あ、あの、その……」
倫は眉を八の字にして両手のを指先をくっつけ、親指から順番にクルクル回し、口をパクつかせている。
「りーちゃん、おちついて!」
見るに見かねた静莉は、ジュースの入ったコップを倫の口元に持っていった。なんの抵抗もなくジュースを飲み干した倫は勢い込んで質問した。
「ちーちゃんとジンくんって、近いうちに転校するのっ?」
「ええっ? いや、その……」
こんどは智世が口をパクつかせる。言葉が見つからなかった。
「ちがうよ。ちーちゃんたちはぐ」
慶人はえなの口をふさぎ、代わりに口を開いた。
「そ、そうなんだ。こいつらの親の事情で急に決まったんだよ」
「えー、いつ決まったの?」
静莉が少し懐疑的なものを混ぜて慶人に訊く。
「つい、いや、少し前に決まったんだとよ」
「ふうん。だったら、なんで決まった時点で私たちに言わなかったの?」
静莉の口調がだんだんキツいものになっていく。普段はまったくキツい口調にならないのもあるが、気圧された慶人は言葉が出なかった。
そんな慶人に助け舟を出すように慶仁と智世が、
「別れるのがつらくて、なかなか言い出せなかったんだ」
「明日、学校に行ったら朝一番に言おうと思ってて……ごめん」
「そっか、わかった」
ふたりの言い分を聞いて、静莉はパッといつもの表情に切り替わった。
「まあ、いいや。決まった以上はしかたのないことだしね。そうだっ。クッキーを焼くね」
慶人がすかさず訊いた。
「いまからか?」
「すごく簡単なやつだから大丈夫。星型とかハートの型ってある?」
「ああ、もちろんあるぞ」
慶人が台所へ向かう。
「私も手伝おうか」
「あ、あたしもー」
「なあ、智世」
「何よ」
「おまえの持ってるそれ、小麦粉じゃなくて片栗粉だから」
「だから何よ」
「おまえはクッキー風くずもちを作る気か!」
「うっ」
みなが一斉笑い出す。智世はしばらく恥ずかしそうにうつむきながら手伝った。




