二次審査
ウィルの試験は第三者視点の方が分かり易いと思うので、この話はアーク視点三人称でいきます。
ホールの中に足を踏み入れる新兵を厳しい面持ちで眺める男がいた。そう、今期新兵審査官の一人であり第二次審査を担当している、アーク・シュバリエである。
彼は冷や汗が背中を流れるのを感じながら、こうなった原因であるつい先程のことを思い返していた。
数刻前まで、アークはナンバー409のリベルタ・スペランツァという青年の二次審査をしていた。彼は一次審査の身体能力をトップレベルで通過した、注目の候補者の一人である。今回の審査もなかなか見どころがあり、彼の能力を魅せつけてくれたと感じていた。HIT数は64と多かったものの、戦闘中の動きや判断力は見事だった。彼は素質がある。磨けばもっと…いや、かなり成長できるだろう。そうアークに感じさせるほどのものだった。
そして此処までは今までとさほど変わらない順調な流れであったのだが、問題はこの後だった。リベルタの審査が終了し、アークが次のナンバーの候補者を確認しようと資料の方を向いたとき。途端に空気が変わったのだ、異質なものへと。
殺気とはまた別の、重々しく冷たい空気。それを肌で感じた瞬間、アークが自身の愛刀の鞘を咄嗟に掴んでしまったのは仕方が無いと言えるだろう。それは戦闘慣れした経験者であっても、強者に対する畏怖を感じざるを得ないほどの強い気迫だった。咄嗟に対応できたアークの鋭敏さは、長年の経験あっての物だろう。
アークは、カツン…カツン…とブーツの音をホールに響かせながら此方に歩いてくる男の顔を眺めみた。今までの新兵が見せていた緊張や焦り、恐れといったものがその青年からは全く感じられない。青年の端正な顔立ちは何の表情も見せることはなく、ただ真っ直ぐとその視線はこちらを射抜いていた。
「ナンバー410、ウィリアム・マクロード。今から二次審査を開始します。武器選択を行ってください」
アークの隣に座っているミルトンが、やや緊張した面持ちでそう言った。
姓がマクロードなのは恐らく身元を明かさないようにするためだろう。当時少年の顔は殆ど上層部にしか知られていなかったが、その名だけは独り歩きしていた。そのため、セルライトと名乗ってしまえば途端に5年前の少年ではないかと気づき騒ぎ出す人もいるだろう。これは、少年のプライバシーを気遣った元帥の配慮だとアークは考えた。
「はい」
そうして機械的にそう答えたウィリアムは、武器庫の中から迷うことなく使用する武器を手にとった。彼の手に握られているものは、長剣と2本の短剣だった。彼は軽く鞘を握って感覚を確かめた後、短剣を腰のベルトにさし、長剣はそのまま片手に持って、準備ができたというように審査官の方へと顔を向けた。
なるほど…そうきたか、とアークは彼の選択した武器を見てそう思った。確かに得意な武器とは言ったが、数までは指定しなかった。今までの候補者達は得意な武器と言ったら1つという先入観にとらわれてしまい、みなひとつしか選ばなかったのだ。青年の固定観念に縛られない発想に感心しながら、アークはもう一つ気になったことを考えていた。
そう、選択した武器が刀剣だったことなのだ。かつて青年が愛用していたのはそれではなかったはず。この5年で得意な武器が変わったのだろうか…いや、自分に合う武器を見つけるのは難しい上に得意武器はなかなか変えられるものではない。それなら、一体どうして。
「その武器で…いいのか?」
アークは気になって思わず聞いてしまった。
ウィリアムはその言葉に少し不思議そうな表情をしたが、「はい」とだけ答えた。
そして彼の疑問は解決することなく、ウィリアムの戦闘シミュレーションが開始されることとなった。
***
ウィリアムは少し汗を流しながらも息を乱すことはなく、淡々と向かい来る敵を長剣で薙ぎ払っていた。背後から死角を掻い潜って忍び寄る敵を、感覚で察知しているのか素早く対応している。また敵の急所を的確に剣先で突いているので、みな一撃で始末する事が出来ていた。
アークは、隣りで目を見開いて驚きの表情を隠すことができていないミルトン・マクベルの方を見て呆れた気持ちになった。
恐らく今までの候補者達とは桁外れな腕前で、想像以上だったのだろう。そんなこと、当たり前だろうに。ウィリアムは元々5年前は将官の地位についていたのだ。そうなったのも彼の努力と秀でた才能あってのものだろう。つまり彼の能力は我々審査官と同等に近いだろう。いや…あるいは上なのかもしれない。なぜなら記憶では彼の得意武器は刀剣ではなかった。その武器を使わず、いま手を抜いているのだとしたら…
そこまで考えて、アークは少し怖くなった。
審査の方を見ると、丁度敵が前の敵の陰に隠れて二段攻撃をウィリアムに仕掛けようとしているところだった。そして間の悪いことに同時に左右から弓を持った敵が出現した。
だがウィリアムは焦ることなく、あくまでも冷静に、素早く前の敵を長剣で突き刺した。その刃によって、二段攻撃を仕掛けようと後ろにいた敵もろとも、眉間を串刺しにされて絶命した。そして、その隙を見計らって弓を放とうとしていた左右の敵を視線で一瞬見るやいなやベルトから2本の短剣を出し、両方向に投げた。彼らの手から弓は放たれることなく2本の刃は同時に敵の眉間に刺さり、両者ともに倒れて動かなくなった。
ウィリアムの周りから敵が消え、一段落ついたところでアークは審査終了の合図を出した。
彼の頭の上には何も数字は表示されなかった。つまり、HIT数はゼロ。敵に一度も攻撃を喰らうことはなかったのだ。
終始ほとんど息を乱す事無くやり終えた青年を見て、アークはこの男の底が知れないと感じたのだった。




