エピソード2 やっぱり異世界でした
科学研究者の彩、無いと言っていた《異世界》に転移してしまいました。
頭が痛くて目を覚ましたら、何か暗い場所に寝かされていた。
頭も体も固定されている。
誘拐?どうしよう、殺されるかも?
何とか逃げないと。
モゾモゾと動いてみた。
スピーカーから声が聞こえてきた。
「あやちゃん、動かないで。もうすぐ終わるから。」
どこかで聞いた声。懐かしい声だけど、誰だっけ?
「あやっ、今、MRIの検査中だから、動かないで。」
これは冬冷先輩の声だ。
おかしい、やっぱり、先輩が変だ。
しばらくして、検査は終わって、冬冷先輩が検査室に入ってきて、身体を止めていたベルトを全て外して、起き上がらせてくれた。
「あの、ここ、病院ですよね?」
「そう。親父の病院。他所にいくより、うちなら兄さん達もいるから安心だし。」
そうだった。冬冷先輩のご実家は、巨大な総合病院だ。
諸事情ありで、とてもとてもよく知ってるし、、、。
ただ、今は、この色々と変なことが起きてるから、何とかしなきゃ。
また誰か入ってきた。あっ、知ってる。先輩の一番上のお兄様だ、さっきの声は、氷逸お兄様だった。
「氷美、大丈夫だ。さっき撮ったCTも、問題なかった。血液検査も一通りしたけど、健康だ。打撲があるだろうから、鎮痛剤と湿布出しとくから。」
「ありがとう、氷逸兄さん。」
「あやちゃん、階段から落ちるなんて、氷美の実験を頑張りすぎだよ。氷美に合わせてたら
死んじゃうよ。昔から素直で頑張り屋さんだったからね。でも未来の妹に倒れられちゃ困るからね。」
未来の妹?
氷逸お兄様も、おかしな事を言っている。
「遅くなったから、今日はうちで夕食を食べよう。」
「えっ?」
「父も母も心配してるから、顔見せてあげて。」
「はっはい。でも、この格好では。」
まだ白衣で、適当な実験用のTシャツとチノパンだった。
ついでに、足や顔をつねってみたけど、目は覚めなかったから、やっぱり夢ではなさそうだ。
「先に、あやの部屋に戻ってからでいいよ。」
「氷美、しばらく付いていてあげなさい。検査結果は問題ないけど、頭を打った後は、気分が悪くなる事もあるから。」
「わかったよ、兄さん。じゃあ、またあとで。」
冬冷先輩に連れられ、病院のMRI検査室から、一階のERまで行き、夜間受付の薬局で薬をもらい、冬冷先輩が車をまわして来るまで、受付前の待合室で待っていた。
「彩ちゃん、大丈夫だったんだって。良かった。」
声を見上げると、知っている顔。
冬冷先輩の2番目の氷聖お兄様だ。
「ご無沙汰しております、氷聖お兄様。」
「彩ちゃん、ご無沙汰って、昨日の夜中に会ったよ。昨日、僕がERの処置終わりで、夜ご飯が夜中の2時だったから、家の食堂で会ったよ。やっぱり、頭打ってるから、しばらく気をつけなきゃね。」
おかしい、氷聖お兄様と会ったのは、東愛大学大学院を卒業した3月だから、半年以上前だったのに。
「あやっ、車まわしてきたから、乗って。
あっ、氷聖兄さん、さっきはありがとう。」
「彩ちゃん、一時的だと思うけど、近々の記憶が抜けているから、側にいてあげて。」
「兄さん、わかった。僕もちょっとおかしいなと思ってたから。なんか記憶違いがあるんだ。」
「続くようなら、すぐに検査するから、言えよ。」
「ありがとう、じゃあ先に帰る。兄さん、今日、当直?」
「当直じゃないんだけど、ちょっと判断がつかない患者がいてね。目処がついたら帰るから、何かあったら呼べよ。」
「ラジャー、じゃあ帰る。」
私はまた、モスグリーンのドイツ車に乗せられて、病院の周りをくるくる周り、10分くらいで、高い壁に囲まれた、お城のように見えるお家についた。
門から入り口まで車で5分はかかっていた。
玄関というか、車寄せがついているホテルのエントランスみたいな、玄関につくと、3人のお屋敷の使用人のお出迎えがあった。この場所も、知っている。
「おかえりなさいませ。氷美坊っちゃま、彩お嬢様。」
と言われたが、この場を知っているし、まだ諸事情ありで、異世界とは断定できない。
「高見、あやの部屋に一緒に行く。」
高見と呼ばれた男性は、勤続40年以上の冬冷家の執事さんだ。
「僕っちゃま、氷逸様よりご連絡がありました、お嬢様のお部屋も準備できております。」
「ありがとう。あやが着替えたら、食堂に行くから。」
「旦那様と奥様もご心配をなさって、お食事を待っておられます。」
「父さんと母さんが?じゃあ急ぐから。」
冬冷先輩に連れられて、お城?お屋敷の中をどんどん歩いていく。この中もある程度知っていたはずだけど。
「さっ、あやっ、僕は外にいるから、とりあえず着替えて。ばあ、手伝ってもらえるかな。」
「坊っちゃま、ご心配なく。」
ばあと言われている人は、冬冷先輩の乳母さんだ。諸事情あって、私も知っているし、小さい頃は、お世話にもなった。
「彩お嬢様、お着替えを」
私は、ばあと一緒に、私の部屋に入ってわかった。
異世界だ。
ここは絶対に異世界だ。
こんな部屋知らない。
入り口までは知っていた。
中は、全く、思い出と違っていた。
「さっ、彩お嬢様、お着替えしましょう。倒れられた後なので、ゆったりしたものを準備しています。これを。」
出された着替えは、かわゆいかわゆい、ワンピースだった。中世の騎士が出てくるような、イギリス映画の、貴族の令嬢が着るような、レースひらひらのワンピースドレス?だった。
「うっ、これを?瑠璃ばあ、もう少し軽いものは、ないですか?」
次に出されたのは、レースがほとんどないものだったので、それにした。胸の下に太いリボンがあって、後ろで結んでもらう。
瑠璃ばあが、髪をとかしてくれる。
研究や実験で、髪が顔にかかるのが嫌で、髪は伸ばして、きっちりと後ろに、お団子まとめにしていた。
髪を下ろして、両サイドを後ろに流し、バレッタで止める。ちらっと見たけど、ゴージャスなバレッタだった。
少しお粉をはたいてもらい、うっすらとしたジェルリップを塗って、出来上がった。
「お嬢様、これを、研究室ではつけられないと置いていかれましたが、お屋敷ではおつけくださいね。」
多分、婚約指輪だ。
いわれるまま、左手の薬指につけた。
でも冬冷先輩も指輪はつけてなかったはず。
まだ夢の中かも?一縷の期待を持った。
「さっ、坊っちゃまがお待ちですよ。」
「瑠璃ばあ、私、階段から落ちて、記憶があぶないから、教えてほしいのだけど、この部屋に最後にいたのは、昨夜よね?氷聖お兄様と夕食をたべたような?」
さりげなく、これまで聞いた事を取り混ぜて、聞いてみた?
「彩お嬢様、そうですよ。昨夜は、深夜の2時過ぎに帰宅なさって、食堂で氷聖坊っちゃまと簡単に夕食を。その後シャワーを浴びて、すぐにお休みに。今朝は6時には、朝食抜きで大学へ。」
「ありがとう瑠璃ばあ。覚えてたみたいで、ほっとしたわ。」
瑠璃ばあと、部屋を出たら、服装が変わっていた冬冷先輩が、部屋の前にいた。
なんとも、格好いいというか、雑誌モデルみたいな雰囲気で。先輩の見た目がカッコイイのは、学生時代、いや、諸事情で、幼い頃から、カッコイイの知っていたけど、私服は久々に見た、この先輩のいでたちは、パニくるには、ちょうどよかった。
ついでに、ちらっと左手をみたら同じデザインの指輪を、薬指につけていた。
夢ではないんだ、、。期待した私が馬鹿だった。
「あ、あの、お待たせしました。」
「僕も着替えて、今、きた。あや、大丈夫か?昼食は食べてないだろ?」
先輩に手を繋がれ、歩きながら話す。当たり前のように、先輩は私と手を繋いでいる。
「忙しくて、、」
「朝抜きで出かけたろ?」
「大学のコンビニでおにぎりを。」
「だから、めまいを起こしたんだな。それになんで第五研究棟で、階段なんか使ったんだ。」
「エレベーターが調整中かと。焦っていて、時間を見間違えて、早く行かなければと、すみません。」
「そんなに、僕に会いたかったのか。可愛すぎる。」
先輩、ものすごく嬉しそうだ。こんな笑顔見たことない。
先輩、恐ろしい勘違いです。
死にものぐるいで、急がないと怒られそうで、恐かったからだ。
食堂についた。
ここの食堂は2カ所あるはず。小さい方の食堂だった。
瑠璃ばあが、扉を開くと、そこには10人ほど座れるダイニングテーブルがあり、一番奥に、おじさまとおばさまが座っている。
「父さん、遅くなりました。」
「いや、構わない。氷逸と氷聖から聞いている。とにかく座りなさい。彩も、今日はほとんど食事をしてないだろう?」
「彩さん、こちらに座って。」
冬冷先輩はおじさまの横に、私はおばさまの横に座った。
おじさまは、高級雑誌に出てくるようなダンディな服装で、おばさまは、さっき瑠璃ばあが出してくれたワンピースの落ち着いた色を着てらした。
スープがすぐに運ばれてきた。
おばさまが小さな声で話してくれる。
「彩さん、食べたいものだけでいいから、少しでも食べて。食後にあなたの好きなフルーツとスイーツもあるから。」
「おばさま、ありがとうございます。倒れるなんて、自己管理ができなくて、申し訳ありません。」
「気にしなくていいのよ。あなたの頑張り屋さんは、みんなよくわかっているから。氷美が、上司としても、婚約者としても、しっかりしないと。彩さんの頑張りに甘えていたのよ。」
異世界完全に決定です。冬冷先輩のお母様から、婚約者だと言われました。
「氷美、あまり彩に負担をかけるな。彩が特別に優秀なのは、わかっているし、お前たち2人が研究すれば、凄い事になるのもわかってはいるが、彩が体調を崩すなど、慈優家に申し訳ない。
慈優の一人娘を、冬冷家が頼み込んで嫁に迎えるんだからな。研究者は、研究にのめり込みやすい。企業ならば、残業にも厳しいチェックがあるが、大学はまだ研究者本人がのめり込む事には、口だししない風潮だから、上司の立場をしっかりわきまえて、管理しないといかんぞ。
ましてや、お前は婚約者なんだ。半年後の結婚式の準備もあるのだから。」
嫁に迎える、と、冬冷先輩のお父様の断言。
往生際が悪い私。
やっぱり異世界だわ。
「父さんのおっしゃる通りです。申し訳ありませんでした。研究計画を立て直して、彩の体調にも気をつけて、結婚式の準備も進めます。」
「そうよ、氷美さん、週末の結婚指輪と、ウェディングドレスのデザイナーとの打ち合わせは、絶対ですからね。」
「母さん、わかりました。あやは、明日から週末まで、大学は休ませます。」
「それがいいわ。私も彩さんと、色々と打ち合わせしたいのよ。」
「えっ、冬冷先輩、PCRがまだ途中で。」
「あやっ、僕は今日みたいな事は嫌だ。階段で倒れた君を見て、生きた心地がしなかった。頼むから無茶はやめてくれ。それに冬冷先輩はないだろ?婚約した時から、名前で呼ぶ約束だろ?」
「……」
冬冷先輩が、疲れた顔で、私を見ている。
半年後に、私は、冬冷先輩の嫁になるらしい。
待ってよ。私、恋愛もしないで、こんな冷たい人の嫁になるの?
冷たい人?
ここにいる冬冷先輩は優しくみえる。
だけど、私が知ってる冬冷先輩は、冷たくて厳しい人だった。
嫁、婚約者、結婚指輪、ウェディングドレス、半年後、どうしよう。こんな人と結婚?
頭が痛くなってきて、気を失った気がした。
読んでいただき、ありがとうございます。




