エピソード1 もしかして異世界?
私は25才、慈優 彩。
東愛大学の研究者。
最近、親友が、異世界マンガにハマっている。
いつまで、そんな子供じみたものに熱中してるのか、訳わかんない。こちとら、大学に入ってから、生命科学にはまり続けて8年だ。
みんなが帰った研究室で、時間がかかる実験をしている待ち時間に、親友の真里から、アプリメールが飛んできた。
「あやりん、聞いて聞いて、『異世界王子様と秘書が公爵令嬢になり求婚される』の続きが、さっきネットで、発表されたのよ。今日は眠れないっ。」
「まりりん、またその話?あなたを溺愛してくれる王子様なんて、絶対に現れないし、あなたが公爵令嬢になることもないから、安心して真面目に仕事しなさいよ。」
親友の真里こと、まりりんは、私と同じ東愛大学の大学院・科学部生命研究科を卒業したのに、研究者にならずに、大手製薬会社の、会長秘書に就職した。
まりりんは、すこぶる美形で、英語、ドイツ語、中国語が話せて、性格もいいい。だだ、とてもとても恋愛体質で、出会う男にすぐ恋をしては、好きになりすぎて、逃げられてしまう、という寒くて痛い美人だ、
まりりん、性格いいのに、恋愛が続かないの、可哀想だな。
アプリメールだから、返信がすぐに来る。
「あやりん、まだ実験してるの?」
「うん、実験中。いまPCRを始めたところだから、じゃましないで。もう返信しないからね。」
「今から、PCRなんて、終わるの夜中の12時過ぎるでしょう?あやりん、馬鹿じゃないの?」
「うるさいっ!返信拒否よっ!」
あやりんに最後のメッセージを送信して、スマホを裏むけて私のデスクに置いた。
だいたい、異世界なんて、今の世界より、イケメンばっかり、女子は超綺麗だったり、急に御令嬢になって、素敵な王子様に溺愛されたりするんでしょう?
ありえないわよ。そんな妄想の世界なんて。
私は科学者のたまごだ。現実をしっかり見て、探求し、真理を見つけるのだ。
研究室の電話がなった。
「はいっ、遺伝子探求研究室です。」
「いるか、あや。」
いるから、電話出てるのに。この声は冬冷先輩の声だ。
「はい、何か?」
「何してる?」
「実験です。」
「君は馬鹿か?答えになってない。」
「先輩から指示があった115検体のPCRです。今、スタートしたところです。」
「じゃあ、3時間はあるな。第5研究棟のGRI実験室にすぐに来い。」
「は?」
「すぐに来いっ。」
返事をする前に切れた。
冬冷先輩は、天才と言われる凄い人なんだけど。ストイックで有名だ。研究のために命を削っているような人だ。研究以外の話は聞かない。指示しか出さない。笑わない。
頭に来たが、いつもの事だけど、今日は無性に腹が立った。
ここは第2研究棟の15階。
第5研究棟のGRI実験室は、ここから歩いて15分かかる場所にある。
私は、PCR機が、ちゃんと動いているかどうか確認して、首からセキュリティカードをかけ、スマホを白衣のポケットに入れて、セキュリティカードで研究室を閉めて、第5研究棟に向かった。
研究室の施錠は絶対だ。忘れたら、干されるか、スタッフとして切り捨てられるか、くらい厳しい。
エレベーターに乗り、一階の連絡通路を小走りに走る。
第5研究棟について、倒れそうになった、
「嘘でしょ?」
エレベーターの張り紙。
《エレベーター調整中 復旧は午前0時》
エレベーターが3つとも、調整中。
階段を使えと?
GRI実験室は、20階。
「嘘でしょ?」
階段を登るしかない。
スマホで、冬冷先輩にメールした。
「第5研究棟のエレベーターが調整中のため、階段で上がります。少し時間がかかります。よろしくお願いします。」
すぐに返信が来た。
「ヨロシク」
また一言メール。
もう少し、なんか書いてくれてもいいのに。
この人のコミニケーション能力は、疑問だ。
スマホが鳴りメッセージが来た。
冬冷先輩の指示は絶対だから、冬冷先輩の着信音は、オリジナルで設定してある。ホラー映画の挿入曲だ。聴くと、ゾッとする音。テレビの画面から白い女が出てくるアレ。
「トットッルル〜、トットッルル〜」
来たっ先輩のホラーメールだ。
「急げ」
ブチギレた。いつもの事だけど、20階まで、すぐには行けないわよ。
でも一段ずつ上るしかない。
普段は誰も使わない階段への、重いぶ厚い鉄の防火扉をあけて、階段スペースに入った。
とにかく上がるしかない。この一週間、先輩から指示があった検体を実験しまくって、毎日3時間くらいしか寝てなかった。実験は好きだから、するのは楽しいけれど、体力的にはかなりキツイ。
必死で16階までたどりついた時に、少しめまいがした。でも後、4階分だ。
上がらなきゃ。
17階に上がる途中で、まためまいがして、足が滑って、階段から落ちた?意識は無くなった。
「あや、あやっ、大丈夫か?あやっ、目を覚ましてくれ。」
「う〜〜〜〜ん」
「大丈夫か、あやっ。」
うるさい程、私を呼んでるの誰?
目を開けたら、冬冷先輩が、目の前にいた。
私は、抱き起こされ、先輩の顔が私をのぞきこんでいる。
「うわっ、近っ、先輩、何してるんですか?」
「あやが、なかなか研究室に来ないから、心配して階段を降りてきたら、倒れていて、心配したんだぞ。」
「へ?」
なんか、先輩がおかしい。
「痛いところはないか?」
足や腰を触られた。
「何するんですか?」
「あやっ、何を言ってるんだ。痛いところ、探さなきゃ。いつも触ってるんだ。気にするな。」
「は?」
おかしい、私、頭打った?
「とにかく、今日は帰ろう。」
「先輩、GRI実験してらっしゃるんですよね?」
「あやっ、頭を打ったのか? GRIがもうすぐ済むから、とメールしたら、こっちのラボに来るって言うから、待ってたんだ。」
私、頭を打ったかも?
先輩の言葉使いも、いつもと違うし。
話がおかしい。
急に体が浮いた。
「ひゃっ。」
私は、先輩にお姫様抱っこをされた。嘘でしょ?
「何をするんですか?」
「頭を打ってたらいけないし、とにかく病院に行こう。」
お姫様抱っこされたまま、16階まで降りて、エレベーターホールの前にある椅子に下ろされた。
「僕は、20階に荷物を置いてるから、取ってくる。ここで待ってて。動いちゃいけないよ。」
「は、、い、、」
先輩は、上がってきたエレベーターに乗り、20階の実験室に戻って行った。
ふとエレベーターの横を見ると、張り紙があった。
《エレベーター調整中 復旧は午後9時》
嘘っ、下には、復旧は午前0時って書いてあった。
それに、冬冷先輩が優しすぎる。
私の事、あや、って呼んだ。更にお姫様抱っこされた。いやいやこれは夢だよ。
そう言えば、メールしたって言ってた。
白衣のポケットから、スマホを出して、アプリを開く。
えっ?
《マイ彩、GRIがもうすぐ済むから、そっちのラボに迎えにいく。遅いけど、夕食を一緒に。帰りは送るから。》
マイ彩?それは何?
私からの返信
《早く会いたいから、そっちに行きますね。》
ええっ〜〜〜。
おかしい、その前のメッセージが目に入った。
《今週の週末は、必ず休まなきゃだめだよ。指輪を見に行くって約束だからね。》
《うれしいです。氷美先輩。》
氷美って、冬冷先輩の名前だ。ひろむって読むんだけど。
指輪って何?
頭を抱えていると、先輩が戻ってきた。
「あやっ、やっぱり頭痛いのか?」
「いえ、違っ、あっ。」
またお姫様抱っこされて、エレベーターで、一階に着いた。
「自分で歩けますから、下ろしてください。」
「だめだ、あや、フィアンセを大事にするのは当たり前だろっ。」
フィアンセ?何?誰が?
エレベーターの張り紙が目に入った。
《エレベーター調整中 復旧は午後9時》
やっぱり見間違えたのか?
私はお姫様抱っこのまま、先輩は研究棟から出て、研究棟の近くの職員駐車場に歩いていく。
モスグリーンの車に近づいた。キーレスエントリー、すぐに助手席のドアを開けて、私を下ろし座らせてくれた。
私の首からセキュリティカードを外した。
「あやの荷物を取ってくるから、待ってるんだよ。」
先輩は助手席のドアを閉めて、急ぎ足で、第2研究棟の連絡通路に向かって行った。
残された私は、冷静になろうとした。
フィアンセ?
指輪?
先輩の車は、有名なドイツ車で、見たことあったけど、もちろん乗った事なんてない。
色はダークブルーだったはず。モスグリーンじゃない。
私は研究者のせいか、一般の人よりは、細かいところに気がつく。かなり気がつくから、冬冷先輩の研究室に入れた。
ふと、まりりんの言葉が浮かんだ。
《異世界?》
まさか。
まさか、ありえないし。
私、頭を打ったんだ。
でも、、何かが違う。微妙に違う。
頭が痛くて、意識を失った。
読んでいただき、ありがとうございます。




