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07話 いつもの




 ダイゴロウ戦の不本意な勝利により、今度は満足いく勝利のために必殺技を編み出そうとしたカケルだったが、ハジメ博士の意向によりまずはコルトーXXの操作を覚えることから始まった。


 それから数日、家では印刷された説明書を片手に、スペアのコントローラーでスイッチの位置と効果の確認。博士の研究室では実機を使ってのトレーニングを続けていた。


「あーー」

「なんだカケル、朝からきつそうだな」


 普段と違い、通学路で身体を重そうに歩くカケルをリョウマが心配そうに覗き込む。

 今日は余裕のある登校というわけではないが、近道をしなくても走らなくてもいい時間帯。リョウマが心配になったのは、そんな早くに待ち合わせ場所に来たことも関係してるかもしれない。


「まあなー。俺は今、秘密特訓の最中なんだ」

「なるほど、秘密兵器に加えて秘密特訓ね。次に戦う時が楽しみだ」


 疲れた様子ながら「にっしし」と笑う目は楽しそうに輝いていて、それを見たリョウマもまた瞳を輝かせる。幼馴染みなだけあって似ているのだろう。

 なおカケルが疲れているのは体力面ではなく、いろいろ覚えることが多い頭脳面での疲れが大半である。


 彼らがそんな話しをしながら登校していると、いつも通り見知らぬ女子生徒からも挨拶をされるのだった。


「おはよう飛天くん、大空くん」

「おはよう」

「おーす」

「きゃー」


 しかしその日はいつもと様子が違った。

 いつもはリョウマにだけ挨拶する女子の中にもカケルに声を掛ける人がいて、しかも返事されると喜んでいるのだ。さすがのカケルとリョウマも普段と様子が違うことに気付く。


「なんかあったのか?」

「さぁ?」


 しかし2人とも意味が分からず、小首を傾げたり辺りの様子をキョロキョロと見たりしながら進んでいると、声をかけなくても遠巻きに見ている生徒もいることが分かった。

 そんな不思議な光景は登校中はもちろん、リョウマと分かれた後の教室でも起こった。カケルが自分の席に着くや否や、男子生徒に囲まれたのだ。


「よっカケル、聞いたぜ~」

「お前すっげーのな」

「なんだよみんなも」


 口々に驚きと賞賛の声を上げるクラスメイトに困惑したカケルは、前の席に座るレンに助けを求めるように事情を尋ねた。


「レン、なんか朝からみんな変なんだけどさ、なんか知ってる?」

「いや、僕も知らないけど……」

「おいおい、お前なに言ってるんだよ。鬼頭先輩にターコイズファイトで勝ったんだろ? すげーよな」

「そうそうあの人ってすっげー強いのに」


 どうやら今朝からの原因は、ダイゴロウに試合で勝ったからのようだ。


「は? なんでお前らがそれ知ってるんだよ」


 しかし、そのことをカケルが言い触らしたことはなく、あの場に居たレンやフタバに視線を向けてみても、彼らも言ってないのかフルフルと首を左右に振っている。

 ならば博士かと言うと、今はコルトーXXの調整やらで研究室から出ることが稀だった。


 噂の出所が気になって聞いてみれば、男子生徒が言うには子分たちらしい。


「もう有名な話だぞ。子分連中が悔しがって『次は返り討ちにしてやる』って言ってたらしいじゃん」


 褒められても悔しさの滲む表情。カケルはその気持ちを払拭するかのように力強く立ち上がると、椅子の上に立って片足を机に乗っけて拳を掲げる。


「いいかお前らっ、あの試合はダイゴがめっちゃ強くて、俺が勝ったことになってるけど俺は納得してないっ。だから次の大会、見てろっ。俺はダイゴにもリョウマにも完全勝利してみせるっ!」

「おおぉーー」


 その演説、決意表明に拍手が巻き起こった。おそらく何を言ってるのか理解してる人は少ないだろうが、場の雰囲気、ノリというヤツである。

 歓声を受けたカケルは満足そうに頷くと、周りのみんなを見回して更に言葉を続けた。


「だから俺を応援しに来てくれよなっ」


 キラリと笑って親指を立てる。

 応援や歓声は力になる。それを理解しているからこその願い。


「えー私、飛天くんに勝ってほしい」

「次の大会って、場所遠いじゃん」

「ネット中継されんのー?」


 だが、今度の反応はイマイチ。

 カケルは肩透かしでも食らったかのようにガックリ肩を落とし、ギャアギャアと喚いているが、そうこうしている間に先生が入ってきた。


「おーしお前ら席に着けー。って大空、机に足乗っけるな」

「うわっ、やべっ」


 慌てて机と椅子から飛び降りるが、いつもと違った日の学校はいつも通り騒ぎを叱られて始まるのだった。




 その日の放課後。再開された土曜日の学校は、午前中で授業が終わるので午後は丸々自由である。

 一度家に帰って昼食を食べた後、いつも通りハジメ博士のところへ行くかというと、今日は違った。


「リョウマー、遅いぞーー」

「悪い悪い」


 待ち合わせ場所で落ち合うと、2人してとある場所へと向かう。


 それはターコイズファイト専門店。いつも行く平屋のお店で、特徴は庭があること。そこは打ちっぱなしゴルフ練習場のように網で覆われ、勝負は出来ないがテスト飛行程度なら出来る広さだ。

 店内もそこまで大きくないが、既製品のターコ本体から本体の各種パーツ。糸やガードの付いた刃物にカスタム用の替えパーツなどなど、ターコ関連の商品が棚にズラリと並ぶ光景は彼らにとって宝の山である。


「さーて、なにか新しいのは入ってるかなっと」

「それは後で、とりあえずやることやっとこう」


 新商品を見ようとするカケルを押し止め、店の奥へと進む。彼らがこの店に来たのは目的があったからだ。


「おじさん、エントリーよろしくー」

「お願いします」

「あいよー」


 今日は大会のエントリー受付け開始日なのだ。ネットやアプリなどでもできるが、ついでに商品を見るために店を訪れたのである。というか、単にエントリー用紙に書きたかっただけという理由もあったりする。


 彼らが参加するのは小学生の部なので保護者の同意が必要だが、そこはちゃんとサインを貰っている。必要事項が書かれてあるか確認した店主は頷いて顔を上げた。


「……はい、確かに。開催日とか詳しい内容はここに書いてあるから、お父さんかお母さんに見せてね」

「はーい」


 これで忘れてはならない予定を終わらせた。

 もうこの後は自由だ。受け取ったチラシをポケットにしまい、カケルだけでなくリョウマも商品棚の方へと急いだ。


「わっ、加賀美かがみプロモデルだ」

「へー、もう出てるんだ」


 カケルが目を輝かせて取った空き箱に写ってるのは、この間チップスで手に入れたカードと同じターコである。隅には髪の長い女子プロの写真も載っている。

 他にもプロと同じ仕様のターコがずらりと並んでいて、あっちを見てはこっちを見てと2人して盛り上がる。

 ただ、こういった物は高く売られているので、2人の小遣いでは買うことが出来ない。なので見るだけ見て別の場所へと移るのだった。


「それでカケルは何か買うものある?」

「いや、特には無かったけど……糸とか買い足しておこうかな。リョウマは?」

「ふふっ、俺はコレを買う予定だったんだ」


 自分から話題を切り出したのは、それを見せたかったからだろう。

 リョウマが意味あり気に笑いながら見せた商品は、缶のようなものでターコ本体でもなければパーツでもない。それはコーティング塗料。それが意味することは1つ。


「リョウマ、まさかっ」

「そう次の大会、俺も秘密兵器があるんだ」


 リョウマは楽しそうに、そして自信あり気に笑う。

 規格品ではなくパーツから組み立てられたリョウマの新たなターコが完成したことを示していた。

 いままでとは違う、新たなターコ同士による戦いが行われるのか。彼らの参加する大会はもう間もなく開かれる。






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