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03話 家族




 夕食をご馳走になったカケルは、そのままハジメ博士とターコについての話で盛り上がっていた。夜も遅いので、仕事帰りの父親が迎えに来るのを待っているのだ。

 そして、来客を知らせるチャイムが鳴って一同で玄関に向うと、そこには細身の高身長な男が立っていた。


「やあノボルさん、いらっしゃい」

「こんばんは、藤代さんにはいつも息子がお世話になって……あ、これつまらないものですが。フタバちゃんもありがとね」

「うわぁ、ありがとうございます」


 途中で買ってきたであろう四角い箱を袋ごと手渡しているのは『大空 ノボル』。カケルと同じツンツンとした黒髪に、メガネの奥に覗かせる優しそうな黒い瞳もそっくりで、彼の父親だとすぐ分かる。

 お土産を受け取ったフタバとカケルはそのまま奥へと向う。


 息子を何度も迎えに来ているノボルも、藤代家と仲良くなっていたのだ。それこそ宅飲みするほどに。


「今日もロボカー(一般流通している、臨機応変な対応ができる完全自動運転車)ですか?」

「はい、お酒とつまみも買っていましたよ」

「いいですねー、実はこの間いいワインを頂いたんですよ」


 その後、大人は大人で盛り上がり、子供は子供でお土産の菓子を食べて盛り上がる。とは言っても、家で帰りを待っている母親がいるので、ホンの2杯くらいで早々に切り上げるのだった。

 そして、手土産として残ったワイン瓶などを受け取り、一同は駐車場へと向かう。


 自動運転によって人間が運転する機会がほとんどないロボットカーは、運転席や椅子が格納された一面フローリング。そこに乗り込もうとするカケルに、遅れてやってきたフタバが何かを手渡した。


「はいこれ、持っていってね」


 それは丁度両手に収まる程度の大きさ。綺麗に包装されたプレゼントではないが、カケルの心は大きくときめく。


「えっ、これってコルトーXXのコントローラーじゃんっ。持って帰っていいのっ」

「ええぇっ! 困るよフタバ、まださっきの操作後の調整が――」

「仕事、するんでしょ?」


 ジト目で見つめるフタバは父をそこまで信頼してない様子。

 そしてそれは当たってる。これが母親なら物理的にも尻を叩くのだろうか、そこまでされてないことに「娘にまだ信頼されてる」と思うダメでポジティブな父親だった。


 カケルはフローリングを開けると、お土産として持たされた荷物を入れた。今、受け取ったコントローラーは大事そうに胸元に抱え、最後に乗り込んだノボルがドアを閉める。

 そしてシートベルトをつけた2人は、見送りをしてくれるフタバたちに身体を向ける。大きな窓は彼女たちの全身が見えるほどに広い。


「それじゃあ失礼します」

「フタバじゃあな。博士は仕事しろよー」

「うん、分かってる分かってるんだけどモチベがねぇ」

「おやすみ、また学校でね」


 子供たちが手を振りながら、登録された自宅へと車は走り出す。

 そして、互いにペコペコと頭を下げる大人たちの姿を見せながら、車は速度を上げていくのだった。






 カケルの家は築20年のマンション。車は駐車場に止まり、エレベーターで4階まで上がって突き当りの角が彼の家だ。ドアノブに手を伸ばすと電子キーが認識され自動で鍵が開く。


「ただいまー」

「いま帰ったよ」


 荷物を下ろして何はなくとも手洗いうがい。

 そうこうしてると部屋の一室が開かれ、あくびを噛みころしながら女性がでてくる。


「おかえりー、こっちもさっき会議が終わったとこー」


 腰まであるふわふわの茶髪に、スーツで上半身をキッチリと決めているのがカケルの母『大空 ミソラ』。普段から在宅勤務の会社員で、下が普通のスカートなのはテレビ会議で映らないかららしい。

 ややたれ目で雰囲気はトロそうな文系だが、見た目に反して運動神経はかなりよく、そこを受け継いだカケルも運動には自信があった。


「おつかれー、藤代さんから余りのワインもらってきたよ」

「わぁお嬉しい。冷蔵庫にチーズかハムかあったよね」


 一先ずワインは冷蔵庫に入れ、大人組は着替えるためにそれぞれの部屋へ。

 そしてカケルはリュックを自室に置くと、コントローラーを持ってリビングにあるベージュ色のソファーにダイビング。


「にっしししし、新しいターコぉ。ああぁっ、もっともっと操作したかったああああぁぁぁぁ」

「なーに笑ってるの?」


 うつ伏せでバタバタ動いては笑い声を上げる息子にミソラは乗っかり、手に持っているものをのぞき込む。

 するとそこには見慣れないコントローラー。疑問に思うのは当然のことだった。


「どうしたのそれ?」

「博士が作ってくれたコルトーXXのコントローラーっ」

「あぁ、あのテストとかデータ取りとかするって言ってたやつか」


 すでに握ってるカケルの手の上から触って、ガチャガチャとボタンを押していく。仕事も終わって息子を可愛がりながら甘えてるのだろう。

 しかし、息子としては重いし暑い。「やーやー」と言いながらボタンを押す母の下から抜け出そうともがいていると、ワインとつまみを持ってノボルがやってきた。


「帰る時にお礼は言っておいたけど、本当にお金とか払わなくていいのかな」

「まー、いいって言うならいいんじゃない? 使い勝手とか、良い悪いをフィードバックしてくれる顧客はありがたい存在ですよー。ねー」


 頭をワシャワシャと撫でられるカケルはペットにでもなった気分だったが、もう慣れたもの。そそくさと逃げ出し、父の隣の椅子に腰掛ける。


「カケルがにげたー」


 泣く泣くミソラは向かいの空いてる椅子に座った。

 そんな彼女に笑ってワインを注いであげつつ、ノボルは息子に話しかける。


「どうだカケル、ターコイズファイトは楽しいか?」

「うんっ、今日もリョウマに負けたけど、次こそは絶対に勝つんだっ」

「おー、その意気だ。リョウくんに負けるなー」


 時刻はすでに夜の9時過ぎ。ミソラもノボルも夕飯は済ませてあるので、チーズやハムの他、野菜スティックと貰ったナスとピーマンの鶏そぼろをつまみながらワインを嗜む。

 そしてカケルもリンゴジュースを片手にチーズを頬張っては、コントローラーで操縦の空想トレーニング。一家は思い思いに団欒を楽しむのだった。






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