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12話 決勝トーナメント1回戦




 予選を勝ち上がったカケルは同じく勝ち上がったリョウマと再会、それぞれの勝利を喜び合っていた。

 そこにリョウマと同じグループの予選を通過した女子『不知火しらぬいネヒル』とその兄『不知火サヤン』が加わり、決勝トーナメントの発表まで一緒に話していたのだった。


 そして中央ステージのスクリーンに組み合わせが発表される。

 カケルの1回戦の相手は『菊池ケン』。名前も顔も知らない相手だが、カケルは見知らぬ相手を想像し気合いを入れ直す。


「よーし待ってろよ、菊池ケンっ」

「相手も決まったことだし、また話すのは大会が終わってからって感じかな」


 少しリョウマの声が硬くなったのは、緊張からというよりも戦闘態勢に入っていってるのだろう。

 試合が始まってはゆっくり話すことも出来ないだろうし、何よりも敵同士。しばらくの接触は止めて、この場で別れることにしたのだ。


 だからこそカケルは自信満々に親指を立てて2人にエールを送った。


「優勝するのは俺だけど、2人とも頑張れよ」

「何言ってるんだか、優勝するのは俺だよ」

「……わたし」


 バチバチと火花を散らし、最初にフイっと視線を外したのはネヒル。そのまま特に挨拶もなくこの場から離れていくので、兄のサヤンはカケルたちに頭を下げて着いていく。

 それに続いてリョウマ親子と別れる。


 最後に残ったのは7人と大所帯なカケル一行。


「俺と博士はターコの調整するけど、みんなはどうする?」

「そうねー、一緒に見てるのも楽しいかもだけど、私たちは先に応援席を確保しておいた方がいいかもね」

「カケルくんが戦うのはB組だから、あっちの方ですね」


 レンが指さしたのはステージから見て奥側の観客席。席を確保するならそちら側のちょっと高い位置の方が見やすいだろう。

 決勝トーナメントの組み合わせも発表され徐々に人も集まりだしている。場所を取るなら早めの方がいい、とカケルとハジメ博士をこの場に残して別れることが決まった。


「カケル、頑張ってねー」

「みんなで応援してるからな」

「うん、任せといて」


 トーナメントが始まれば大会が終わるか、負けるまで接触することも難しくなるだろう。なので間近に受ける両親からの声援に、大きく頷き力強く胸を叩く。

 そして去っていく彼らを見送ったカケルとハジメ博士は、会場の隅へと移動する。そこには出場者用の大きなテーブルと椅子が用意されていて、そこで休んだりターコや器具を広げてメンテナンスが出来るようにという配慮がされていた。


 既に席はいくつか埋まっていて、小学生の部だけでなく決着のついた中高生の部の出場者なども座り、各自ターコの調整を行っている。先ほど別れたネヒルたちの姿も見えた。

 ただ、別の休憩所に行ったのか単にブラブラしているのか、リョウマ親子の姿は見えない。

 2人は戦う可能性もあることを配慮し、ネヒルたちの作業が見えないよう少し離れた場所に座った。


「動きには問題ないし、大きな破損もない」


 コルトーXXを調べながらハジメ博士が頷く。

 試合が終わって直ぐにチェックしていたので問題ないことは分かっているが、外装を外して詳しく中を見ても特に壊れたところはなく、現時点では吸い込まれた草や土埃での汚れを落とすことぐらいだろう。


「やっぱ博士のコルトーXXはすっげーよ」

「ふふん、そうでしょうそうでしょう」

「よっ、博士っ、天才っ」


 そんなカケルの言葉に気分よくしながら、ハジメ博士は機体のメンテナンスを行っていく。

 彼の作業の手が軽いのはヨイショ言葉だけでなく、自分の作ったターコが大会を勝ち進んでいるのだ。嬉しくないはずがなかった。

 なのでメンテが終わるまで鼻歌交じりな作業だったのである。


「よーし終わったぁ」

「おー、博士ありがとっ」


 カケルが外装も取り付けたコルトーXXを自分の前に引き寄せ時計を見れば、そろそろ決勝が始まる時間である。

 そう思っているとカケルの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。彼を呼びに来たスタッフの人だ。


「大空カケルさん、大空カケルさんはいますかー?」

「はーい。じゃあ博士行って来る」

「うん、頑張って。ノボルさんたちは……あ、あそこで応援してるみたいだよ」


 カケルを見送る前にハジメ博士は客席を見回し、応援してくれる家族友人の場所を教える。緊張してる時、落ち着かない時、応援者を見て勇気を貰うためだろう。

 そして彼らもカケルの方を見ている。なのでカケルは彼らに手を振りながら、スタッフの後を付いて行くのだった。


 連れてこられたのは中央会場のA組とB組を分けるフィールドの中央。そこで機体を調べてから、それぞれのフィールドに入っていくようだ。

 カケルが来た時には既に3人が並んでいて最後尾。検問は予選と同じく白い台にターコを乗せてスキャン、違反がないかを調べて荷物があれば受け取る仕組みだ。


 先頭にいたリョウマは検査を無事終え、やって来たばかりのカケルと視線が合う。

 しかし、特に言葉を交わすことなく片手を上げて挨拶すると、自分の戦場であるA組のフィールドへと進んでいく。


 そして次の人もA組、その次の人がB組のフィールドへ向かい、カケルの番になる。


「ルールは予選と同じくフィールド内なら自由に動いても構いません。ですが、スタート地点はフィールド中央に印がありますので、そこで対戦相手と向かい合うように立っていてください」


 検査が終わって言われた通りにB組フィールドの中央へと向かう。予選のフィールドも整地されてはいたが、この中央フィールドはより綺麗に整えられている。

 そして歩くこと数分、指定された場所には既に対戦相手の『菊池ケン』が事前の機動テストを行っていた。


「よろしく、いい勝負をしようぜっ」

「へぇ~君が僕の相手か。まあいい試合になればいいけどね」


 チラリと視線を送ってきた対戦相手のケンは、赤茶色の短髪で大きな赤縁メガネの下には黒い瞳が覗き、不敵な笑みを浮かべながら人差し指でクイッと眼鏡を押し上げた。

 そしてまたウォーミングアップに戻り、カケルも自分の準備を始める。予選と同じく結ばれた糸を解いて伸ばし、絡まないよう注意しながら試運転。


 そんな中、相手のターコを見てみれば大きな黄色い星型には見覚えがある。予選で見かけたのではなく、プロモデルのターコだったのだ。


「うわっ、それって相良プロのやつ?」


 カケルは練習の手を止めると、目を輝かせて相手のターコを見つめた。

 本物から小さくなった分、機能が削られていて特別高性能というわけではないが、高価で持っているだけでも自慢できる機体だ。


 そんなカケルの質問に、今まで素っ気無かったケイも嬉しそうに声を弾ませる。


「そうさっ、この間の全国模試で10位に入ったごほうびに買ってもらったんだ」

「全国で10位!? すっげー、お前頭イイのな」


 そんな話しをしながら準備を進め、そしてトーナメント開始の時間。

 既に客席は満員になり、見知らぬ人も選手の名前を呼んで応援している。


『みんな待たせたね。それじゃあ小学生の部、決勝トーナメントを開始するぞ。第1戦A組は飛天リョウマくんvs日比野コウスケくん。第1戦B組は大空カケルくんvs菊池ケンくんだ』


 タコさんアナの紹介に会場中が一斉に沸く。フィールドを挟むように観客席が階段状であるため、中央にいるカケルにはまるで声が降ってきているような感覚だ。

 そしてまだ試合が始まる前だからか、上空にはカメラ付きのドローンが何台か飛ばされ、上からの会場や選手たちの様子をスクリーンに映し出している。


 先ほどまでの予選とは全く違う環境、状況、心境。

 カケルは自然と口角が上がり、目は相手を見つめ耳はタコさんアナの言葉や歓声に傾ける。


『それじゃあ君たちの自慢のターコを空高く掲げてくれっ』


 その言葉を待っていたと言わんばかりに、4機のターコが勢いよく舞い上がる。


『よーし、決勝トーナメント第1試合……開始だぁっ』


 タコさんアナの合図と共に、カケルとケンは互いに1歩下がり距離を取る。

 相手のターコが相良プロモデルだということはさっきの話で確定している。自分で似せて作ったわけではない以上、機能は削られてていて、余程の改造がされてない限り性能も分かっている。

 ピカピカでキラキラな外装を見れば、新品で手は余り加えられてないだろう。


 カケルは隙を窺ってみたが、ケンは動く気配を見せずに中々隙は見当たらない。


「うーん、どうしようか……よし、とりあえず突っ込もう」


 相手がダイゴロウのような待ちの戦法だったとしてもカケルはお構いなし。

 むしろ相手の動きを見てから考えると言わんばかりに突進するが、ケイがダイゴロウのように迎え撃つのではなく、さらに距離を離しながら機体の高度を上げた。


 糸を切られたら負けなルールの中で無防備に糸を晒す。そんな行動を不審に思い、カケルも思わず足を止めて注視したのだ。


「へぇ、そのままぶつけに来るのかと思ったよ。読みが外れたなぁ」

「……んー、なーんか変な感じだ」


 ケイは独り言をボソリと呟きながらメガネをクイッと上げれば、そんな対戦相手の変な雰囲気を察したカケルは不可思議そうに眉をひそめる。どうにも今まで戦ってきた相手と勝手が違うのだ。

 しかし、いつまで考えてみたところで答えが出ることはなく、カケルが再び駆け出そうとするより早くケイが動く。


 一気にターコの高度を下げて下から糸を切ろうと迫ったのだ。


「そう簡単にっ」


 これに対してカケルもコルトーXXの高度を下げて迎え撃つ。

 ただし相手も即座に機体を大きく迂回させながら上昇、今度は上から糸を巻き込むようにして切ろうという動きだろう。


 しかし、大きく迂回するということは、その分カケルも余裕を持って対処できるわけで、直ぐにコルトーXXを自分の前まで引き戻すと一旦退いて間を取った。


「……?」


 ここでカケルはあることに気付く。

 その確認のためにターコ同士の高度を合わせて正面から突っ込んだ。速度はそこまで出ていない。


 当然、そんな突進をかわすことなど余裕。案の定、大き目に旋回して避けられてしまう……が、これはカケルの想定通りの行動だった。

 そこで確信する。本人が知ってか知らずか、ケイはターコが傷つかないように戦っているのだ、と。


「ならこう攻めるっ」


 コルトーXXを地面スレスレまで下げると、操縦者であるケイ目掛けて一直線に走らせる。


 糸を切りやすい場所はどこか。それはターコよりも動きの少ない操縦者の持つコントローラー付近であり、普通はそれを阻止するためブロックして相手を叩き落とすのだ。

 もちろん安易に敵に接近すれば、相手は見やすく操作しやすいので地面に落とされてしまう危険性も高くなる。


「やっぱり来た、読み通りっ」


 その発言からもカケルの行動は予想通りだったのだろう。

 ケイはその場から離れながらターコを降下させ、無防備に伸びきったカケルの糸を狙う。


「そう言ってる割にっ」


 しかしカケルはそれを気にすることなく、ただひたすらにケイの後を追った。


 カケルの行動を予想したのは間違いないだろう。その後で無防備な糸を狙ったところまでも考えていたに違いない。

 しかし、そこにダイゴロウのような強かさは感じられず、本当にターコを傷付けたくない、その中で勝てる方法を選んだ。カケルはそう感じたのだ。


 地面スレスレを飛ぶコルトーXXの糸を切る場合、一旦同じ高さに下ろして横から切る必要があった。

 当然、ケイもそのように動かす……が、操作を誤れば地面に墜落の危険もある状況。

 ケイの操るターコの降下速度は鈍り、糸を切る高さになる前に横移動へと移る。


「それでも、僕はっ」

「もう遅いっ」


 ためらいや迷いが操作を鈍らせ速度を落とす。

 例え罠や先の展開を読んでいたとしても、無茶で無鉄砲だが迷いの無い突撃を行ったカケルの方が、早くに糸を断ち切るのだった。




 勝負がついたことで客席が沸く中、2人はターコを抱えて近付き握手を交わす。


「あーくっそ、やっぱり負けたー」

「もしかしてだけどさ、ターコが傷つかないように戦ってた?」

「……やっぱ分かるか」


 試合中から疑問に思っていたことを尋ねると、返ってきたのは肯定の言葉。

 ケイはターコを片手で抱きかかえたまま、もう片方の手で頭を掻いた。


「買ってもらって嬉しくてさ。記念に出るだけのつもりで、何人かと戦ったあとは目立たないようにしてたら勝ち残っちゃったんだよね」


 残り人数が4人になったら予選通過というルール。ケイはそれで勝ち上がったのだ。本人にとっても想定外のことだったという。


 しかしだからと言って、ケイが勝つことを諦めていたかというとそうではない。

 ターコに傷つかないよう気にしてはいたが、その中で勝てる手を打っていた。


「なあなあ、今度もう1回やろうぜ。次はもっと戦ってさ」

「そうだね」


 深く握手を交わした2人は拍手を受けながらフィールドを出ようと動く。

 その途中、隣の様子が気になったカケルがそちらに視線を送れば、そちらはまだ戦っている最中。空にも2機のターコが舞っている。


 これがダイゴロウならじっくりと見たかもしれないが、秘密兵器だといったコルトーXXを詳しく聞かないでいてくれたリョウマを思い、カケルは戦う親友の背中に向かって気合いを送り、試合の内容は見ないようにしてフィールドを後にした。


 すると座席から観客席の前までやってきた両親やフタバたちから祝福され、それに手を振って応えて博士の下へと向かう。


「おめでとう、先ずは1回戦突破だね」

「うんっ、でもまだまだ……って次ダイゴの番だよね」

「そうだねA組も終わってからだけど。そして中高生の1回戦があってから、カケル君の次の試合だ」


 小学生の部、中高生の部が交互に行われるのは、ファイターの体力もそうだが、もしターコに不具合があった場合の修理時間に当てられるためだ。

 しかし、そうと分かっていても溢れる熱意を抑えきれずに、カケルは両手を強く握り締めた。


「うー、直ぐやりたいのにっ」

「まあまあ、とりあえず椅子にでも座ってお茶でも飲もう。水分補給は大事だよ」


 ハジメ博士に促され椅子に座り冷えたお茶を飲む。

 決勝トーナメント1回戦に無事勝利したカケルだったが、少しばかり不本意な試合だったのもあったのか、彼の熱意はより燃え上がっていくのだった。






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